2002.8.25.発行 vol.115 [世界デビュー 号]

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■■  [本]のメルマガ                             2002.08.25.発行
■■                                                    vol.115
■■   mailmagazine of books                 [世界デビュー 号]
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■■     創刊は1999年5月10日、現在の読者数は5092名です。    
■CONTENTS----------------------------------------------------------- 
★トピックス
→ユニークな写真集、高感度の無料イベント、出版社解散情報など。

★特別寄稿「完全報告:ペヨトル・イン・西部講堂2002」/ 黒木實
→幻のファイナル・イベント企画がいよいよ始動。舞台裏を手際よく活写!

★不定期連載「脱書店員電脳日記2」/aguni(あぐに)
→好評のあのダイアリーが帰ってきた! 今回はコミケの威力を再発見。

★「公開討論『絶版論争:なぜ再刊できないか/いかに再刊するか』」第4回
→良書というディスクールの居心地悪さ。読者からの痛烈投稿。 

★「現代思想の最前線」/ 五月(ごがつ)
→ネグリの自伝が来月刊行。[本]のメルマガが学術系洋書で活字化された!
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■トピックス
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■著名人のユニークなポートレイト写真集「プロメテウスの肖像」が好評

不思議な写真集である。日本の著名人のポートレイト写真がずらり103名分
並んでいる。モノクロの静かな画面で、一言ずつ、各人のコメントを記載して
いる。皆、それぞれ大きさが異なる白い球を手にしたり、一緒に写真に写った
りしており、この白球が摩訶不思議な印象をもたらす。確かに実在する人物を
写す世界が、一気に非現実化する。白球の出現に戸惑う顔、考える顔、対象と
一つになる顔……13年もの歳月をかけて写真を撮り続けてきたのは、主に広告
写真の分野で活躍してきた松尾忠男(1948-)氏。かの細江英公氏に師事し、
現在は鎌倉の早見芸術学園で教鞭を執っている。発売:リヒト舎、税別6,800円。
収録作の一部:唐十郎、遠藤周作、吉増剛造、田中泯、荒川修作、大野一雄、
など。ISBN4-9900694-1-2 http://www.cityfujisawa.ne.jp/~t.matsuo/


■青山ブックセンター、全部無料で大注目の9月イベントの数々 

○「新宿」刊行記念・森山大道氏サイン会 

日時: 2002年9月7日(土)17:00〜 
会場: 青山ブックセンタールミネ2店 
お問い合わせ先: 03-3340-2420(8:00〜23:00) 
参加方法・注意事項:青山ブックセンター本店・六本木店・ルミネ2店・新宿
店・自由が丘店・広尾店にて、森山大道氏最新写真集「新宿」(月曜社・7/25
発売予定・\7200)をご購入のお客様にサイン会参加整理券を差し上げます。サ
イン会対象本は「新宿」のみとなりますので、色紙・古書などサイン会対象本
以外のお持込はご遠慮ください。

○蓮實重彦とことん語るシリーズ第3回『とことん現代思想を語る』 

日時: 2002年9月20日(金)19:00〜21:00 
会場: 青山ブックセンター本店 カルチャーサロン青山 
お問い合わせ先: 03-5485-5511(10:00〜22:00) 
参加方法・注意事項:定員160名様、入場無料。要電話予約。 
※当シリーズはCD化が予定されております。会場にて講演内容を録音いたしま
すので、予めご了承いただきますようお願い申し上げます。 


■ダムタイプ新作インスタレーションおよびアーティスト・トーク

日本を代表する国際的アーティスト・グループ「ダムタイプ」が今年4月にフ
ランスのトゥールーズで初演した新作パフォーマンス「Voyage」の日本講演に
あわせ制作された新作インスタレーション「Voyages」が、インターコミュニ
ケーション・センターのギャラリーAで8月23日から公開されている(10
月27日まで)。展覧会と連動して、ダムタイプと浅田彰によるアーティスト・
トークが以下の要領で行われる。

日時:2002年9月15日(日)午後3時より
会場:ICC・5Fロビー(新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー内)
定員:150名先着順
聴講料:無料(展示をご覧になる際には入場料が必要です)
問い合わせ:フリーダイヤル0120−144199
http://www.ntticc.or.jp/


