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2001.08.25.発行 vol.79 [完全失業率5%時代 号]
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■■ [本]のメルマガ 2001.08.25.発行
■■ vol.79
■■ mailmagazine of books [完全失業率5%時代 号]
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■CONTENTS-----------------------------------------------------------
★トピックス
→注目イベントとディープな業界情報をてんこもり。
★「脱・書店員日記」/aguni(あぐに)
→新刊の洪水にうんざり。この業界じたいがそもそも生き残れるんだろうか。
★「現代思想の最前線」/五月(ごがつ)
→美術史研究の巨人スタインバーグのライフワークに感激!
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■トピックス
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■酒井隆史『自由論』刊行記念講演会
気鋭の若手社会学者である酒井隆史氏(1965-)の第一論文集『自由論――現
在性の系譜学』が青土社より七月に刊行され、話題になっている。現代におけ
る管理社会の病弊に鋭く切り込んだ本書は、2001年の上半期でもっとも注目す
べき理論的実践の書として多くの識者によって賛辞を贈られており、酒井氏は
今後その活躍がもっとも期待される論客と目されている。氏の記念講演会が表
参道の青山ブックセンター本店で下記の通り企画された。次世代の論壇はここ
から突破される。ふるってご参加を!
『自由論』刊行記念・酒井隆史氏講演会
日時:2001年8月31日(金)19:00〜21:00
会場:青山ブックセンター本店・カルチャーサロン
入場参加費:無料(要電話予約:03-5485-5511 定員:100名)
http://www.aoyamabc.co.jp/
■ペヨトル工房、ついに在庫を最終的断裁へ
2000年4月に解散後も、多くの読者や古書店、新刊書店のサポートによって売
りつづけられたペヨトル工房の本が、この夏に区切りをつけてついに断裁され
る。主宰の今野裕一氏が、メールマガジン「au revoir! PEYOTL」21号(8月
19日配信)で明らかにした。「各アイテムを少部数残して、残り二万五千部ほ
どの在庫をすべて断裁」するという。
http://www.melma.com/mag/46/m00017046/a00000028.html
現在、いずれも個性派揃いの全国10店舗の新刊書店および古書店が、ペヨトル
工房から引き取った在庫を販売している。書店業界の仕入事情は解散前と違う。
商品確保力が中小に比べて優位にある大書店は溢れかえる新刊に溺れてか、ペ
ヨトル工房の本を仕入れる知恵も機転もなく、かえって「商品過疎」状態にあ
る小書店の中に、逆境を逆手にとって「差別化」していく店舗がある。そうし
た小書店がペヨトル工房の本を仕入れ、販売しているのだ。
http://www.thought.ne.jp/peyotl/
この興味深い現象は「取次なしには商品流通が円滑にできない」業界の依存体
質をあらわしているのだろうか。流通寡占の弊害を取次にのみ帰することはで
きないだろう。版元や書店がどこまで自助努力できるか、改革の手がかりはま
だ見つかっていない。
※『ペヨトル興亡史』もう読みましたか?
http://www.thought.ne.jp/html/adv/peyotl/index.html
■BOLジャパン「撤退」報道――推測記事の裏の真実
先ごろ発売された週刊誌「Yomiuri Weekly」2001年9月2日号(8月20日発売)
が、オンライン書店の大手BOLジャパンは近く撤退するのではないか、と報
じた。流通欄の「スクープ、ネット書店BOLが日本撤退か」と題された記事
がそれで、当誌記者の神崎公一氏がリポートしている。「関係者」からの伝聞
をもとにして書かれ、同業者および評論家のコメントを付すという定番スタイ
ルだが、記事がフォローしていない背景にBOLジャパンの本音が伺える。業
界別紙の報道によれば、BOL側は撤退説にたいして「現在そのような事実は
