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1999.10.15.発行 vol.12 [ち、違う!俺じゃない号]
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■■ [本]のメルマガ 1999.10.15.発行
■■ vol.12
■■ mailmagazine of books [ち、違う!俺じゃない号]
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■CONTENTS---------------------------------------------------------
★トピックス
→今回はつんくに注目! 30才未満禁読企画で邦楽批評です。
★「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
→今回は本屋さんなら誰もが思い当たるアレです。確かにあそこにあったあ
の本がいつの間にか・・・。
★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→今回は横谷福子展を通して「かわいいもの」について考えます。
★「中国古典で浅学菲才が直る?」/掩耳(えんじ)
→第六回 部下を生かすテクノロジー。社員定着率の極端に悪い会社の上司
・経営陣必見!!
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■トピックス
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■今週の邦楽批評と名著再読(30才未満禁読企画)
現代人の人生は二〇代で早々に終わる。それまでは時代がやってくるのを
待っている気分だが、一瞬の内に時代に追い越されていく。
古い世代が古い意匠に新しい着物を着せて新しい世代に見せる。新しい世
代はそれを自分の時代として呼吸する。新しい世代はやがて古い世代にな
る。オリジナルとは相容れない差異をはらみながら、再生産の輪は延々と
続く。
♪Folder「I want you back」AVDT‐30008
8月25日発売の6thシングル。ジャクソン5の名曲のリメイク。
7人組の小中学生も随分成長した感じがする。メインボーカルの大地君が
声変わりしたらどうなるのか。マイケルに歌声がよく似ていて、この曲は
ハマリ役か。リメイクというよりコピー。
時代が回帰するのでも、文化がリヴァイヴァルするのでもない。
歴史は繰り返す、というのは老人の悟りではあるが、錯覚でもある。すべ
てはなつかしく、しかし実際、新しい世代にはすべてが新しい。
ASAYAN系の二つのグループの最新シングルとヴィデオクリップを聞
いて見て、つくづくそう思った。
♪太陽とシスコムーン「Magic of Love」EPCE‐5028
9月29日発売の5thシングル。
♪モーニング娘。「LOVEマシーン」EPDE‐1052
9月9日発売の7thシングル。
二曲とも作詞作曲はつんく。つんくは私と同い年(1968年生)。同時
代を生きた人間がつくるものは、どうしてすべからくなつかしく聞こえる
のか。なつかしい、と感じた瞬間に私は時代に追い越されている。
ジャック・アタリは名著『ノイズ』(みすず書房、品切)の中でこう語っ
ていた、音楽は常に来るべき時代の像を如実に先取りする、と。
約15年前におニャン子クラブ(総勢54人)が1stシングル「セー
ラー服を脱がさないで」で「今はだめよこんなところじゃ」とか歌ってい
たのは、来るべき援助交際時代の予言だったような気がする。今やモー娘
(かたや8人)が「日本の未来は、世界がうらやむ。恋をしようじゃない
か云々」と歌っているのはどんな時代の兆しなのか。
NATIVEの新曲「新しい国」(EPI-001)で鈴木晃二はこう歌っている、
「俺の国境は半径1メートル、このからだが新しい国だ。上を向いて歩い
てやるぜ」と。ルールの希薄化した現代都市のさなかにおける正しいセ
キュリティの感覚。
■最近の書籍をめぐるデジタルなトピックスをつらつらと・・・。
▽電子出版関係
9月30日
日本電子出版協会は電子出版物の交換用フォーマット“JepaX”を一般公
開した。これは将来、ネットの世界でもメインとなるであろうXML言語
(IE5.0でもサポートしている)をベースとして開発したもので、書名
や著者名などの記法に関しては、日本書籍出版協会の「データベース日本
書籍総目録」で使用されているデータ形式に準拠している。先行する様々
な試みへの変換も可能で、この形式が標準フォーマットとなり、電子書籍
のスタンダード規格になるのか、今後の展開が注目される。
http://x.jepa.or.jp/jepax/
その他の形式・ソフトとしては・・・。
11月1日から
電子書籍コンソーシアムは、協力読者(モニター)1500人の参加によって
「ブックオンデマンドシステム総合実証実験」を開始する。この実証実験
では、利用者が読みたい「電子書籍」を書店やコンビニなど19カ所に設置
された端末機「メディアスタンド」で選書し購入することができる。電子
書籍コンソーシアムは、出版社、書店、取次などの出版業界をはじめ、流
通、通信、ソフトウエア、メーカーなどの企業が行うもので、こちらは紙
の本をスキャンしたものを提供する、という形を取っており、あくまでデ
ータの共有を目的としたJepaXとは逆を行っている。アナログ派の試みと
して面白い。
