1999.8.15.発行 vol.7  [本のホロコースト号]

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■■  [本]のメルマガ                                1999.8.15.発行  
■■                                                       vol.7 
■■       mailmagazine of books           [本のホロコースト号]  
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■CONTENTS-----------------------------------------------------------
★トピックス

★「現代思想の最前線」/五月(ごがつ)
→え、きみカルスタも知らないの?!フフン と厭味な口調ではやく言える
ようになりませう。

★「脱・書店員日記」/aguni(あぐに)
→恐るべし、漫画喫茶! 未来の情報流通の先取りか?

★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→現代美術の面白さを紹介します
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■広告
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公募ガイドの横に置いたら売れる本あります! 公募ガイドやダカーポ誌で
紹介された賞金稼ぎが伝授する文章公募必勝技術書 「勝つ文章技術」有坪
民雄著 東京図書出版会発行 ISBN 4-7952-3937-1 1800円
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■トピックス
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■新刊および8月近刊情報(!:新刊、#:近刊)

!徐京植『新しい普遍性へ』影書房、本体3000円。
 プリーモ・レーヴィ論を先日上梓したばかりの著者の対談集。岡部伊都
子、藤田省三、ノーマ・フィールド、日高六郎、鵜飼哲、高橋哲哉、松井
やより等、15名。歴史、民族、正義をめぐって交わされる白熱の議論。
ISBN4-87714-268-1

!デュラス『アウトサイド』晶文社、本体2600円。
 待望の新刊エッセイ集。27編。女優ジャンヌ・モローや、作家バタイ
ユとの交流など。訳:佐藤和生。ISBN4-7949-6406-4

!バシュラール『夢みる権利』ちくま学芸文庫、本体1200円。
 77年に単行本、87年に筑摩叢書として再刊されたものの文庫化。バ
シュラール初の文庫化でもある。買わなくちゃ。訳:渋沢孝輔。
ISBN4-480-08516-5

!ルドルフ・ヘス『アウシュヴィッツ収容所』講談社学術文庫、本体13
00円。
 64年に弘文堂から『死の記録:アウシュヴィッツ収容所長の手記』と
して出版されたものの文庫化と思われる。ユダヤ人大虐殺を知るうえで欠
かせない基礎資料だ。訳:片岡啓治。ISBN4-06-159390-0

!ハイデガーほか『30年代の危機と哲学』平凡社ライブラリー、本体9
00円。
 これは大変貴重な文庫化だ。76年にイザラ書房から刊行されていた名
アンソロジーが原本だろう。高値で古書を買った方はご愁傷様。現物未見
だが、おそらく内容は、清水多吉氏による秀逸な導入部「まえがき」、
フッサールの「ヨーロッパ的人間性の危機と哲学」、ハイデガーの悪名高
き「ドイツ的大学の自己主張」、同じくハイデガーのナチとの決別の書
「なぜわれらは田舎に留まるか?」、ホルクハイマーの「社会の危機と科
学の危機」、手川誠士郎氏による丁寧な解説。それぞれの翻訳には矢代梓
氏による周到な解題が付されている。平凡社編集担当氏の見識の高さに敬
意を表したい。
ISBN4-582-76299-9

※ライブラリーには、以下のハイデガー関連で今では手に入りにくい書籍
の文庫化もぜひ検討してほしい。いずれもすばらしい本だ。

*リヒャルト・ヴィッサー編『ハイデッガーは語る』理想社、73年5月
刊、訳:川原栄峰。ハイデガーの80歳誕生日記念のテレビ放送のテキス
ト版で、著名な同時代人による証言集と、ハイデガー自身のインタビュー
を含む。

*サルトル、ハイデッガーほか『生けるキルケゴール』人文書院、67年
5月刊、訳:松浪信三郎ほか。キルケゴール生誕150周年記念のユネス
コ主催国際討議のテキスト版。サルトルの「単独的普遍者」、まったくキ
ルケゴール論になっていないハイデガーの著名な「哲学の終わりと思惟の
使命」のほか、ヤスパース、マルセル、エルシュ、ゴルドマンなどの講
演、イポリット、レヴィナス、ヴァールら多数による白熱の二大討論会の
記録など、息を飲む贅沢さだ。

