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2001.09.15.発行 vol.81 [二つの大義 号]
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■■ [本]のメルマガ 2001.9.15.発行
■■ vol.81
■■ mailmagazine of books [二つの大義 号]
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■CONTENTS----------------------------------------------------------
★トピックス
★「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)
→謎のプレゼントに驚く著者でありました
★「緊急投稿 相手を知るということ」/朝日山
→アメリカ多発テロに関して投稿を頂きました。
★「兵書的に見たアメリカ多発テロ」/掩耳(えんじ)
→「書店を面白くするためノウハウ」を一端中断して、今回の事件を
『孫子』的に解明します。
★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→著者多忙につき、今回だけお休みです。
★「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
→しばらく休載になりまーす。
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■トピックス
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■書店バブル再燃か?
またまた大型書店チェーンの出店が続くようです。
まず、9月20日には三省堂が町田東急新館に出店。同月21日にはリブロ
が広島店を380坪でオープン。さらに11月20日、大阪難波にリブロが
およそ五百坪で出店。12月には福岡天神にジュンク堂が1700坪の超大
書店を出します。場所は、現在の丸善&紀伊國屋のビルの真裏だそうで、こ
れは福岡の競争が激化せざるを得ないくなるのは間違いないですね。書店は
まだ体力があるのか、それとも燃え尽きる前のナントヤラなのか……
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■「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁
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全点報告 この店で買った本
第17回 謎のプレゼント
前回書き落としたコトがひとつ。ある日、皓星社から巨大な宅配便が届いた。
開けてみると、木村義之編『隠語大事典』が入っていた。定価2万8000円、
B5判で1696ページというこの本、以前から欲しかったのだが、とても手が出
ないとアキラメていた。まさか酔っぱらってオンライン書店で注文してたん
じゃ……? あるいは、この連載でも「欲しい」と書いていたので版元が送
ってくれたとか……? すると、中に手紙が入っている。「『東京人』のプ
レゼントにご応募いただきまして、誠にありがとうございます。抽選の結果、
ご当選となりました」云々。完全に忘れていたのだが、たまたま目に付いた
『東京人』のプレゼント応募ハガキを出していたのだ。およそ抽選というの
に当たったタメシがないのに、こんなデカイ本を当ててしまって驚いた。よ
っぽど応募者が少なかったのだろうか?
ところが、数日後にまた皓星社から手紙。「『東京人』のプレゼントにご
応募いただきましたが、抽選の結果、残念ながら外れました」云々。二通も
出した覚えはないぞ。ナンだか謎が深まるプレゼントなのだった。
八月三日
◎旭屋書店(銀座店)
ヤギヤスオ『つるぼな下北沢日記』太田出版、1500円+税(以下同じ)
小野勝美『韓国のカツミくんと珍島のケイコさん』三五館、1500円
串間努『図説 昭和レトロ商品博物館』河出書房新社(ふくろうの本)、
1600円
八月四日
◎思文閣出版(オンライン) http://www.shibunkaku.co.jp/
