| 第20回 サイード、批評の王座はいよいよ荘厳される |
2001.3.25.
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ため息である。この活躍ぶり、この影響力。前世紀末アメリカを代表する論客、それは間違いなくエドワード・サイード(1935-)その人であり、彼でしかもは
やありえないのではないか。このコーナーでも原著発売直後に取り上げた自伝『アウト・オヴ・プレイス』1999年クノップフ社が、早くもみすず書房から邦
訳版『遠い場所の記憶 自伝』として日本語でも読めるようになった。翻訳はかつて、バーサミアンによるサイードのインタビュー集『ペンと剣』1998年ク
レイン刊を担当した中野真紀子さん。更にみすず書房からは『文化と帝国主義』の下巻が近刊であることを小誌の読者ならご存知だろう。
そうした邦訳の充実がいっそうその活躍ぶりの輪郭を際立たせているのだが、病身にもかかわらずサイードの論文を目にする機会は最近多くなっているし、
サイードを論じた文章も多い。もちろんそれらはこれまで書き溜められてきたものなのであって、批評界の王座は、倦むことのない執筆に続く執筆、ペンに
よる闘争に次ぐ闘争という堅固な礎石の上にそびえている。早速今年(2001年)に入ってから刊行されたものと、続刊予定を紹介しよう。
2月に刊行された『亡命についての省察とその他エッセイ集』ハーヴァード大学出版は、枕のような分厚い論文集で、表題作「亡命についての省察」と合わ
せ、文化論・文学論46篇を収める。メルヴィル、コンラッド、ヘミングウェイ、シオラン、ジョージ・オーウェルら文学者のほか、ヴィーコ、ニーチェ、グラ
ムシ、アドルノ、ルカーチ、レイモンド・ウィリアムズ、ロラン・バルト、フーコーら思想家を論じ、グールドやブーレーズなど音楽家や映画をめぐるエッ
セイもある。多彩な関心領域はサイードのこれまでの足跡をあとづけるものであり、先に出た自伝と対を成す一巻である。
"Reflections on Exile and Other Essays" by Edward W. Said,
February 2001, Harvard University Press, Hardcover, 576 pages,
$35.00, ISBN: 0674003020
さて、パレスチナ和平をめぐる書籍に、あとがきと序言を寄せたものが各一点ずつある。あとがきは、2月に刊行されたユージン・ローガンら編纂による『パ
レスチナ戦争:1948年の歴史を書き直す』ケンブリッジ大学出版の「中東研究叢書」第15巻に付されたものだ。
"The War for Paletine : Rewriting the History of 1948" edited
by
Eugene L. Rogan, Avi Shlaim, afterword by Edward W. Said,
February
2001, Cambridge University Press, Hardcover, 248 pages.
現在上記ハードカヴァー版が入手可能だが、5月には廉価版のペーパーバックも出るので、価格とISBNはそちらを記しておこう。Paperback,
$19.95, ISBN: 0521794765
序言を寄せるのは、ジャーナリスト系漫画家(と言っていいのだろうか)であるジョー・サッコが1996年のアメリカン・ブック・アワードを獲得した『パレ
スチナ』の新版に対してで、ファンタグラフィックス社から来たる5月に刊行予定だ。
"Palestine" by Joe Sacco, Introduction by Edward Said, May
2001,
Fantagraphics Books, Paperback, 288 pages, $24.95, ISBN: 156097432X
さらにベイルート生まれ、ロンドン在住のパレスチナ人女性アーティスト、モナ・ハトゥムがイギリスのテイト・ギャラリーのために作成した新作3点に向
けてコメントしたものと思われる(現物未入手)、『モナ・ハトゥム:世界はこれすべて異郷の地なり』というパンフレットが3月に発売されている。キュ
レーターはシーナ・ワグスタッフ。
"Mona Hatoum : The Entire World As a Foreign Land" by Edward
W. Said,
Sheena Wagstaff, March 2001, University of Washington Press,
Paperback, 40 pages, $19.95, ISBN: 1854373269
サイード論としては、ビル・アシュクロフト(著書『ポストコロニアルの文学』青土社が既刊)らによる、『エドワード・サイード』(ラウトレッジ社の批評