#ハッブル『銀河の世界』岩波文庫、8月中旬予定。
 NASAが打ち上げた宇宙望遠鏡にもその名を冠せられたアメリカの天文学
者の名著。ラプラスの『確率の哲学的試論』やボーアの論文集も刊行を始
めるなど(論文集1『因果性と相補性』)、科学物の古典の文庫化で、岩
波の頑張りが近年目立っている。訳:戎崎俊一。本体700円

#中井久夫『いろいろずきん』みすず書房、8月中旬予定。
 つとに著名な精神科医であり、『最終講義』(みすず書房)もずばりよ
く売れた氏による初の童話絵本。文ばかりでなく絵も氏による。アンリ・
エランベルジェ原作。ISBN4-622-04124-3、本体2000円

#山城むつみ『転換期と思考』講談社、8月中旬予定。
 若手評論家の代表格の著者による、世界大戦期文化論。1920年代末
の世界恐慌から第二次世界大戦に向かう閉塞期に文学者が模索した抵抗の
精神とは。ISBN4-06-209741-9、予価2200円

#高橋昌一郎『ゲーデルの哲学』講談社現代新書、8月中旬予定。
 人間理性の限界を暴露した不完全性定理の証明後、逆説的に神の存在証
明を試みていた孤高の数理哲学者が到達した境地を探る、格好の入門書。
ISBN4-06-149466-X、予価600円

#鶴岡真弓ほか『図説・ケルトの世界』河出書房新社、8月中旬予定。 
ケルト文化研究の第一人者による必携の解説書。『ケルズの書』『ダロウ
の書』の細部や数々の金工芸品など、目も彩なる世界。共著者:松村一
男。ふくろうの本シリーズ。ISBN4-309-72614-3、本体1800円

#サイモン・ジェームズ『図説・ケルト』東京書籍、8月下旬予定。
 伝説の異神文化であり、ヨーロッパの先住民であったケルト民族の歴史
を概観する好著。図版300点。監修は、ケルト神話の紹介者としても著
名な井村君江氏。ISBN4-487-79411-0、予価4500円

#アラン・コンヌ『非可換幾何学入門』岩波書店、8月下旬予定。
 著者はフランスの著名な数理物理学者。コレージュ・ド・フランスでの
講義をベースに書き下ろされた一級の解説書。丸山文綱氏によるフランス
語原典からの翻訳。ISBN4-00-005870-3、本体5200円

#ヨハン・ガルトゥング『日本は危機か』かもがわ出版、8月下旬予定。
 世界的な平和学者として名高い著者による現代日本論。確固たる平和学
の存在しない(?)この国で、冷遇されないことを望みたい。訳:安斉育
郎。
ISBN4-87699475-5、本体1400円

#キャサリン・マッキノン『セクシャル・ハラスメント・オブ・ワーキン
グ・ウーマン』桐書房、8月下旬予定。アメリカの先鋭的フェミニストに
よるベストセラーの完訳。待たれていた著書だがこのタイトル、何とかな
らないものか。『勤労女性の性的嫌がらせ問題』とすると、フェミニズ
ムっぽくない(?)イメージを与えてしまうからなのか。老いも若きも読
んでみようとなるべき本の題名とは思えないが、話題になる好著である。
訳:志田なや子ほか。
ISBN4-87647-448-6、本体5000円

・キャサリン・マッキノン(1946-)の本
*『フェミニズムと表現の自由』明石書店、93年刊。本体5340円
*『ポルノグラフィ』明石書店、95年刊。本体2000円。

#エドワード・レルフ『近代の都市景観』筑摩書房、9月下旬予定。
 イーフー・トゥアンと並んで、空間現象学の研究者として高名な著者の
都市論で、久しぶりの新刊。訳:高野岳彦ほか。
ISBN4-480-86110-6、本体4200円