鈴木貞美編『雑誌「太陽」と国民文化の形成』思文閣出版、12000円
【ひとこと】明治期の総合雑誌『太陽』についての共同研究。坪内祐三「編
集者大橋音羽」ほか、各ジャンルの研究者がこの雑誌にメスを入れている。
春にこんな本が出ると聞いて、版元のサイトで問い合わせメールを出してい
たのだが、ようやく出ると聞いて、書店に並ぶ前に注文する。高価な本だが、
手元に置いて読み込む価値はありそうだ。
八月七日
◎パルコブックセンター(吉祥寺店)
高田渡『バーボン・ストリート・ブルース』山と渓谷社、1500円
山根貞男『現代映画への旅』講談社、2300円
角田光代『菊葉荘の幽霊たち』角川春樹事務所、1700円
角田光代『キッドナップ・ツアー』理論社、1500円
坪内祐三『靖国』新潮文庫、590円
岡谷公二『郵便配達夫シュヴァルの理想宮』河出文庫、760円
八月八日
◎三省堂書店(神保町本店)
長新太『海のビー玉』平凡社ライブラリー、1200円
八月十日
◎往来堂書店
岡本太郎『太郎に訊け!2 岡本太郎流熱血人生相談』青林工藝舎、1200円
森卓也『映画そして落語』ワイズ出版、2600円
平沢剛編『アンダーグラウンド・フィルム・アーカイヴス』河出書房新社、
2000円
アレクサンドル・プジコフ『日常と祝祭 ソヴィエト時代のある編集者の回
想』水声社、4000円
『噂の真相』9月号、448円
『本の雑誌』9月号、505円
『ソトコト』9月号、571円
八月十二日
◎青山ブックセンター(新宿・ルミネ2店)
高野ひろし『ペンギン日和』うなぎ書房、1200円
本秀康『君の友だち』青林工藝舎、1000円
角田光代『学校の青空』河出文庫、520円
角田光代『まどろむ夜のUFO』幻冬舎文庫、495円
『ガタリ』Vol.1、ミリオン出版、838円
◎タワーレコード(新宿店)
電気グルーヴ『メロン牧場 花嫁は死神』ロッキング・オン、1400円
ロバート・クラム『Odds&Ends』Bloomsbury、5790円
【ひとこと】タワレコ新宿店は、POPの立て方が日本一ウマイCDショッ
プだと思っているが、最上階にある書籍売り場も充実している。音楽関係書
はもちろん、デザインやイラストの洋書がよく揃っている。いっけん無造作
に平積みされているようにも見えるが、ヨコにはちゃんと関連しているCD
が並んでいたりする。
八月十七日
◎書肆アクセス
西原和海編『夢野久作著作集』第6巻(随筆・歌・書簡)、葦書房、3800円
土屋慎吾『発禁桃色本 お検査して』幻堂出版、1500円
堀内ぶりる『お猿電車物語』観覧社、500円
『関西文学』第22号、952円
◎高岡書店
朝倉世界一『地獄のサラミちゃん』第2巻、宝島社、1000円
森高夕次(作)・あきやまひでき(画)『おさなづま』第9巻、双葉社、
552円
島本和彦『吼えろペン』第2巻、小学館、533円
◎岩波ブックセンター
木山捷平『鳴るは風鈴 木山捷平ユーモア小説集』講談社文芸文庫、1300円
『ディープ横浜』(別冊畸人研究)、600円
八月十八日
◎神戸市立博物館
『川西英の新・旧「神戸百景」』図録、神戸市立博物館、1500円
【ひとこと】この博物館には今年春に行ったのだが、この展覧会については、
東京に向けての告知がほとんどなかったため、そんなのが行なわれているコ
トすら知らなかった。以前に川西英の存在をぼくに教えてくれた、ライター
の平林享子さんがたまたま神戸で知って来館し、わざわざ図録を一冊買って
きてくれたのだ。展覧会の図録は、開催期間を過ぎると手に入れるコトが難
しいのだから、好事家の目に付くよう、インターネットなどを使って告知に
務めてほしいのだが。
八月十九日
◎bk1
やしまたろう『からす たろう』偕成社、1800円
宇佐美承『さよなら日本 絵本作家・八島太郎と光子の亡命』晶文社、
1301円
【ひとこと】仕事で八島太郎という画家に興味を持ち、たぶんイマ手に入る
本はないだろうなあ、と思いつつ検索してみたら、24時間以内に発送の本が
二冊も見つかった。こうなると、まあかならず買ってしまうね。
八月二十日
◎ブックマート市ヶ谷
秋月りす『OL進化論』第18巻、講談社、514円
『クイックジャパン』VOL.38、900円
『サイゾー』9月号、657円
八月二十五日
◎bk1
永江朗『批評の事情 不良のための論壇案内』原書房、1600円
八月二十七日
◎東京堂書店
原武史『可視化された帝国 近代日本の行幸啓』みすず書房、3200円
