2000.4.5.発行 vol.29  [次は誰を「悪者」にするのかな号]

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■■  [本]のメルマガ                               2000.4.5.発行  
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■■      mailmagazine of books [次は誰を「悪者」にするのかな号]  
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■CONTENTS--------------------------------------------------------- 
★トピックス

★「美人書店員の赤裸々な日常」/あくびちゃん
→今回最終回! みなさまご支援ありがとうございました。

★「マエストロ鏡玉のメディアジャーナル」/マエストロ鏡玉
→ノック元大阪府知事と、気分は水戸黄門?の石原都知事に斬りこみます

★「一字千金の記」/グッドスピード
→SM嬢より関係が濃い? 村上龍と、誤植の仲を描き出します

★「虚実皮膜の書評」/キウ
→こっちは春樹の話題作、「神の子どもたちはみな踊る」を取り上げます
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■トピックス
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■ ジャン-リュック・ナンシーの新刊・近刊が続々と!
現代フランスを代表する哲学者Jean-Luc Nancy (1940-)の中期政治哲学にお
ける要の書『自由の経験』がついに邦訳なる。澤田直氏による翻訳で、未来
社の中核シリーズ「ポイエーシス叢書」の1冊として4月末刊行予定。原書
は88年にパリのガリレーから刊行されたもの。自由とはいかなる権利や理
念でもなく、実存の事実そのものなのだと教える。
46判300頁、本体予価3000円。
ISBN:4-624-93243-9  http://www.miraisha.co.jp

体調が思わしくないと聞くナンシーは、今年1月に2冊の新刊を立て続けに
ガリレー(Galilee)から、それぞれ別のシリーズの1冊として刊行している。

『肖像の視線』“Le Regard du portrait”ペーパーバック91頁、
125フラン、ISBN:2-7186-0531-6
『侵入者』“L'Intrus”ペーパーバック45頁、65フラン、
ISBN2-7186-0539-1

後者はごく近いうちに邦訳が刊行されそうであるらしい。なおすでに明確な
予告が出ている邦訳タイトルとして、ナンシーの主著と呼んでいい『無為の
共同体』が西谷修氏の訳で、以文社から今年いっぱいのうちには出版される
とのこと。かつて朝日出版社から85年に刊行された同氏訳による同書名の
書籍は、表題作の論文のみを出版したもの。その後86年に論文集として原
書がブルゴワ(Bourgois)から刊行され、90年に増補された後、昨年99年
の10月にはわずか5行の覚書が追加された新版が出版されている。

“La Communaute desoeuvree”ペーパーバック278頁、120フラ
ン、ISBN:2-267-00893-9

その5行の覚書の中で、ナンシーは自身の政治哲学が次の2著に継続して扱
われていることをあらためて示した。その2作とは、91年にブルゴワから
刊行された『共出現(来たるべき政治)』と96年にガリレーから刊行された
『複数の特異存在』である。

“La Comparution (Politique a venir)”ペーパーバック100頁、
60フラン[現在品切]、ISBN:2-267-01074-7
“Etre singulier pluriel”ペーパーバック211頁、175フラン、
ISBN:2-7186-0470-0

前者はナンシーとジャン-クリストフ・バイイ(Jean-ChristopheBailly)の共
著で、ナンシーの論文が『批評空間』第U期3号に大西雅一郎氏の訳で掲載さ
れている。太田出版刊182pp-212pp。そして後者は、某社で翻訳企画が進行中
と聞く。『無為の共同体』と併せ通読したい重要作である。

特異的なものと共同的なものとを根源的なパルタージュ(分割=共有)の存
在論のもとに架橋するナンシーの独特な思考は、すぐれて今日的な意義を有
するコミュニズムの再定義であり、ハイデガー/ナチズムの紐帯を解きほぐ
す認識論的実践なのである。

上記に掲げたナンシーの原書の多くを集めた棚がまもなく青山ブックセンタ
ー青山本店の人文書コーナーにて既刊の邦訳書とともに展開予定だそうだ。
こまめに立ち寄ってみたい。
[記:2000年4月3日/文責=五月]