#シュタイナー『哲学の謎』水声社、10月下旬予定。
 600頁におよぶ、人智学の泰斗による西洋哲学史。ゲーテ学者として
出発した彼の哲学観を一望できる。訳:山田明紀。予価6000円

■今週の「いいんだかわるいんだか」

*林陽(編訳)『ユダヤ・キリスト教 封印のバチカン文書』徳間書房、
8月下旬予定。宣伝文によれば「聖書編纂以前に存在したとされるキリス
ト教公文書を集めた衝撃の書。チベット寺院秘蔵の古文書も収録」となっ
ている。まごうかたなきトンデモ本だが、実際バチカンに種々ある非公開
文書を覗きたい人はたくさんいるだろう。白状します、私もその一人で
す。しかし世紀末になってバチカン・ネタの本が出るとなると、例の世界
の終末を予知した「ファティマ大予言」や、キリスト教会の教皇系譜と終
焉を予言した「マラキ書」(旧約聖書のそれとは違います)とかの話題が
復活するのかなあ。
ISBN4-19-861056-8、本体2000円

*オッレ・ヘドクヴィストほか『ヴァイキング7つの教え』徳間書房、8
月下旬予定。これまた宣伝文によれば「スウェーデン資本は世界の多国籍
企業の約9%を占める。その経営手法の淵源とヴァイキングの行動規範を
紹介」という。ヴァイキングといえばビッケ(なんでだ!)の世代である
私はいたく魅かれてしまう。また、小知恵の働くガキといえば、ビッケと
一休さんだが、私は剃髪よりあのウルトラマンみたいな兜の方が大好き
だ。僧坊に座するより、荒波を越えて気ままに往き来する自由人たちに憧
れる。そんなわけでこの本はぜひ「立ち読み」したい。
ISBN4-19-861058-4、本体1600円
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■ 現代思想の最前線/五月(ごがつ)
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カルチュラル・スタディーズの『バイブル』が出た!

 昨今、一般の新聞紙上でも「CS」という言葉が目につきはじめた。C
Sすなわちカルチュラル・スタディーズの略だ。『大航海』の某編集長氏
は分かりやすく、九〇年代の思想シーンの代表格であると、さる席上で説
明したことがある。

 ちなみに氏の図式化を借りると、五〇年代は「実存主義」、六〇年代は
「構造主義」、七〇年代は「ポスト構造主義」、八〇年代は「脱構築批評
(氏は正確には、ディコンストラクショニズム、と言った)」にそれぞれ
代表される。そして、九〇年代が「カルチュラル・スタディーズ」の全盛
期である。もうすぐ二十一世紀なのに、まだ何の展望もなさそうなところ
が気にかかる。

 もちろんこの見取図があまりにも割り切り過ぎな、日本独特の錯覚であ
ることは氏も認めるだろう。ご本人も「初心者用の短時間の仮説明」と留
保していた。こうした文化輸入論はそれ自体がさまざまな問題をはらむ
し、氏の説明には反駁と擁護がそれぞれ与えられるべきだが、あるいはこ
うした話題は、当メルマガのマエストロ鏡玉さんに論じてもらいたいもの
だ。

 さる五月には本邦でもCS関連書が立て続けに刊行され、それらが書店
店頭に急遽「CSミニコーナー」を作らせ、あるいはフェアを誘発し、あ
るいは新聞紙上を賑わせている。まず彩流社がリン・チュンの『イギリス
のニューレフト:カルチュラル・スタディーズの源流』を四月末に刊行し
た。著者は文化大革命世代の中国出身でイギリス在住の政治学・歴史学者
の女性である。同じ頃発売された雑誌の『情況』五月号は特集を「文化に
おける階級闘争:カルチュラル・スタディーズの現在」と銘打っている。