■株式会社批評空間が解散、書籍の購入は店頭在庫のみ可能

5月に編集長の内藤裕治氏が死去し、今後の活動が注目されていた批評空間が、
残念ながら解散することになった。順調にヒット数を重ねてきた批評空間のH
Pに掲載された8月20日付けの告示で、浅田彰、柄谷行人両編集委員から終刊
および出版社解散の挨拶があった。同時にウェブショップも閉店し、「批評空
間」のバックナンバー(全4号)と『トランスクリティーク』『柄谷行人初期
論文集』を購入するには、今後、書店店頭の在庫に頼るしかない。書店からの
返品受付は残り2ヶ月ほどのようだ。知らせを受け、すでにすべての在庫を返
品した書店や、買い取る方針の書店など、反応はまちまち。定期購読者への返
金手続きも近く行われる。ペヨトル工房の前例のように、残在庫を断裁・絶版
にせずに救済する方法はないものか、多くの読者から惜しむ声が広がっている。
HPに公開された、柄谷氏による「弔辞」は抑制されたトーンながら、読む者
の胸を詰まらせる。氏の最新著『日本精神分析』(文芸春秋)は、内藤氏に捧
げられている。第IV期については、「私たちはいずれまた新たなcritical 
spaceを構築することになるでしょう」とだけ、20日付けの告示にあるが、具
体的にはどのような展開になるのか、定かではない。
http://www.criticalspace.org/
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■特別寄稿「完全報告:ペヨトル・イン・西部講堂2002」承前/ 黒木實
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前号では、当イベントの「京大西部講堂使用許可」が降りたところまで書いた
が、本号では開催日までの経緯を述べておきたい。会場の決定から開催までは
半年足らず、大きなイベントを組むには最低必要だと思われる準備日数だが、
それも活動計画を綿密にたて、毎日をめいっぱい有効に使って、順調にスケ
ジュールを消化したとして「半年」である。まず、実行委員が着手したのは出
演交渉、そして先立つものとしての資金繰りであったが、双方最後まで難航し
て、開催日まで(開催後まで?)引きずることになる。イベントの企画、交渉
は今野が主に背負う形で、資金については、アート関係の助成財団に詳しい佐
東が主導した。東京(今野)、京都(佐東、黒木)、兵庫(樋口)と遠距離で、
しかも国内同士とは思えない時差で生活する4人の連絡網は、メールとメーリ
ング・リストだったが、この記録をたどって開催までを振り返ってみる。

12月に入ってから、佐東が提案したのが「セゾン文化財団」「芸術文化振興
基金」への補助金申請である。セゾンは雑誌「wave」の発行との絡みもあり、
ペヨトルとは因縁の深い団体で一縷の望みを託したが一蹴され、「芸文基金」
もアウト、「トヨタ財団」もダメだった。申請の条件はおおむね、新規に活動
を起こし将来の活動への展望をもつ団体、もしくは活動実績のある団体であり、
わずか2晩のイベントのために結成し、そのための資金をゲットしようとする
ような輩はおよびでないので、申請内容はあたかも将来性のあるプロジェクト
であるかのように微妙にトーンを変えていたが、書きながら、どうも趣旨が違
うな、と思っていただけに当然の結果ともいえた。ここで、大口の資金繰りへ
の望みは絶たれた。有能なプロデューサーならここで、あの手この手と次の手
が考えついたかも知れないが、われわれには手一杯、未知数の興行収入でまか
なうしかなかった。

その間出演者交渉をしていた今野がおそらく一番に依頼し、快諾を得たのが笠
井叡と田中泯、「20年仕事すると良いこともあるもんだ」とメールに記して
いる。それから畠山直哉、野村誠と続いた。次に着手したのが、イベント・ス
タッフの手配。いくらなんでも4人ですべてができるはずはなく、アングラ系
劇団員に協力をあおいだり、ボランティア募集のチラシを京阪神の文化的ス
ポットに配って、3月初めにボランティア説明会を開催した。ボランティア・
スタッフは隔週ごとのミーティングの度に増え続け、最終的に96人という大
所帯となった。スタッフは京阪神の大学生、フリーター、会社員などだったが、
とりわけ強力だったのが、樋口貞幸率いるアーツスタッフネットワークのメン
バーだ。彼らはアート・イベントの企画・制作・援助を行うプロフェッショナ
ルなボランティアたちで、国内外のアーティストのダンス公演ほかを、豊富な
場数とノウハウでもってサポートしている。

