| ■韓国でアントニオ・ネグリはなぜ読まれているのか? |
2000.05.10.
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韓国の出版社「ガルムリ」をご存知だろうか。漢字になおすと「哀巷軒」 になる。いわゆる「ニューレフト・レビュー」系社会科学書を多数出版しており、アウトノミア及びサパティスタ関連書に力を入れている。中でも アントニオ・ネグリは特に大きな存在のようだ。
ガルムリをひとつの拠点として活躍している人物に、イ・ウォンヤン氏 Lee Won Youngがいる。氏は韓国におけるネグリ評価の中心人物の一人であり、私は過日、ネグリとハートの新刊である『帝国』が韓国でどう受けとめられているか取材を申し入れてみた。残念ながら氏は多忙のようで、回答を得ていないのだが、ガルムリのホームページ上で公開されている氏の論文「韓国における『マルクスを超えるマルクス』の重要性」を読めばだいたい大まかな背景は読める。
氏の論文は、98年4月の『マルクスを超えるマルクス』の再刊に寄せられたもので、ネグリの著書は韓国ではまず『転覆の政治学』が91年9月に翻訳刊行され、ソ連解体後の94年8月に出版された『マルクスを超えるマルクス』は2番目の翻訳となる。氏によれば、この書物の重要性と背景とは、以下の通りである。
レーニン主義と、北朝鮮の社会主義的な主体(チュチェ)思想は、党組織の陶冶を第一の急務としており、それらは80年代韓国における革命運動の二つの枢軸だった。しかしソ連解体と北朝鮮の孤立が、韓国の多くの活動家と左翼知識人を絶望させ、まだ未成熟で弱体な韓国のマルクス主義はさらに、輸入された様々なポストモダン思想によって手厳しく攻撃された。
『マルクスを超えるマルクス』はそうした難局を突破する新たな方途を示した。それは内在的コミュニズムという回路だった。革命運動はなにもソ連や北朝鮮や韓国の党組織がなくとも進みうるし、進めるべきだ、という考え方が多くの活動家を勇気づけた。社会主義および社会主義者の転向に対するマルクスの批判は、労働者階級の自律的運動による階級闘争を考える上で、新たな展望を示唆してくれる。『マルクスを超えるマルクス』は、マルクス主義を放棄することなくポストモダン思想やポスト構造主義の力を吸収する基盤を与えてくれた。
韓国におけるマルクス主義はいまだに脆弱ではあるが、自律的(オートノマス)な思惟と運動はどんどん力をつけてきている。こうした状況は『マルクスを超えるマルクス』抜きでは考えられなかったことだ……。
http://galmuri.co.kr/liwy/article/mbmhardt.htm
こんにち韓国や日本で高まりつつある、ネグリ読解を伴うある種の潮流をどう表現したらいいだろう。ニューレフト? マルクス主義? プロレタリアート? しかし、私たちがいま受け取っているもの、また、手探りしている場は、旧来のストリームに様々な要素が流れ込み、いわば洗われてきたハイブリッドな状況とは言えまいか。
「こんにち、アメリカのイデオローグたちにとって、たったひとつの統一的な敵を名指すことはますます難しくなっている。たったひとつの敵ではなくむしろ、つかみ所のない少数の敵たちがいたるところに存在している、といったところだ。近代の危機の終焉は、目立たない不確定な数々の危機の増殖をもたらしている。あるいは私たちはその危機を、全般的災厄(オムニクライシス)と呼びたい」(『帝国』189頁)
たしかこれと似た記述を読んだことがある。それが、アフリカ解放の志士クワメ・エンクルマの言葉だと気付いた。「新興諸国の諸問題に対して外国の干渉を止めさせるためには、新植民地主義がいかなる装いであらわれようとも、それを研究し、理解し、暴露し、そしてそれと積極的に戦うことが必要である。なぜなら新植民地主義者の手段はとらえがたく、また多種多様であるからである。彼らは経済の領域のみならず、政治、宗教、イデオロギーおよび文化の領域においても活動している」(『新植民地主義』 242頁)
時々刻々、先行するものとの差異をはらみあるいは発現しつつ、全地上で反復し続けようとする何か。それらの全般的災厄から引きこもらずに現実と対峙するためには、いかなる勇気が必要であるか。[記:2000年5月9日]
★文献
"Marx oltre Marx" Nuova Edizione, Antonio Negri, 1998,
Manifestolibri, ISBN:88-7285-146-7, L.28.000-
"Marx beyond Marx : Lessons on the Grundrisse" 1991,
Autonomedia, ISBN:0-936756-25-X, £9.95-
"Empire" Michael Hardt & Antonio Negri, 2000,
Harvard University Press, ISBN:0-674-25121-0, $35.00-
http://www.barnesandnoble.com/community/archive/ transcript.asp?userid=648N9UDMD6&srefer=&eventId=2179
↑必見!バーンズ・アンド・ノーブルのウェブページ上で『帝国』をめぐり交わされた2000年5月1日のチャットのトランスクリプション!ネグリやハートが全世界の読者と交わしたライヴなやりとりを閲覧できる。
『新植民地主義:帝国主義の最終段階』クワメ・エンクルマ=著、家正治 +松井芳郎=訳、1971年、理論社、絶版
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