 間もなく新曜社が『カルチュラル・スタディーズとの対話』を5月初旬
に刊行、九三年に東大で行われた同名のシンポジウムの全貌がようやく明
らかになった。続けて、作品社が中旬にグレアム・ターナーの『カルチュ
ラル・スタディーズ入門:理論と英国での発展』を出版。発祥の地イギリ
スでどのようにCSが形成されていったかをたどる、定評ある入門書で、
原書は第二版を数え、邦訳もすでに三刷目だという。

 「CSの日本における導入」と題された解説が、上記の作品社の本に付
されており、てっとり早くわかりたい向きにはぜひ一読をおすすめする。
簡潔かつ要点を押さえた説明で、たいへん便利だ。

 続く六月には『現代思想』がスピヴァクの特集を組み、単行本でも青土
社はイヴ・コソフスキー・セジウィックの『クローゼットの認識論』、レ
イ・チョウの『プリミティヴへの情熱』を連発し、まさに充実したライン
・ナップが書店のCSコーナーを補強していった。『現代思想』はそもそ
もここ数年、日本におけるCS紹介の牙城となっている。CSでない特集
はだいたい科学モノであり、目をつぶってでも二分できる、と言ったら大
袈裟か。この他にも挙げるべき雑誌特集や、比較的目立たない書籍も前後
に多いが、この辺でやむなく切り上げます。

 大ざっぱに立て分けると、CSの発展はイギリス系のそれとアメリカ系
のそれがある。イギリス系は先の『入門』で流れを追えるが、アメリカに
おける発展はイギリスと若干異なる。この相違点は、サイードやスピヴァ
クやバーバに代表されるポストコロニアル・スタディーズという潮流に、
特に顕著かもしれない。日本でこの先どんどん輸入されてくる勢いがある
のは、このアメリカ系である。

 さて、かねてから予告されていたある洋書がそろそろ日本の店頭にも出
たはずだ、と紀伊國屋新宿南店に問い合わせたのは七月の終わりだった。
入荷したのですが品切れまして、と店員に告げられた時には驚いた。せめ
て三冊以上は入ってきたはずだろうに、店頭に出て一月もしない内にハケ
てしまったのか。急いで東京堂にも手を伸ばすが、ない。

 意外にも穴場な日本橋丸善で、最後の一冊を取り置いてもらえた時は
ほっとしたものだった。しかし、店頭でそれを受け取った時には、そのデ
カさに仰天した。天地左右が二四四×一七四ミリ、ツカが四二ミリもある
大冊にもかかわらず、四千円代と非常に割安感がある。日本なら時宜に
適ったこんな豪華な顔触れの論文集を、このプライスで作る版元はいない
んだろうな、と嘆息した。丸善でこの他にも余計な(結局は嬉しい)買物
をしたが、それは別の機会にご報告いたします。

 かの一冊とは、ラウトレッジから出た最新刊で『カルチュラル・スタ
ディーズ・リーダー』第二版である。その名の通り、CSの基礎的論文を
網羅したアンソロジーだ。初版は九三年だが、今回大幅に増補され、二〇
篇の論文は三八篇に増えた。十一のセクションに分かれ、それぞれの論文
に編者のイントロがついている。著者層の幅広さといい、参考文献の目配
りといい、皮肉なまでに満腹な一冊である。あるベテラン編集者がこの本
を見て「何でもアリなんだな、カルスタは」と苦笑したほどだ。

 しかしこの六一〇頁ある枕本の情報量たるや、やはりバカにできない。
編者はサイモン・デュアリングというメルボルン大学教授。オーストラリ
アという地理的条件がこの網羅性の背景になっているのだろうか。教授の
「序文」は、格好のアメリカ系CSの解説となっている。第一部の「理論
と方法」セクションの冒頭で、アドルノとホルクハイマーに出会えるあた
り、これがイギリス系だったらそうはいかないだろうし、ホガートやトム
スンの論文を省略することもできないだろう。