3月半ばでまだ出演者やイベントの全容がみえないまま、同時進行の企画が持
ち上がる。京都造形大学での関連講座や、さすがわささめコレクションによる、
ペヨトルゆかりのポスターを集めた「ポスター展」、樋口はライターという職
業柄、京阪神の媒体にせっせと記事を書きまくった。本篇のチラシが出来たの
が4月後半で、当日まで2週間をきっていたが、そこは96人のボランティア
の威力、2万3千部をあっという間に京阪神一円に配り終えた。チラシとチ
ケットは、ミルキィ・イソベのデザインでフライヤー(チラシ)はCDと同寸
の三つ折り。かつてイベントのチラシといえば、書店やレコード店、喫茶店な
どにA4サイズのものがよく置かれていたが、今はこうしたスペースが少なくな
りつつあるということで、コンパクトなサイズに情報だけをギッシリ詰め込ん
だ。しかし、こうなると広告スペースがなく、書店などの奇特な広告主さんか
らのオファーも涙をのんでお断りした。

企画のフィクスが遅れ、印刷物の仕上がりも当然遅くなり、情宣期間が極めて
短いなか、チケットぴあでの売れ行きも芳しくなく、『ペヨトル興亡史』の版
元、冬弓舎の協力で行っていたチケットのインターネット販売も50件ほど、わ
れわれには超豪華にみえる出演者も、多くの若者は知らないときている。本当
に人は集まるのだろうか。入場料は2500円で、1日定員500人が2日間、
定価で完売すれば250万だ。出演者の経費や制作費が普通どのくらいかかる
のか、門外漢の私には見当もつかないが、西部講堂は、ほとんど何の設備もな
い「箱」であり、音響や照明はすべて自前で持ち込まなくてはならないから、
この経費はバカにならない。西連協のスタッフと課外実習という名目でやって
きてくれた京都造形大学の学生の手によって、みちがえるほどキレイに白塗り
された講堂内部を見ながら、制作経費を佐東に尋ねると、「黒木さんは聞かな
い方がいいと思うよ」とニヤリと笑った。(続く)

●黒木實(くろきみのる):1994年、エルヴェ・ギベール『悪徳』で仏文学翻
訳者としてデビュー。2000年より現在まで「ペヨトル管財人」を務め、任期満
了につき、再デビューを目論んでいる。
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■ 不定期連載「脱書店員電脳日記2」/aguni(あぐに)
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コミケは書籍を買う楽しみを教えてくれるか?

 2002年8月11日(日)、私は東京ビックサイトにいた。いわゆる夏コミ、であ
る。友人に頼み込んで、参加させてもらったのだ。初めてなので、前日はなか
なか寝付かれなかった。何しろあの、コミケである。ハロウィーンと秋葉原の
裏通りが一緒になったような大変な大騒ぎなんだろうなー、と思っていったら、
確かに熱気はあったけれども、屋台がいっぱいあるだけで何だかいたって雰囲
気は普通。大学の新歓時期のサークル勧誘のような、どちらかというと明るい
感じであった。

 考えてみるとフツーの文房具やらパソコンやらソフトやらを説明するのにヘ
ンなコスチューム着せてる方がずっとヘンかも、と思ったりもした。

 どちらかというと実写志向で、エロマンガやエロゲームにはあまり興味がな
い私が何をやりに行ったかというと、もちろん、売り子さんなんである。出店っ
て燃えるんだよねぇ・・・。これが自分の特異な属性であることをあらためて
実感した。大学で4年間、こればっかりやってただけあって、年季が違うので
ある。

 人間、何でも経験してみるものだ。私は行くまでコミケでのコスプレの目的
がわからなかったのだけど、行ってみて初めて、あれがお店の商品を説明する
ための看板であることがわかった。ある特定のキャラクターのファンを客層と
して捉えているのであれば、そのキャラの格好をするのが、効果的にターゲッ
ト顧客にアピールする方法となる。

 そしてもちろん、販売での最後の決め手は接客、であるから、コスプレはこ
こでも効果を発揮する。むさ苦しいオッサンよりもそりゃ、可愛い格好をした
女の子に接客されたほうが嬉しいに決まってる。

