| 第17回 Any会議終了後の建築論壇事情 |
2000.12.25.
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1991年から10年間続いた、建築と哲学を架橋する国際会議「Any」シリーズが、中枢であるNPO組織Anyone
Corporationの拠点であるニューヨークで、2000年 6月に開催された「Anything」をもって、終了した。20世紀における建築の理論と実践を21世紀に架橋し、新旧の世代交代を促す試みであるこの会議体は、清水建設をはじめとする各国の企業や団体からの投資と助成によって継続され
たもので、会議録は英語版はMITプレスから、日本語版はNTT出版から刊行されている。会議の変遷は次の通り。
http://www.anycorp.com/any2/conferences.html
第1回Anyone(91年ロサンジェルス)、第2回Anywhere(92年大分県湯布院、
空間の諸問題)、第3回Anyway(93年バルセロナ、方法の諸問題)、第4回
Anyplace(94年モントリオール、場所の諸問題)、第5回Anywise(95年ソウ
ル、知の諸問題)、第6回Anybody(96年ブエノスアイレス、建築的身体の諸
問題)、第7回Anyhow(97年ロッテルダム、実践の諸問題)、第8回Anytime
(98年アンカラ)、第9回Anymore(99年パリ)、第10回Anything(2000年
ニューヨーク)。
現在英語版が出ているのは、2000年8月に刊行された"Anymore"までで、日本語版の方は、2000年10月の『Anyhow』までである。会議開催から3年後ごと、英
語版から2年遅れで刊行されていくことを考えると、日本語版のAnyシリーズが 完結するのは2003年ということになろうか。MITプレスはだいたい初版分で売り
切って再版しないという姿勢だが、日本語版は既刊分も在庫が揃っている。書店では人文書と理工書ともどもにぜひ在庫しておいてほしい重要なシリーズである。もともと『批評空間』の臨時増刊号として福武書店から刊行された『Any
one』も、後にNTT出版が福武側の書籍部門からの撤退方針後のシリーズ刊行を 引き受けて、増補改訂版を刊行している。大方の読者なら見当がつくように、
この移行はAny会議の中心人物の一人であり、日本語版シリーズの監修を磯崎新 氏と協働している浅田彰氏の差配によるものだったろう。
日本版『Anyhow』には、特別座談会:「建築の解体」あるいは「二〇世紀建築 の死」と銘打たれ、磯崎新、浅田彰、隈研吾、五十嵐太郎の四氏による「Anyカ
ンファレンス全体あるいは90年代の建築の状況全体」の総括が収録されている が、刊行後間もない10月19日に新宿の紀伊國屋ホールでは、別の座談会「Anyシ
ンポジウム in Tokyo : 建築と哲学の未来」が、NTT出版及びNTTインターコミュ ニケーション・センター(ICC)の主催と、清水建設+メディアデザイン研究所
の協力で開催された。パネリストは磯崎新、浅田彰、石山修武、岡崎乾二郎、 柄谷行人の五氏。入場チケットが完売したというから、このところ苦戦を強いられていた紀伊國屋ホールとしては満足だった違いない。
http://www.ntticc.or.jp/event/any/index.html
さて今回の話題は、Any会議に関わってきた建築家や批評家の、会議以後の新刊近刊関連書のうち主要なものを、ざっと見ておこうというものである。分量が多くなるので、書誌情報は最小限に留め、概観したい。
重鎮から行こう。2000年11月にユニヴァース社から出た、ダニエル・リベスキンド(1946-)による"Daniel
Libeskind : The Space of Encounter"ISBN:07 89304961は、ジェフリー・キプニスが序文を書き、アンソニー・ヴィドラー
(ヴァイドラー?)があとがきを書いている。80年代に遡るテクスト、講演、 インタビューから2005年のプロジェクトまでを網羅し、彼の詩や書簡も収録。
リベスキンド関連書の決定版に数えられるだろう。一方、磯崎新(1931-)は20 00年10月に鹿島出版会から『人体の影:アントロポモルフィズム』ISBN:4306