http://www.ebj.gr.jp/
アドビ(http://www.adobe.co.jp/)のPDF(Portable Document
Format)
印刷業界では主にポストスクリプト(PS)形式が使われていたが、これに代
わり、PDFが主流になりつつある。PDFはデジタル書類を実現するために
開発されたファイル形式のことで、書類に含まれるあらゆる内容(文字、
画像、レイアウト情報など)が、「Acrobat Reader」(無償)を使用する
ことによって表示・出力できる。インターネット上でも印刷用に作成した
ファイルをそのまま使った公開できるため、電子書籍用フォーマットのは
しりだと言える。ただしPDFファイルを生成するためにAcrobat Distiller
やAcrobat PDF Writerなどのソフトが必要だ。
ウィンドウズ2000/98/CEを含むウィンドウズ・プラットフォーム向けに発
売される『マイクロソフト・リーダー』(Microsoft Reader)は、ウィンド
ウズを搭載したパソコンやノートパソコン、ハンドヘルドなどで電子書籍
を読むためのソフトウェア・パッケージ。日本語版の詳細はまだ不明。
ボイジャー(http://www.voyager.co.jp/)のT-Timeも同様。閲覧用のソフ
トは無償開発にはソフトの購入が必要。
コンテンツパラダイス(http://conpara.topica.ne.jp/)で入手可能な、
凸版印刷のBook Jacketは閲覧用ソフトのみが提供されている。
“JepaX”はつまり、電子書籍のためのプログラム言語を開発しようとする
試みであり、これまでのパッケージ型の電子書籍から、インターネットの
経験を経て生み出された、放送としての電子書籍という試みなのだと思うが
いかがなものだろうか。
▽プリント・オン・デマンド関係
8月30日
紀伊国屋書店は、富士ゼロックス、学術系出版社5社と協力し、9月から学術
資料のオンデマンド出版サービス「電写本」を始めると発表。まず協力出版
社が販売対象となる原本を紀伊国屋書店に送り、紀伊国屋が研究者向け専用
のインターネットのオンライン書店「ブックウェブ・プロ」に情報を登録。
注文があればその時点で印刷・製本し、購入者に送る。
10月1日
日販「Book-ing」(ブッキング)、サービス開始。資本金5000万円のうち、
49%を小学館・学研・二見書房が出資、さらに岩波書店、角川書店など出版
社23社の出資決まる。オンデマンド印刷・簡易製本によって少部数出版物や
絶版本を一冊からでも受注し、迅速に読者に届けられる事業として注目。
11月にはトーハンと凸版印刷がプリント・オン・デマンドを行う合弁会社デ
ジタル・パブリッシング・サービスを設立、12月からサービスを開始する。
当初、1万タイトルでスタートし、初年度2億円の売り上げを目指す。将来的
には、デジタルデータでの配信サービスにも拡大する予定。
再販制や委託制の見直しがなくとも、書籍業界に返品のない時代、というの
はやってくる?
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■「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
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第五回『書店での万引きについて』
書店の集まりに顔を出すと、必ずと言っていいほど話題になることがある。
特に棚卸が終わった翌月は、その話で会がはじまる。「いやー、久しぶりで
す。どうでした棚卸?」ってなぐあいに。
ここ数年書店の棚不足率【あるべき在庫高から実際の在庫高を引いて、その
会計期間の総売上で割るもの】が高くなっていると聞く。棚不足が大きくて
利益が吹っ飛んだという話は良く聞くことである。売っても売ってもザルで
水・・・。通常、棚不足率が1%〜1.5%が「まあまあ」、1%以下が、
「お、いいね」、1.5〜2.0%が「危ないね」、2%〜が「そりゃ、い
かん。他に行く?」と言われるようである。
この「あるべき在庫」が実際「ない」ことには、いくつかの理由が考えられ
る。
1、伝票管理処理の問題
2、入荷・返品時の現物と伝票の誤差
3、販売時の金銭受渡し、レジ打刻誤差
4、万引きによる損失・・・が主な理由か。
上記123は内部的な作業分析である程度は対処できるものである。
最近ではPOSシステム・商品管理システム導入などで人為的ミスは排除さ
れる方向にあり、その精度は極めて高い。しかし、「万引き」の対処には依
然難しいものがある。
確かに、万引き防止策で鏡やカメラを付けている書店は多くある。
また、本にタグらしいものをつけて出口でセンサーに反応して「ピー」とか
「ブー」とか鳴る、レコード屋でお馴染みのシステムを導入する本屋も出は
じめたが、書店の利益からその設備投資のお金をひねり出すのは大変であろ
う。しかも、入荷した本にタグを付け、返品時には外さなければならないの
で、それに係わる労力・経費は相当のものと考えられる。
経費対効果を考えると、経営側は現場のマンパワーに頼らざるを得ないのも
現実である。
書店だけでなく図書館でも同様のことが起こっているという。私の通う図書
館も年間4,000冊の本が無くなっているとのこと。たまりかね、埋め込
み式のタグを一冊40円で付け始め対応している。よく見ると電気スタンド
や持って帰れそうな備品にまでタグが付けてある。万引きで潰れた図書館も
あると聞き驚く。他の小売の現場はどうなんでしょう?