米沢嘉博『マンガと著作権 パロディと引用と同人誌と』青林工藝舎、
1000円
野田努『ブラック・マシン・ミュージック ディスコ、ハウス、デトロイ
ト・テクノ』河出書房新社、2800円
久本福子『文化ファシズム 緊急Liveレポート』エディター・ショップ、
1600円
◎餅屋ブックス(オンライン) http://www.mochiya.nu/mb/
『藤本和也作品集1995-2001』餅屋ブックス、500円×2冊
【ひとこと】この連載の前回で、刊行を予告したところ、何人かの方から予
約が入ったそうだ。自分が入れ込んでいる書き手の本の売り上げに、ちょっ
とでも貢献できたと思うとウレシイ。一冊は発行者から戴いたが、友人に配
るため二冊購入する。
八月二十九日
◎恵比寿ガーデンシネマ
『テルミン』ブックレット、1000円
【ひとこと】フシギな電子楽器テルミンの発明者の生涯を追った映画の素晴
らしさに匹敵するぐらい、凝った造りのブックレット。映画の解説書とテル
ミンの入門書の小さな二冊が箱に入っている。テルミンの原理を描いた付録
ポスターまで入っている。編集製作は川勝正幸。彼が手がけてきた映画パン
フやCDジャケットなどの編集仕事でも、最良のブックレットだと云えるの
ではないだろうか。
◎東京都写真美術館(恵比寿)
東京都写真美術館監修『カメラレビュー 桑原甲子雄ライカと東京』朝日ソ
ノラマ、2429円
【ひとこと】ナンで自館発行の図録でなくて、朝日ソノラマから出版される
のか、と思ったら、写真美術館のスポンサー(?)が徳間書店で、朝日ソノ
ラマはその関係会社だからではないか(うろ覚えですが)。コレまで展覧会
を開くのにあわせて、貴重な図版を図録に収録するシステムができていたの
に、今後は図録の発行まで商業ビジネスの論理で決められてしまうのだろう
か。ミュージアムショップで売っていた桑原甲子雄展記念のTシャツ(2600
円)を買ってしまう。普段はこういうのには目を向けないのだが、展示され
たなかでいちばん気に入った、下谷の「美人喫茶うるとら」の写真だったも
ので。でも、このTシャツ、男物がナゼかSサイズしかなくて、着てみると
ピチピチなんだよなあ。
◎有隣堂(アトレ恵比寿店)
四方田犬彦編『ザ・グレーテスト・ヒッツ・オブ・平岡正明』芳賀書店、
3800円
『etc.』9月号、300円
八月三十日
◎紀伊國屋書店(新宿本店)
佐藤健二『歴史社会学の作法 戦後社会科学批判』岩波書店、2500円
久本福子『柄谷行人論』エディター・ショップ、1600円
日本美女選別家協会『美』小学館、1500円
森銑三著・小出昌洋編『新編 明治人物夜話』岩波文庫、760円
宮部みゆき『R・P・G』集英社文庫、476円
八月三十一日
◎書楽(阿佐ヶ谷)
マイケル・ボンド『パンプルムース氏のおすすめ料理』創元推理文庫、
600円
『勝手に会社案内デラックス』(『サイゾー』臨時増刊)、848円
『エクスタス』01(『群像』9月号増刊)、1143円
【ひとこと】『エクスタス』は、「21世紀世代のためのボーダーレス・カル
チャーマガジン」だって。ふーん。講談社がわざわざインディーズ・マガジ
ンを出してどうするんでしょうか。
◎書泉グランデ
小田原ドラゴン『コギャル寿司』第2巻、講談社、505円
◎書肆アクセス
『話半分』創刊号、476円
【ひとこと】この店のレジにはときどきオモシロイ雑誌が積んである。出た
ばかりのミニコミ『話半分』の特集は「読書スタイルが変わる」。30ページ
に渡り、紙の本と電子本を論じた、マジメな内容だった。
今月の購入本 61冊(マンガ、論文集、全集本などワリとまんべんなく買っ
た)
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■「相手を知るということ」/朝日山
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アメリカを襲った大規模同時テロに、驚かなかった人はいないと思う。で、
e-honなどはテロとラディン関連の本を我々の鼻先に並べたりもするのだけ
ど、これはと言う本はないなぁ……正直傑作とは思えない、むしろ駄作と言
っていいと思うが「りんごの木の下であなたを生もうと決めた」重信房子あ
たりは読んでおいた方がいい。矛盾したことを言っている?わかっとるわい!
