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1999.9.15.発行 vol.9 [秋だ!芸術奨励だ!号]
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■■ [本]のメルマガ 1999.9.15.発行
■■ vol.9
■■ mailmagazine of books [秋だ!芸術奨励だ!号]
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■CONTENTS---------------------------------------------------------
★トピックス
→書籍の売り上げも伸びない中で、少し元気なのが文庫市場!古本屋さん
でしか読めなかったものが文庫で手に入るというのは嬉しい?
★「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
→今回は初の作品集を出版される23歳のアーティスト、岸啓介さんへの
インタビュー。作品もチェック!!
★「中国古典で浅学菲才が直る?」/掩耳(えんじ)
→前回で完結を予告した「兵法書」の続き! まだまだネタはつきないの
です・・・。部下を殺すったって、ダメにするわけじゃないのだ。
★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→第五回 密室の中の大衆では 「アンビエント・ミュージック」を取り上
げて考察。聴く人も聴かない人も、何それ?の人も。
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■トピックス
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■10月の文庫新刊特選
※単行本を押しやって軒先に咲き競う文庫たち。なんだか年々単行本は肩
身が狭くなっていっているような。かつて私の大先輩の書店員の方が、
「最近は文庫で古典や名著が揃うからね。私は自分の家の単行本はかさば
るんで整理したよ」と。そうだよなあ。
学生の頃、よく「この本の文庫ってないのかな」なんて私は無邪気に探し
てました。今から思えば素人だったと思うけど、物理的にも経済的にも
「手軽に読みたい」気持ちは正しいはず。学問に王道なし(ユークリッ
ド)とか、疲労困憊をいとわぬ者だけが輝かしい絶頂を極める(マルク
ス)などと、後付けで警句を思い出しても詮無い。
単行本がやがてポケットに入る電子ブックになり、ふうふう言いながら重
い本を持ち歩く、なんてことをしなくていい日がいつか来る。とすると、
今の出版社がやってることってどんな意味があるのだろうと改めて戦慄し
たりして。
この点ではTBSブリタニカの『アステイオン』51号のコレスポンデン
ス欄に欧米の現状を簡潔にまとまめた、様々な角度の記事があります。ま
た、トランスアートの『本とコンピュータ』別冊「本は変わるか:電子出
版の最前線からの報告」本体800円が8月アタマに出ましたが、これも必
読。
『文学界』の最新号に草森紳一さんの「本が崩れる」という秀逸なエッセ
イが載ってました。わが家の至る場所を占拠する本がある日なだれを起こ
し、風呂場に閉じ込められる、というお話。確かにあらゆる読書子にとっ
て、本が増えて置き場がないのは共通の喜劇です、トホホ。
#吉増剛造『吉増剛造詩集』ハルキ文庫、10月15日発売予定。
今や文庫で読めるのですねえ、の一言。私個人はこの人の難解な詩をあま
りよくわかっていませんが。価格未定。
#D・H・ローレンス『アメリカ古典文学研究』講談社文芸文庫、10月
10日発売予定。神秘的官能の人、ローレンスがアメリカの精神風土の古
層を探る名著。本文庫のための新訳か。訳=大西直樹。本体1500円。
#正岡子規『俳人蕪村』講談社文芸文庫、10月10日発売予定。
俳人という人種はなぜこうも平凡に凄絶に生きるのか。現代人への平手打
ち、必読書。本体940円。