多くの書店が「万引き」に対して他の業種にくらべあまりに無防備なのは外
から見ると良く分かる。書店て出入り口はいっぱいあるしトイレもある。最
近は流行りか椅子はあるし喫茶店に持込みOKの書店まで出現している。本
は小さく持ちやすい、単価もそう高くない、タグも付いてない。人件費の削
減で売場の頭数は減らされ、店員はレジ以外には見かけない書店も、多くあ
る。じっくり選んで「持ってかえる」その筋の人達には良い環境が整いつつ
ある。
無防備な本屋で、万が一に捕まる「万引き」もいる。
何十人も相手にしてると色々な人がいる。謝る、しゃべりまくる、泣く、黙
り込む、暴れる、怒る・・・。反応によってこちらの対応も自ずから変わっ
てくる。
が、基本は感情的・威圧的にならないこと。明らかに弱い立場にある人に感
情的、威圧的態度で接しても何の解決にもならない。かえってお互いキツク
なるだけである。冷静に事を運ぶのが有効と思われる。
以前、捕まえた変な「万引き」に長々と話をしたことがある。
「鏡はアンタも見えるかもしれないけど、こっちも良く見えるんだよね。
カメラなんてオモチャと同じ。私等プロは店員別に休日や勤務時間、食事、
休憩の時間まで知ってるよ。本屋で捕まるなんてアホだね」と言う。
「アンタ捕まったんだよ」と言うと「バカヤロウ、捕まってやったんだよ」
「何で?」「もう、60超えてこんな生活嫌になったからね」「ふーん」
「ところで、盗った本どこに持ってくの、売るんでしょ。」「当たり前なこ
と聞くな」「ルートはあるの?」「無きゃ仕事にならないでしょ」「仕事な
の?」「当たり前だ」「ルート教えてよ」「駄目だ、仲間に迷惑がかかる」
「そうですか」「じゃ、うちの店にもう来ないでね」「牢屋に入るからもう
来ない」「仲間にも来ないように言っといて」「バカヤロウ、牢屋に入るっ
て言ってんだろ。言えるわけ無いじゃないか、考えろバカヤロウ」「また、
すぐ出てくるかもしれないじゃん」「バカヤロウ俺は前科七犯だぞ。もう出
てこれないのはわかってる」「前科七犯?」8回も捕まってるんじゃないか
と言おうとしたが、恐くなって言わなかった。警官が来て連れて行かれる時
「おい、バカヤロウ、元気でな」と言った。どういう意味だ。
またある時、事務所に入ると50前後のスーツ姿のこざっぱりした男が5冊
の高額本を前にして座っていた。
ガードマンから簡単な状況説明を聞き「警察、呼んでありますから来るまで
お願いします」と言い残し、そのガードマンは出て行った。事務所に残った
のは、男と私の2人だけである。。微妙な緊張感の中、男の正面の椅子に座
る。5冊の本を見ながら「認めるんですね」と聞くと「ああ、認める」「謝
る気はないのか?」と聞くと「ない!」と言う。表情がなく、その目は普通
ではない。そういう人には、こちらも何も言わず黙って、警察が来るまで
「気」の勝負になるのである。
そっと眼鏡をはずしジャケットのポケットに入れジャケットを脱ぐ。いつ暴
れだし殴られるかわからないからね。目を合せずそらさず、緊張感を持ちな
がら何も話さず微動だにせず、警察が来るまでの時間をお互い共有するわけ
である。15〜20分の静寂の後、扉が開き、若い警官2名が事務所に入っ
て来る。1人の警官が向い合って座っている私と男を交互に睨み付け「君か
?」とポンと私の肩を叩いた。「ち、違う!俺じゃない」。その時、はじめ
て男の唇がニッと歪んだ。
また、警察に呼ばれたこともある。閉店間際の午後8時、近くの雑貨店で
「万引き」を捕まえたら、おたくで盗った本もあると言うので確認して欲し
いという。「また、遅くなるなぁ」と思いながら警察署に行く。
若い男の前に15〜16点の雑貨・薬・本が並べてある。本はコミックが3
冊。警官が「この本はおたくの本ですか?」と聞くので「本人がそう言って
るんだったらそうでしょう」と答える。「良く見てください。おたくのです
か?」「断定はできない」と答える。「スリップが入ったままだから万引き
したものだと考えられますが、私の店のものとは断定できません」と言う。
「確認のためにお越し頂いたのですが・・」「どこの本屋でも売ってるもの
ですから断定はできません」「本人がそう言うんだから信じましょう」と言
う。「仕入証明書のようなものはありますか?」と聞くので「納品書という
