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2000.6.15.発行 vol.72 [夏の肉まん 号]
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■■ [本]のメルマガ 2001.6.15.発行
■■ vol.72
■■ mailmagazine of books [夏の肉まん 号]
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■CONTENTS----------------------------------------------------------
★トピックス
★「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)
→なんと、今回はチェコより原稿が送られてきました!
★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→プロのトランペッターである筆者が語る、ミーイズムを先取りした音楽
です
★「中国古典で浅学菲才が直る?」/掩耳(えんじ)
→中国古典を図式化してみまーす。
★「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
→しばらく休載になりまーす。
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■トピックス
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■みすず書房さんが、本の重版を迷っているという話
みすず書房さんが、『朝永振一郎著作集 全12巻』を復刊すべきかどうか
迷っているそうです。予価、四万円で500から600部売れれば何とか採
算が取れるそうなんですが、その見込みがわからない、どうしようか……と
悩んでいるのです。
例えばネットで予約募って一定数行けば重版します、という活動をやってい
るところもあるんですが、人文系はのきなみ厳しく、今回の全集だったらそ
ういう事前予約が数十も行けば御の字だろう、とのこと。ムズカシイですね。
確かに、こういう本はぜひとも流通して欲しい(日本で二人めのノーベル賞
受賞者ですぜ)し、でも、それで出版社さんが赤字被るのも避けたい……
よろしければ皆様のご意見をお聞かせ下さい。特に、オレは予約するし、知
り合いで百人は予約する奴がいるぜ、という方メールお待ちしております
(そんな都合の良い話はないか≪笑≫)
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■「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁
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全点報告 この店で買った本
第14回 旅に出るために本を買う
五月末からチェコに旅行することになった。なぜチェコなのか、と訊かれる
と、ちょっと困る。べつにこの国についての知識があるワケでもなく、ただ
なんとなく、オモシロイことにブツかりそうな気がしたのだ(この前書きは
プラハで書いているのだが、その予感は見事に的中した……その詳細は次
回)。旅行する土地について、まったく白紙で臨むのもイイけど、ぼくの場
合、何冊かの本を読んだり、その国に関する情報をウェブで検索したりして、
イイカゲンな前知識をなるべくたくさん蓄えておく。初めての場所を歩くの
に役立つだけでなく、その思い込みがしばしば裏切られる(いい方にも悪い
方にも)のが楽しいのだ。だから、今回のリストには、どことなくチェコっ
ぽさが漂っているかもしれない。
五月一日
◎ブックマート市ヶ谷
永瀬唯『腕時計の誕生』廣済堂出版(廣済堂ライブラリー)、1000円+税
(以下同じ)
【ひとこと】今日、市谷に「文教堂書店」の支店がオープンした。店は百坪
ぐらいあってデカイし、よく客も入っているが、フェア台も平積みも見事に
ベストセラーばっかりで、買いたい本がまるっきり見つからない。CDも売っ
ているのはアリガタイけれど(市谷にはレコード会社はいくつもあるので、
ナゼかこれまでレコード屋が一軒もなかった)。欲求不満のまま、道を挟ん
で反対側にあるブックマート市ヶ谷を覗くと、昼頃にはいつも満員のこの店
がガラガラ。判官びいきではないけど、こちらの方が本を探しやすい。五月