しかし、事の本質を理解しようとすれば、それなりの本を読まなきゃなら
んと思う方、こんなのがあります。
「マホメット」井筒俊彦 講談社学術文庫
「マホメット」は日本のイスラム研究のセンセが、イスラムに取り憑かれた
若き時代にイスラムとは何かを述べた本。なぜそんな本を勧めるのかという
と、イスラム教成立とその特徴を簡潔明瞭に描いているからです。文章は情
熱的で、
「歴史的な学問研究は、あくまで客観的精神に終始しなければならぬ。それ
は自分でもよく分かっているが、しかし冷たい客観的な態度でマホメットを
取り扱うことは私には到底できそうにない」
という立場で書かれています。
イスラムとは何かを知るということは、要するにコーランを知るということ
でしょうけど、はっきり言って朝日山もそうだが、普通の日本人にはコーラ
ンなどまず読めない。聖書もそうだけど、時代背景などが相当わかっていな
いと挫折してしまう。だから最初は解説書などを読むのがいい。この本は約
百ページですから、当メルマガの読者で挫折する人は少ないんじゅないでし
ょうか。
本のタイトルは「マホメット」ですけど、実はこの本、マホメットは前半分
では出てきません。なぜなら、井筒センセはますイスラム教が出て来た背景
を説明しようとするのです。
イスラム教では、イスラム以前の時代を「無道時代」と呼ぶ。無道時代とは、
「砂漠の騎士道」が幅をきかせていた時代である。マホメットの活動は、こ
の「砂漠の騎士道」に対する果敢な挑戦、真正面からの激突である。と同時
に、当時の若者がもっていた不安……人生の価値はどこにあるのか?……に
対して、マホメットの教えは絶好の受け皿になった。何をなすべきかを知ら
ず、酒と女にしか逃げられなかった男たちに人生の目標を与えたのだ。なん
か身につまされると思っている方、興味が湧いてきたでしょ。
無道時代、砂漠の民は、自らの血縁を大事にし、友人や客も大変大事にする。
気骨溢れる誇り高い人々で、彼らは困った人がいると、打算も何も考えずに
乞われないうちから持っているものを提供するという底なしのお人よしでも
ある。しかしこれが別の部族相手には、全く逆に鬼か悪魔かという所業に出
る。彼らのよって立つ基盤は「慣行(スンナ)」と呼ばれる自分たち部族の
過去からの連続性だ。これをまずマホメットはぶっ壊そうとした。
部族なんて関係ない。我々が崇めなければならないのはアラーだけだ。日本
でなら、親なんて関係ない……どこかの新興宗教に対する風当たりに似てい
るのかもしれないが、かの地ではもっと極端に血を大事にするから、もっと
ひどい衝撃だったろう。
だから最初はマホメットを変わり者と見ていたメッカの市民も、次第に敵意
をあらわにし、初期の信者は迫害から逃れるためにメディナへ移る。もとも
とマホメットという人は、小心者でくよくよする人だったらしく、預言を受
けても最初は信じられず、うじうじしていたという。ところが姉さん女房に
尻を叩かれ、おずおずと布教を始めた。
それがメディナに移ってからというもの、大活躍が始まるのだが、このあた
りからイスラム教とユダヤ教、キリスト教との対立が始まっている。マホメ
ットは、イスラムの教えをユダヤ教、キリスト教の伝統を受け継いだ宗教だ
と考えていたし、「慣行(スンナ)」を否定しているわけだから他民族に対
しても寛容だった。
だからメディナに移ったときにユダヤ教徒は自分を理解してくれるだろうと
考えた。ユダヤ教徒が反発するので、キリスト教徒はユダヤ教徒ほど無理解
ではないだろうと思って、彼はキリスト教徒にも近づくのだが、キリスト教
徒はさらにたちが悪いと思ったようだ。
マホメットの死後、世界宗教となったイスラム教は、時代を経るごとに変遷
していくが、そもそもそうした変遷に対するアンチテーゼとして生まれたの
がイスラム教である。とすると、今、原理主義者と呼ばれる人たちが何を考
えているのかを知るうえで、この本は基本文献となる本ではないでしょうか。
テロが起きない状態を作るのは、テロリストを叩くより、テロリストが受け
入れられない状態を作る方が政治的に洗練された手法だ。日本は中東問題に
おいては外交上絶好のポジションにいるはずなんだが、何もしなかったとい
う点で、責任はあるかもしれないねぇ。
小泉首相の発言が日本にテロを引き寄せなきゃいいが……アメリカだってか
なりのことをやってんだぜ。日本はモサドも手薄になっている地域だろうし、
在日本CIAに中東担当者はいないだろうし、公安は日本赤軍以外は知らない
