| 第5回 『書店での万引きについて』
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1999.10.15.
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書店の集まりに顔を出すと、必ずと言っていいほど話題になることがある。 特に棚卸が終わった翌月は、その話で会がはじまる。「いやー、久しぶりで
す。どうでした棚卸?」ってなぐあいに。
ここ数年書店の棚不足率【あるべき在庫高から実際の在庫高を引いて、その 会計期間の総売上で割るもの】が高くなっていると聞く。棚不足が大きくて
利益が吹っ飛んだという話は良く聞くことである。売っても売ってもザルで 水・・・。通常、棚不足率が1%〜1.5%が「まあまあ」、1%以下が、
「お、いいね」、1.5〜2.0%が「危ないね」、2%〜が「そりゃ、い かん。他に行く?」と言われるようである。
この「あるべき在庫」が実際「ない」ことには、いくつかの理由が考えられ る。
1、伝票管理処理の問題
2、入荷・返品時の現物と伝票の誤差
3、販売時の金銭受渡し、レジ打刻誤差
4、万引きによる損失・・・が主な理由か。
上記123は内部的な作業分析である程度は対処できるものである。
最近ではPOSシステム・商品管理システム導入などで人為的ミスは排除さ れる方向にあり、その精度は極めて高い。しかし、「万引き」の対処には依
然難しいものがある。
確かに、万引き防止策で鏡やカメラを付けている書店は多くある。
また、本にタグらしいものをつけて出口でセンサーに反応して「ピー」とか 「ブー」とか鳴る、レコード屋でお馴染みのシステムを導入する本屋も出は
じめたが、書店の利益からその設備投資のお金をひねり出すのは大変であろ う。しかも、入荷した本にタグを付け、返品時には外さなければならないの
で、それに係わる労力・経費は相当のものと考えられる。
経費対効果を考えると、経営側は現場のマンパワーに頼らざるを得ないのも 現実である。
書店だけでなく図書館でも同様のことが起こっているという。私の通う図書 館も年間4,000冊の本が無くなっているとのこと。たまりかね、埋め込
み式のタグを一冊40円で付け始め対応している。よく見ると電気スタンド や持って帰れそうな備品にまでタグが付けてある。万引きで潰れた図書館も
あると聞き驚く。他の小売の現場はどうなんでしょう?
多くの書店が「万引き」に対して他の業種にくらべあまりに無防備なのは外 から見ると良く分かる。書店て出入り口はいっぱいあるしトイレもある。最
近は流行りか椅子はあるし喫茶店に持込みOKの書店まで出現している。本 は小さく持ちやすい、単価もそう高くない、タグも付いてない。人件費の削
減で売場の頭数は減らされ、店員はレジ以外には見かけない書店も、多くあ る。じっくり選んで「持ってかえる」その筋の人達には良い環境が整いつつ
ある。
無防備な本屋で、万が一に捕まる「万引き」もいる。
何十人も相手にしてると色々な人がいる。謝る、しゃべりまくる、泣く、黙 り込む、暴れる、怒る・・・。反応によってこちらの対応も自ずから変わっ
てくる。
が、基本は感情的・威圧的にならないこと。明らかに弱い立場にある人に感 情的、威圧的態度で接しても何の解決にもならない。かえってお互いキツク
なるだけである。冷静に事を運ぶのが有効と思われる。
以前、捕まえた変な「万引き」に長々と話をしたことがある。
「鏡はアンタも見えるかもしれないけど、こっちも良く見えるんだよね。 カメラなんてオモチャと同じ。私等プロは店員別に休日や勤務時間、食事、
休憩の時間まで知ってるよ。本屋で捕まるなんてアホだね」と言う。
「アンタ捕まったんだよ」と言うと「バカヤロウ、捕まってやったんだよ」 「何で?」「もう、60超えてこんな生活嫌になったからね」「ふーん」
「ところで、盗った本どこに持ってくの、売るんでしょ。」「当たり前なこ と聞くな」「ルートはあるの?」「無きゃ仕事にならないでしょ」「仕事な
の?」「当たり前だ」「ルート教えてよ」「駄目だ、仲間に迷惑がかかる」 「そうですか」「じゃ、うちの店にもう来ないでね」「牢屋に入るからもう
来ない」「仲間にも来ないように言っといて」「バカヤロウ、牢屋に入るっ て言ってんだろ。言えるわけ無いじゃないか、考えろバカヤロウ」「また、
すぐ出てくるかもしれないじゃん」「バカヤロウ俺は前科七犯だぞ。もう出 てこれないのはわかってる」「前科七犯?」8回も捕まってるんじゃないか
と言おうとしたが、恐くなって言わなかった。警官が来て連れて行かれる時 「おい、バカヤロウ、元気でな」と言った。どういう意味だ。
またある時、事務所に入ると50前後のスーツ姿のこざっぱりした男が5冊 の高額本を前にして座っていた。
ガードマンから簡単な状況説明を聞き「警察、呼んでありますから来るまで お願いします」と言い残し、そのガードマンは出て行った。事務所に残った
のは、男と私の2人だけである。。微妙な緊張感の中、男の正面の椅子に座 る。5冊の本を見ながら「認めるんですね」と聞くと「ああ、認める」「謝
る気はないのか?」と聞くと「ない!」と言う。表情がなく、その目は普通 ではない。そういう人には、こちらも何も言わず黙って、警察が来るまで
「気」の勝負になるのである。
