2001.11.15.発行 vol.87 [乳牛ばかりの謎解き 号]

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■CONTENTS----------------------------------------------------------
★トピックス 

★特別投稿! 「専門書と一般書、そして現場との距離」/朝日山
畜牛農家から「狂牛病」に関してナマの声、そして情報が届きました。

★「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)
→書店が消えていく現状、でも買う本はやっぱり増えてます(笑)

★「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
→天才、鈴木志郎康氏の詩に迫ります。

★「書店を面白くするためノウハウ」/掩耳
→「金太郎飴書店」の実相をえぐります。

★「本の周りをうろついて・・」/湯川新一
→しばらく休載になりまーす。
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■トピックス
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■取次ぎさん、大揺れ
人文書を中心とした中堅取次ぎの鈴木書店が、新会社を設立する方向で、
12月にはそのアウトラインを発表することを明らかにし、出版業界に激震
が走っています。取次ぎさんがボロボロになると、出版社を始め大きな影響
が出ます。軟着陸することを祈るばかりです。

■『ことし読む本いち押しガイド2002』22日に発売
その年に出た本のブックガイドとしては、もっとも評価が高い『ことし読む
本いち押しガイド2002』が11月22日に発売になります。今号に好評連載の南
陀楼綾繁氏なども執筆しています。以下で詳しく紹介されていますので、ぜ
ひご覧下さい。
http://www.metalogue.co.jp/ichioshi2002.html
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■「専門書と一般書、そして現場との距離」/朝日山
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朝日山の本職は百姓である。主力は肉牛の生産である。すなわち、今秋の狂
牛病騒ぎには、かなりの打撃を受けている。で、慌てて

「プリオンとプリオン病」立石潤 共立出版
「死の病原体プリオン」リチャード・ローズ 草思社

を取り寄せて読んでみた。共立出版の本は、日本を代表するプリオン研究者
(らしい)人が書いている専門書。草思社の本は、ピュリッツァー賞を取っ
たこともあるノンフィクションライターの一般書だ。

「プリオンとプリオン病」の序文によると、著者の立石センセ、この分野で
「ジャーナリズムや非専門家による興味本位の記述」に対して少々不愉快に
思っているらしい。専門家がこうした考えを持つことは至極当然なことで、
期待をもって最初に読んだ。100ページにも満たない本なのに、読破に予
想外の苦労をした。素人に入門用とは言え医学の専門書を読むのは難しいの
かなぁと思いつつ、最期のページまで来ると、一気に力が抜けた。立石セン
セと、プリオンの世界的権威であるプルシナー博士が宴会で一緒にいる写真
が載っていたからだ。この写真を見た瞬間、私はこの本を新古書店に叩き売
ることに決めた。

私は学者ではないが、年に数回主として農学系学者の講演を聞くことがある。
そこでいつも疑問に思うのは、彼らの多くがスライドに妙な「おかず」を入
れることだ。講演の内容と直接関係のないスライドを挟み込んで思い出話を
するのだ。なぜこんなことをするのか聞くと、たいてい聞き手が寝るのを防
ぐためといった答えが返ってくる。こいつら、ろくでもない野郎たちだと思
う。そうした連中と同じ臭いがする本を、持っていたいとは思わない。

講演で聴衆が寝るのは、話がつまらないからである。なぜつまらないのか。
話し手が眠たくなる話をするからだ。学会に行く途中で寄ったハリウッドの
オカマバーの写真なら興味を持ってくれるだろうと考えるのは本末転倒。聴
衆に興味を持たせる技術がないのを、てめえがやってる研究のせいにするこ
とに矛盾を感じないのか?くだらない研究ならさっさと止めろ!