だろう。情報は不足しがちだ。もし大規模テロが起こったらイラン人あたり
を日本人が襲撃することになるかもしれない。マスコミ諸君は今のうちに手
を打ったほうがいいよ。起こってからじゃ遅いから。
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■「兵書的に見たアメリカ多発テロ」/掩耳
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いきなり二回目でいきなり中断というのもナンなのですが、今回の衝撃的事
件について、兵書なり戦争思想というものをそれなりに研究してきたものと
して、少しお話させて頂ければと思います。
まず、『孫子』でいう「彼を知る」こと。
兵書的に言ってまず大切なことは、自分が生き残りたければ、相手が何を考
えているかを徹底して知る――価値判断を脇に置いて理解する必要がありま
す。
今回、自分の命を犠牲にしてビルに突っ込んだテロリストの目には、どのよ
うな心象風景が浮かんでいたのか? ――犯人は恐らくイスラム原理主義の
人だろうと仮定します。
今は、パックス・アメリカーナの治世です。簡単に言えばアメリカが裁判官
の世の中ということ。そしてアメリカは、残念ながら世界中で公平な裁きを
しているわけではありません。例えば『文明の衝突』のなかで、アメリカの
代表的な知性のサミュエル・ハンチントンでさえ、身内の西欧文化圏には甘
く、部外者のイスラム文化圏などには厳しい、ダブル・スタンダード――端
的な例では、中国やアジアの人権問題には強行姿勢を見せても、それ以上に
問題のあるサウジアラビアなどには石油利権の関係で何も言わないなど――
を使い分けてしまうアメリカの姿を自身で認めているのです。
僕が、今回の一連の事件で一番衝撃的だったのは、喜び騒ぐパレスチナ人た
ちの映像でした。なぜ、彼らはあれほどの凄惨なシーンを、利害が異なると
はいえ大喜びできるのか?
考えてみれば、つい最近、イスラエルによる爆撃ですでにパレスチナの人は
千人近くがなくなっているわけです。建物の崩壊、悲惨な死傷者――自分た
ちの身に日常降りかかっている悲惨な情景という意味では、パレスチナ人に
とって崩壊するニューヨークも取りたてて衝撃を受けるに足りないのかも知
れません。
そして、このイスラエルの過剰報復をアメリカは見て見ぬ振りをし続けまし
た。湾岸戦争でのイラクの暴挙には、あれほど過敏な対応をしたアメリカと
の異常な落差。要は、文化圏による身びいきがそのまま出てしまったわけで
す。しかもアメリカは、イスラエルの行動に対する非難決議を採択しようと
した国際会議をボイコットして、その決議を阻止しようとまでしています。
恐らく、パレスチナやイスラムの一部の人にとってこれは許されざる不公平
であり、自分の手で決着をつけなければ――という心理に追い込んでしまっ
たのではないでしょうか?? そして、テロは起こってしまった。
では、今回起こったことをどう対処するのが最善なのでしょうか?
兵書的に言えば、戦争は長引かせてはならないのです。
マスコミでも多く指摘がされましたが、報復の連鎖を招くことは、傷ついた
プライドを回復することはできても、長期的な視野にたった国益にはまった
く適いません。怒りはいつか納まっても、死んでしまった人を生き返らせる
ことはできない――これは今から2500年前に書かれた孫子がすでに指摘
していることです。
これを孫子は「兵は拙速を聞く」という有名な言葉でも指摘します。「拙」
とは、早く終らせ過ぎたというくらいで戦いは止めるべしという強調なので
す(この解釈には異論もありますが)
そして、テロという問題があります。
テロとは、防ぎようのない最も現代的な形の戦争です。いくら正規軍を増や
し、武器を増強しようと、テロやゲリラ戦には効き目が薄いのです。自爆テ
ロという形を取るなら尚更でしょう(ちなみに、ゲリラ戦でさえ対抗するの
に必要な戦力は相手の十倍から十五倍と言われています。一般人を巻き込む
テロの場合、一体何倍の戦力が必要なのかは見当もつかないほどです)
そして、兵書的な発想で言ってしまえば、テロをいくら非難しても無くすこ
とは不可能です。なぜなら、それは弱いモノにとっての唯一の戦争の形だか
らです。ミサイルや核を張り巡らし、いざとなれば戦争を辞さない大国が、
自分たちに不利だからといってテロを廃絶しろ、と叫ぶのはある意味滑稽に
ならざるを得ません。根本から考えるなら、叫ぶべくは、テロも含めた戦争
や核の廃止、武器輸出の禁止なはずです。お前の使っている手段だけ無くせ、