 コミケの出店でもECサイト運営でも思うのは、お客さんは別にモノが欲し
いからそこで買うのではない、ということだ。システムや店構えが立派だから
と言って、ブランドイメージがあるからといって、お客さんが「購入」にまで
結びつくわけではない。お客さんはそこで買う行為そのものが楽しいからこそ、
そこで買うのだ。いってみれば、お店とお客さんとのコミュニケーションの問
題なんである。

 最近、あまりリアルの書店に行かなくなっているが、よくコンビニには行く。
そこで気づかされるのが、コンビニにはいかに買物を楽しくさせる工夫がある
のか、ということだ。先日も、思わず猫のフィギアを衝動買いしてしまったが、
そういうものを買うことが楽しい空間になっている。ひるがえって本屋はどう
か。楽しさを味合わせてくれる本屋さんのいかに少ないことか、と悲しくなる。
それは面白いフェアをやればいい、広告をまけばいい、作家先生をつれてくれ
ばいい、という問題ではない。古くからの商売のやり方を守っているのはいい
けれど、お店での楽しい購買経験を提供することに怠けてませんか、というこ
とを思うのだ。

 大きな本屋さんのえらい人に、ちょっと言いたいのである。本が時代につい
ていっていないのではなく、本を売ったり作ったりする人がついていっていな
いだけではないですか?

 あいかわらず出版の世界ではあまり明るい話を聞かない。明るい顔をした人
が少ない。もしあなたが本の将来に不安を覚えるのなら、一度、コミケに行っ
てはどうだろう? 本がまだ商品として魅力的であることにきっと、気づかせ
てくれると思うから。
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■「公開討論『絶版論争:なぜ再刊できないか/いかに再刊するか』」
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第4回:良書出版という「気持ち悪い」言説

○さらに読者からの声を聞く(本誌編集同人・五月)

未來社代表取締役の西谷能英さんからのコメントに対して、出版業界関連の仕
事に就かれている二人の読者から応答があった。前回はオンライン・ジャーナ
ル「ARG」編集発行人の岡本真さんからの寄稿を掲載し、出版人が自らを特
別視する傾向性について吟味した。今回は出版コーディネーターの高岡武志さ
んからの投稿をご紹介する。高岡さんは、1941年生まれで、大学中退後、複数
の出版社で主に書籍販売の仕事をされ、書籍も何冊か手がけられた。現在、義
父の後を継いで、駿台社の代表をつとめている。

○良書出版という「気持ち悪い」言説(出版コーディネーター・高岡武志)
  
「リスクについては出版社のみが責任を負うという構造になって」おり、「そ
のことを読者はあまりにも知らなさすぎるのではないだろうか」との、西谷能
英氏の発言に対して、岡本真氏は「出版業界は自らの世界を特別なものと意識
する傾向が強いと感じます」 と記している。

私は、「経営リスクは出版社の経営者が負うべきもの」と考える。だから、専
門出版社が経営実情を業界内で語るだけでいい話を、専門書を発行しているこ
とが、特別なことをしているという風にすり替えていくのは、噴飯ものと思っ
ている。

「良書出版」なる言説は気持ち悪い。(私たちのような出版業は)良い伝統芸
能だから文化庁あたりに補助金出せと要求しているような話である。伝統芸能
にあたる部分が自分ら「専門出版社」で、文化庁にあたるのが読者もしくは小
売業(=書店)で あるというロジックである。

当時、注文性(=買切制)を主張する際に、経営リスクを小売り側に負担させ
ようとする際の大義名分として「専門(書)出版社」を標榜したにすぎない。
未來社が厳密な意味で「専門出版社」かというと、当時も今も「専門書といわ
れる書籍も発行している」出版社というのが正しい。戦後アカデミズム+戦後
文化運動に同伴していただけなのに、それら書籍群を時代の読者が必要としな
いかたち(このかたちについては別に論議する必要がある)で、読者に乗りこ
えられてしまった(すなわち売れない)時に、共存などと気持ちの悪い言葉で
読者(=消費者)に何を要望するのだろう。

取引歴が長いという理由で、「専門書」を発行する出版社が、取引条件が高い
特権については、頬かむりであるが、それは、まぁ、営業権の話だからいいと
しよう。だが、相当前に粉砕されたはずだが、知識を持っていることが上位で
それを享受する者(=読者)が下位にあるという考えには、「特別視」どころ
かウザッたい「特別臭」ものである。