 初版と第二版を比べて、どの論文が増えたのか、序文がどう改訂された
のかがはっきりわかると面白いのだが、残念ながら私は旧版を持っていな
い。第二版がいずれ、アジア系やイギリス系の視点と平等に扱われて、い
よいよハイブリッドな第三版に変貌することも期待している。

 もちろん、CSの伝播におけるグローバリゼーションの副作用は大き
い。今やアフリカ系やラテンアメリカ系のCSが「見出され」始めている
し、いっそこうした一種の資本主義がロシア系CSを発見した暁には、
「歴史が終焉」しかねない。こうした囲い込みはすでに開始されているの
であり、それは日本で「カルスタなんてさあ」と分かったフリをしている
俗流知識人たちとその取り巻きこそがもっとも陥りやすく、加担しやすい
罠なのである。

 『リーダー』の各セクションと著者は以下の通り。名前の表記はいいか
げんなものもあるだろう。共著=名前と名前。

 第一部:理論と方法。アドルノとホルクハイマー、ロラン・バルト、
キャロリン・スティードマン、ジェイムズ・クリフォード、アンジェラ・
マクロビー、スチュアート・ホール。
 第二部:空間と時間。エドワード・ソジャ、ミシェル・ド・セルトー、
ミシェル・フーコー、ジャン=フランソワ・リオタール、アクバー・アッ
バス。
 第三部:ナショナリズム、ポストコロニアリズム、グローバリゼーショ
ン。ガヤトリ・スピヴァック、ホミ・バーバ、デヴィッド・フォーガチ、
アルジュン・アパデュライ。
 第四部:エスニシティと多文化主義。ベル・フックス、エリック・ロッ
ト、コーネル・ウェスト。
 第五部:科学とサイバーカルチャー。ダナ・ハラウェイ、アンドリュー
・ロス。
 第六部:セクシャリティとジェンダー。テレサ・デ・ラウレティス、イ
ヴ・セジウィック、ジュディス・バトラー、ローレン・バーラントとマイ
ケル・ワーナー。
 第七部:祝祭とユートピア。リチャード・ダイアー、ピーター・スタリ
ブラスとアロン・ホワイト。
 第八部:消費と市場。ミーガン・モリス、レイモンド・ウィリアムズ。
 第九部:娯楽。ピエール・ブルデュー、ディック・ヘブディジ、ウィル
・ストロー、レイ・チョウ。
 第十部:文化−−政治経済と政策。トニー・ベネット、ニコラス・ガー
ナム。
 第十一部:メディアと公共圏。スチュアート・ホール、ナンシー・フレ
イザー、ハーミッド・ナフィシー、ジャニス・ラドウェイ。

 このうち、第三、第五、第十、第十一、を中心に増補したという。読ん
でいらっしゃる方のゲップが聞こえてきそうだ。セクションごとのテーマ
の立て分け方も共感できないところがあるかもしれない。しかし本書は間
違いなく、CSの現時点での全体像を総覧したい人にはうってつけのバイ
ブルである。なお、収録されている論文の中にはすでに邦訳の存在するも
のもある。次回、再度紹介できるようなら、続きをご報告したい。[記:
99年8月9日]

“The Cultural Studies Reader" Second edition, Routledge, 1999,
Edited by Simon During
ISBN:0-415-13754-3
http://www.routledge.com/
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■ 「脱書店員電脳日記」/aguni(あぐに)
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第4回 夏休みだよ、有料図書館妄想!!
 
  ちょっと調べ物をしたくてマンガ喫茶なるものに行った。受付で会員証を
作り、中に入るとそこにはテーブルに椅子、自動販売機があった。奥に天井
まで届く本箱があって、出版社別・対象者別にマンガが並んでいる。昼過ぎ
だったのだけれども結構な数のお客さんがいた。サラリーマン風、コギャル
風、学生風、などなど。中には調査目的の私のような人間もいたのかもしれ
ない。その店は30分で100円。料金は後払いだった。何十人もの人間が
黙々とマンガを読んでいる光景というのはなかなか異様だった。喫茶とは言
いながら、音楽もかかっていない。とはいえ、読み始めたら私も違和感なく
その中の一人になった。
 