#P・ゴーギャン『ノアノア』ちくま学芸文庫、10月7日発売予定。
「人間はどこから来て、どこへ行くのか。人間とは何か」。南国タヒチを
満喫しつつ悩みまくる、天衣無縫の画家の不思議な日誌。本文庫のための
新訳? 訳=岩切正一郎。本体950円。
#R・バルト『エクリチュールの零度』ちくま学芸文庫、10月7日発売
予定。現代思潮社で『零度の文学』として刊行されていたものの文庫化だ
ろう。バルトはフランスのガリマールから全集が出て、たぶんみすず書房
がこれの日本版をやってくれるのだろうが、その準備中にも筑摩書房はバ
ルトを続々文庫化したりしてね。晶文社とか青土社のものを。読者はどっ
ちがうれしいのかな。訳=森本和夫ほか。本体950円。
#フラウィウス・ヨセフス『ユダヤ古代誌(1)』10月7日発売予定。
山本書店で現在も発売している同書名の文庫化か。歴史書としても文学と
しても古典中の古典。採算が取れるのだろうか。これは大した壮挙。訳=
秦剛平。本体1400円。
■「ダニエル・キイス文庫」スタート! 早川書房が頑張ります。一人で
一文庫を持つのはやっぱりこの人ぐらいでしょうか。いずれも10月上旬
発売で、『アルジャーノンに花束を』訳=小尾芙佐、本体760円。『五
番目のサリー(上下)』訳=小尾芙佐、本体各600円。『24人のビ
リー・ミリガン(上下)』訳=堀内静子、本体各760円。『ビリー・ミ
リガンと23の棺(上下)』訳=堀内静子、本体各640円。
■今回のヒトコトヨケイだねっ!
英語教科書の秀文出版が破産(8月23日)
月刊「起業塾」の発行元、青人社が倒産(9月1日)
ゲーム本の新声社が破産申請(9月8日)
と毎週のように出版社が消えていきます・・・。
読書の秋です。本を読んで出版社を救済しよう!(何のこっちゃ。)
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■「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
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第四回 『愉快な機械』の岸啓介さんへのインタビュー
今回は摩訶不思議な世界を演出し、「たけしの誰でもピカソ」のアート・バ
トル5週勝ち抜きグランプリ受賞を機に初の作品集『愉快な機械』ソフトバ
ンク刊(9月24日発売予定)を出版される23歳のアーティスト、岸啓介さ
んとのインタビューを掲載します。
以下に岸さんの作品数点を掲載しているアドレスを用意しましたので、
作品を見てからこのインタビューを読んで頂いた方が楽しめると思います。
→ http://www.atamatote.co.jp/f03/kishi_k/kish1.html
<「たけしの誰でもピカソ」の審査員の一人だった榎本亮一さんの主宰する
「アタマトテ・インターナショナル」内のページです。
岸啓介氏
1975年 横浜生まれ。
1998年 慶應大学法学部卒業
1997年/10月 アーバナート展CG部門、立体部門入選
1997年/11月 ハンズ大賞受賞
1998年/3月 『たけしの誰でもピカソ』アート・バトル3代目グラン
プリ受賞
1998年/10月 ニューヨークSOHOで個展
1999年/3月〜5月 横浜ランドマークで個展
1999年9月24日予定 『愉快な機械』ソフトバンク刊
予価3200円+税
現在、雑誌連載中の作品
@「愉快な機械」---『S.M.H』誌(ホビー・ジャパン刊・季刊誌)---
最新号・Vol.15(8/25発売分)
A「スチームライフ」---『Dos/V Magazine Custom』
誌(ソフトバンク刊・隔月誌)---最新号・7月号(7/16発売分)
●印、岸啓介氏 Q→湯川
@Q→初の作品集『愉快な機械』9月24日の発売と聞きました。
もうすぐですね。おめでとうございます。今のお気持ちは?
●本の装丁や作品の撮影が難航し、一時は企画自体が危ぶまれたことも
ありましたが、ようやく完成するようでほっとしています。
AQ→誰またはどんな作品に影響されてこのような作品を作られている
のですか?