大体、「知」を編集することが、実は権力者であるという自己認識がない。経
営のしんどさを「誠実さを装ったずるさ」で弁解表明するよりも、「売れない
な」という言葉が常套句になっているこの業界で、しかも、大衆(消費)社会
状況下で、かつて3000部で取り組んだ本は今なら2000部で、2000部のものは
1000部で、500部生産で、350部生産で経営していけばいいだけの話である。
売り続けるパフォーマンスだけが、メーカー〜小売店に問われている(と思う)。

○議論の共通基盤を求めて(五月)

高岡さんの容赦ない主張には、ある種の単なる「嫌悪感」に属するものと聞き
流してしまうわけにはいかない何かがある。西谷氏のコメントを踏まえた上で
の応答であるため、未來社への個別的批判というふうに読む方もいるかもしれ
ないが、まったくそうではない。「良書」とはそもそも何であるか。その内実
を高岡さんは問うているように思う。時代に取り残されつつあることに自覚的
であるかどうかが問われる。現在の市場状況を冷静に受け止め、それでもなお
営業しつづけるために必要なのは、特権意識ではなく独立意識であり、良書と
いう看板におもねることではない。高岡さんによるいわば「業界的ディスクー
ル」批判はその意味で正当である。ただし、一方で、西谷さんが主張されたこ
とと高岡さんの批判はそもそも論点がかなり異なることに留意しておきたい。
前々回に西谷さんが指摘された「構造的」絶版についての分析に、私たちの議
論はまだ到達していない。「構造的」絶版は、一個の文化的問題であり、それ
は業界内部の問題という以上に、読者も常に否応なく巻き込んでいる事件なの
ではないか――私は設問のポイントをそう考えている。前回、今回と掲載した
声は、純粋に言えば「読者」の声ではない。お二方とも、業界にゆかりのある
方である。そもそも読者とは誰か、という問いとともに胸に浮かび上がるのは、
業界と無縁の「純粋な」読者(これもまた幻想ではある)にとっては、これま
での議論はどう映っているか、という疑問だ。議論が生煮えのままに終わらぬ
よう、順を追って整理したいし、更なる声を待ちたい。

この公開討論「絶版論争:なぜ再刊できないか/いかに再刊するか」は、不定
期連載で、読者と出版人の声を採録していく。業界の内と外の温度差をどう理
解するか、それぞれの本音を聞きながら、引き続き考えていきたい。貴重なコ
メントをお寄せいただいた高岡武志さんに感謝します。

●高岡武志(たかおか・たけし)さん略歴:出版コーディネーター。駿台社代
表。「編集行為」の概念を広く捉えて、中高年のための「ジカツ塾」(2002年
10月開講)の企画推進、あらゆる商品の販売問題を解決する場としての「商談
会」などを推進中。「年収、微弱」とのこと。
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■「現代思想の最前線」/ 五月(ごがつ)
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第32回:ネグリの自伝と『構成的権力』新版、ジェノスコの秀逸なガタリ論

このところ一般紙ですら取り上げるようになってきたネグリとハートの『帝国』
だが、米国では賛否両論というか否定論が高まっているわりには、相変わらず
アマゾンなどでは売れているし、事実積極的に売られているようだ。反ネオリ
ベラリズムの思潮がまだまだ弱いであろう米国では、『帝国』は左寄りの陣営
にとっていわば欠かせない武器となっているわけだ。この『帝国』、まもなく
日本でも刊行される予定で、版元である以文社の情報によれば、この秋には店
頭に並ぶはずである。そろそろ「911」一周年だが、それには間に合いそうも
ないだろう。

そのネグリの最新著についての情報を2点。イタリア本国でも『帝国』が売れ
ていることを以前レポートしたが、『帝国』のイタリア語訳とほとんど同時期
に、なんとついに『構成的権力』のイタリア語版がマニフェストリブリから刊
行された。

"Il potere costituente: Saggio sulle alternative del moderno"
Antonio NEGRI, 2002, Roma, Manifestolibri, ISBN:88-7285-263-3, 26Euro
http://www.manifestolibri.it

もともと本書は、1992年にイタリアのSugarcoから刊行されたものだったが、
重版しないまま売り切ってしまったようで、1999年に松籟社から邦訳刊行され
たものの底本になっているのは、1996年にフランスで刊行されたアップデート
版だった。このアップデート版は、エティエンヌ・バリバールとフランソワ・
マトゥロンによって丁寧に仏訳されたものだが、今回マニフェストリブリから
刊行されたのは、新たな序文を加えた最新版であり、翻訳ものではない。なに
ぶん大部な本なので、詳細に調べたわけではないが、章立ては仏訳版と変わり
ない。しかし言語の違いによって、当然仏訳版とは別の本と見られるべきで、
松籟社がそのうち改訂版を刊行されることを期待したい。