 街を歩けばこうしたマンガ喫茶は数多くあることがわかる。その反面、一
時隆盛だったマンガ専門の古本屋が不況になった、という話を近所の古本屋
の親父から聞いた。知り合いの店に行ったら、つぶれて跡形もなかった。マ
ンガは買うものではなく、読めば済むものになりつつあるらしい。
 
 マンガ喫茶は貸本屋ではない。なぜなら、基本的にテイクアウトはできな
いからだ。マンガはあくまでその場で読まなくてはならず、従って、欠本が
生じにくい。しかもマンガならば10分から20分あれば1冊読み終わるだ
ろう。ということは欠本も単純に言って、その時間だけしか生じないことに
なる。これはもちろん、本屋より品揃えがされている、ということになる。
デメリットは買うことができない、という点だが、1冊100円程で読める
としたら、文句を言う人はいないだろう。
 
 前にTVで見たマンガ喫茶は24時間営業で出前OK。シャワールームに
仮眠室まであった。これのどこが喫茶だ、という気もする。私はこれは有料
図書館の一つの形なのだと見ているのだが、どうだろう?(もちろんそんな
表現を使ってしまえば、著作権やら何やらで営業できなくなってしまうだろ
うから、あくまでここでは概念だけの問題とする。)
 
 前回の文章で私は、「人は何のために本を買うのか。簡単だ。二つの理由
しかない。本箱を飾るためか、暇つぶしのためである。」と書いた。私が本
を読む理由というのはどちらかと言えば後者だ。現在無職であることもあっ
て、読む本の調達はもっぱら図書館を利用している。うちの近くにある県営
の図書館は主婦と学生の客が多いせいか、学術書よりも一般書の方が充実し
ている。私はミステリが好きなのだが、宮部みゆきの「理由」も、東野圭吾
の「秘密」もここで借りて読んだ。二階堂麗人「人狼城の秘密」を狙ってい
るのだが、なかなか4冊揃わないので借りられない。
 それでふと思った。貸し出すのではなく、その場で読む方式にすれば、こ
んなに貸し出し中が多くなるはずはない。それは図書館の効率も上げること
になるのではないだろうか?
 
 貸し出さない図書館。何だか自己矛盾しているようにも見えるが、実は貸
し出しをしない図書館というのは結構ある。主に専門図書館が多く、その理
由は資料が揃っていることにその図書館の存在意義があるからだ。
 
 もし、あなたが読書を楽しみたいと思ったとして、別に本を所有する必要
がないと感じていれば、貸し出し不可の図書館でも満足しないだろうか? 
え? 裸で読みたい? 鼻くそほじりながら読みたい?(汚いな。)ならば
個室を御用意しよう。書斎風。寝室風。高原風。海辺風。山小屋風。衣装チ
ェンジのサービスもオプションでつけよう。SFを読むなら宇宙服。闘病物
やドクターものなら看護婦の衣装なんてどうだろうか? 戦争物ならアーミ
ー姿でヘルメットを被り、ベトナム風ジャングルで腹這いになったまま読ん
でもらおう。明かりはもちろん小さな懐中電灯だ。時々、ゲリラの襲撃があ
るのでご注意を。臨場感高まること間違いなし。
 
 そういえば前に二階堂麗人の短編で読んだことがある。レストランならぬ
「読書ラン」というお店があって、客はそこで本を注文し、ただ読むのだ。
自分で本を選べない人にはソムリエならぬ「読むリエ」がいて、自分にあっ
た本を選んでくれる。高級志向のお客様には初版本を持ってきたりもする。
 