ない。日本市場からの撤退案はまったく出ていない。業績も当初の見込みより
上回っている」と答えているとのこと。
BOLはドイツを本拠地に、全世界へ展開しているメディア複合企業ベルテル
スマンのオンライン書店部門である。http://www.bol.com/ アマゾンに対抗
し、ヨーロッパをはじめアジアの重要拠点で各国語のサイトを立ち上げ、各国
展開に消極的だったアマゾンを凌ぐ勢力となったが、2001年5月には事業統合
を発表した。一見さらなる積極展開の宣言書だが、実はさまざまなリストラも
盛り込んでいた。http://www.jp.bol.com/ のプレスルーム「2001年5月15日
発表:ベルテルスマン、世界規模でメディア商品流通を拡充」記事を参照。
この発表では北欧4店舗のうちノルウェイ、デンマークのサイトを閉鎖し、さ
らにフランスと日本のサイトについては「提携企業との間で協議を行う」とし
ている。その後、フランスサイトは7月31日に営業を休止した(なぜかこうし
た肝心な事実を「Yomiuri Weekly」は報道していない)。
BOLジャパンの提携企業とは「角川書店」とBOL系列のオンラインCD
ショップ「CDNOWJAPAN」である。後者はすでに今月(2001年8月)
活動を休止し、BOLジャパンのサイト内の「ミュージック円ストア」もサー
ビスを終了している。「Yomiuri Weekly」記者はCDショップの閉鎖につい
ては書いているものの、角川書店の名前は一度も出していない。記事には「関
係者」の「証言」がいくつも引用されているが、これでは業界人ならずとも今
回の情報の出所を「憶測」するだろう。
BOLは現在、オランダ、スイス、スペイン、イタリア、フィンランド、ス
ウェーデンでは第一位のシェアを確保しているが、苦戦を強いられている日本
では現在正念場を迎えている。それを支援する角川書店も今年の第1四半期連
結決算で売上高がマイナス7.6%の結果となり、一方でM&Aを進めながら、
より堅調な路線を模索するものと思われる。
※超巨大企業「ベルテルスマン」って?→ http://www.bertelsmann.com/
■bk1が丸善につづいて三省堂とも業務提携
すでに丸善との業務提携を開始しているオンライン書店「bk1」が三省堂書
店とも提携することが明らかになった。「bk1」が8月23日に発表したニュー
スリリースによれば「三省堂書店の運営するショッピングサイトBook Site
Sanseido(http://www.sanseido.com/ )の一部業務委託等により、相互に
協力提携し、両サイトの書籍等の販売促進および収益向上と書籍等のネットビ
ジネスの振興を図る」ことで基本合意し、今後具体的な業務提携内容を協議し
ていく、というもの。
昨今の書店・出版業界ではこうした業務提携が相次いでいる。角川書店グルー
プが先ごろSSコミュニケーションズ(およびその子会社のキネマ旬報社)を
買収したことや、日販が大阪屋、栗田、太洋社と物流分野で業務提携(まずは
返品業務について協業化)し、来春にも新会社を設立する予定であるなど、話
題に事欠かない。こうした「業界のブロック化」は大手から波が起こり、今後
ますます盛んになるだろう。大企業も含め一部の勢力が「悲惨な落伍者」にな
りうる暗い可能性もそこにはある。
■リブロがついにHPを開設
ナショナル・チェーン(=全国展開している大書店のこと)の中でも「こだわ
り」の品揃えで知られてきたリブロ(リブロブックス、パルコブックセンター、
洋書ロゴス)のホームページが先月(2001年7月)ついに立ち上がった。異例
の最後発ともいえる開設だが、リアル店舗をもつオンライン書店の中で最大手
の紀伊國屋書店がいわば「一人勝ち」している現在、リブロはいかなる戦略で
挑むのかが注目される。かつて「人文書・芸術書」を表看板にしていた個性派
のリブロだが、近年は世情もあってか「平均的な」本屋になりつつある。読者
のニーズを知ろうとどの書店もやっきになっているかたわら、ニーズを創出す
るような強力なプレゼンテーションにはどこも消極的なだけに、リブロの個性
が再びどのように花開くのか見守りたい。http://www.libro.jp/index.html
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■「脱・書店員日記」/aguni(あぐに)
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第26回 出版さん、最近どうよ?