■雑誌「選択」の日販特集と、その後
会員制雑誌「選択」(一般小売はなし)が大手取次ぎ日販を特集し、話題
を呼びました。元日販社長と元長銀頭取の杉浦兄弟による無謀な拡大計画、
借入金353億という日販カルチャーリースの実態など、今までタブーと
も言える(噂の真相さえ書けないと言われていた)取次ぎの病巣に切りこ
んでいます。しかしこれ、一般小売がないため、業界内ではコピーやファ
ックスが行き交った模様です。もし、今から読みたい方は、人脈を駆使し
ていくしか方法はないようです。まあ、某ライヴァルの取次ぎに言えばす
ぐくれるという根も葉もない噂もありますが・・あ、[本]のメルマガには
ありませんのであしからず。
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■「美人書店員の赤裸々な日常」/あくびちゃん
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お世話になりました。

ちょうど1年ぐらい前に、立て続けに『だめ!』(河出書房新社)と『だめ
連宣言!』(作品社)が出版されて、その後何度かメディアで「だめ連」の
メンバーを見かけたのだが、それから音沙汰がないなあと思っていたら、
『木野評論31  頑張らない派宣言』(青幻社)での対談を発見した。
読んで字のごとくの特集で、そのスタイルは『批評空間』『文藝』『現代思
想』あたりの雑誌を足して、8で割って、ネクターを混ぜたという感じでしょ
うか。巻頭座談会からして「脱力の底ヂカラをめぐって」。脱力するにもや
っぱりチカラがいるのかぁ、と脱力させられました。
「だめ」とか「ネガティブ」という言葉を辞書から排除している私にとって
は、実際のところ、この特集にはあまり関心がない。だいたい、自ら駄目だ
って名乗れるのは、「私ってちょっと鬱気味なの」とのたまうモラトリアム
の中のお気楽女子(男子)学生とたいして変わらないんじゃないか。
とはいっても、世の中にはうまく生きて行けない人もいる。そうした人々の
話に耳を傾けることも必要かなあ、と冷やかし半分で買ってみた。

実は本書を取り上げたのはもう一つ意味がある。
ダンボールに詰まった新刊の箱をベリっとあけて、この本を目にしたときに
真っ先に感じたのは「一体どこに置こう?」という問いだ。
確か版元の営業マンは新刊案内のときに「現代事情のご担当の方」とおっし
ゃっていたし、それはそれで問題はないだろう。
ライターのメンツも井上章一、香山リカ、赤瀬川原平、島田裕巳等々、名前
の知れた人間ばかりだ。新刊台においておけば、ある程度の数は売れるだろ
う。
しかし、新刊でなくなったときに、一体どうすれば良いのだろうか?
自己啓発?精神世界?それともサブカルチャーの棚にぶち込むのか?
	
自分の見る目の無さを棚に上げるつもりはないが、最近こういった書籍が多
くないだろうか?一過性のブームにすらもならない内容。強烈なインパクト
も、類書もないジャンル。
出しっぱなしの本。
本書に意味がないというのではない。ただ、新しい社会現象としての「頑張
らない」を取り上げて、宣言するのなら、その後は一体どうなるんだろうか
。書店サイドからも版元サイドからも、何のケアもされない本達。産みっ放
しの本はこのまま1人ですくすく育つのか。それともそのまま死に絶えるんだ
ろうか。

かれこれ4年半、現場に立ち、こういった状況にどう対処したら良いのか、
いろいろ考えたが、いまだもって答えが出てこない。書店員とは罪深い職業
だとつくづく思う。
えらく懐古調の口振りになってしまいましたが、あくびは3月いっぱいをもっ
て、現職を退いたため、メルマガも一応これで終止符を打たせていただきま
す。
編集長に叱咤激励されながらも、こうして書き続けたことは惰性になりがち
な毎日の中で、自分の仕事を見直す良いきっかけになりました。
短い間でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。
今後も「本のメルマガ」へのご支援をよろしくお願いいたします。
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■「マエストロ鏡玉のメディアジャーナル」/マエストロ鏡玉
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第11回 都市の論理、ノックから石原へ

  好評の(?)「現代日本浪漫派批判序説」は今回お休みでーす。どうも
ひとつのテーマをつきつめる体力と知力が私にはないんです。「根気がな
い」と小学校の通信簿には必ず書かれていました。三つ子の魂百までとよ
くいったもので。

 さーて、出版社が毎月発行している定期刊行物というものがありまして、
出版社の顔になったりしています。いちおう定価なんてのがついています
が、郵送料にもならないお金で希望者に送ってくれますし、書店で無料で
配布しているケースもあるようです。
 今回とりあげるのは草思社さんの出している「草思」。1年間12ヶ月
分1000円で送ってくれます。安すぎ。

