| ■ なぜこれが売れない?読者の怨念3 |
2000.01.15.
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早川書房「ムハマド・ユヌス自伝」ムハマド・ユヌス&アラン・ジョリ
前回に引き続き、今回も早川です。個人的な主観ながら早川の単行本はなん となく草思社と方向が似ているような気がしますが、なんで草思社ほど売れ
ないんでしょうか。ミステリ・SFの会社だと思われているからでしょうか。 この本に限って言えば、表紙デザインがダサイ。せっかく裏表紙に魅力的な
ポートレートがあるのに、なんでこれを表紙にしなかったのか?どこかの黒 人モデルの本と比べたらセンスの差が歴然です。むちゃくちゃ損していると
思います。
で、内容はタイトル通りバングディッシュで貧困層に融資するグラミン銀行 の創業者の自伝です。無担保で年利二十パーセントの利子を取るグラミンは
、銀行と言っても実際は日本のサラ金に近い金融機関だと言えるでしょう。 それがこれまで誰もできなかった貧困の撲滅を達成しようというのだからぶ
っ飛びます。創業者ムハマド・ユヌスはもともと経済学者。しかも優秀な人 なんでしょう。経済学が貧困の撲滅に何の役にも立っていないことに苛立つ
人はマルクスなど過去にいなかったわけではありません。だが彼らは研究室 の外に出ることなく、後世の研究者から矛盾だらけと指摘される本を書くだ
けだった……もっともそれは理想と現実の狭間を埋めようとした「机上の苦 闘」の跡であり、その業績を否定はしません。例外はロバート・オーウェン
くらいかな。オーウェンはマルクスが批判した空想的社会主義者?冗談じゃ ない。オーウェンは自ら紡績工場を経営した実践家ですよ。マルクスは机上
で、オーウェンは現場で理想を実現しようと苦闘したのです。業績は別にお いて、どっちが人として偉いかは、言うまでもないでしょう。
ユヌスはオーウェンと同じく実践者として既存の経済学や銀行、国際援助機 関を痛烈に批判します。そして我々がグラミンに対して抱く呆けた常識的イ
メージや疑問をことごとく粉砕していくのが痛快。施しは無駄、銀行は踏み 倒す人間ばかりに金を貸している、国際援助機関は金持ちを潤すためにある
……借用証書の字すら読めない人に金を貸すことで一千二百万人を貧困から 救った常識外れのベンチャーバンカーは、いわゆる聖人君子ではありません
。必要とあらば政府や国連はもちろん固有の文化、要するに大衆までも敵に 回す百戦錬磨の戦士。暴力はもちろん使わないけども、現場に這いつくばっ
て貧困と対峙する姿勢は中岡哲郎の「工場の哲学」や福岡正信の自然農法の 技術論と同じもので、ちょっと普通の人では真似のできない執念のオーラが
ゆらゆらとする。しかし真に優秀な学者がもつ、ある種の狂気はかなり抑え て書かれており、その点は誰にも読みやすくなっているものの若干の迫力不
足を誘発していることは否めません。これは、共著者がいるところから察す るに、アラン・ジョリが意識してそう見えるように書いたんじゃないでしょ
うか。「女盗賊プーラン」のような肉声そのまんまの方が個人的には好みだ ったのに残念。あれは序文でいきなり泣かされたもんなぁ……。
ユヌスは経営者ですが、それでも学者です。書かなきゃならないことはみん な書いてあります。担保なし、年利二十パーセント、災害が多発する最貧国
の最貧困層の女性に融資してほぼ百パーセントの回収を達成している秘密も ちゃんと書いてあります。読者はグラミンのシステムの詳細を読み込むと、
冷徹かつ精緻な与信回収システムが機能していることに驚くでしょう。その 背景にある思想は決して博愛主義とは呼べません。何と言ったら良いのか…
…マザーテレサとヒトラーを一緒こたにしているというか、アムウェイと日 本共産党が合体したというか……確かにこんな男じゃないと、グラミンなん
かは作れないのかも知れません。
発売されて一年弱。本が出る前から、あちこちでグラミンやユヌスのことは 報道されていたと記憶しています。本が売れる機は熟していたはず。にもか
かわらず、いまだこの本は初版のままのようです。なぜなんでしょう。
初版を十万部くらい刷った?それはないでしょう。表紙がダサい?それはそ うですけど、それなら各社の新書なんて売れる訳ないじゃないですか。タイ
トルが悪い?うーん、ユヌスの知名度を高く見積もりすぎた可能性はないと はいえませんが、だったらプーラン・デヴィも売れるわけがない。値段が高
い?二段組350ページで2200円ですぜ。内容も1ページあたり字数もページ 数も少ない誰かの生き方本と比べたらコストパフォーマンスは比べ物になり
ません。自伝は内容に当たり外れが大きいので読者が警戒した?そうかも知 れないけど、これほど異色のビジネスマンはそういませんぜ……要するにさ
っぱり理由がわからない。特に金融業に携わっている人なら絶対読みたくな ると思うんですが……書店関係者の皆さん、「バングラディシュの商工ロー
ンはノーベル賞候補」なんてPOPでも作って平積みしてみません?
ああ、それで思い出した。ユヌスはノーベル平和賞の有力候補だという。な んで経済学賞の候補にならないんだろう。LTCMに大損させ、米国政府に
史上初めて投資信託に税金を投入させた学者は何の賞を貰ってましたっけ(笑 )。もはやノーベル賞は世界一の権威など、ないんでしょうな。世界一権威あ
る賞は何なのか、だれか教えて。
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