口直しに「死の病原体プリオン」を読む。さすがはピュリッツァー賞ライタ
ーの本だ。立石センセの本を読んでいてわからなかったことが、ちゃんと分
かり易く書いてある。ローズの「原子爆弾の誕生」上下で一万円もするので
躊躇しているが、買ってもいいなという気になってきた。

感染症としてのプリオン病が従来の常識を覆す理由として立石センセは
「感染症としての炎症性反応や免疫反応が見られない」
とだけ書いている。

これに対し、ローズは同じことを、この分野のパイオニアであるガイテュシ
ェックの発言を引きながら、
「伝染病にかかると、病原体が体内にもちこんだ外来タンパク質に対して人
体のリンパ球や免疫システムが防御的に働く結果、各種の炎症が起こる……
『こうした炎症が起こらないということがいかに奇妙なことか、医学の知識
のない人には説明しにくいんだがね』……『クールー(プリオン病研究のき
っかけとなった病気…筆者注)では、こうした炎症が全然見られなかったん
だ』」
という具合に書く。生物学の常識では説明できない、たんぱく質の結晶化の
記述に至っては、もっとこの差が開く。

医者の卵が読んでも、どっちがより分かり易く、面白く書いているか。医学
生と私と意見が違うなんて事は、まずないだろう。ローズは本の中で、日本
の研究者について言及していない。むべなるかな。

で、これらの本を読んで、食肉生産・流通の状況を少しはよくする手がかり
でも見つかるかと思ったが、そんな記述は全くない(^_^;)しかし、現場の人
間として、少々思うところを書いてみよう。ただし、現場と言ってもマスコ
ミほど情報があるわけでもないので、憶測・推定が多いことをあらかじめお
断りしておく。

日本の場合、肉牛に関しては肉骨粉を使っているところは、おそらくないは
ずである。なぜなら、日本の肉牛農家は、餌に関してかなりうるさいからだ。
うるさいというのは、新しい餌が出たらすぐ飛びつくことではない。逆だ。
最初は、かなり疑ってかかる。周囲が使っているのを見て、よいと思わなけ
れば使わない。なぜなら、過去に新しい餌を使って何度も失敗しているから
だ。

成長ホルモンを挙げてみよう。アメリカでやっているように、成長ホルモン
を投与することによってより早く効率的に肉をつけようとする試みが以前に
あった。しかし、今では成長ホルモンはまず使われていない。理由は簡単。
肉質が悪くなるからである。

日本人は欧米人とは違い、霜降り肉を好む。牛の肥育期間はだいたい同じで
主要なコストである餌代もあんまり変わらない。だからいかに市場で高く取
引される肉を作るかが儲けるポイントになってくる。コストダウンによる利
益確保より、コストをかけて高粗利の質の良いものを作ったほうが儲かるの
だ。だからみんな霜降り肉を作ろうと躍起になる。肉骨粉を使って成長を速
めて儲かる商売ではない。だから使わない。

しかし、だからと言って日本の肉牛は安全とは言いきれない。なぜなら、今
回の一件では、肉骨粉がホントに原因かどうかすらまだ解明されていない。
感染源として非常に疑わしいとされているだけで、感染源は別かも知れない
。もし肉骨粉ではなかったら、感染源は今も野放しだ。

今回の場合、北海道の生産者も千葉の乳牛農家も牛に肉骨粉を与えていない
と証言した。この証言の信ぴょう性を疑うような報道もあるが、そんなこと
は餌を供給していた業者の伝票を見ればすぐわかる。あくまで個人的な印象
だが、たぶん、北海道の生産者も千葉の乳牛農家もウソは言ってないと思う。


肉骨粉を使わなくとも狂牛病は自然発生する可能性がある。また彼らは知ら
ずに肉骨粉をやっていた可能性も残る。今回の騒ぎでうちに調査に来た係官
の個人的意見によると、飼料会社のラインで混入した可能性も考えられると
いう。真偽は定かではないが、こういうことだ。

飼料会社はさまざまな用途に応じた多種多様な配合飼料を作るため、いろい
ろな飼料を混ぜている。ラインはそれぞれ専用に作られてはいないとすると、
たとえば肉骨粉を配合した飼料を作って、ラインの掃除をせずに肉骨粉なし
の飼料を配合するということも起こりえる。すると肉骨粉が入っているはず
のない飼料に少しとは言え混入するということだ。すなわち、一切肉骨粉を
使ったことがない農家の牛でも、肉骨粉を食べていた可能性があるというこ
とだ。

ただし、今回の騒ぎによって肉骨粉の混入はまずなくなるだろう。防疫体制
も急遽とはいえ世界一の体制が整備されているから、今後生産される飼料に
関してはまず安全と見て良いだろう。