 その4月号に横山ノックのセクハラ事件をあつかった、「セクハラ世間
胸算用 横山ノックの正しい活用」というルポが掲載されています。
府知事として公約をきちんと破り、使途不明金の追求には涙を流して謝罪
することでうやむやにする横山ノックを「便利で」「アホな」ノックとし
て、そして好色であることを売り物にする横山ノックを「性事家」ノック
として描きつつ、それを容認・支持する大阪府民との関係で描いたルポで
す。ここで被害を受けた女性は、彼女の側をもつ人権団体と、政党的な力
学に利用された者として描かれている。マスコミの論調は「横山ノックは
いけない」であるが、地元大阪のおばちゃんたちの、「好色ノックさんが
はめられた」という発言を強調して描いているのが印象的でした。

 「被害者の女子大生は「心の傷」の代償として千百万円を一括で受け取
った。
 その内訳は猥褻行為に対して二百万円。名誉毀損八百万円。弁護士費用
百万円。ほとんどは「大騒ぎ」によって社会的に受けた傷に対して支払わ
れたものである。
 「そんなごっつい儲かるなら、あたしもケツさわらしたる」
 大阪のおばさんは怒る。
 「大阪人のやることには必ず損得勘定が入ります。人情味のあつい土地
といわれますが、利害があえば「人情」になるだけのことですわ」
「人権」「セクハラ」もまたかくの如し。
 結局大損したのは、再びの選挙費用で27億円もの税金を使われた「大
阪府民」だが、特に問題にならない。
 完全に白けきった今回の選挙で、当選した太田房江の得票は有権者の二
〇%、ほとんどの人が支持していない府知事が誕生した」
(同ルポより引用)
 
 こんな大阪のおばさんが本当にいるのかという疑問はさておき、このお
ばちゃんの損得勘定は、100円ショップに買い物に行くのに、往復ハイ
ヤーを使って、昼食にフルコースを食べるようなものだろう。そして誰が
やっても同じなら、便利なアホを知事にしてしまうというシニカルな態度
は、世界の邪悪なるものに対する批判が、ついにはその邪悪なるものにみ
ずからが加わることを結局は正当化しているのである。「ノックさん、運
が悪かった」と発言することは、彼の醜悪で不快な行為に荷担しているの
である。「人権」「セクハラ」をあなどるものは、それに泣く。シニカル
な態度の行先に幸福はないと思う(選挙運動をなにもせず、選挙期間中に
都政の勉強をするといった人間を当選させてしまった、東京都民を念頭に
おいての発言です。都民が次に選んだのが石原さん。なんで石原慎太郎を
そんなに警戒するのかと申しますと、何たって若き頃、あの中曽根を讃え
る詩をつくったような人物だから。古い話持ち出すようでわるいですが、
30過ぎたら人間ってそうそう変わんないんだから。銀行のみへの課税な
んて「悪者」にはなにしてもいいという論理でしょ。次は誰を「悪者」に
するのかな)。
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■「一字千金の記」/グッドスピード
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「龍をとりまく誤植の魔」