 まあ、コスプレや「読むリエ」は冗談にしても、世の中には「読書アドバ
イザー」なる資格がある。
  資格と言っても検定試験があるわけではなく、財団法人出版文化産業振興
財団(http://www.jpic.or.jp/)の「JPIC読書アドパイザー養成講座」を
修了した者のことだ。この講座は「読書」と「生涯学習」をコーディネート
する、という目標を掲げていて、主に子供や老人に対してどのような本を与
えるべきか、などということをメインに考えているらしい。
 前にいた書店でも「一応」この資格の取得を奨励していて、毎年1〜2名
が講座に参加していたようだが、もちろんだからといって、本屋に「読書ア
ドバイスコーナー」が設置されたという話は全く聞かない。
 彼ら不遇の「読書アドバイザー」を是非、この有料図書館ですくい取って
やって欲しい。そしてその能力を老人と子供だけではなく、普通の人にも提
供して欲しいものだ。
 
 休日。あなたは午後に本でも読もうかな、と思い立ちました。そこで、近
所の「読書喫茶」にやってきます。休日の昼間ということで店内は結構混ん
でいるようですが、入場制限はかかっていないようです。
 気分はミステリだったので、あなたはとりあえずそのジャンルの棚に行き
ました。しかし一口にミステリと言っても膨大な量があります。あなたは一
見していつものように諦めて、読書アドバイザー席にやってきました。
「こんにちは。」
 ラッキー。若い女性です。あなたはそれだけで嬉しくなってしまいました。
「こんにちは。」
 にこにこして席につくと、あなたはカードを差し出します。このカードに
はあなたの嗜好が記録されているのです。もしあなたが望めば、前に読んで
面白かった本のデータを登録しておくことができます。読書アドバイザーは
そのデータを使って、あなたが今日、読む本についてアドバイスしてくれる
のです・・・。
 