ただし、それでも日本で将来新型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が出
ないとは言えないだろう。あくまで牛肉が感染源と仮定した場合だが、今ま
で気がつかずに、我々が既に汚染された牛肉を摂取してしまった可能性がな
いとは言いきれないからだ。ただし、種の壁もあるので汚染された肉を食べ
れば全てが発症するわけではないし、経口摂取は脳内摂取する場合より感染
率は格段に低いはずだ(実験結果が出るまでに時間がかかりすぎるし、成果
が上がる保証もないから、牛の場合にも経口投与実験はされていないと思わ
れる)新型CJDの死亡者数が交通事故の死亡者数を上回るなんてことは、日
本では専門家でも考えないだろう。ローズが英国で最悪の場合を想定したよ
うなシナリオは日本では、まず起こる可能性はないだろう。

日本の牛は、もともと政府の厳重な管理下にある。一頭一頭登録され鼻紋
(人間の指紋にあたる)を取られ、取引すれば登録証も一緒に移動する。二
ヶ月に一回は検査員が牛舎を回り、登録通りか数を数えにやって来る。屠畜
は食肉センター(屠殺場)でしかできない。闇で牛を処分することなど不可
能である。だから病気になればまず獣医の目に触れるはずだ。

問題は病原体が潜伏期にあり発症していないケースがどれだけあったかだ
が、これも今後の検査でどれだけ感染した牛が出るかによって推定できるだ
ろう。しばらく出なくても安心とはならない。この病原体の潜伏期間は長け
れば30年にも及ぶという。忘れたころに出る可能性がないとは言えないのだ。

今日本に一人、新型CJDに感染しているのではないかと言われている人がい
る。また、新型CJDに感染して死んだのではないかと疑われている人も一人
いる。可能性は低いらしいが、この2人がホントに感染していると仮に考え
る。感染した時期は最近のことではないはずだ。少なくとも数年前に感染し
なければ、今発症したりはしない。感染源も食肉とは限らない。一般食品や
化粧品、医薬品なども感染源となる可能性がある。

この病気に関しては、研究はまだ端緒に達しているに過ぎず、まだまだわか
らないことが多い。先に挙げたこの分野の世界的権威であるプルシナーの研
究すら、野口英世の業績のように後に否定されるかもしれない程度のものら
しい。治療法など、まだまだ開発されそうにない。要するに今後少なくとも
30年は、我々は罹ったら最期命はない病気と、共生していかねばならない
ということになる。
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■「全点報告 この店で買った本」/南陀楼綾繁
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第19回 消えてしまった三つの書店

出版界では相変わらず景気の悪いハナシが続出している。昨年あたりまでは、
業界の上の方でナンか騒いでるな、というカンジだったが、今年に入ってか
らは、日常生活で確実にその影響を目にするようになった。この10月だけで、
三軒の新刊書店が閉店するところに行き合わせてしまったのも、そのヒトツ
だろう。初めて行ったのが閉店の前々日だったという神戸の「南天荘書店」
はともかく、仕事場の近くでかなり利用していた「ブックマート市ヶ谷」と、
旅に出たら寄りたい店だった神戸の「烏書房」が無くなってしまうのは、か
なりショックだった。自分のなかに一定の位置を占めているモノが、ある日
突然消えてしまうのは、それがどんなコトでもイヤなものだ。

十月二日
◎クローバー・ブックス(オンライン)
 http://www.ifnet.or.jp/~kyoko.hi/
滝本誠『きれいな猟奇 映画のアウトサイド』平凡社、2500円+税(以下同
じ)
【ひとこと】フリー編集者の平林享子さん(「書評のメルマガ」偶数月10日
号でも連載中)が、数年間精魂を傾けて著者を追い込み、ようやく刊行にこ
ぎつけた評論集。「タキヤン・ポストカード」をはじめとする3大特典つき
というコトもあって、ご本人のオンラインショップで買ってみた。
◎ブックマート市ヶ谷
遠藤淑子『ヘヴン』第2巻、390円
『文藝春秋』10月緊急増刊号、667円
『プチフラワー』11月号、465円
【ひとこと】向かいの文教堂書店は立ち読み客でにぎわっているが、こっち
はますます客がいなくなっている。べつに義侠心など持ち合わせてないのだ
が、どうせ買うのなら行きつけの店で買いたい。しかし、コレだけ客足が途
絶えて、果して大丈夫だろうか……。