末に放映したフジテレビ深夜のドキュメンタリー(「本のこと」)では、こ
の両店を取材していたが、「大きくてキレイな書店」を望むヒトの方があた
りまえみたいなとらえ方だった。
◎三省堂書店(神保町本店)
『トーマスクック ヨーロッパ鉄道時刻表』ダイヤモンド社、2000円
五月二日
◎ブックスぱぱら(西巣鴨) http://plaza15.mbn.or.jp/~papara/
川成洋編『世界の古書店3』丸善ライブラリー、680円
石原まこちん『THE3名様』第1、2巻、小学館、457円
『東京人』6月号、857円
【ひとこと】友人が勤めている(というか実家が経営している)本屋さんを
のぞいてみる。西巣鴨駅ビルの二階にある。べつに知り合いだからホメるの
ではないが、さほど広くない店内なのに、あるテーマの本を数冊並べて平積
みするなどの工夫が凝らされていて、使いやすい。ただし、路上から店を見
上げると、窓を本棚の裏側がふさいでいて、営業してないように見えてしま
う。ちょっと損してるかな(ってエラそうに、営業コンサルタントか)。
五月四日
◎文泉堂(本郷)
北杜夫『マンボウ遺言状』新潮社、1000円
五月五日
◎神奈川近代文学館(横浜)
神奈川文学振興会編『文学者たちの神奈川 神奈川近代文学年表』明治編、
700円、大正・昭和前期編、1300円
五月六日
◎ブリジストン美術館(京橋)
『古賀春江・創作の原点 作品と資料でさぐる』図録、1000円
『小出楢重の自画像』図録、600円
◎八重洲ブックセンター(東京駅本店)
北杜夫『マンボウ愛妻記』講談社、1500円
北杜夫『マンボウ夢草紙』実業之日本社社、1300円
カレル・チャペック『未来からの手紙』平凡社ライブラリー、971円
五月七日
◎博山房書店(本駒込)
北杜夫『母の影』新潮文庫、400円
北杜夫『マンボウ氏の暴言とたわごと』新潮文庫、438円
◎東武ブックス(日暮里店)
北杜夫『どくとるマンボウ青春記』新潮文庫、514円
北杜夫『孫ニモ負ケズ』新潮文庫、362円
【ひとこと】北杜夫は中学生のときに愛読していた作家だが、最近は独特の
ボケぶり(だって同じハナシばっかり書いてるんだもん)に磨きがかかって
きた。新旧取り混ぜて、読んでみたくなったので、近所の本屋を回ってみる。
五月八日
◎アマゾン・ジャパン(オンライン書店)
『KAREL TEIGE 1900-1951 L'ENFANT TERRIBLE OF THE CZECH MODERNIST
AVANT-GARDE』THE MIT PRESS(イギリス)、5826円
【ひとこと】カレル・タイゲは、チェコのアバンギャルド芸術を先導したタ
イポグラファー。この作品集、とにかくデカい。
五月九日
◎三省堂書店(神保町本店)
杉藤靖美『浪花のラスト・ショー 女映画館主(こやぬし)奮戦一代』恒文
社21、1600円
『映画論叢』第1号、800円
◎書肆アクセス
『下北沢カタログ』フリースタイル、980円
『本の雑誌』6月号、505円
『おまめ』春の豆まき61粒め号、300円
山下洋輔トリオ『April Fool キャシアス・クレイの死ぬ日』貞練結社(CD)
、2700円
【ひとこと】この店には週に一度はかならず寄っているし、狭い店内なので
だいたいどんな本が置いてあるかは把握しているつもりなのだが、それでも
月に何点かは「え? こんなのあったっけ」というモノが見つかるのがフシ
ギ。CD『April Fool キャシアス・クレイの死ぬ日』は、戦後最大の「呼び
屋」と云われる康芳夫がプロデュースしたモハメド・アリ対マック・フォス
ターの試合の実況(?)の合間に、山下トリオの演奏が入るという妙な構成。
山下の文章でこういうレコードがあることは知っていたが、聴くのは初めて
だ。『おまめ』は、大阪のミニコミ。ホームページ
(http://homepage1.nifty.com/omame/)もイイぞ。
五月十日
◎ブックマート市ヶ谷
『噂の真相』6月号、448円
◎紀伊國屋書店(新宿本店)
伊藤昭久『チリ交列伝 まいどおなじみチリ紙交換の物語』論創社、1500円
五月十一日
◎三百人劇場(千石)
『沢島忠全仕事 ボンゆっくり落ちやいね』ワイズ出版、3800円
【ひとこと】川島雄三特集に続き、東映時代劇をモダンにした監督・沢島忠
の特集に通う。このインタビュー本は書店よりも早くこの劇場で手に入った。
ワイズ出版って、昔の映画の特集上映があるたびに本を出してるけど、書店
でよりも映画館での方が多く売れてるんじゃないか?