 以前、このコーナーで作家の村上龍が著した本の誤植などについて取り上
げたが、またも、龍は誤植の魔にとりつかれたようだ。
 3月20日に講談社から発売された新作の小説『共生虫』は、単行本の刊
行のまえに、いわゆるオン・デマンド出版で出版された(部数限定だが)。
オン・デマンド出版とは、簡単にいうと、文字や画像などのデジタルデータ
をつかって、オン・デマンド専用の印刷機(これはコピー機の巨大なものと
いってもいいだろう)で印刷(コピー)・製本して本にする、いま注目され
ている出版手法である。これは、従来のオフセット印刷とは違い、基本的に
オン・デマンド(注文)なので、大量の在庫を抱えることなく、また、少部
数の出版に向いた手法である。
 日本でも、著作権や流通の問題などはあるものの、ここ半年の間にオン・
デマンド出版は現実的になってきている。また、出版社や取次だけでなく、
作家自身がインターネット上で作品を発表したり、デジタルコンテンツとし
て作品を販売したり、オン・デマンド出版で本を出すケースがでてきた。
村上龍もその一人である。
 ところが、その村上龍のオン・デマンド本、私は購入することができなか
ったが、事情をよく知る人に聞いてみると、誤植が多く、結果として「失敗
」に終ったそうなのだ。というのは、作品(原稿)そのものは作家の村上龍
が著したものだが、編集を担当した人間は、オン・デマンド本と講談社の単
行本とでは違う。そのために、オン・デマンド本の方は、編集ミスがそのま
ま出てしまった形になったのだ。講談社の単行本より前に出すということで
、時間的余裕もなかったかもしれないが、それにしてもお粗末な話である。
 それに部数限定というのも、オン・デマンドの精神に反している。さらに
村上龍ほどの人気作家であれば、コストの問題からすれば、あえてオン・デ
マンド出版で出す必要はないだろう。オフセット印刷の本で充分なは
ずである。
 私はこの作家に興味があったので、村上龍のオン・デマンド本の情報は知
っていたが、一般的にそれほど話題にならなかったのではないだろうか。
 もちろん、今回の場合は、ちゃんと講談社から単行本として出版されると
いうことがあったので、オン・デマンド本を入手できなくでも、ましてや「
失敗」しても、読者にとってはまったく関係ないのだが、編集・校正の問題
としては考えさせられる一つのエピソードである。
 ところで、村上龍は、『共生虫』のほかに、短編をオン・デマンド本とし
て出している。こちらのほうは、部数限定ではないので購入することができ
る。
●村上龍のオン・デマンドのサイト「セルフパブリッシング/向現」
URL=http://www.bookpark.ne.jp/cogen/
●『共生虫』関連サイト
URL=http://www.kyoseichu.com/

 さて、ウェブサイトといえば、「誤植」に関するサイトも世の中にはたく
さんあるのを知った。そのなかで、単純に笑えて楽しめるサイトをご紹介し
よう。
 まずは「思い出の誤植」というサイト。「あなたの心をぐったりさせる脱
力
の誤植集」とあるように、「活字版VOW」の精神に富んだサイトだ。現在
16のアイテムが紹介されている。ぜひ一度ご覧あれ。
●「思い出の誤植」
URL=http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Gaien/7105/goshokuhome.html

 もう一つは、「誤植おやつ」。魅惑的なサイトの名前だが、海外で売られ
ている日本人向け(?)のお菓子のパッケージにある微笑ましい誤植(の
ようなもの)をパッケージの写真入でいま5アイテム紹介している。これも
要チェック。
●「誤植おやつ」
URL=http://www2.freeweb.ne.jp/~ha7bebu/www2.freeweb.ne.jp/akigo
oyatsu.htm
 
 上記の二つのサイトで紹介されている「誤植」のネタは、このコーナーで
紹介しているものよりとても面白いので、なんとも複雑な心境だが、それら
に負けじとがんばろうと思うグッドスピードであります。
(第8回・了)

●活字版「VOW」のネタを募集しています。本や雑誌などで見つけた面白い
「誤植(誤字)」がありましたら下記のアドレスまでお知らせ下さい
(謝礼はでません)。
E-mail:ryuz@cf6.so-net.ne.jp(グッドスピード)
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■「虚実皮膜の書評」/キウ
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「神の子どもたちはみな踊る」  村上春樹  新潮社  

 村上春樹の新作。去年(99)「新潮」に掲載された連作短編「地震のあと
で」をまとめ、書き下ろしを一編加えて刊行された。

 この作品集は二つの面から語ることができるだろう。ひとつは短編小説作
家としての村上春樹の充実ぶりと、もうひとつは阪神大震災を巡って。

 「アンダーグラウンド」(講談社97.3)「約束された場所で」(文藝春秋
98.11)を通して、地下鉄サリン事件の被害者とオウム信者にインタビュー
を行うという、それまでの作品とは大きく方向を変える仕事の取り組んだあ
とで、小説家としての村上春樹はどこへ行ってしまうのだろうという関心が
あった。「アンダーグラウンド」を刊行した頃、作者本人がしきりに言って
いたデタッチメントからコミットメントへの転換ということから考えると、
これまでの「<かかわりのなさ>の心地よさ」みたいなものが売りでもあった
作風は、どういう変化を遂げるのだろう。

 「スプートニックの恋人」(講談社99.4)が久しぶりの長編として刊行さ
れたときには首をひねった。これまでとあまり変わらない。むしろお里帰り
したような印象を受けた。「ノルウェイの森」のレズビアン編、といったら
言い過ぎだろうか。かかわりたくても、うまくかかわれない、その哀愁。あ
の一連のノンフィクションの仕事はなんだったのだろう。