093638を上梓、11月には王国社から『建築家のおくりもの』ISBN:4900456802 を刊行した。いずれも新聞・雑誌などの各媒体に既出の論考をまとめた評論集
である。
レム・コールハース(1944-)については建築雑誌『a+u(建築と都市)』がOMA
特集の臨時増刊号を2000年5月に刊行し(ISBN:4900211532)、多数の図版で19
72年から2000年までの仕事を総括した。1995年の問題作『S,M,L,XL』も『錯乱
のニューヨーク』に続いて筑摩書房から刊行されるというから楽しみだ。問題
作といえば、コールハースと同年生まれのベルナール・チュミ(1944-)が、つ
いに"Event-Cities 2"ISBN:0262700743を、2000年12月にMITプレスから刊行
した。1994年の第一作目からこのかた、ニューヨークとパリの事務所を拠点に
目覚しい活躍をしてきた彼の変遷譜が、690頁を超える大冊に集約されている。
Any会議でも活躍した、重鎮に続く世代の評論家に目を向けてみよう。ジョナ
サン・クレーリーとともに雑誌『Zone』の編集にたずさわっているサンフォー
ド・クウィンターは、彼の建築論の成果をいよいよまとめる時が来たようだ。
"Architectures of Time : Toward a Theory of 'the Event' in Modernist
Culture"ISBN:0262112604が、MITプレスから2001年の6月に刊行される予定
である。同じく建築評論の新世代ジェフリー・キプニスの方は、本職の編集
作業が多忙らしく、2001年1月にはギャヴィン・キーニーやジョン・ディクス
ン・ハントらとともにスイスのビルクホイザー社から"On the Nature of
Things"ISBN:3764361921を予定し、翌2月にはトム・メインやトッド・ギャ
ノンらと編んだ"Morphosis/Diamond Ranch High School : Source Books
in Architecture"をモナセリ・プレスより出版するとのこと。
会議において理論的支柱のひとつとなったと言っていいかもしれないジョン・ ライクマンは、1997年の『諸構築』MITプレスで建築理論に、『襞』などの後期ドゥルーズ思想を援用した後、2000年の10月には120頁のコンパクトな新著
"The Deleuze Connections"ISBN: 026268120XをやはりMITプレスから上梓 した。これは建築書ではなく、ドゥルーズ哲学をこんにちのアカデミズムの
最新動向から評価しなおした研究書だ。理論的支柱と言う意味では、Anyone コーポレーションはMITプレスと組んで、シリーズ「建築を書く」を刊行して
おり、ライクマンの先の『諸構築』もそこに含まれるし、柄谷行人の『隠喩としての建築』の英語版(1995年)を第一弾として、イグナシ・デ・ソラ=モラレスの『諸差異』(1996年)なども出版されている。
このシリーズの2001年以後の新刊予定には、エリザベス・グロスの『ヴァーチャル・アーキテクチャーズ』、ラファエル・モネオ『七つの講演』、アンドリュー・ベンジャミン『諸表層』、Any会議の主幹ピーター・アイゼンマンの
『インテリオリティ』、磯崎新の『建築において書く』などが予告されている。 なお、会議運営のひとつの財源となった1993年5月創刊の隔月刊雑誌『Any』は今も刊行されている。日本ではお目にかからない雑誌だが、目次や購入方法な
どについては http://www.anycorp.com/
をご覧になっていただきたい。
世紀を掛け渡すという初期目的において、Any会議はおそらくこの先10年後に も示唆を与えうるような問題群を提示した、という功績によって記憶されるだ
ろう。それは世代交代を促すという会議のもうひとつの目的よりはるかに重要である。この10年の歩みの中で世代交代はつまり失敗したが、交代しうるほど
の懸隔を挟んだ未来世代は実は存在せず、大きな時代の潮流の中で別々のこと を考えている個々人がそこにいたということを、早晩誰かが気付くのだろうと
思う。そして私たちはAnyを別のかたちで繰り返すのだ。[2000年12月24日]
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