五月十三日
◎bk1
オタ・パヴェル『美しい鹿の死』紀伊國屋書店、1600円
須田一政写真集『紅い花』ワイズ出版、3500円
五月十五日
◎パルコ・ブックセンター(渋谷店)
加藤豊『マッチレッテル万華鏡 明治・大正・昭和の登録商標燐票』白石書
店、1886円
『絵本のためのBOOKEND』プレ創刊号、1400円
【ひとこと】加藤豊さんは去年知り合いになったマッチラベル・コレクター。
二十年近い蒐集をいかして、ビジュアルな本をつくりあげた。売れるとイイ
なァ。ぼくもべつの視点からのマッチラベル本を書きつつあるのだが、さて、
いつ書店に並ぶことか。
五月十六日
◎書泉グランデ
大村彦次郎『文壇挽歌物語』筑摩書房、2900円
◎岩波ブックセンター
『立原道造』(『国文学解釈と鑑賞』別冊)至文堂、2857円
大塚康生『作画汗まみれ 増補改訂版』徳間書店、1900円
『日本出版史料』6、日本エディタースクール出版部、1500円
五月十七日
◎早稲田大学會津八一記念博物館
『占領下の子ども文化1945-1949 メリーランド大学所蔵プランゲ文庫「村
上コレクション」に探る』図録、3500円
◎bk1
青木富夫『子役になってはみたけれど 小説突貫小僧一代記』都市出版、
1800円
五月十九日
◎bk1
たかさきももこ『白衣でポン』第4巻、857円
◎廣文館書店(神保町)
『サイゾー』6月号、549円
五月二十二日
◎往来堂書店
丸田祥三『鉄道廃墟 棄景−1971』JTB、1700円
ポール・ジョンソン『ユダヤ人の歴史』下巻、徳間書店、2200円
五月二十三日
◎bk1
カレル・チャペック『ひとつのポケットから出た話』晶文社、1800円
カレル・チャペック『長い長いお医者さんの話』岩波少年文庫、720円
カレル・チャペック『山椒魚戦争』ハヤカワ文庫、860円
五月二十四日
◎書泉グランデ
天藤真推理小説全集15『雲の中の証人』創元推理文庫、820円
五月二十五日
◎芝公園プールシアター
黒テント公演パンフレット『メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダ
イス』500円
五月二十七日
◎高岡書店
ジョージ秋山『告白』狩猟社(発行)、青林堂(発売)、1800円
福山庸治『17 じゅうなな』第1巻、1143円
◎東京堂書店
『荒俣宏の「イーベイ」お宝コレクション術』平凡社、1300円
赤瀬川原平『地球に向けてアクセルを踏む』誠文堂新光社、1600円
細馬宏通『浅草十二階 塔の眺めと〈近代〉のまなざし』青土社、2400円
岡本太郎『太郎に訊け! 岡本太郎流爆発人生相談』青林工藝舎、1100円
五月二十八日
◎bk1
森高夕次(作)・あきやまひでき(画)『おさなづま』双葉社、第8巻、
552円
◎高円寺文庫センター
鈴木惣一郎『モンドくん日記』アスペクト、1600円
別冊太陽『発禁本2 地下本の世界』平凡社、2600円
『タルワキ』第3巻、垂脇書店、450円
【ひとこと】鈴木惣一郎は、細野晴臣やあがた森魚にも信頼される腕こきの
ミュージシャン。この本を買うとアンビエントな曲が収録されたCDを一緒に
くれた。本のどこにも書いてないので、配布する書店を限定しているのかも
しれない。こういうのはウレシイね。
五月二十九日
◎夢幻堂(オンライン) http://www.joker-web.co.jp/
『幻燈』Vol.3(特集 つげ忠男・うらたじゅん)、北冬書房、1800円
【ひとこと】林静一、鈴木翁二、湊谷夢吉らの漫画を出してきた北冬書房の、
雑誌形式の単行本。それがつげ忠男のサイト「つげ忠男劇場」で予約すると、
つげ忠男のサインおよび表紙絵のカラープリントが一枚添付されてきた。夢
幻堂はこのサイトを制作し、つげ忠男のサイン入り単行本を販売している。
◎ジュンク堂書店(池袋店)
『気刊 何の雑誌ストロング』第3号、800円×3冊
『武井武雄 思い出の名作絵本』河出書房新社、1600円
【ひとこと】大増床から三カ月が経過した池袋ジュンクだが、一階のレジ一
本化については客もそれなりに慣れてきたようで、買い物カゴを持って、店
内を歩く姿が見られる(エスカレーターに乗ってるときに、ヒトからカゴの
なかを覗かれるようで、ちょっとイヤだけど)。ただ、広くなったワリには
あまり欲しい本にブツからない、というのが、いまのぼくの印象。ひとつに
は、コレだけの広さなのに、新刊書コーナーやフェアの割合があまりにも少