ものはあるが、探すのに2〜3ヶ月かかります。」
「それでは困るんですよ」と言うので「私も困りますね。面倒だから、うち
のでは無いと言いましょうか?」「でも、うちの本では無いという断定もで
きませんが」
別室に呼ばれ「商品管理をもう少しちゃんとやって下さい」と言われた。
説明がやっかいだから、「ハーイ」と言って帰った。夜11時をまわってい
た。
後日、3冊の本が警察から届き、売場経由で返品に廻された。
脱線が長くなりました。元に戻します。
書店の多くは「売上不振対策」と「棚不足対策」の大きな2本柱への対応を
より一層強いられている。書店の荒利益は22%〜23%といわれている。
その荒利益で人件費をはじめとする営業諸経費をまかなうわけである。
1冊本を持っていかれると4冊売って利益はやっとトントンになる。
「売上高対営業利益率」は1987年は0.3%、10年後の1997年は
0.04%と低下している。1,000万円で4,000円の利益というこ
とになり、書店業の苦しさは一目瞭然。(書店員の給料の安さは目指せ標準
生計費のレベルがほとんど)。
社としての経常利益を見ても、この「本のメルマガ6号」でお伝えした通り
の数字。他業種との経常利益率比較は時期をみて詳細します。
じゃ、「万引きされた本」はどこに行くのでしょう?
「万引き」人の書棚に眠っているか、古本屋に「お金」目当てで売られてい
くかのどちらかであると推測できる。暇に任せて古本屋を廻ると「あるぜ」
と思わせる本が目に付く。発売されて何日も経ってない高額本がある。
「美本」とシールが貼ってあったり、中にはスリップの入ったままの本まで
ある。
古本屋が現金買いで安くして売るということも聞くが、そのような対象にな
り得ない本がピカピカで売られている。
もっと驚くのは、茶紙でまかれたままの5冊梱包がいくつもある。
茶紙の梱包は「万引き」ではないと考えられるので、別ルートが考えられる
が、嫌な「噂」を耳にするのでここでは書きません。
某古本屋でド新刊を手に取り「早いですね。どんな人が売りに来るのですか
?」と聞くと、露骨に嫌な顔をされた。なぜ?。
過日、古本屋の出店時の新聞インタビューで「周りの新刊本屋が万引きが増
えるのではないかと懸念しているが・・」の質問に「買い取り時には証明書
の提示、もしくは氏名・住所等を書いてもらっており、定価の一割くらいの
買い取り額だから危険をおかしてまで・・・。新刊本屋に迷惑をかけること
はないと考えている。」とある。一方『新文化』99/8/5号には、神奈
川県書店商業組合が、青少年の健全育成のためにと古書買い取りに対する4
項目の行政指導を知事あてに要請したとある。
他の古本屋に本を売りにいくと、証明書の提示を要求されるところや氏名・
住所を書かされるところ、何もなく買ってくれるところと店によって違い、
その統一はないようである。
古物営業法も数年前に緩和され、以前より売りやすく買いやすくなったと聞
く。
古本屋全部が万引きに荷担していると言ってるわけではない。古本屋の一部
が「その筋」とかなり近い関係にあるのではないかと言っているのである。
また、別枠で茶紙梱包が入るようなルートもあるはずである。
一読者として新刊が定価より安く手に入るのはうれしいことである。ただ、
疑問を持たせるような入手経路を経て売られている「本」があることは間違
いはなく、扱う方もそれと気がつかないはずがない。
読んだ形跡の無い美本、スリップが入ったままの美本、茶紙梱包の本。
当然、正当な理由があり、結果として本の売場があると思いたい。
本に関係・扱う者として一読者を内容以外で裏切るのはやめてもらいたい。
当然のように再販制度維持・撤廃以前の問題ですね。
都心の新刊本屋の新刊台に積んである本が、郊外の古本屋の奥にスリップ入
りの美本、茶紙梱包のまま放置、売られているのが現状である。
おしまい。
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■「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
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第六回 「かわいいもの」という神−横谷福子展(小林孝子構成)