なお、本書は、例によって三省堂書店神田本店4F哲学思想書売場で販売して
いるので、ぜひご覧いただきたい。ネグリの親友でもあるパオロ・ヴィルノ
(1952-)の最新著『ミュルティテュードの文法:現代的生の形式の分析のため
に』(2002年3月、デリーヴェ・アップローディ刊、ISBN88-87423-80-6)と
併せ、少数しか仕入れていないので、お早めにどうぞ。(ヴィルノのこの本を
訳してみたい、という方がいましたら、私までご連絡ください。)

ところで、フランスのカルマン=レヴィ社が、来月(2002年9月)にネグリの自
伝を刊行することは皆さんご存知だろうか。『生政治的ABC』というタイト
ルで、その名の通りアルファベット順に配置されたキーワードをもとに、彼の
半生を語る、というものだ。カルマン=レヴィ社に直接問い合わせたところ、
翻訳ものではなく、ネグリ自身がフランス語で書いたものであるという。デリ
ダやクリステヴァの小著が収録されている"Petite bibliotheque des idees"
シリーズの一冊として刊行される予定で、アンヌ・デュフールマンテル編集の
このシリーズからはネグリの最近著のひとつ"Kairos, alma venus, multitudo"
(2000, Manifestolibri)の仏訳がすでに刊行されている。近刊の自伝も、早々
と邦訳が決定したようで、ありていに言えば、私はもっとも早い時期に出版権
をもぎ取るべくカルマン=レヴィ社とダイレクトにやりとりを続けて、契約がか
なり具体化していたのだが、ネグリ本人の意向で、ついさいきんあっさり他社
に持っていかれた。どこから邦訳出版されるのか、だいたい想像はつく。とも
あれ、ネグリと縁が深い方々が関わるのだろうから、歓迎すべきことである。

"Abecedaire biopolitique" Antonio Negri, 2002, Paris, Calmann-Levy,
ISBN:2702132316, 210x110 mm, 160 pages, 89,21 FF, 13,60 Euro
http://www.editions-calmann-levy.com/Calmann_Levy/_FindArticleServlet?IdArticle=159678

フランスではこの自伝に続けて、10月にはBayardから次の書目が刊行される。
"Job: La force de l'esclave" Antonio Negri, 2002, Bayard, 
ISBN:2227470496, 150 pages, EUR 15,90 / 104,30 FF
アマゾン・フランスで予約受付開始されたこの本は、おそらく1990年に例の
Sugarcoから刊行されたタイトルの、フランス語訳ではないかと思う。残念な
がらこの書目のイタリア語オリジナル版(下記)は絶版である。 
"Il lavoro di Giobbe: il famoso testo biblico come parabola del 
lavoro umano" Antonio Negri, 1990, Milano, Sugarco, 167 pages, 
21 cm, ISBN:8871980131

さて、話は変わるが、前回ご紹介したデ・ランダのドゥルーズ論が組み込まれ
ているコンティヌウム社の新しい叢書"Transversals: New Directions in 
Philosophy Series"について書きたい。イギリス・ワーウィック大学のキー
ス・アンセル=ピアソンをシリーズ・エディターに置き、コンサルタント・エ
ディターとして、エリック・アリエズ、エリザベス・グロス、マイケル・ハー
ト、イザベル・スタンジェールら13名を迎えているこのシリーズの主旨は、本
には以下のように記されている。

「横断線(トランスヴァーサル)シリーズは、現代思想におけるもっともエキ
サイティングな衝突の数々について探究する――自然、物質性、時間、テクノ
ロジー、科学、文化、政治、芸術、日常生活といったものと、哲学との出会い
について。理論において革新的で挑戦的な書物の紹介を目的としており、厳密
さや明晰さと同時に、思想の正確さや力強さも追求していく」。