十月三日
◎高岡書店
黒田硫黄『黒船』イースト・プレス、999円
ロドリゲス井之介『二人の大井川 就職日誌』第2巻、小学館、505円
ほったゆみ・小畑健『ヒカルの碁』第14巻、集英社、390円
◎三省堂書店(神保町本店)
アハメド・ラシッド『タリバン イスラム原理主義の戦士たち』講談社、
2800円
川勝正幸『ポップ中毒者の手記2 その後の約5年分』DAI-X出版、1800円

十月四日
◎ナディッフ(表参道)
戸田ツトム『電子思考へ…… デジタルデザイン、迷想の机上』日本経済新
聞社、2200円
『紙の大百科』美術出版社、2500円
『季刊d/SIGN』第1号、1500円

十月十日
◎丸善(御茶の水店)
『噂の真相』11月号、448円
◎書肆アクセス
『天井桟敷新聞 全縮刷版』アップリンク、1000円
『sumus』第7号、600円
『本の雑誌』11月号、505円
◎三省堂書店
橋本千代吉『火の車板前帖』ちくま文庫、780円
【ひとこと】二年ほど前に出たちくま文庫がなかなか見つからず、数軒探し
てようやく手に入れる。いまの新刊書店は、同規模の店は同じような品揃え
にしかならず、一軒で見つからなければどこに行ってもゼッタイに置いてな
い。いくら仕入れに自主性がもてないから仕方ないと云っても、もうちょっ
とナンとかならないものか。たとえば、「ウチでは◎◎文庫の全在庫を揃え
てます」というのはどうか。版元は仕入れに協力し、売れた分は報奨金を出
せばイイ。ダメかなあ。なお、これだけ苦労して見つけたのに、一カ月後の
十一月十日現在、この本は未読のママ、部屋のなかで行方不明となってしま
った。

十月十一日
◎ブックファースト(渋谷店)
大滝詠一『All About Niagara 1973-1979+α』白夜書房、4700円
小杉泰『イスラームとは何か』講談社現代新書、740円
◎bk1(オンライン)
ジェフリー・ディーヴァー『エンプティー・チェアー』文藝春秋、1857円
十月十二日
◎サンクス(西日暮里店)
『ご近所の悪いうわさ』第2号、562円
【ひとこと】最近、コンビニに置かれている、嫁姑・不倫などのミもフタも
ないテーマ別のマンガ誌にちょっとハマっている。ダラダラと読んだあと、
もう一度最初から笑えるシーンを探し、カッターで切り取って、ノートに貼
り込んでいる。この雑誌に限らず、手元の雑誌を分解してみると、案外いろ
いろなコトが判って、おもしろいですよ。

十月十五日
◎往来堂書店(千駄木) http://www.ohraido.com/
今和次郎編纂『新版 大東京案内』上巻、ちくま学芸文庫、1000円
マイルズ・ハーベイ『古地図に魅せられた男』文春文庫、752円
【ひとこと】久しぶりに「コレが売りたい!」の原稿を書き、POPを持参。
今回は、この連載でもおなじみ、個人出版社「餅屋ブック」が出した藤本和
也『ふらふらふらり』『藤本和也作品集 1995-2001』を取り上げたのだが、
一般書店でまったく置いてないという文句が効いたか、初回入荷は完売した
みたいで、ホッとする。