「かわいいもの」は今や生活のあらゆる部分に浸透しているかに見える。
巷に溢れる看板や広告、ふと手に取る文房具に至るまで、女の子の感性を基
準にしたデザイン感覚が圧倒的な力を誇っている。ムサ苦しい男子たるぼく
も女の子の感性に追随するのでなければ満足な日常生活を営むことができな
い。だいたいインターネット上に開かれたホームページの数々を見てみなさ
い。多かれ少なかれ、「かわいらしさ」を感じさせるデザインが施されてい
るではありませんか! 大の大人の男性が、視覚的要素で勝負しようとする
と途端に、感性の面で部分的にでも女の子にならなくてはサマにならないな
んて、うーん、面白い時代。まだまだ男性優位社会の現代だが、ことデザイ
ン面に限っては断然に女性優位ということが言えるのではないだろうか。
この「かわいいもの」への嗜好は、いわゆる「生産」だの「建設的」だの
といった、前向きというより前しか向かない概念に対し、無言で反抗の意志
を露わにしているように思える。ある行為に対し、利益をあげるという均一
的な目的を掲げることを拒否し、行為に対してあくまで個人の精神的な満足
だけを対応させようとする試みが、「かわいいもの」への嗜好に結集してい
るように思えるのだ。
それでもこの「かわいいもの」という文化は「生産」側に目をつけられ、
ともするとあっさり「大量消費」という形に変質させられ、骨抜きにされて
しまう。個人が個人に即した感性のあり様を追求しきる試みには、「かわ
いい」外見とは裏腹な困難が付き纏うのだろう。
今回ご紹介する横谷福子展(mole 10/11〜16)は「かわいいもの」
に主体性の確立を賭けた人間の記録ということが言えるかもしれない。
横谷福子は昨年28歳で拒食症と闘った末亡くなった工芸作家である。彼
女と高校以来の友人である写真家・小林孝子がこの展覧会を構成した。
ギャラリーで販売されたポストカードセット(1000円 ものすごくよ
くできています)の付録についている略歴によると、幼少の頃に受けたイジ
メの体験や人間関係のしこりなどから中学生頃から拒食症気味となり、生涯
にわたって入退院を繰り返しながら創作活動に励んでいたということだ。残
された僅かな体力を使って作られた様々な小物・人形の類は、「手作り」と
いう言葉をそのまま形にしたような、細やかで動きに富んだ表情に満ちてい
る。幸せそうなウサギのお雛様、飛び出す絵本の登場人物のような七福神、
最初期の作品と言われるドールハウス(頭の中にある理想宮を具現化したよ
うだ)。それらは皆、細かい部分にこそ濃密な愛情と時間がかけられている
ことがわかる繊細極まりない品物で、味わい尽くすのに長い長い時間をかけ
なければならない「反・大量消費財」の見本のようなものばかりである。社
会生活からはみ出してしまった自分を回復するために−こういう言い方は嫌
いなのだが彼女の作品に対しては正直にそう思う−自分の嗜好する「かわい
いもの」という概念を信仰の対象のように捕らえ、神の似姿として、金太郎
の紙細工やお団子のオブジェなどを作り続けた、そのような印象を持たされ
た。
もちろん、横谷福子の作品に彼女が彼女の人生に感じていたであろうよう
な悲壮感などは微塵もない。鑑賞者は純粋に楽しめばよいだけだ。その作品
を見ながら横谷福子という人も、下手に生活の自立・社会人としての自立な
どというお題目に頭を悩ませず、好きなことを当座続ける手立てだけ持って
人生を楽しむことだけを考えればよかったのに、と思わざるを得ない。「自
立」なんていうのは、「生産」中心型社会が押し付けてくる妄想に過ぎない
よ。君が信じる「かわいいもの」という神様の教えてくれるものだけを大事
にして生きていけば良かったんだよ。君が他人と真の「社会的関係」を結び
たかったら、社会からはみ出さないようにするのでなく、はみ出してしまっ
た部分を突き出すようにして堂々とするのが良かったんだよ、などと言いた
い気分になるが、本人を知らないぼくとしては口を慎むしかないところ。
この展覧会で、横谷作品を撮影した小林孝子の精度の高い写真作品のこと
を忘れてはならない(忘れてはならないどころではない)。小林孝子はポラ
ロイド写真を中心に創作活動を続けてきた俊英である。ぼくは今まで彼女の
個展を3回見ているが、遊園地や自室のお気に入りグッズなどを対象に「か