シリーズの第一弾として刊行されたものの中には、デ・ランダのドゥルーズ論
のほかに以下の書目がある。
"Felix Guattari: An Aberrant Introduction" Gary Genosko, 2002, 
Continuum, ISBN:0-8264-6034-8, 268 pages, US$ 29.95-
http://www.continuumbooks.com
このほかにジョン・プロテヴィの『政治物理学:ドゥルーズ、デリダ、身体の
政治学』や、続刊にグレゴリー・デイル・アダムスンの『科学と資本の時代に
おける哲学』や、イアン・ハミルトン・グラントの『人工地球論:シェリング
以後の自然哲学』などがエントリーされている。かなり注目度は高い。

プロテヴィのウェブサイト:http://www.artsci.lsu.edu/fai/Faculty/Professors/Protevi/index.html
アダムスンのエッセイ「ノー・ポッピー・シンドローム」:
http://www.physicsroom.org.nz/log/archive/11/no_poppy_syndrome.htm
グラントの論文「シェリング主義とポストモダニティ」:
http://www.bu.edu/wcp/Papers/Cult/CultGran.htm

先に挙げたのは、以前この連載でも、浩瀚なドゥルーズ/ガタリ論集の編纂者
として紹介したことのある、ゲイリー・ジェノスコによる、題名の通り特異な
ガタリ論である。ブライアン・マスミは本書を絶賛して「ガタリ研究において
もっとも優れたエキスパートによる、世界初の包括的な入門書。ジェノスコは
巧みに、ガタリの思想と行動における、記号論的、精神医学的、政治的基礎に
ついて解説する。ガタリを初めて読む読者にとってはもっとも役に立つ入門篇
であり、すでにガタリに親しんでいる読者にとっても欠くべからざる手引きで
ある」と述べている。本書の目次は以下の通り。

List of Figures  vii ; Acknowledgements  viii ; Abbreviations  ix ;
Introduction  p.1 ; Chapter 1. Representing Guattari  p.29 ; Chapter 
2. Transaversality  p.66 ; Chapter 3. Japanese Singularity  p.122 ;
Chapter 4. The Four Functors  p.194 ; Closing Statement  p.217 ; 
References  p.229 ; Index  p.250

おそらく誰もが気になるのは第3章「日本的特異性」だろう。もともとジェノ
スコはドゥルーズ/ガタリ論集を編んだ時から、日本におけるガタリの受容に
ついて大いに注目していたから、本書が日本の事例を扱っていても不思議では
ない。しかし、私個人にとってはかなりびっくりしたことがあった。以前、
ジェノスコ氏と連絡を取った折に、何かの役に立てばと、氏にガタリの著書の
日本語訳リストを送ったのだった。それを氏は本書で活用し、「これらの書誌
情報は[本]のメルマガの××氏(私の本名)から提供してもらった」と特記し
たのである。紀伊國屋書店新宿南店の洋書フロアでぽつんと1冊だけで平積み
された本書を見つけて、ジェノスコ氏の名前を懐かしく眺めつつ購入すべきか
どうか迷っていたら、小誌や私の名が記載されているではないか(メルマガの
URLまでも)。氏の律儀さに嬉しくなるやら、まさかの活字化に驚くやらで、
当然、購入したわけである。

[本]のメルマガ、世界デビューである。いや、言い過ぎか。もちろん、提供し
た書誌データは詳細なものに仕上げたので、遺漏や誤記はないと思うが、それ
でもこうして活字化されると取り返しがつかない恐さを感じる。ジェノスコ氏
には近く礼状を送ろうと思う。

当のジェノスコ氏について少し紹介しておきたい。本書には、カナダのオンタ
リオに所在するレイクヘッド大学社会学部研究主任と記載されているが、実際
現在は助教授である。初めて公開された彼の写真を見ると、何と言うか親しみ
の沸く柔和な風貌だった。http://www.lakeheadu.ca/~socwww/genosko.html

これまで文化社会学の領域で仕事を続けており、ボードリヤールやマクルーハ
ンについての著書があるが、もっとも力を注いでいるのが、ガタリ研究だ。96
年にはブラックウェルから『ガタリ読本』を刊行し、01年にはラウトレッジか
ら出版された先述のドゥルーズ/ガタリ論集(全3巻)を編纂している。上記
のガタリ入門の続編として『フェリックス・ガタリ:機械の哲学者』を準備中。

