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第17回 メディアとアートの関係は? −「ゲイリー・ヒル 幻想空間体験展」と船渡川由夏写真展
2000.10.15.

先日、原宿のワタリウム美術館で「ゲイリー・ヒル 幻想空間体験展」を見た。ヒル氏は70年代から活躍している「メディア・アートの第一人者」だという。展示は三部構成から成り、いずれも暗くした会場の中でビデオ・インスタレーション作品を光らせるという形式で、鑑賞者に日常とは異質な空間を体験してもらうことを狙っている。(来年の1/14まで開催。会期 中何度でも入場可のパスポート・チケット制)。

一つめの作品は暗闇の遠方から少女が歩いてくる、というもの。少女は何やら不思議な叫び声をあげながら近づいてきて、しまいには顔が大きくクローズ・アップされる。その動物めいた表情と声が印象的。二つめの作品は、ヒル氏自身が、叫びながら激しく壁に体を打ちつけ続ける、というもの。ヒル氏が発する言葉の翻訳がパンフレットに載っているが、「抽象的かつ哲学的」な内容だ。三つめの作品は、机に向かっている人の両腕と後頭部にカメラをとりつけ、動作を三方向から追うというもの。文字を書くとか紙飛行機を折るといった何気ない動作が思いがけない角度から見られる。いずれも「孤独感」というものを感じさせる。

正直言って面白くないことはないが、格別刺激を受けた、という感じはしなかった。パンフレットには「あなたは作品の一部となって、もはや作品を外から『眺める』ことはできません」とあるが、まさにその「作品の一部に させられてしまう」恐怖感に乏しいのだ。どの作品も、一目見ただけで作者が自己表現の基盤としているものがあっけなく見透かせてしまう。つまり、比喩されるもの(ヒル氏の場合は“不安な心的状態”)が、鑑賞者にとって自明すぎる心理主義の図式を踏襲しきっているために、外見がいかに新しそうに見えようと、スリルを覚えるに至らないのである(だからといってヒル氏の作品の完成度が低いなどということはないのでお間違えなく)。

ヒル氏の作品に限らず、いわゆる「メディア・アート」と呼ばれる作品に 接してぼくは今まで何度となく失望してきた。その理由は、「メディア」が 単に新しい「手段」として捉えられるばかりで、新しい「鑑賞者との関係・コミュニケーション」を志向するものとしては捉えられていないからだ。 どんな美術作品にも、それを見るための「ストーリー」が存在する。純粋 な視覚上の「美」などあり得ない。複雑な社会関係の網の目が視覚体験の「 意味」を決定していく。「メディア・アート」は特に、それを見ることでどの鑑賞者の心の中にも、彼(女)が体験していてなおかつ忘れ去っていたところの社会的・身体的関係の記憶を、鮮烈に呼び覚ますことを目指さなくて はならないのではないだろうか。ヒル氏の作品は、それなりに強烈なストーリーの上に組み立てられているように一見思えるけれど、実は自明な心理ドラマを新しい手段でなぞり返しているに過ぎない気がしてしまう。


その日はもう一つ展覧会を見に行った。歴史ある写真専門のギャラリー Mole(四谷)が今月で展示活動をやめるというので、その最後の写真展を覗くことにしたのだ。
そこでやっていたのは、若い写真家船渡川由夏の個展「少年と、少女のためのノート」。少年と少女、と言うには幼すぎる児童たちが被写体。船渡川 はどの子にも取ることのできるぎりぎりの近い距離でカメラを向ける。その 「近い距離」とは物理的な距離をさすだけでなく、心理的距離をもさす。どの子もカメラを向けてくる「おねえちゃん」に対し、無邪気な笑顔を向けた り、仏頂面をしたり、恥ずかしそうにそっぽ向いたり、千差万別の個性的なポーズを取る。ここに写されているのは、一人の若い女性(撮影者)と通りすがりの子どもたち(被写体)との関係性そのものであろう。個々の子ども たちの表情を超えたものが写っているのである。若い、といっても「大人」の年齢に達した船渡川が、カメラを武器に子どもたちに真正面からぶつかり 合い、その衝突から零れてきた子どもたちの様々な感情の噴出の中に「大人以前」だった頃の自分の心の有り様を見つめようとしたのではないか。彼女の写真作品は何の衒いもないごくシンプルなものだけれど、自分の中に眠っていた感情と再度の出会いを果たすことのできた複雑な感動が漲っている。シャッターのひと押しの瞬間に、笑顔と笑顔が、しかめ面としかめ面が、撮影者の内と外とで火花を散らし合うー。
このような、心理主義の図式に収まらない関係の特別性を鑑賞者にそのまま伝えられる作品の方を、むしろ「メディア・アート」と呼びたい気持ちがしてしまうのである。

文責:忘れっぽい天使


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