わいいもの」を渇望する自分の心の情動を追求しており、見るたびに強い刺
激を受けた。今回の作品群も、裸眼では見えない横谷福子の工芸品に宿った
「かわいいもの」という神の表情を捉え切っている。小林孝子自身が、身も
心も横谷ワールドの一員になりきっているようだ(特に狐の人形のこちらを
向く視線)。
横谷福子と違って、ゴハンをパクパク食べる健康と自分を他人に見せつけ
るという点でずぶとい神経を持つであろうと思われる(?)この写真家が、
横谷福子の遺志を継いで「かわいいもの」教の教えを広めていかれることを
心より願う次第である。
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■ 中国古典で浅学菲才が直る?/掩耳(えんじ)
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第六回 部下を生かすテクノロジー
極端な厳罰主義という、ある意味最も効率的な手を使わずに、部下を心服さ
せるにはどうしたら良いか。中国3千年きっての名皇帝・太宗(たいそう)
と名将・李靖(りせい)の問答というかたちをとった(偽書らしいですが)
『李衛公問対』には次のようにあります。
・まず愛情をもって臨み刑罰は後で示す、この原則を崩してはなりません。
これを逆にして、まず厳しい刑罰をもって臨んだのでは、後からいかに愛情
をそそいでも効果はありますまい。
また、『孫子』にはこうもあります。
・兵士がなついていないのに、罰則ばかり適用したのでは、兵士は心服しな
い。逆に、すっかりなついているからといって過失を罰しなければ、これま
た使いこなせない。
つまり、部下に愛情を示して、まず信頼関係を作ってしまえ、ということで
す。しかしこれには疑問を感じる方もいるでしょう。心理の入門書でよくあ
る例ですが、初対面の相手に、そのやさしさなどで好感を持った場合、次に
厳しさやイヤな所を見せられると、反動で好感度がグっと下がる。逆もまた
しかり。これでは逆効果の面が生じないかと・・・
実は、これには時代背景が絡みます。古代の中国では、戦争にプロの兵士で
はなく農民が駆り出される場合がほとんどで、逃亡兵が非常に多かったので
す。今で言えば、定着率の極端に悪い会社のようなものでしょうか。
そこでとる手は2つ。厳罰主義に徹し、逃亡兵を怖れによって防ぐか、まず
愛情を示して信頼感で引き止めるか――
もし現代に置きかえれば、定着率の悪い会社や業界であれば、最初に中途半
端な厳罰主義をとれば収拾がつかなくなる。まず信頼感を育む。逆であれば
最初に厳しさを示し、後でやさしくしてグっと好感度を上げる事も可能だ、
と。
兵法書には、さらに面白い、人材活用法もあって――ああ、紙幅がない。も
う一回、兵法書やります。え、古代の思想家の件は? なんのことでしょ、
むにゃむにゃむにゃ(ちゃんとやるのでお許しを)。
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■あとがき
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>最近[本]のメルマガにも感想メールをいただけることが多くなりました。
>メール下さった皆様どうもありがとうございます。やっぱり読者の方から
ご意見をいただくというのは嬉しいですよね。執筆陣もはげみになります。
>執筆陣の中には何でオレには誰もメールくれないんだ!って酒飲んで暴れ
る人もいたらしいですよ(嘘)。
>ありゃりゃ。こりゃ世のため人のために私が感想メール書くかな。
>あんたが書いてどうするんだ! 暴れたのはあんただろ?
>自分宛に書こうかなーと。いつもあとがき楽しみにしています・・・。
>やめなさい。みっともないから。
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■お詫び
前号のトピックで、『新編日本の活断層』は阪神大震災のあとの発売とありま
したが、1991年に出版されていました。内容を若干訂正して、阪神大震災
後に出し直したとのことです。お詫びして訂正いたします。
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