ここのところ、普通のリアル書店に行かない生活が続いている。仕事柄、本
はよく目にする。本はネット上の書店で情報を得、気が向けばそのまま買って
いる。
雑誌は駅の売店かコンビニで買う。ニュースは新聞かラジオ・テレビで手に
入れるし、インターネットをしていれば、MLやニュースサイトで新しい情報
は手に入れられる。
本が欲しいときにはブックオフへ行く。それは、家からイチバン近い書店が
ブックオフだから、だったりする。私の場合、前に欲しくても買えなかったり
した本がすぐに品切重版未定になったりなんかして、もう諦めていたものに出
会える、という楽しみを探しに行く場所でもある。
それで満足してしまう。
そして本を読む時間はすっかり減ってしまった。
大学時代、本好きな友人が「図書館が怖い」という話をしていたことを思い
出した。彼曰く、「読んでいない本がこれだけあると思うと辛くなる」とのこ
と。そのときはバカバカしいと思ったけれど、今はなんとなくわかる。
今、どの店に行っても大量に新刊が並んでいると思うとゾっとする。しかも
それがなぜ出版されたのかよくわからないような本だとアタマを抱えてしまい、
ココロが痛む。というのは、そのドーデモイイヨーな本がそこに置かれること
で、何らかの他の本が返品されたからである。どっちを残すのか、という判断
が、配本の順番でしかなかったとしたら、これは悲しい。
これはリアルだろうがオンラインだろうが同じわけで、同じような本が紹介
されているオンライン書店をずらずらと見ていると、かつての大型店競争を思
い出してしまう。
問題はやはり出版点数の多さで、既刊本を倉庫に置いてちまちま売るよりも
儲かるからなのだろうけど、それはきっと疲弊するだけのモデルなんだと思う。
人にとって新しく出会った本は、その人にとって新刊である。
こんな当たり前の理屈が通らない書店店頭というのは、やはり疲弊している
のだと思う。今や、平台を見るだけで疲れてしまい、棚の並びを眺める余裕な
んか、こりゃないよね。
しかしみんながヘンだヘンだと言いながら、制度になってしまっているとそ
れを壊せないのが今の現状。制度を作っている側の人ってのは、ま、今でいう
と出版社や書店や取次の社長や重役などといった、エラい人なんだろう。今の
出版流通の流れを作ったのは、それはそれですごいお仕事なんだと思う。そこ
に安住したいという気持ちもわからなくはない。人間関係も大事だしね。
けれど、それでは自滅する、ってことをもうちょっとわかった方がいいんじ
ゃないかな。ってなことを思うのだ。儲かった金で文化をやる、んではなくて、
文化でも儲かるようにする、ってな考え方にしとかないと、いつか世界を相手
にせざるを得なくなったときに負けるんじゃないかな、と思うのだ。
日本語で書かれた本がもっと売れるためには、日本語の本を読める人を増や
さなくてはならない。これは自明の理だ。しかし、実際には日本人の人口って
やつは出生率の低下とともに下がっているわけで、これは先々、結構キビしい
んではないか、と思う。
世界に日本語が使える人がどのくらいいるのかはわからない。けれど、そう
いう人たちが増えるような本を、と考えるくらいの本の作り方はできないもの
だろうか?
日本という視点や、護られすぎている制度の中から外へ出る。
出版や書店が一つのビジネスとして成り立つためには、それが必要なんだと
思う。戦えないのであれば、そこを保護するのが国なわけで、今の流通を守っ
てる制度を残したってダメなんだということを、ちょっとは認識した方がいい
んじゃなかろうか?
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■「現代思想の最前線」/五月(ごがつ)
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第22回 美術史研究の巨星スタインバーグの恐るべきライフワーク
幕間のおしゃべりにここ二回ほど番外編でオンライン洋書店批評をやった。ア
マゾンにずいぶん文句を言ったが、それでもやはりアマゾンが一番出来がいい
ように感じているのも事実だ。いつのまに始まったのか、ブラウズすると私の
名前を冠したストアのタブがBOOKやMUSICやVIDEOのタブと一緒にフレームに
並んでいるではないか。なんということだ。「こんにちは、五月さん」や「お
客様への本日のオススメ」だけに飽きたらず、私が購入した本や好みに合わせ
て独自のストア内ストアを生成してしまうのだ。しかも閲覧したページを記憶
させて「さっきはこんなページもご覧になってましたが、この著者ならこっち
もオススメですよ」と来る。とにかくいろんなサービスが脇に表示される。
顧客志向のサイト改良という点ではアマゾンは進化し続けている。基本線を守
りながらいろいろと工夫していく姿勢は他社を凌駕する(念のため、これは日