思想家シリーズ)の第二版が3月に出た。サイードのキイ概念を簡明に解説したコンパクトな入門書だ。そしてなにより極めつけと言うべきなのが、そのひ
と月前の2月(先月)に出たパトリック・ウィリアムズ編『エドワード・サイード』セージ出版社である。全4巻箱入で1664頁、消費税を加算すると13万円
(778.50ドル)を超える、堂々たる研究論文選集だ。
第一部「知識人と批評:立場と論争」にアイジャズ・アハマドやマイケル・スプリンカー、アシュクロフトほかによる16篇、第二部「『オリエンタリズム』
論」にはジェイムズ・クリフォードやギヤン・プラカシュほかによる18篇、第三部「文化の様々なかたち、学問的諸境界」にはリサ・ロウやリンゼイ・ウォ
ーターズほかによる23篇、第四部「理論と政治」にはホミ・バーバやヘイドン・ホワイトほかによる22篇が収録されている。まさに一大コルプスだ。国内の洋
書店で配布していたパンフレットにも「文芸批評、カルチュラル・スタディーズ、人種・民族問題、社会学、人類学、政治学などへのサイードの寄与と影響
を評価するために不可欠の資料を提供する」とある。なるほど確かにそうかもしれない。セージ出版社の「現代社会思想の巨人たち」シリーズから刊行され
たそれは、否応なくサイードの地位を私たちに認識させるものだ。
"Edward Said" 4 volumes, edited by Patrick Williams, February
2001,
Sage Publications, Hardcovewr, 1664 total pages, ISBN: 0761969802
上記論文集にも貢献しているホミ・バーバは、まだ当分先だが、ポリティ出版社から来年5月に『エドワード・サイードとオリエンタリズム』という書籍を
刊行する予定。バーバの立場からして苛烈な論争の書となる予感がする。
"Edward Said and Orientalism" by Homi K. Bhabha, 31th May
2002,
Polity Press, Hardback, ISBN: 0745608175
このほかバーバ自身は長くかかっている『ファノン・リーダー』をブラックウェルから間もなく公刊し、主著『文化の場所』も某版元から今年中には邦訳刊行
されるだろう。
最後にサイードのインタビュー集の近刊2点をご紹介したい。
まず6月にミシシッピ大学出版から「著名知識人インタビュー」シリーズの一冊として『エドワード・サイードへのインタビュー』が刊行予定。
"Interviews With Edward W. Said" by Edward W. Said,
edited by Amritjit Singh and Bruce G. Johnson, June 2001,
University
Press of Mississippi, Paperback, 224pages, $18.00, ISBN: 1578063663
そして8月には、大手のクノップフ社から『権力・政治・文化:エドワード・サイードへのインタビュー』が近刊予定されている。
"Power, Politics, and Culture : Interviews With Edward W.
Said"
by Edward W. Said, Gauri Viswanathan, August 2001, Knopf,
Hardcover,
$25.00, ISBN: 0375421076
いずれの編者やインタビュワーもポストコロニアル研究の気鋭の思想家である。サイードの著書はこれまでも比較的に積極的に邦訳されてきた方だが、細かい
インタビューや小論なども含めると、日本人にとってはまだまだ未聞の多くのテクストが残されていると言っていいだろう。ここ数年のサイードの動向には
刮目せずにおれまい。同時代人として彼の息と魂魄をまた自分も呼吸しようとすること、それがどれほどの特権なのかがわかるのは、彼のやがて来たるべき
死後のみなのであるから。[2001年3月24日]
付記―――――――――――
前回のドゥルーズ=ガタリ特集記事の記事について、杉村昌昭様から誤記の指摘を頂戴しました。謹んでお詫びし、訂正します。フランソワ・トスケル
と書いたのは、フランソワ・パンの誤りでした。詳しくは小誌HPのバックナンバーで訂正の上、付記いたします。杉村先生、ありがとうございました。
また、記事で取り上げたギャリー・ジェノスコ氏本人に問い合わせていたプロフィール情報が届きましたので、併せて近日中にアップロードいたします。
前回は記事中に一部文字化け(英数字が?に)もあり、そちらも訂正いたします。なお、ドゥルーズとガタリそれぞれの単行本(原著および邦訳)リストを作成済みですが、こちらはご要望があればアップいたします。
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