十月十八日
◎旭屋書店(銀座店)
『橋本治が大辞林を使う』三省堂、1200円
『サイゾー』11月号、657円

十月十九日
◎under public(大阪・南船場)
『CRUIZIN』第1号、933円
『THE BAG MAGAZINE』第13、14、15、16号、各300円
【ひとこと】ココでやっている「Bookmakers' Delight」という関西のフリ
ーペーパー展を覗く。印刷されたキレイなフリペを何十点もタダで手に入れ
る。あんまり申し訳ないので、有料のミニコミも数冊買っておく。
◎海文堂書店(元町)
長島孝次『ノスタルジック神戸の夜 1951-1953』六甲出版、1000円
【ひとこと】一階は文芸書や人文書。奥行きが広くて、どのコーナーもゆっ
たりしている。二階は、店名どおり、海に関する本がギッシリ。
◎烏書房(元町) http://homepage2.nifty.com/hon-karasu/
木暮享『夢二が好き 懐かしく新しいデザイン』文化出版局、1500円
有坪民雄『勝つ文章技術』東京図書出版会、1714円×2冊【ひとこと】烏書
房は元町の北側、鯉川筋に一年前にできた新刊書店。店主の川辺佳展さんの
シュミに偏った品揃えが気に入り、何度か足を運んだし、ココのサイトに連
載をさせてもらってもいる。いつ行っても客の姿が見えず、正直云って「こ
のご時世に大丈夫なの?」と思っていたのだが……。三度目の来店が閉店パ
ーティになるとは思わなかったよ。まァ、これだけ盛大に閉店パーティをや
るだけの余力を残しての幕引きだったし、今後もサイトは継続するそうなの
で、いいタイミングだったのかも。『勝つ文章技術』の著者(「書評のメル
マガ」関係者)は、自分の本を何十冊も持ってきて行商していた。その押し
に負けて、ナゼか二冊も買う。こっちも負けずに自分のミニコミを売りつけ
てやったぜ。

十月二十日
◎ジュンク堂書店(三宮駅前店)
エドワード・W・サイード『イスラム報道』みすず書房、2500円
◎南天荘書店(六甲道)
加藤郁乎『後方見聞録』学研M文庫、680円
【ひとこと】明後日(二十二日)に閉店するこの書店は、いまは駅ビルの中
のごく普通の店だが、一九七〇年代に小冊子を発行したりして、地元の本好
きには有名だったらしい。店の入り口に、震災後頑張ってきたが、持ちこた
えられずに閉店します、とのハリガミが。記念に買った『後方見聞録』は、
昨日の新幹線の車内で読んだ、『週刊文春』の坪内祐三「文庫本を狙え!」
で紹介されていたのだが、この本の元版は、南天荘の系列店である〈コーベ
ブックス〉から刊行されているのだ。
◎三月書房(京都)
樋口覚『三人の跫音 大岡昇平・富永太郎・中原中也』五柳書院、1650円
中山茂『一戸直蔵 野におりた志の人』リブロポート、700円(自由価格本)
河村錠一郎『コルヴォー男爵』小沢書店、1030円(自由価格本)
◎ 恵文社一乗寺店(京都)
ヨゼフ・チャペック『チャペックのこいぬとこねこは愉快な仲間』河出文庫、
480円
河盛好蔵『人とつき合う法』新潮文庫、362円
ビデオ テリー・ズウィコフ監督《クラム》4572円
CD[喫茶ロック 風をあつめて]東芝EMI編、2476円
プレイガイドジャーナル編著『神戸青春街図』(有文社、改訂版)1000円
(古本)
【ひとこと】新刊書店にビデオがあったりCDがあったり古本があったりす
ると、それらをビデオ屋やレコード屋や古本屋で見かけるよりも新鮮に感じ
るのは、ぼくだけだろうか?(だからって、京都まで来てこんなに買うこた
ァない)

十月二十一日
◎ジュンク堂書店(堂島店)
上村武男『春の欄干 若き日の祖母をたずねて』編集工房ノア、1800円
天野忠『木洩れ日拾い』編集工房ノア、1800円
ラート=ヴェーグ・イシュトヴァーン『書物の悲劇』筑摩書房、1000円
(自由価格本)

十月二十二日
◎ジュンク堂書店(難波店)
加藤周一・鶴見俊輔『二〇世紀から』潮出版社、1800円
◎テアトル梅田
『ザ・ミッション 非常の掟』パンフレット、800円

十月二十三日
◎千葉市美術館(オンライン)
『日本の版画1921-1930 都市と女と光と影と』2300円

十月二十七日
◎神保町ブックフェスティバル会場
小川国夫『藤枝静男と私』小沢書店、700円(自由価格本)
【ひとこと】今年の人出は凄かった。どこの出版社のブースでも、アタリマ
エみたいに自由価格本を売っている。もはや「解禁」といった風情。
◎三省堂書店(神保町本店)
青井夏海『赤ちゃんをさがせ』東京創元社、1800円
坪内祐三『三茶日記』本の雑誌社、1600円
大阪圭吾『とむらい機関車』創元推理文庫、660円大阪圭吾『銀座幽霊』
創元推理文庫、660円