●小学生の時から時代劇が好きで、「江戸を斬る」や「水戸黄門」などをよ
く見ていました。問答無用の勧善懲悪ぶりや、主人公登場の際の過剰なまで
の演出は、何度見ても飽きがきません。それに印籠や十手など、未知の必殺
アイテム(江戸時代の階級制度など知らない当時は確かにそう見えました)
も魅力的でした。
それから、西洋の科学力をもてはやす反面、お寺の力が幅をきかせていたり
する、科学と儀式半々の世界というのも何となく不思議で面白いなぁと思い
ます。
これらとロボットアニメの記憶が合わさって今の作品に至ったのかどうか
定かではありませんが、そのあたりにルーツがあるのではないでしょうか。
BQ→『たけしの誰でもピカソ』出演以前の創作活動についてお聞かせ
ください。
●作り物一筋なのもどうかと思い、大学のときは法学部にいたのですが、や
はり今と同じように作品を作っていました。卒論も表紙のデザインだけ妙に
凝っていましたね。書体を作ったりして楽しかったです。肝心の中身は
「?」でしたが。
現在も会社に勤めつつの製作なので、そういうポジションが好きなのかも
知れませんね。
CQ→誰かに師事したり、共同作業で作品を作ったりされるのですか?
●師事というわけではありませんが、学生のころの美術の先生にはとても
恵まれていたと思います。割と放任主義で、どんなジャンルもあり、という
感じでした。
共同作業の件ついてですが、そもそも作品を作る時は、「オブジェとしての
形の面白さ追求」云々の前に、「自分的世界観の構築」が大前提なので、
誰かと一緒に作るという事はほとんどありません。ただ、作品が完成して
から先は、色々な方にお世話になっているなと思います。今回の出版に
際してもたくさんの方にご協力いただきました。ありがたいことです。
DQ→『たけしの誰でもピカソ』ではアート・バトルで5週勝ち抜き、グラ
ンプリを受賞されましたが、番組に係わるお話をお聞かせください。
●番組の収録は本来、2本を隔週で撮るそうなのですが、私の回のときは特
番の都合で1週間の間隔で4作品
・ガスパール、メルキヲール、バルタザール
・おもちゃ男
・展開大写真
・狐の嫁入り
(※作品名は本書収録のタイトルです。)
を出すスケジュールになってしまっていたのが大変でした。その内でも、
「展開大写真」は全くの新作だったので、収録当日のスタジオでようやく
完成させたのを覚えています。
EQ→評価が良かったからグランプリを受賞されたのですが、審査員評を聞
かれてどんな感じがしましたか?
●作品もそうなのですが、素朴なキャラクターの方が好まれるようですね。
勝ち抜きの4回目で、「5回目まで行けば、遂に全ての謎が解明する!」
みたいな事を言ったら、冷ややかな目になってしまって「まいったなぁ。」
と思いました。
でも、ああ言わなかったら「同じような作品ばかりだね。」と言われていた
かもしれないので、難しいところです。
FQ→そのあと、ニューヨークで個展、ランドマークで個展を開催されてい
ますね。いかがでした?
●SOHOでの展示
去年の10月のニューヨークでの個展はテレビ局の撮影等の諸事情から、
1日のみの開催でしたが、(全部で10日滞在したのですが、梱包をほどく
だけで4日かかってしまいました)お客さんはたくさん入ってくれたほうだ
と思います。
私がかたことの英語でしか説明できなくても、皆さん非常に熱心に作品を見
ながら話を聞いて下さったのが印象的でした。
作品の方が雄弁ですね。まあ、単に私がもっと英語を勉強すればいいだけな
のかも知れませんが…。
●横浜ランドマークプラザでの展示
一方、ランドマークプラザでの展示は、2ヶ月近く行うことができました。
ショッピングモールに面した場所でしたし、ゴールデンウィークの季節だっ
たこともあって、さまざまな世代の方に見ていただくことができました。
照明にちょうちんを使ったり、結構凝った展示だったと思います。
GQ→皆さん、どんな反応を示していましたか?どんな質問がありました?