そっと眼鏡をはずしジャケットのポケットに入れジャケットを脱ぐ。いつ暴 れだし殴られるかわからないからね。目を合せずそらさず、緊張感を持ちな
がら何も話さず微動だにせず、警察が来るまでの時間をお互い共有するわけ である。15〜20分の静寂の後、扉が開き、若い警官2名が事務所に入っ
て来る。1人の警官が向い合って座っている私と男を交互に睨み付け「君か ?」とポンと私の肩を叩いた。「ち、違う!俺じゃない」。その時、はじめ
て男の唇がニッと歪んだ。
また、警察に呼ばれたこともある。閉店間際の午後8時、近くの雑貨店で 「万引き」を捕まえたら、おたくで盗った本もあると言うので確認して欲し
いという。「また、遅くなるなぁ」と思いながら警察署に行く。
若い男の前に15〜16点の雑貨・薬・本が並べてある。本はコミックが3 冊。警官が「この本はおたくの本ですか?」と聞くので「本人がそう言って
るんだったらそうでしょう」と答える。「良く見てください。おたくのです か?」「断定はできない」と答える。「スリップが入ったままだから万引き
したものだと考えられますが、私の店のものとは断定できません」と言う。 「確認のためにお越し頂いたのですが・・」「どこの本屋でも売ってるもの
ですから断定はできません」「本人がそう言うんだから信じましょう」と言 う。「仕入証明書のようなものはありますか?」と聞くので「納品書という
ものはあるが、探すのに2〜3ヶ月かかります。」
「それでは困るんですよ」と言うので「私も困りますね。面倒だから、うち のでは無いと言いましょうか?」「でも、うちの本では無いという断定もで
きませんが」
別室に呼ばれ「商品管理をもう少しちゃんとやって下さい」と言われた。 説明がやっかいだから、「ハーイ」と言って帰った。夜11時をまわってい
た。
後日、3冊の本が警察から届き、売場経由で返品に廻された。
脱線が長くなりました。元に戻します。
書店の多くは「売上不振対策」と「棚不足対策」の大きな2本柱への対応を より一層強いられている。書店の荒利益は22%〜23%といわれている。
その荒利益で人件費をはじめとする営業諸経費をまかなうわけである。
1冊本を持っていかれると4冊売って利益はやっとトントンになる。
「売上高対営業利益率」は1987年は0.3%、10年後の1997年は 0.04%と低下している。1,000万円で4,000円の利益というこ
とになり、書店業の苦しさは一目瞭然。(書店員の給料の安さは目指せ標準 生計費のレベルがほとんど)。
社としての経常利益を見ても、この「本のメルマガ6号」でお伝えした通り の数字。他業種との経常利益率比較は時期をみて詳細します。
じゃ、「万引きされた本」はどこに行くのでしょう?
「万引き」人の書棚に眠っているか、古本屋に「お金」目当てで売られてい くかのどちらかであると推測できる。暇に任せて古本屋を廻ると「あるぜ」
と思わせる本が目に付く。発売されて何日も経ってない高額本がある。
「美本」とシールが貼ってあったり、中にはスリップの入ったままの本まで ある。
古本屋が現金買いで安くして売るということも聞くが、そのような対象にな り得ない本がピカピカで売られている。
もっと驚くのは、茶紙でまかれたままの5冊梱包がいくつもある。
茶紙の梱包は「万引き」ではないと考えられるので、別ルートが考えられる が、嫌な「噂」を耳にするのでここでは書きません。
某古本屋でド新刊を手に取り「早いですね。どんな人が売りに来るのですか ?」と聞くと、露骨に嫌な顔をされた。なぜ?。
過日、古本屋の出店時の新聞インタビューで「周りの新刊本屋が万引きが増 えるのではないかと懸念しているが・・」の質問に「買い取り時には証明書
の提示、もしくは氏名・住所等を書いてもらっており、定価の一割くらいの 買い取り額だから危険をおかしてまで・・・。新刊本屋に迷惑をかけること
はないと考えている。」とある。一方『新文化』99/8/5号には、神奈 川県書店商業組合が、青少年の健全育成のためにと古書買い取りに対する4
項目の行政指導を知事あてに要請したとある。
他の古本屋に本を売りにいくと、証明書の提示を要求されるところや氏名・ 住所を書かされるところ、何もなく買ってくれるところと店によって違い、
その統一はないようである。
古物営業法も数年前に緩和され、以前より売りやすく買いやすくなったと聞 く。
古本屋全部が万引きに荷担していると言ってるわけではない。古本屋の一部 が「その筋」とかなり近い関係にあるのではないかと言っているのである。
また、別枠で茶紙梱包が入るようなルートもあるはずである。
一読者として新刊が定価より安く手に入るのはうれしいことである。ただ、 疑問を持たせるような入手経路を経て売られている「本」があることは間違
いはなく、扱う方もそれと気がつかないはずがない。
読んだ形跡の無い美本、スリップが入ったままの美本、茶紙梱包の本。
当然、正当な理由があり、結果として本の売場があると思いたい。
本に関係・扱う者として一読者を内容以外で裏切るのはやめてもらいたい。
当然のように再販制度維持・撤廃以前の問題ですね。
都心の新刊本屋の新刊台に積んである本が、郊外の古本屋の奥にスリップ入 りの美本、茶紙梱包のまま放置、売られているのが現状である。
おしまい。
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