なすぎる。棚差しの本だけを見て歩くというのは、単調でけっこうツライの
だ。セレクトされた新刊や魅力的なフェアで、一発気持ちを引きつけておい
て、あとはじっくり棚を見させる、というのは果たしてできないものだろう
か。
五月三十日
◎三省堂書店(神保町本店)
「教科書に真実と自由を」連絡会編『徹底批判「国民の歴史」』大月書店、
2000円
【ひとこと】明日、ソウルで会うヒトにこの本を買ってきてくれと頼まれた
ので、出発前の忙しさを縫って買いに行く。お茶の水・丸善にはあるかなと
思って行ったのだが、なかった。悪いけど、最近のぼくにとっては、この店
に行くメリットがホトンド感じられないなァ。
◎bk1
長谷川七郎『ロシア=ソビエトあかゲット』皓星社、1000円
五月三十一日
◎流水書房(成田空港店)
ランキン・デイヴィス『デッド・リミット』文春文庫、790円
カズオ・イシグロ『日の名残り』ハヤカワepi文庫、720円
【ひとこと】さて、出発。まずはソウルに向かう。前日に旅行に持っていく
本を選んでカバンに詰めたのに、空港まで来たらちょっと手持ちが少ないよ
うに思えてくる。搭乗前に、比較的読みやすそうな本を買う。結果的に、
『デッド・リミット』はソウルからフランクフルトへの十四時間を楽しくし
てくれたが、『日の名残り』はプラハ最終日までページも開かず。やっぱり
旅にはミステリがよろしいようで。
今月の購入本 66冊(一店での冊数は少ないけど、毎日よく買いました)
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■「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
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心打たれる絵空事−大貫妙子の音楽
先日、駅前のレコード屋で大貫妙子のアルバム「ensemble」を買った。彼
女の作品は出れば必ず購入することにしているのだが、この作品集はたまた
ま買いそびれていたものだ。部屋に帰って早速プレイヤーにかける。たちま
ち清潔な音の風に包まれて、うっとりする。大貫妙子のアルバムの一曲目は
いつでも印象的な歌が選ばれているが、「ensemble」の「風花」は特にそう
だ。坂本龍一の、雅楽の響きを意識したと思われる現代音楽風のすばらしい
アレンジに支えられ、透明感溢れる、としか言いようのない彼女の声が日本
の情緒をとつとつと綴っていく。但し、この「日本の情緒」というのがかな
り独特なもので、「百舌鳴く里の旅の杖/朽ちて倒れた道しるべ」というよ
うな純日本的な情景が、演歌調のこぶしを全くきかせることなしに、ストイ
ックな抑揚の声調とよく整理されたハーモニーによって涼しげにうたわれて
いく。徹底的に生活感を洗い流した「日本の抒情」像。それがこんなにも説
得力があるのはなぜなのだろう。
大貫妙子:1953年東京生まれのシンガー・ソングライター。小学生の時に
クラシック・ピアノを始め、中学生でフォークに目覚める。山下達郎らと関
わりあいながら73年、シュガー・ベイブを結成。75年にアルバム「ソングス」
を発表。76年にソロアルバム「グレー・スカイズ」を発表し、以後ソロ活動
に入る。97年の「東京日和」で第21回日本アカデミー賞最優秀音楽賞受賞。
彼女はジャズのハーモニーを真剣に勉強したに違いない。大貫妙子の書く
曲は、極めて洗練されたコード進行に支えられている。和声的に貧弱な演歌
やニューミュージックのような日本式POPとは大違い。無理のない、それ
でいて意外性に富んだ転調が聞いている者の心をハッとさせる。その基調は
もちろん、アントニオ・カルロス・ジョビンらのボサノヴァであろう。ボサ
ノヴァは、ジャズの影響を取り入れ、土俗的なブラジル音楽を都市的なもの
に変貌させた音楽で、1960年代に登場した。この60年代周辺の、ジャズ、ラ
テン、シャンソンなどの和声を重視した音楽たちをベースに、世界各国の様
々なポピュラー音楽を注意深く取り入れて自分の音楽を豊かにしている。日
本人からの共感を第一に考えるいわゆるJ・POPとは違い、ユニバーサル
な「耳」を意識しながら作られた音楽と言えるだろう。
それは彼女のリズム・セクションの選び方からもうかがえる。『PURE ACO
USTIC』では弦のアンサンブルを使い、ドラム・ベースを基調とした通常の