彼自身が以前私に教えてくれた略歴に添って、年代順にもう少し丁寧に紹介し
てみる。彼は、1959年にカナダのトロントに生まれ、トロント大学で哲学を修
めたのち、ヨーク大学で社会政治思想を専攻し博士号を取得した。専門は、現
代文化理論およびカルチュラル・スタディーズであり、大学では「監視と個人
情報」についても講義している。現在彼は"The Semiotic Review of Books"
の編集者もつとめている。http://www.chass.utoronto.ca/epc/srb/

1994年にラウトレッジから刊行された『ボードリヤールと記号』が彼の最初の
著書であり、本書はもともと、トロントのヨーク大学社会政治思想専攻過程に
おける1992年の博士号取得論文だった。同じく1994年には、精神分析と文化を
めぐる論考をいくつかものしており、Transaction Publishersから同年に再
刊された"Marie Bonaparte's Topsy: The Story of a Golden-Haired Chow"
に新たな序文を寄せている。

"The Guattari Reader" (1996, Blackwell)を編纂後、1998年にはSage社か
ら第2作目となる論文集"Undisciplined Theory"を公刊。翌1999年には、
"McLuhan and Baudrillard: The Masters of Implosion"をRoutledgeから、
さらに同年には論文集"Contest: Sports, Culture and Politics"をウィニ
ペグに所在するArbeiter Ringから刊行した。彼は数年前から博士論文以後の
研究課題として、トロント大学マクルーハン・プログラムのシニア・リサーチ・
フェローをつとめる間、先述のマクルーハンとボードリヤールについての著書
を執筆していた。

言うまでもなくマクルーハンはカナダにおけるメディア理論の最重要人物であ
るが、1960年代後半に日本でもたいへんポピュラーな存在であったことをジェ
ノスコ氏は知っており、社会学者の南博が東京新聞に寄稿したマクルーハン紹
介記事のことや、ジャーナリストの竹村健一によるマクルーハン関連書に触れ
ていた。マクルーハンと竹村の往復書簡は、オタワにあるカナダ国立文書館の
マクルーハン文庫で閲覧可能であり、たいへん興味深く読んだとのこと。竹村
は70年代初頭に何度もマクルーハンに訪日を促していたが、結局、生涯日本の
地を踏むことはなかった、ということも知っていた(私はマクルーハンの来日
についてまったく知らなかったのだが、実際なかったらしい)。

2000年、Athloneから英訳出版されたガタリの『三つのエコロジー』へ、長編
論考"The Life and Work of Felix Guattari: From Transversality to 
Ecosophy"を寄稿。同年、論文"Transversal House"をイタリアのデザイン誌
「2A+P」で発表、ここでは横断概念の日本における受容について、篠原一
男の建築を題材に考察している。

2001年には全3巻1500頁におよぶ論文集"Deleuze and Guattari: Critical 
Assessments"をRoutledgeより公刊。日本におけるドゥルーズ/ガタリ研究は、
海外ではまだあまり知られていないが、徐々に重要性を増している、と氏は指
摘している。論文集の編纂に続いてSageから出版したのは、ボードリヤールの
主に入手困難な論文や未訳論考を集めた"The Uncollected Baudrillard"であ
り、彼は解説を書いている。同年3月にニュージーランドのオークランドで開
催された、ボードリヤールをめぐるカンファレンスでも、基調講演を行った。

彼とやりとりをした昨年2月には、ちょうどガタリ入門の執筆中で、なかんず
く「ガタリと日本」について扱う章に取り組んでいるところだったようだ。彼
はこう記している、

「ガタリは日本社会にたいへん興味をもっていて、日本の知的シーンを先導す
る識者である浅田彰や宇野邦一らと交友関係にあった。高松伸の建築に熱中し
たり、安部公房の小説を高く評価したりしていた。パリのIMEC(現代出版
史資料館)のガタリ文庫で、文書研究をさいきんまでやっていたんだが、私の
著書はそれがベースになっている。近く私は自分のウェブサイトで、ガタリの
未発表論文である"Tokyo l'orgueilleuse [Tokyo Pride]"の翻訳を掲載する
つもりだ」。

以上の情報は、私がジェノスコ氏に、小誌で氏を紹介したいので略歴を教えて
欲しい、と要請したことについて、返信してくれたメールに基づいている。彼
のガタリ入門が刊行され、ようやく氏のメールが活用できたわけだ。氏にかん
する最新情報は、彼自身のサイトで確認できるので、ご覧いただきたい。
http://www.lakeheadu.ca/~ggenosko  [2002年8月24日]
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