本版サイトのことを誉めているのではない)と思う。
版元のカタログにすら載らない内から近刊予約をとってしまうアマゾンに私は
現在多くの予約を入れていて、遅延したりまだまだ先だったりするアイテムを
気長に待っている。予約品調達が必ずしも安定的という印象ではないアマゾン
にしては頑張ったというか、MITプレスのインプリントであるゾーン・ブッ
クスから先月(2001年7月)に刊行されたレオ・スタインバーグの『レオナル
ドの絶え間ない最後の晩餐』は届くのが早かった。いち早く入手できたという
満足感(アマゾンでは6月刊行、MITプレスのサイトでは5月刊行と表示さ
れているが、実際は遅延したのだ。それとも?)。
しかも今回は「なんだか大きい荷物だな」と思って、アマゾンのくだんの丁寧
な梱包を開けたら、天地235ミリ・左右273ミリ、束26ミリの堂々たる
ハードカバーの本が出てきた。本文紙に高級アート紙を使用しており、ずっし
りした手ごたえがある。郊外にたたずむ「最後の晩餐」の大きな看板が映って
いる写真をあしらったカバーもなかなか洒落ていて、思わず手にとっただけで
幸せ、といおうか、胸が震える新刊で実に嬉しい(しかしその反面、ここ最近
でこの本は12ドル90セントも値引きされ、いわば「拡販」対象のひとつに
なったらしく、やや悔しい。予約の場合、たいてい「値引き」はないのだ)。
手頃な軽量の本というのもいいけれど、こうした質量ともに重厚なのはもっと
いい。46判とA5判ばかり見ていて新味がないせいか、日本では久しく出会
わなかった書物のオーラをまざまざと感じるではないか。だからこんな時にこ
ういう本をウェブ販売より少し先にいち早く届けてくれたアマゾンに、今回は
とても満足した。銘柄によるのかどうかわからないが、ハーヴァード大学出版
から出たジョン・ロールズの『人民の法』を以前に予約した時は届くのが遅
かった。日本のリアル書店の店頭にも並びはじめているのに届かないというの
はおかしい。おかげでその後は、スタインバーグと同じ頃に予約してもよかっ
たロールズの『公正としての正義:再述』はパスしたのだった。またもやハー
ヴァードだったからだ。ちなみにこの『再述(A Restatement)』、あまり日本
の論壇では取り上げられていないように思うが、気のせいだろうか。
レオ・スタインバーグLeo Steinbergは1920年にモスクワに生まれ、ベルリン
に育った。ロンドンのスレイド美術学校に学んだあと、1950年代半ばにニュー
ヨーク大学の美術研究所へ入学、アーウィン・パノフスキーらのもとで建築と
美術について研鑚を重ねた。1958年と59年にはローマのアメリカン・アカデミー
に赴き、バロック期の建築家フランチェスコ・ボロミーニについて研究、博士
論文を執筆し、1960年に博士号を獲得した。「サンカルロ・アレ・クアトロ・
フォンターネ:多様な形象と建築的象徴主義にかんする研究」がそれである。
すでに優れた著述家であり翻訳者であり絵画の教師であった彼は、以後、独創
的な美術史家として活躍することになる。
翌年(1961年)からはニューヨーク市立大学の大学院およびハンター校で絵画
と美術史を1975年まで教え、75年から1991年まではペンシルヴァニア大学で、
ベンジャミン・フランクリンの名を冠した教授職に就き、美術史を講じた。現
在は同大名誉教授。スタインバーグは1983年にアメリカン・アカデミーおよび
芸術文学学院から文学賞を授与された最初の美術史家であり、このほかにも19
84年に大学芸術協会からフランク・ジューイット・メイザー美術批評賞を授か
り、1986年にはマッカーサー・フェローシップを得ている。住まいは長くマン
ハッタンに定めているようだ。
主な論文や著書には以下のものがある。1963年「ジャスパー・ジョーンズ研究」、
1972年には18本の論文をまとめた『他の批評基準』オックスフォード大学出版
(抄訳は「美術手帖」誌に林卓行氏の訳で1997年1月号・2月号・3月号の三
回にわけて連載された)、1975年『ミケランジェロの晩年の絵画:ヴァティカ
ン宮殿カペッラ・パオリーナにおける《聖パウロの回心》と《聖ペテロの磔刑》』
オックスフォード大学出版、1983年『ルネサンス芸術と近代の忘却におけるキ
リストのセクシュアリティ』パンテオン・ブックス(1996年にシカゴ大学出版
から改訂第二版が刊行されている)、2000年『ラウシェンバーグとの出会い』
シカゴ大学出版などがある。クレメント・グリーンバーグ(1909-1994)と並
ぶ、20世紀アメリカにおける美術批評・美術史研究の大家である。
※ウェブ上では例えば以下のページで論文などが読める↓
http://www.artchive.com/theory/steinbrg/steinbrg.htm