ポップスとは一線を画した、余韻の豊かなクラシカルな響きがすばらしい効
果を上げた。かと思うと、『ensemble』では土の匂いを感じさせるコルテス
兄弟のフラメンコ・ギターにはっとさせられる。かと思うと、『PURISSIMA』
では小編成のボサノヴァ・バンドがクールな情感を醸し出す。かと思えば、
大貫妙子チームの総監督とも言えそうな坂本龍一(大貫妙子のバックが彼の
最良の仕事ではないか?)が、電子音を駆使した繊細極まるサウンドで彼女
の声を包む。自分の歌だけでなく、歌のバックを一曲ごとにとことん考えて
いく。決して出来合いの「バック・バンド」などに任せない。全体のサウン
ドを含めて大貫妙子の歌は完成するのだ(まるでマイルス・デービスのよう
だ)。そのために、世界各地の音楽を聞きあさり、多くのミュージシャンと
出会い、意見を交換する中である普遍性に到達していこうとする姿勢がある。
しかし、そうして聞こえてくる音楽は決して雑食性のものではなく、ワン・
アンド・オンリーの彼女の歌だ。何と言ってもあの声。透明感の中に限りな
い強靭さを秘めた、清水のような声。声量や声域で人を圧倒させる性質のも
のでない、ヴィブラートを控えに控えた、正確な音程でストレートに発せら
れるあの声は、リズム・セクションをどんなミュージシャンが努めようと、
「大貫妙子」という人の存在性を過不足なく指し示す。
大貫妙子の音楽はこの「声」のための音楽だ、と言うことができるのでは
ないだろうか。「声」を成り立たせるために、和声の豊かな曲が作られ、適
材のミュージシャンが選ばれ、そして余り内容や主張はないが響きの美しい
歌詞が書かれた、と言うべきであろう。
歌詞の問題。そう、彼女の書く歌詞には内容がない。
「船は出ていく/赤い月に照らされて/穏やかな海へと/悲しい歌をつれて
あなたを虜にした カカオの大地/カカオ カカオ それはお金の成る木」
(「Cacao」より)
現地の人が歌うならともかく、泥臭さの皆無な大貫の声で歌われると、こ
の風景は全く現実感を欠いた、絵本の中のような希薄な世界であることがわ
かる。歌われている事柄と歌っている人の間に相関関係が少ない。大貫妙子
は歌われている事柄を歌っているのでなく、単に「歌を歌っている」のだ。
つまり、大貫妙子の歌は、唯一無二の自分の「声」を生かすために思い付
く全てのものを総動員した貪欲にして狡猾な面を本質として持ったものだと
言えるのではないだろうか。歌いたいものを声によって表現するのでなく、
声が歌いたいものを規定していく。声は、生活者としては何ら特別な主張を
しない歌手の純粋な感覚的欲求のみを掬い上げ、他を顧みることをしない。
絵空事の歌−彼女の歌をそう決め付けたとしても間違いではないだろう。
しかし、それは心を打つ絵空事である。高度成長期とともに訪れた物質的豊
かさが、生活にあくせくしない生活を生み、「中流階級」を生んだ。日本人
たちが生活のための生活でない、感覚の悦びための生活により大きな生活の
豊かさを見出し始めたことは何ら非難すべきものでない。自然な過程であろ
う。生活臭のある直接的なイメージより、メディアから得られる間接的なイ
メージにより本源的な親密さを覚える人たちが1953年生まれの大貫の世代あ
たりから急激に増え始めたのだと思う。そうした生活からはそれにふさわし
い音楽が生まれる。ミーイズムを掘り下げ、自己の感覚の欲求にとことん忠
実であること、周囲から遊離する生き方を怖れないこと−大貫妙子の音楽は
今のぼくたちの生活感を先取りするものであったのではと、つくづく考えて
しまうのである。
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■中国古典で浅学菲才が直る!?/掩耳
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中国の古典思想を勝手に図式化する
今まで中国古典思想をいろいろとご紹介してきましたが、今回はその総まと
めとして、全体を図式化――もちろん、僕自身の勝手な当て推量によるもの
ですが――をしてみたいと思います。
まず、すべての根本として、ものごとにはすべて二つの対極(まあ、陰と陽
みたいなものでしょうか)を極点とした波のようなリズムを描くとします。
例えば、人間の体調、運気、ものごとの習熟(絶好調とスランプ)会社や経