 以下略、である。文字数の都合もあるので、後はご自分で想像を膨らませ
て欲しい。さあ、あなたも「有料図書館妄想」に参加してみたくなったでし
ょ?
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■ 「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
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                「世田谷美術館」という場所
                                             忘れっぽい天使  
先日、世田谷美術館に行って「パサージュ:フランスの新しい美術」展(7/
17〜9/19)を観てきた。
この美術館、大きくて静かな砧公園の中にある。都会の喧騒を逃れたくつろい
だ気分で美術品の鑑賞ができるのだ。このことはちょっとした美点だと思う。
上野の美術館だとこうはいかない。公園に人が溢れかえっていてせかせかと落
ち着かない気持ちを館内にまで引きずってしまう。世田谷の場合は住宅街の真
ん中にあるだけに、近隣の人がくつろぎに来るだけ。人口密度が低いのである
。駅から少々歩くけれど、それも一つの楽しみにさせてしまうような地域に密
着した暖かさが感じられる。公園内は芝生が敷き詰められていて清潔感があり
、ぼくはここへ来る時は必ず愛用の楽器(トランペット)を携えて練習の時間
を取るようにしている(豊かな残響があっていい気分に浸れるのだが迷惑がっ
ている人もいるかなあ)。建物は趣味の良いモダンなもの。中の図書室にはた
くさんの蔵書が収納されており、また市民に開放されたギャラリーもある。そ
れと、ぼくは利用したことはないけれど高級フランス料理のレストランがあり
、デート・スポットとしても人気があるようである(完全予約制。テーブルの
上のキャンドルが美しい)。
 美術の鑑賞講座やコンサート、映画の上映なども催されていて(子供たちの
芸術教育にも熱心)、文化の発信地としての自覚も充分だ。
まあ、こうした外側の面もすばらしいけれど、実も伴っている。「これを伝え
たい」とする主催者側の情熱が伝わってくるユニークな企画がめじろおしだ。
過去に行われた企画で印象に残ったものは、精神障害者を始めとする社会のア
ウトサイダーたちの表現物を集めた「パラレル・ヴィジョン」展。常識はずれ
型破りな作品を丁寧に分類し、既成の「美術史」の外にもアートが存在する事
実を力強くアピールしていた、と思う。
さて、そして今回の「パサージュ:フランスの新しい美術」展である。「パサ
ージュ」とは「屋根のある商店街」のことで、ドイツの批評家ベンヤミンが「
異なったコンテクストを相互につなぐ小径」として比喩的に使った批評用語、
だそうだ。何だかわかったようなわからないような現代美術展特有のもやもや
した気分にさせられるテーマ。入るとすぐに、雑多な日用品を集めて作品に仕
立てたものや、落書きを「効果的」に使用した小屋の造りをした作品などに出
くわす。これは現代美術の展覧会なのだ、ということを鑑賞者に瞬時に了解さ
せる見事な導入と言える。次の間に入ると、水を張った通路が展示されていて
、靴を脱いで裸足で渡るようにとの指示がある。猛暑の折りであり、水は冷や
っこくて気持ちが良かったが、これを体験することによりどう精神を変革すれ
ばいいのかわからない。係員の人もしらんぷりだ。作者が待機して通りがかっ
た人全てに説明すべきではないかな、と思った。そして動物の剥製を利用した
大掛かりなオブジェがある。ここまで来ると、「フランス」と銘打ってはいて
も、白色人種だけでない、アジア人やアフリカ人を含めた(パリを中心とした
)共生空間のことを、異文化交流の場=パサージュとして意識づけようと試み
たものだということが理解されてくる。
2階に昇るとこのことはますますはっきりする。他人に自分のベッドに一晩寝
てもらい、その人の写真を撮らせてもらうとともにインタビューを試みるとい
う、関係性そのものを表現軸に切り替えていく作品(写真もインタビューも平
凡なので、作者が対象となった人を連れてきて、鑑賞者と一緒に話でもさせて
くれなきゃ中身がわからないな)。イスラム女性が着る伝統的な重たい衣装を
他文化の女性に着せて、「ファッション・ショー」を試みた際の様子を収めた
ビデオの上映(イスラム女性が負わされる伝統の束縛と誇りを非イスラム文化
圏のあなたはどう思うか、という意図であろう。参加した女性の写真と感想が
パネルにされている。刺激的な試みだが、何で男は参加していないんだ!)。
などなど。なるほど交通空間、なるほど「パサージュ」ね、とテレビの一口英
会話を見終わった時と似た気分で会場を後にする。
帰りに売店に寄って分厚いカタログを購入。これでたった2400円。良心的
な値段であることこの上ない。早速開けてみると作家ごとに分冊になっている
。これを読むと、彼らは「美術館」を飛び出して、ストリート=パサージュで
の芸術活動を通じて道行く人と関係を持とうと悪戦苦闘する個性豊かな若者た
ちであることが知られる。彼らの活動は、ストリート=パサージュから切り離
されて美術館に「展示」されてしまった時、その意義を決定的に失う。現地の
熱いパサージュから切り離された個々の表現物はよく冷房の効いた日本の白い
建物の中でただの「現代美術」に変質してしまう。
カタログの分冊の内一冊は主催者による概説になっているが、この難解さは何
だろう?  「パサージュ」展に出品した若者たちには恐らく理解不能な用語で埋
め尽くされたこの概説は、製作者たちの生活からかけ離れた、主催者の頭の中
にしか存在しないものであるような気がする。
  世田谷美術館の落とし穴はここにある。主催者の啓蒙的な意志が強すぎて表
現が生まれる個々の条件を圧殺し、全てを「企画意図」の下に押し込めてしま
うところがあるのだ。良心的であればあるほど対象を抑圧していしまう、帝国
主義の産物としての「美術館」のジレンマ。このジレンマの悲しみを乗り越え
てこの美術館が次にどこへ向かうのか、興味津津たるところである。
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■あとがき
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>えーまず、お詫びを。
>え、なに?
>今回「中国古典で浅学菲才が直る?」がオチていますが、実はこれ容量オー
ヴァーのためなんです(原稿自体はあるのです)。メルマガは一回に30KB
までしか送れないのですが今現在、すでに29.8・・くらいで・・
>はやく週間化しないと駄目ですな。
>ああ、そんなこと言ってる間にも容量が・・
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