十月三十日
◎ブックマート市ヶ谷閉店
【ひとこと】二週間ほど前に、日販の「本やタウン」から、こんなメールが
来ていた。「千代田区のブックマート市ヶ谷は、都合により、本やタウンの
サテライト店としてはご利用いただけなくなります」。ひょっとして、経営
が苦しいのかと思っていたが、今日久しぶりに寄ってみると、店が閉まって
いて、「閉店します」というハリガミが。一九八一年開店だから、ちょうど
二十年経ったところだったのに。今年春、フジテレビのドキュメンタリー
「NONFIX」で、おばさんの店長が向かいにオープンした文教堂書店に
対して、「ああいう書店には負けたくない」と気炎を上げていたのを想いだ
す。品揃えがイイ店とは決して云えなかったが、仕事場に行く前や昼休みに
ちょっと覗いてみたい店だった。ああいう店が消えてしまうと、日常生活が
微妙に変わってくるので、悲しい。

今月の購入本 計54冊(減冊計画、翌月にして破綻。旅先では本を買うな)
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■「今日(こんにち)の芸術」/忘れっぽい天使
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その固い殻の内にあるものは?
  −鈴木志郎康詩集「胡桃ポインタ」(書肆山田)

  区分を引くことによって認識は生まれる。
  理解するということは、ある事象をある区分の中に置くということだろ
う。リドリー・スコットの映画「エイリアン」において、あのグロテスク
な怪物は最後の最後まで姿の全体を現さない。姿を完全に捉えられないと
いうことが「エイリアン」の恐怖の中心をなしている。その姿の全体の輪
郭が把握できた時、怪物は宇宙船から放出されることとなる。区分できな
かったものが区分の中に収められた時、恐怖はいったん休止する。

  しかし、その区分は絶対的なものだろうか? 外にある事象は認識とは独
立して存在する。常に認識の隙を潜り抜けてその思いがけない姿を現すし、
認識のほうだって負けてはいない。認識自体、生きている人間の脳が引き起
こす一種の生理作用のようなものと言えなくもない。幻覚という知覚作用だ
ってあるくらい。そして絶えず区分の線を引こうとする知性の力は、その対
象に自分自身の認識力をも加えてしまう。区分を引くことは、事象を整理す
るだけでなく、かえってある種の混乱を招き寄せることもするだろう。

  鈴木志郎康の新詩集『胡桃ポインタ』(書肆山田刊 3000円)は、そうした
混乱を故意に引き起こすことを楽しんでいる風である。人間の心の内側に備
わっているとされる「内面」を対象化してしげしげと眺めているかのよう。


刃物を持つと決めるのは、その人、つまり自分。
刃物を向けると決めるのは、その人、つまり自分。
その場に、ビデオカメラを持ち込もうと
思いついた、その人は、つまり撮ろうとする自分は、
未撮のテープが巻固めている時間と、
撮影された後の画像がほどいている時間との、
その間の、息づくすき間に、身を震わせた。
                          (「撮る人、つまり自分」より)

  自意識の問題が語られているが、自己に沈潜していくのでなく、「自分」
を「その人」と捉え直しつつ、つまり自己を外化しつつ語る方法がユニーク
だ。自分を器具のように咄嗟に持ち替えつつ語るのである。


ヒョッジーっていうのはさ、
隙間に割り込んで、
関係を切り裂いていくキャラクターの名前だ。
いま、わたしが発見したばかりの目に見えない活性体。
隙間を切り裂く剛腕のヒョッジー。
隙間に稲妻を走らせる磁力のヒョッジー。
そういうことを話していたのに、彼女は聞いてない、
そこに「隙間」ができた、ってわけ。
                            「ヒョッジー」より


  「ヒョッジー」と聞き取れた音が実体化しておかしな概念が歩き出してい
く。「隙間」を活性化する存在なんて誰も思いつきもしないことだが、思い
ついて言語化してしまったら、それは概念の世界の中の立派な実体だ。


「でも、周りには人がいて、物があって、イメージがあって、
ぎゅっと関係に取り込まれてしまって、
残念ながら、あっという間に、とは行かないのよ。
では、ぎゅっと迫ってくる関係の中で、
何もない、あっという間を、どうやったら、実現できるのか。
その関係を無化すればいいわけ」
                                    「箱と胡桃」より