済の浮沈、戦争と平和、国家の盛衰……
これが易の発想になります。
戦争と平和を例に取ります。
波の上の頂点を戦争、下の頂点を完全な平和とすれば、時代が波の上の方に
向かっているとき、必要とされるのは、兵書や法家の考え方です。そこで貴
ばれるのは詭道(だましあい)であり、厳罰主義です。こんなときに、「己
の欲せざる所、人に施すなかれ」なんて言っていたら、あっという間に皆殺
しにされかねません(笑)
一方、今が波の下に向かっている場合、必要とされるのが、儒家の思想なの
かもしれません。そこで貴ばれるのは、仁(思いやり)であり、義(ものご
との踏むべき道)であるわけです。こんなとき騙し合いとか、敵はひとまず
叩き潰すとか口走っていたのでは、周りの信用を間違いなく失って、逆に生
き残れなくなってしまいます。ここはなんといっても「和をもって貴しとな
す」でなければなりません(あ、「和して同ぜず」とも言いますが)。
しかし、この波――特に上の方の騒乱と殺戮の部分、はなんとかならないの
だろうか、という思いは当然出てきます。だからこそ、兵書のほとんどは、
まず根本は仁や義であり、兵とはやむを得なく使うものだと断わっています。
リアリズムの極地のような『孫子』でさえ、戦争は根本的に国益に反しかね
ないから、やらないのがベストだし。やりなら短期決戦ですませるべし、と
いうのです。しかも、敵をなるべく傷を与えない――のちのち禍根を残さな
いのが最上とも言うわけです。なるべく早く波を下半分にもっていくのがベ
スト、という発想ですね。
つまり、波の上の部分は、小さければ小さいほど良い――しかし、それでも
現われ出てしまうときのみ兵書というノウハウを使う、という考え方を取っ
ているわけです。
余談ですが、西欧における戦争論の基本となったクラウゼビッツには、この
ような根本思想がほとんどありませんでした。テーブル引っくり返しちゃっ
た以上、敵は殲滅すべし――という考え方なのです。そして、このクラウゼ
ビッツを基調とした西欧はどろ沼の戦いの中に巻き込まれていきます。その
結果、波は上半分に極大化していきます。意趣返しの意趣返し、やられたら
やり返す……この連鎖はいったん始まればなかなか収束できません。それは
現在の中東情勢を見ても容易に理解できることです。
そして、百年たってもまだ意趣返しの戦争は続き(まあ、ナポレオン戦争か
ら第二次世界大戦までみたとしても)、クラウゼビッツはまずいのではない
か、と西欧もようやく気付きます。そして、いま西欧でも持て囃されている
のが『孫子』だったりするのです……
では、老子や荘子の思想はいずこに、ということですが? これはそんな波
なんかからは、抜け出ちゃえ、という考え方と捉えられます。
その抜け出かたは、老子が半歩だけ(生臭さプンプン)、荘子が全身(波に
とらわれないのが最高さ)、列子になると「仙人になるのも近いぜ」てな具
合になっていきます。
そして、中国古典で絶賛される「水」のような生きかたとは、このような波
に合わせ、その時々で最良の手段を臨機応変に使って生きぬくことに他なり
ません。これは、老荘はもちろん、兵家や儒家においてさえ共通する部分な
のです。
あなたの今のリズムはどこですか?
あ、一応、今回で諸子百家のご紹介はひとくぎりつけたいと思います。次回
以降、どのような内容にするかは、次回お知らせしまーす。あ、もう要らな
い? そんなーシクシク(笑)
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■あとがき
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>私、ひとつすごい不満があるんですが
>はあはあ
>なんで、この季節になると、肉まんやアンマンをコンビニで買えなくなる
のかと。
>ああ、暑くなると引っ込めちゃいますモンねー
>うう、僕は夏でも汗だらだら流しながら肉まんもピザまんもアンマンも頬
張りながら道を歩きたいんやー(笑)
>そういうやあ、昔、冬でも冷やし中華食べさせろっていう運動もありまし
たよね
>そうだそうだ、共闘して世直しやー、公平な世の中を築くんや―
>でも、それって自分で作れば良いだけなんじゃないんですか??
>うう、そんな正論あっさり言われても、シクシク(笑)
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