といった所でそれは無理筋なのです。
しかし、自身が最大の武器輸出国でもある米ロ英仏は、そこを隠蔽したまま、
テロは国際社会(ただし、今回の報道を見ても、国際社会とは西欧文明圏に
おいてという意味です。中国やインドなどのアジア、イスラム諸国はまった
く入っていません)に対する脅威だ、と叫ばざるを得ません。しかしよくよ
く考えれば、核も、ミサイル配備も、武器輸出もすべて国際社会に対する脅
威そのものではないでしょうか? 自分たちに都合のよいモノは黙認し、都
合の悪いモノに卑劣だの脅威だのレッテルをはっても何も解決はしないので
す。しかもその国際社会の特にイスラム勢力に対するあまりに不公平な振る
まいがその根本原因であるなら……
そして、今回のことが報復の連鎖を生むなら、過激に言ってしまえばアメリ
カ国内がベトナム戦争におけるベトナム本土と同じ状態になりかねないとい
うことです(最悪の場合、これは日本も他人事ではないのかもしれません)。
ここで、アメリカ方の心象風景を見てみたいと思います。
デビット・ハルバースタムというやはりアメリカを代表する知性・ジャーナ
リストが湾岸戦争について書いた『戦争ゲーム』において、かなり恐ろしい
ことを書いています。
それは、アメリカのエリートやエスタブリッシュメントたちは、湾岸戦争は
やらなければならない戦争だが、実際に戦うのは自分たちではない、と思っ
ていたという記述です。要は、軍人たちにやらせて自分たちはTVで見てい
ればよいという発想。
さらに、湾岸戦争時の統合参謀本部議長、そして今回の国務長官であるコリ
ン・パウエルは自著『マイ・アメリカン・ジャーニー』のなかで、実戦経験
のないエリートたちは、自分の目の前で血が流されると、すぐヒステリー状
態になり敵の血をよこせと喚きだしてしまうものだ、という意味のことを述
べています。
今回、まさにそのアメリカのエリートやエスタブリッシュメントの集まる地
区が攻撃され、彼らの目の前で同僚たちが犠牲になっていきました。上に挙
げた二著が幾分でも正しいとするなら、残されたエリートの反応は押して知
るべしです(パウエル自身は、そんな逆上せ上がったエリートたちに兵士の
生死を託せられないとも書いてはいますが……)
大義や正義は、どこの国、どこの文明圏にもあります。自分こそ正義、敵対
するものはみな悪といくら叫んだとて、視点をいれかえてしまえば、善悪も
ことごとくひっくり返ってしまうのは歴史上の事実です。日本は、西欧キリ
スト教系文明圏に所属しているのでもなければ(極めて親しい関係にありま
すが)、イスラム文明圏に所属しているわけでもありません。
そして、どちらの大義が善で悪かを比べたり、どちらがより善かを議論した
り、親疎の度合いで与したりすることは、日本という第三者にはほとんど益
がないと考えます。
ある集団と別の集団の大義とは、往々にしてぶつかりあわずにはいられない
以上、せめて報復の連鎖といった長期的戦争は、お互いの国益にまったく適
わないことを説得していく――
この最も理性的な行為を両者、及びある意味で今回の事件の根本原因にもな
った過剰報復主義のイスラエルに及ぼしていくことが、日本の国際貢献の最
たるものであり、現実的に今もっとも親しいアメリカという友にできる最善
の行為ではないのか、とも思います。
そして、このような孫子的な叡智――それは、現実的に湾岸戦争時にアメリ
カに勝利をもたらしたものですが――をアメリカは今一度思い起こして欲し
い、と願わざるを得ません。
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■あとがき
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>このあとがきって、最後にみなさんに脱力してもらうためのヘナチョコ・
コーナーなんですが
>はあはあ
>さすがに今回の事件の衝撃の後では、脱力ネタも出ないって感じですねー
>そうそう、深夜までTVに齧りついているので、なんか寝不足にもなりま
すね
>うーん、しかし各局のアナウンサーの質がよく見えちゃったところはあり
ますね
>ああ、あるある。上空で「旋回」という言葉が出てこなかった人とかいて
ちょっとびっくりしました
>人間、いざというときに実力って出ちゃいますからねー。ああ、人のこと
言えないし、くわばらくわばら(笑)
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