●洋風の作品の方がとっつきやすいようですが、和風の作品に関心を持って
くださる方が多かったように思います。やはり日本人が作っているからでし
ょうか。
HQ→作品集『愉快な機械』についてお聞かせください。
●西洋をも席巻するロボット製造技術「本製機関」の開発によって、三百年
以上続いた江戸時代が舞台のお話です。立体作品、3DCGそしてお話の組
み合わせで展開し、後半には開国を迫る外国の集団も登場します。
色校を見た限りでは、作り物自体はさておき、絵面の色合いがとても綺麗
でした。特に天候を管理するロボット、かみなり・おおかぜ・あめふり・ゆ
きだるまの部分は色々議論しただけあって、大変満足しています。
巻末にはおまけとして、作品世界に登場するのぞきからくり「展開大写真」
の組立式モデルや、CG作品そのもののモデリングデータを収録したCD-
ROMが付いています。また、製作方法も詳細に紹介していますので、造形
の手引書としてもお使い頂けることでしょう。
IQ→実際の作品をどこかで観ることができますか?
●9月18日から約1ヶ月間、リブロ池袋店美術書フロアで『愉快な機械』
収録の作品を数点、展示する予定です。
PCも用意する予定ですのでCDーROMの中身もご覧頂けると思います。
JQ→これからの活動予定と方向をお聞かせください。
●実は会社員なので、あまり手広く活動はできないのですが、当座は雑誌連
載をきちんと継続し、ここぞというときのために(!?)作品の世界観を温
めていきたいと思っています。
S.M.Hの「愉快な機械」は、和のロボットを扱っていますが、一方DOS/V
の「スチームライフ」は洋のロボットを扱っています。これらは同じ時間軸
で進行しており、合流したところで一つの大きなお話になる予定です。和洋
のロボットないしは機械に対する考え方の違いのようなものが表現できると
面白いのではないでしょうか。
KQ→いやー楽しみ、楽しみ。
最後に「本のメルマガ」講読の皆様へのメッセージをお願いいたします。
●いきなり「本を買ってください。」というのも失礼な話なので、とりあえ
ず、本屋さんで「愉快な機械」を見かけた折にはパラパラとめくって頂けれ
ば、と思います。
L→ありがとうございました。以後のご活躍も期待しております。
はじめてお会いして作品を見せて頂いたのは、冬の寒い日だったような気が
する。その後、何度となく食事をしながら話をした。
「もの静かな才能」を感じる。
それでは、また。
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■ 中国古典で浅学菲才が直る?/掩耳(えんじ)
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第五回 部下を殺すテクノロジー
まず、お詫びです。前回、諸子百家と現代の論客の対比をやる旨、予告した
のですが、兵法の紹介で肝心な点が抜けていることに気づきました。
それは、<自分の部下を追い詰め、死ぬ気にさせにるには、どうすればいい
のか?>ということです。今回はそれを解き明かしたいと思います。
この問題、実はかなり難問で、兵法書によって答えが別れます。まず、本文
にやたら<誅殺>の文字が踊る、「尉繚子(うつりょうし)」から。
・むかしの名将は、兵士の半分を軍令違反で誅殺した。その結果、天下に武
勇をとどろかせた。それよる劣る将軍は、兵士の1/3を軍令違反で誅殺した。
その結果、諸侯を制圧した。さらに劣る将軍は、兵士の一割を殺した。その
結果、軍隊に統制をしくことができた。
おいおい、部下を殺せばいいのか、と突っ込みたくなる文章ですが、この飽
くなき厳罰主義はもちろん一つのテクノロジーではあります。今で言えば、
大量に人を雇い、重いノルマを課して、付いて来ないやつはすぐに辞めさせ
る企業のようなものでしょう(え、某Rや某出版社そっくり? シー・・)
ただし、この厳罰主義、人を使う方も例外ではありません。「尉繚子」にの
っとれば、将軍は負けても逃げても降伏しても、本人は誅殺、家産没収のう
え、家族は奴隷なのです。某長銀の元役員で、退職金返すのをゴネている人