 「神の子どもたちはみな踊る」において、阪神の震災が直接に舞台として
登場することはない。ただどの短編の登場人物たちの心にも、その震災の陰
が投影されている。どの作品も短編としてとても出来がよいのだが、一編取
り上げてみる。

 「アイロンのある風景」。場所は茨城の海岸の町。順子は高校三年の時に
学校も家庭も嫌になり、所沢の家を出て、この町に住み着く。ふたつ年上の
啓介と同棲している。三宅さんという、絵描きで関西弁をしゃべる中年の男
と知り合いになる。三宅さんは夜中に海岸で焚き火をするのが趣味で、順子
もその焚き火につきあうようになっていた。
 ある焚き火の夜、阪神での震災の話が出、三宅さんの家族が震災地に住ん
でいることを知る。三宅さんもまた妻と子どもを捨ててこの町に来ているの
だった。
 二人は焚き火を見ながら死の話をする。三宅さんは死の予感にさいなまれ
て生きている。ジャック・ロンドンの死について語る。彼は自分が海に落ち
て溺死すると考えて生きていた。しかし実際はモルヒネを飲んで自殺した。

 「しかしある意味では、彼は間違ってなかった。ジャック・ロンドンは真
 っ暗な夜の海で、ひとりぼっちで溺れて死んだ。アルコール中毒になり、
 絶望を身体の芯までしみこませて、もがきながら死んでいった。予感とい
 うのはな、ある場合には一種の身代わりなんや。ある場合にはな、その差
 し替えは現実をはるかに越えて生々しいものなんや。それが予感という行
 為のいちばん怖いところなんや。そういうの、わかるか?」(P62)

 順子にはよく分からない。ただ、自分がからっぽなのだと感じる。そのか
らっぽの闇の中に死ということがすうっと入ってくる。

 村上春樹がコミットメントということを考えるときに、想像力の介在とい
うことが大きく浮き上がってくる。現実と、現実が心に投げかけるイメージ
と。それは受け手において、ともどもに大きな事件であるのだ。阪神の震災
を、多くの人間は現実の体験としては持っていない。しかしその現実が投げ
かけてくるイメージを、多くの人間が想像力を介在させて受け止める。それ
はやはりひとつのコミットメントなのだ。地下鉄サリン事件しかり、またオ
ウム真理教しかり、なのだ。そこから行動もまた生まれる。

 「うまくかかわれないことの悲哀」というナルシスティックな感傷ではな
く、否応なしにかかわってしまうこと、そういう事態に対して、村上春樹は
向かいあおうとしているのではないだろうか。

 もうひとつ、レイモンド・カーヴァーの短編を翻訳する仕事を経て、村上
春樹の短編小説作家としての技量は、かなり高いものとなっている。前回の
短編集「レキシントンの幽霊」(文藝春秋96.11)も表題作などすぐれてい
た。寓話になりがちだった作風が、今回の作品集ではしかりとしたリアリズ
ムに基づいた、人生の一断片を切り取って提示してくるといった、むしろ、
古風といってもいいような作品に仕上がっているものが多い。もちろん寓話
としての短編もこの作家の持ち味ではあるし、今作品集にも一編その傾向の
作品が収録されてはいるが、やはり味わい深いのは他の一見古風な諸作品だ
ろう。思えば「若い読者のための短編小説案内」(文藝春秋97.10)といっ
た優れた仕事も近年のことであり、このジャンルでの活躍も楽しみだ。

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■あとがき
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>今回であくびちゃんが最後です。ご声援ありがとうございました。
>また、どうして終わっちゃうんですか?
>極秘です(笑)
>ふーん、あの毒舌とぶりっこのマゼコゼ具合がよかったんですけどね・・
>後任は、現在鋭意打診中ですので、お楽しみに。
>そうそう、今回から広告が入っている(ハズ)ですよね。いかがでしょ
うか? 金なんか稼いでどうするつもりですか?
>いや、もちろん百万長者狙いで(笑い)。推定月収二千円なんですよね
・・・はあ、取材費だけでもアカが出そう
>広告なんか、やめとけ、とかご意見ございましたら、どしどしメール下
さい。抽選で1名さまに現収の1ヶ月分をプレゼント(うそ)
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