  学生に講義した「人生論」の一部。中身が詰まっていると考えられる「人
生」を「無化」することを表現だと教えている。この詩は、胡桃のように中
身を閉ざして、閉ざしたものを「内面」として聖化する文学への批判を込め
ている。そして「空っぽ」であることの重要性をユーモラスに語っている。

  とても手短かには語りきれない詩集だが、ここでは「中」ということと
「外」ということが自明で固定的な関係ではないことが、繰り返し述べられ
ているように思える。例えば「内面」と言う時、人はそれを自己固有の本質
の詰まった絶対的な拠り所と考えがちだ。しかし、風邪をひいて体温が1,
2度上がっただけでものの感じ方は変わってしまう。「内面」は絶えず外と
の微妙な接触の具合によって不安定に、しかし弾むように現れる「現象」だ
と言うことはできないだろうか。そして個人を取り囲み、その宿命を規定す
るものと考えられている「外部」は、心の側から覗かれて始めて立ち現れる、
これも「現象」なのだ。自分以外のものに脅威や権威を認めてしまう「内面」
が「外部」を生み出す。

  この詩集のタイトルの「ポインタ」はコンピュータ用語で「データを格納
するメモリのアドレスとその中身を指す」のだという。「中身」は主体性の
唯一の依り所ではなく、取り出すことの可能な「仮の宿」。その存在性の曖
昧さが言葉の光に照らされて明確に浮かび上がってくる。情報が受信一辺倒
の状態から双方向的なものに変化してきた現在の、主体のとまどいぶりが鮮
やかに表現されている。
  詩集の装画は彫刻家海老塚耕一によるなんと手描き!
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■「書店を面白くするためノウハウ」/掩耳
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2)金太郎飴書店を止めるなんて、余りにも簡単なのです

前回までをちょっとおさらいしますと、
1)棚は。顧客から目的買いに使われやすい。
2)平積みは衝動買いに使われやすい。
という二点を両端にしおいた基準軸を仮定してみました。

今回は、それにさらに二つの要素をぶつけます。
それは、言わば、初心者にも探しやすいか否かという点。まず棚であれば、、
A)「目的買い用配列」――本の並びが、誰でも探せる50音順などの普遍
的な並びになっているのか(これが進化したのが、ネット書店における検索
機能でしょう)
B)「衝動買い用配列」――関連書などを組み合わせた、棚であればいわゆ
る今泉棚、そのジャンルに詳しい顧客に最適な棚
この二つを極点とした基準軸が考えられます。。
ちなみに、この「普遍的配列」と「関連本配列」、どちらも一長一短ありま
す。この点については下で追々明らかにしていきましょう。

さらに平積みであれば、
C)「他店と同じものを平積み」――新刊、ロングセラー、マスコミで大宣
伝している本、出版社さんお仕着せのフェアで棚を埋めるやり方。いわゆる
本好きには不評かもしれませんが、これはこれで一つのノウハウではありま
す。問題は、どこの書店もこればかりという現状でしょう。
D)「他店と違うものを平積み」――既刊、独自のフェアなどで極力棚を埋
めてしまうもの。普通の書店にないものが多いので、おっと衝動買いする可
能性が高まりますが、失敗する(自分の好みばっかりで平積み決めちゃうと
か)と大コケの可能性も大きいです(笑)

これらの軸を掛け合わせると、今ある書店のおおまかな分類が出来ます。

まず、
?)
●棚――衝動買い用配列、いわゆる今泉棚
●平積み――他店と違うものを平積み
これは実に楽しい本屋さんです。特に本やあるジャンルに知識がある人が行
けば、衝動買いしまくってしまうような店でしょう。ただし、マイナスとし
ては「この本ないかな」と思って、特に初心者が探しに行くと、全然探せず
に、未知の密林にでも迷ったかのような気分になること(笑)。また、関連
本配列は、往々にして担当者の頭の中の知識に頼って構成されているため、
担当者と同じ程度に優秀な人材を複数揃えないと、誰も本を探せないオソロ
シイ状態になりかねないことも言えるでしょう。
故にこの棚は、客層が絞りこめる立地で、一人ないし二人で管理が可能な中
小書店、および大書店の特定ジャンル(思想とか、文学とか)向けと言える
かもしれません。
そうそう、一つ、本が好きな人って、わりかし内省的なタイプが多かったり
するので、そもそも「店員に聞く」という行為自体あまり積極的でない場合
も多かったりします。その意味でもこのタイプの棚は、特に初心者が多い店
の場合は顧客を逃がしかねないし、今や書店が真っ先にやらなければならな
い「初心者を本好きに育てること」を放棄しかねない部分もでてきます。こ
こいらは、この棚のマイナス部分と言っていいでしょう。