がいるそうですが、現代でよかったですねー。昔だったら家産没収のうえ、
一族みな殺しでしょう。
ただし逆に功績を上げたものには山のような恩賞をはずめ、ともあります。
結局この方式は、人間不信が前提なのかもしれません。<賞罰>や<規則>
といった抽象的なもののみにすべての価値を置き、人間らしさや優しさとい
った、人が思わず甘えそうなものは、すべて排除する――確かに、人間、言
葉(言いかえれば、宗教、イデオロギーでしょうか)に縛られた者ほど怖い
ものはないですから。そういう人、現代でも何でもやっちゃいますしね・・
しかしこれ、中にいる人間は、上も下も不幸でしかありません(いや、トッ
プだけは幸せかな)。しかし国や会社だけは栄えるのです。――戦争などの
極限状態以外はあまり考えたくない形ですね。
でも、これに反する立場もあって――と思ったら、紙数が尽きてしまいまし
た。次回に続きます(ああ、なんか前回の予告裏切りっぱなしでスミマセン)
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■ 「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
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第五回 密室の中の大衆
「アンビエント・ミュージック」という奇妙なジャンルの音楽が出現して
何年になるだろう。ハウスやテクノといった他の電子音楽系のジャンルが
それなりに鮮明な枠というものを形成し始めているのに対し、「アンビエン
ト・ミュージック」といったら発生当初からまさに何でもかんでもambi
ent(取り囲んだ)まま、いまだ一定の方向性を決定しようとしない。
ダンス音楽じゃないからクラブでかかることもないし、聞き流そうとする
にはヘンに音作りに主張がありすぎ、BGMの代わりにもならない。意外
と非実用的なのだ。ではクラシックやジャズのように気を張り詰めて聴く芸
術音楽なのかと言うと、もちろん違う。表現者の意図に即して初めから終わ
りまで聞き通さなければ「曲」を理解したことにならない、なんて義務めい
た押し付けがましさは何もない。どこで聴き始めてどこで聞き止めてもよ
い、そんなふうにわざと「緩く」構成されている。
大体、この音楽は形式面で他の音楽と明らかに異なる独自な特徴を備え
ている訳ではない。悪く言えばいろんな音楽のオイシイとこ取り、なのだ。
では、どこが独自か? それはただ一つ、音楽の流通の仕方、つまり聞
き手との関係。表現者の個室から聞き手の個室へ、孤独に受け渡され、ひっ
そりと消費される、その過程。豪華なコンサート・ホールも、粋なライヴハ
ウスも、尖がったクラブも、必要ない。ストリートもいらない。貧しく雑然
とした部屋(ぼくやあなたがいるような)が唯一のステージだ。大抵の場合
この音楽は独りで聴かれ、家族や恋人でさえその場に居合わせることは少
ない。途中で電話がかかってきたら、またトイレに行きたくなったら、この
音楽は無造作に動きを止められる。個室の主人の日常生活上の都合が何よ
りも優先される。簡単に止められ、またトラックを変えられる。
この音楽に熱狂的なファンなどは存在しない。作り手が死んで追悼集会
が開かれる、なんてことは未来永劫この音楽に関してはあり得ないだろう。
作り手の人格は音の趣味性 の中に完全に溶解してしまっていて、更にそ
の上聞き手を縛るようなメッセージ性を発することなどない。個々の音の断
片から作り手の人格を再構成することは難しい。 この音楽は根本的に「引
用・転用」の音楽であり、たとえオリジナルに制作される部分があってもな
お「引用」の匂いを残すのが常だ。重要なのは作り手の音の体験が抽象的な
レベルで聞き手の生活を侵食できるかどうかということ。だから音素材とし
てはキッチュなまでに「類型的なもの」がまず選択される。音楽の達成度は
この「類型的なもの」を、聞き手の生活の深層を支配できるまでに独自に変
形させ、元の意味とまるで違った意味を発生させられるかどうかにかかって
いる。