このたび出版された"Leonardo's Incessant Last Supper"は、1983年の「キ
リストのセクシュアリティ」論以後のスタインバーグのライフワークと言える。
もともと1973年に書かれた論文を増補したものなのだが、レオナルド・ダ・ヴィ
ンチのあまりにも有名な壁画「最後の晩餐」を新しい視点から見直すことに成
功している。
スタインバーグによれば、「最後の晩餐」はユダの裏切りをキリストが予告す
る決定的瞬間を捉えたものというよりは、様々な主題の連続性と持続を表した
ものだという。1490年代にミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ寺院
の食堂の北側に描かれたこの壁画は、以後数百年にわたって様々な作家に模倣
され、論じられてきたが、ダ・ヴィンチの意図した多層性――その一貫して圧
縮され極端に単純化された重層的構成までを再現するのは本質的に不可能であ
り、単純化の技法に惑わされてこの壁画を「明解なもの」とみなすのは間違っ
ている、と分析する。
「最後の晩餐」論は序文と九つの章と六つの補遺から成る。九つの章はそれぞ
れ、瞬間、〔壁画の〕主題、手と足〔のしぐさ〕について、十二使徒、〔食堂
の空間と壁画との〕関連、〔十二使徒における、また食堂の空間における〕符
合する対立物、キリストの手の七つの役割、マルジナリア〔壁画の枠外である
余白としての食堂の空間に仕組まれたもの〕、空間の神聖化、と題されており、
六つの補遺は、ボッシとゲーテ:原テクスト、アントニエヴィッチによる「最
後の晩餐」論(1904年):翻訳と原テクスト、使徒たちの同定、カステラッツォ
のフレスコ画とチェルトーサのカンヴァス画の不一致、模倣作と改作の数々、
二三の絵画とおせっかいな一文書についての再考、とされている(〔〕内は私
の補足)。
単なる「ユダの裏切りの予知」でも聖体拝領(パンのかけらに受肉したイエス
の身体を食する儀式)という秘蹟の起源でもない「最後の晩餐」が立ちあらわ
れる。定説と常識は、見る経験ごとひっくり返される。朽ちていく壁画は戦後
に五回にわたって修復され延命された。スタインバーグは修復の是非について
の議論をこねまわすよりは、率直に修復の困難さを認めるに留めているように
見える。壁画をそのフレームの外部である空間との関係性において論じる時の
スタインバーグは、絵画だけでなく建築にも詳しい彼の面目を見事に果たして
いるし、ポーランドの美学研究家ヨハン・アントニエヴィッチ(1858-1922)
のテクストの翻訳も、多言語によく通じた彼らしさが発揮されている。
図版は豊富で、ダ・ヴィンチの素描群のほかに、様々な画家による「最後の晩
餐」の模倣作や改作の数々がカラーではないが収録されている。不勉強な私は
こんなにもコピーがつくられ、翻案されてきたとは知らなかった。それらを
じっとながめて比較するだけでも得るものがある。十二使徒たちの個性と群像
としての効果を詳細に分析したスタインバーグのテクストとともに注視すれば、
一層味わい深いだろう。彼の文章は格調高いが決して難解すぎることはない。
毎日少しずつでも読む楽しみがあると思う。[2001年8月24日]
"Leonardo's Incessant Last Supper" by Leo Steinberg, 2001,
Zone Books, ISBN:1-890951-18-8, $43.00-
http://www-mitpress.mit.edu/
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■編集同人備忘録
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「文庫は本の墓場だ」と編集者の先輩が言った。単行本が瞬く間に文庫化され
て、更に瞬く間に絶版になる、そんな現象を皮肉ったのだ。そうなのかもしれ
ないが一方で、高価だけれど欲しい本があると、「これ、文庫化されてないか
なあ」と思うのも本当だ。私が中学生の頃、文庫本のことを単行本と勘違いし
ている友人がいて、私自身も当時勘違いしていたことがあったっけ。読書感想
文の課題図書になるような純文学の作品はたいてい文庫化されていた。それほ
どまでに文庫本は「あって当たり前の存在」だったのだ。文庫化された書目が
ふたたび単行本として再刊されることは実際まれである。別の先輩は「自分の
担当した本はぜったい文庫化なんて許さない」と語気を強めて言う。何を極端
に、と思うけれど、それには背景がある。とすれば、文庫本売場は死体売場で
あるか? おびただしい「死体」をさばききれずに書店が泣いている。 五月
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