■現代思想の最前線 >第13回 Z・バウマンの最新刊『リキッド・モダニティ』をチェック


第13回 Z・バウマンの最新刊『リキッド・モダニティ』をチェック
2000.07.25.

日本ではあまり知られていないが、海外では有名、というような学者はあまた存在する。今回紹介するジグムント・バウマンもその一群に属すると言えよう。 多言語使用者であり、国境を越え、異郷で活躍している点などは、今世紀を象徴する知識人像の一典型としてみなされて良い。

ジグムント・バウマンは1925年ポーランド生まれの社会学者で、ワルシャワ大学、テルアビブ大学を経て現在はロンドンのリーズ大学で教鞭を執っている。 ワルシャワ大学およびリーズ大学の名誉教授。著書多数。邦訳には次の2点があるものの、残念ながら入手しやすいとは言えない。

『社会学の考え方:日常生活の成り立ちを探る』1993年10月刊、HBJ出版局、奥井智之=訳、isbn:4833750694、312頁、本体2718円(版元解散により現在 絶版。もったいないというか、くやしい)

『立法者と解釈者:モダニティ・ポストモダニティ・知識人』 1995年4月刊、昭和堂、向山恭一・ほか=訳、isbn:4812295084、336頁、本体価3300円(こちらも僅少になりつつあるとのこと。名シリーズ、テオレイン叢書の一冊)http://www.kyoto-gakujutsu.co.jp/showado/

バウマンは、ポストモダン社会についての多数の論考で知られているが、最新 著がこの4月に刊行された『リキッド・モダニティ』である。グローバリゼーションの進行にそって解体しゆく近代の価値観や思想の枠組みを「液状化」というタームで切り取り、分析していく快作。

Zygmunt Bauman "Liquid Modernity" April 2000, Polity Press isbn:0745624103, paperback, 228pages, $24.95-
※正確に言えば4月に刊行されたのはハードカヴァー版で、ペーパーバックは 7月に発売された。上記のISBN、ページ数、価格はペーパーバック版。ハードは高価なので、こちらをお奨めする。

グローバリゼーションにおける人/資本/情報の「移動」による、社会構造の 劇的な変容の記述や、公と私を再分節する試みであった、前作『グローバリゼーション:人間的諸帰結』1998年や、『政治を求めて』1999年(いずれもやはりポライティ社刊)で提出された諸問題を再整理し、総合しようとするのが本書『リキッド・モダニティ』である。

解放、個別性、時空間、労働、コミュニティ、といった5つのテーマに分けて、バウマンは現代における人間の諸条件を総括する。現実認識の実直さ、総合的判断への貪欲さ、そして探求への欲張り加減には目を見張るものがある。重々しく固定的なハード中心型近代から軽さと流動化のソフト中心型現代へ、という構図は一見さんざん使い古されてきたレトリックのように見えても、バウマ ンが跡づけるポストモダンへの移行説は、私たちの「現在」をあらためてとら えなおす際の重要な道筋となりうる説得力を帯びている。

要約ではなく、私的な感想・印象として追ってみると以下の通りになる。

私たちは科学技術と民主主義によって解放されはしたが、この解放によって徒手空拳のまま「自由」という空間に投げ出され宙吊りにされた私たちは、こんにち新たなヘゲモニーへと転落しつつある。人間の手を離れ肥大化した公と、 避けがたく蛸壺化していく私は、現代において表裏一体の現象であるが、そも そも個人的自由は、集団によってのみ保証されるものである。その集団はいま や高度情報化のさなかで時空間を認識する感覚自体の変容を蒙っている。労働 はもはや人間を生かす炎ではなくなり、新たな貧富の差は世界規模で広がるば かりだが、こうした現状においていかなるコミュニティが構想されうるのか。

なお、本作には随所に"life-politics"という術語が出てくるが、これは、フーコーやネグリらのいうバイオポリティクスとは異なる概念であり、例えばネグリでは多数性がその主体であるのに対して、バウマンのは個人個人が主体であり、まさにその意味で、lifeは生物学的「生」というより人間的「生活」を含意している。それぞれ政治を志向する上では似ていても、多数性と個という これらのアプローチは(交通不可能ではないにせよ)看過できない違いであろ う。

版元のポライティからは、この先も立て続けに近刊が予告されている。ほとんどの著書はこの出版社から刊行されている。本邦ではほとんど無名に近いバウマンだが、実際のところ実に多産で、精力的な学究活動が海外ではつとに知ら れている。発言に繰り返しが多いように感じる向きもなくはないが、どれか1冊は手にとっておくといいだろう。[2000年7月23日]

http://www.polity.co.uk/

Zygmunt Bauman "The Individualized Society" July 2000, Polity press isbn:0745625061, hardcover, 256pages, £50.00-

Zygmunt Bauman "Community : Seeking Safety in an Insecure World" January 2001, Polity Press, isbn:0745626343, hardcover, $54.95

文責:五月


■関連リンク集

・昭和堂 http://www.kyoto-gakujutsu.co.jp/showado/

http://www.polity.co.uk/

■関連記事

・現在のところありません。


▲[現代思想の最前線]に戻る
▲[バックナンバー一覧]に戻る

▲トップページへ戻る