聞き手が、何の気もなしに聞いていたこの音楽に依存するようになればし
めたものだ。聞き手は作り手が純化させた音の趣味性をもとに、自分自身の
人格を再構成するようになる。この音楽が、彼(または彼女)の精神生活の
見えない基盤として機能する。作り手の音の体験が、聞き手たちの中で増殖
し、作り手の個人性が聞き手たちの中で気がつかれないままに生き延びてい
く。中心に「うた」=明確なメッセージを持たないこの極度に非政治的な音
楽は、音の意識下に特定の、狭い意味での個的体験を忍ばせ、それをどこへ
でもどこまででも流通させ聞いた人々の意識を微妙に変革させてしまうとい
う点において危険な音楽であるだろう。
「僕がやってる実験性なんて、ストックハウゼン・レベルまでさかのぼって
何十年前からされてる実験の中で繰り返してるに過ぎないんですよね。重要
なのは、繰り返してるポジションていうのが、僕等は実験音楽としてやって
ない、あくまでポピュラー・ミュージックの底辺でそれをやってるっていう
ところに唯一の価値と進歩があると思うんです」(半野喜弘)
この音楽において、「大衆」は表現者が行った意義ある「実験」を無条件に
受け入れる対象としては捉えられていない。「実験」は「大衆」自らがその
胎内で増殖させる過程においてじっくりその意義を発揮していくものであり
「大衆」は音楽の成立にとってなくてはならない、ほとんど作り手にとって
の「表現手段」として位置づけられる。聞き手は、言わば楽器なのだ。
清涼飲料水のようにこの音楽を摂取しているうちに、聞き手の日常の意識
は音楽が先導するある方向性に沿うようにいつのまにか作り変えられていっ
てしまう。その時、初めて音楽は曖昧に完結するに至るのだ(ろう)。
ぼくはこの文章を、半野喜弘及び竹中和延という二人のアーティストの作品
を聞きながら書いている。彼らの音楽が幼児性、というかむしろ人間以前の
胎児性を感じさせるのはごく当たり前のことだ。単独では自立できず(クラ
シックと違って)仲間と連帯を組むこともできない(ジャズやロックと違っ
て)。それは知らない誰かによって「孕まれること」だけを執拗に求め、待
ち続ける音楽なのだから。
thanks to ―
半野喜弘(Multiphonic Ensemble)
Portrait of a Poet
(Flavour TFCC−87586)
King of May
(p+c sub rosa SR128)
Cirque
(Flavour TFCC−87618)
竹村和延
Child and Magic
(Werner Music Japan WPC6 8399)
Child’s View
(Toys Factory Records TFCC−88312)
夜の遊園地
(Childisc Recordings CHCD−006)
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■あとがき
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>今日は敬老の日ですねー。
>どうしたの? しみじみしちゃって・・・。
>お年寄りは本が好きだから大事にしないとねー。
>おいおい。そんな理由かい! ちがうだろ、お年寄りは無条件に大切にし
なくっちゃー。・・・明日の我が身なんだから。
>大活字本も増えてるけど、まだまだ足りないね。
>活字が大きくなると本もデカくなるってのは安直な作りだよね。大き過ぎ
て持てないような本なんてのも結構ある。
>いっそのこと、点字じゃないけど、活字を盛り上がらせる、ってのはどう
かな。手触りで活字を追える、っての。
>技術と値段が折り合うかだね。どちらにしても、お年寄りに優しい本、と
いうからにはやはりお客さんの声を聞かないとね。
>いっそのこともう引退して欲しいような出版業界のお年寄りを集めて新会
社を作らせる、ってのはどう?
>おいおい。暴言だな。でも、業界の雰囲気も少しは新しくなるかもね。
>敬老はいいのか?
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