?)
●棚――目的買い用配列、著者の五十音順など
●平済み――他の店と同じ、業界慣習通りの平積みのタイプ
これぞ、「金太郎飴書店」。どこにでもあるタイプの本屋さんです。この形
自体、別にいいことでも悪いことでもないのですが、問題はとにかく世間が
このタイプばかりなこと。この形は、まず既刊の掘り起こしがほぼ出来ませ
ん。例えば、十年前の本でも、今平積みにすれば売れるものは結構あったり
するのですが、それを発掘しようなどという気概は全く出ないタイプです。
また、独自フェアもほとんどやらないため、「あ、この本の関連書にこんな
のもあったんだ、ついでに買っちゃおう」という衝動買いも期待できません。
このタイプの衝動買いは、あくまで出版社さんの宣伝力と、マスコミの話題
に依存してしまう部分がほとんどです。長期的に見れば、これが蔓延し過ぎ
ると、「大金を使った大宣伝→ただそれを売るだけの書店」「本は長く売る
ものではなく、目先の新刊を売り継いでいくもの」という自店も業界もずぶ
ずぶに悪化していく可能性が高いコワーイ悪女かヒモ男のようなタイプなの
です。では、なぜこんなに席捲しちゃったのか? 
要は目先の効率がよく、リスクも少ないからです。経営者って「効率」の一
言には弱いですからねー(笑)。自分の目先の最大利益が全体を崩壊させる
――これ、ゲームの理論における「囚人のジレンマ」にちょいと似ていると
ころもあります。

?)
●棚――目的買い用配列
●平積み――他店と違う平積み
僕が書店にいたとき目指していたのは、このタイプの書店でした。棚と平積
みの機能が違う以上、それぞれで特化させちゃおうという発想。勤めていた
のが大型書店であり、初心者の方もたくさんいらしていたので、まずはそう
いう人にも本が探せるように、差し棚はつくる。でも、平積みはそのジャン
ルに詳しい人でも、新鮮な出会いがあるよう、衝動買いバンバンしてもらえ
るように凝ったフェアをするという感じ。
ただ、これは大型店だからできてしまう部分は、勿論ありました。一日百点
とか二百点とかいわれる新刊の量では、よほどスペースがない限り、新刊を
置くだけで平積みスペースのほとんどがなくなってしまうからです。
でもですね、ある程度の大きさの店だったら、結構無駄な平積み(前の月の
新刊がそのまま置いてあったり、出版社お仕着せのフェアがいつまでも置い
てあったり)って結構あるものです。それをきちんと整理すれば、案外オモ
ロイフェアは出来てしまうところもあります。僕自身中規模店にもいた経験
からそう思います、ハイ。ただ、今の出版状況の悪化が、精神的もの肉体的
にも書店員の方にそんな頑張りや余裕を許さないということもあるかもしれ
ませんが……

?)
●棚――目的買い用配列
●平積み――ほとんど無し、または棚と同化したような平積み
これは図書館や、ジュンク堂書店が近似のタイプですね。発想は簡単、出版
されてる本をなるべく多種類押し込んで、「ここに来れば探してる本が手に
入りますよー」というのを最大の売りにしようってお店。本はアイテム数、
新刊数ともに多すぎて、本好きな人なら、書店何軒探してもどこも置いてな
いっていう経験一度や二度はあると思うんだけど、そういう思いをさせない
ってことでスゴイ売りになるわけ。このタイプの問題点は、とにかくスペー
スが必要で、本屋を開店して続けていくには結構お金がかかっちゃうという
点。本屋は最終的な純利益がバブルのときでも1%ちょぼちょぼの超低収益
業態なうえ、このタイプのお店は売れない商品まで必然的に多く抱え込むこ
とになるので、下手をすると段々資金繰りが悪化して、デパートにおけるそ
ごうやマイカルのようになりかねない。意外や意外、リスキーな業態かもし
れないのです。
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■あとがき
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>今回は、バイト数がギリギリになっちゃたので、後書きはなしでーす。
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