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2000.6.20.発行 vol.2 [ああ今夜も眠る前に 号]
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■「暗記しちゃうほど、読み返した本」 畠中理恵子(書店店長)
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「犬が星みた−ロシア旅行」武田百合子著 中公文庫
−武田百合子。
武田泰淳(いわずと知れた大作家)の妻、
武田花(写真家)の母。
彼女のファンは多いと思う。
かくゆう私もその一人。
「富士日記」も勿論素敵だが
本書はとにかくすばらしい。
百合子さんの自然体なのびやかな感性が
旧ソ連の素朴な国のなかで人のなかで
気持ちよく手足を伸ばしているのだ。
本書は、
夫泰淳と、その友人の竹内好(大中国文学者)といっしょに
’69年に旅したロシアの旅行記だ。
ハバロフスク号で横浜から出航。
初めての夫との海外旅行。
泰淳と竹内は
大はしゃぎでお酒三昧。
それを窘めるでもなく
ふうん、子供みたいと眺める百合子さん。
旅が始まってすぐ泰淳が聞く。
「「百合子。面白いか?嬉しいか?」ビールを飲みながら主人が訊く。
「面白くも嬉しくもまだない。だんだん嬉しくなると思う」と答える。」
百合子さんのマイペースなおおらかさが
ここにある、という場面だ。
夫との関係も実によく出ていると思う。
また、毎回の食事のメニューも
細かく記されている。
「○黒パン(タテワリ半枚)、白い丸パン(二個)、バター
○キャビア、燻製のいわし油漬二本
○こうし肉バター焼き(肉の下に米のごはんが敷いてある)
○きゅうり薄切り三片とねぎみじん切り、アンズ二個
○紅茶とケーキ(紅茶には紙に包んだ大きな角砂糖が二個)
何ておいしいんだろう。輸入しないで皆が我慢して
頑張って働いている国の食事だ。粗末に扱ってはいけないな−
そのしんみりしたおいしさのせいか、…」
ね、おいしそうでしょう。
質素だけど素朴な味。
口の中にちょっと粗い、でも甘い味が広がってくる気がする。
ロシアお得意の飛行機の遅れで
アルマアタに行けなくなり
泰淳がしょんぼりしていると、
そのわびしい様をおかしがっていたはずなのに
涙が落ちてきたり。
ウズペクの博物館の庭では
−ずっと前から、生まれる前からここにいるような
不思議な気持ちにとらわれたり…。
いっしょに旅行する人たち、
特に80歳の高齢参加者、
大金持ちのおじいちゃん
建築会社、銭高組の御隠居の
すっとぼけた愛敬ある味わいもいい。
「もしかしたら星など見えはしないのかもしれないが、
そうとしか思えない格好をしている犬をみる…」
−そんなふうな旅だった…。と
後書きに書かれたタイトルの由来がある。
この旅行の後
泰淳は大病し、亡くなり
竹内好も同じ位に他界する。
スウェーデンでポルノを買って大喜びする男達、
旅の途中
「あいつは威張っている」と
子供のように竹内を言う泰淳。
聞く百合子さん、「わたしはそうは思わない…」。
おおはしゃぎの楽しい旅の記。
何度読んでも
笑ってしまうし、泣けてくる。
この詩情が百合子節かな。
砂漠に住む民族を訪ねる場面と
モスクワで駐在員の家族に招かれ
トンカツとキャベツの千切り、いちごを食べる場面が好きだ。
ああ、今夜も眠る前に
読むことにいたしましょう。
<畠中理恵子 書肆アクセス店長 年間読書量60冊 好きなジャンル
日文>
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■「暗記しちゃうほど、読み返した本」 地場潤一(某誌編集)
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「憂鬱なる党派」
高橋和巳
1965年
高橋和巳は現在、人気のある作家とはいえない。
とにかく入手しにくいのだ。絶版ではなくても、「残部僅少」という状態。
いま『憂鬱なる党派』を含む主要作品が河出文庫、『邪宗門』が朝日文庫に
入っているが、どれもあまり版を重ねていないようだ。
最大の理由は、「暗い」ということらしい。そこらへんを鮮かに表明してい
るのが河出文庫版『憂鬱なる党派』下巻の道浦母都子の巻末エッセイだ。い
わく、六十年代後半には「青春の通過儀礼」のように人気のあった高橋和巳
だが、いま読み返すと「陰気で鬱陶しい」。和巳は「べし」につき動かされ
た作家だ……。
「陰気で鬱陶しい」のはその通りかもしれない。しかし、「「べし」につき
動かされた作家」と、高橋和巳をかたづけてしまうのはちょっと性急ではな
いか。道浦母都子は全共闘世代の歌人で、自らの闘争体験を赤裸々にうたっ
た短歌でデビューした人らしい。そうした人が自分の世代体験に幻滅し、当
時熱中した作家にさめた視線を投げたい気持ちはわからないでもないが、時
代はもう一回転ぐらいまわっている気がする。
じつは福永武彦のことでも書こうかと思っていたんだけど、ひょんなことか
ら目にした道浦母都子のエッセイが気にいらなくて、『憂鬱なる党派』につ
いて書くことにした。
高橋和巳の小説は観念小説ではない。具体的な人物が出てきて動きもあり、
時代風俗などをとりいれた通俗性があり、そして(少なくとも『憂鬱なる党
派』には)ユーモアもあると思う。
ぼくが持っている『憂鬱なる党派』は河出書房の書き下ろし長編小説叢書版
で、昭和四十年の初版と同じ装丁だ。片岡真太郎による装画(箱絵と扉絵)
がいい。とくに扉の絵は、すごく「あの時代」っぽい。暗い男の顔。中学生
や高校生の男の子が授業の退屈さをまぎらすためにノートに書き散らす、自
画像とも誰の像ともつかぬ男の顔のようでもあり、白土三平『忍者武芸帳』
の扉絵にも通じる感じもする。
学生運動をモチーフにした作品だが、冒頭から派手なゲバ棒・火炎瓶闘争が
出てこないかと期待して読んだりしたら、肩すかしされるだろう。それどこ
ろか三十を越えたうらぶれた男女の退屈な再会が延々と語られて、ちょっと
うんざりするかもしれない。
しかし、そこを我慢して読みすすむと、この小説の骨格があらわれてくる。
主要な登場人物を紹介しよう。
西村恆一 もと教師
古在秀光 業界新聞の編集主任
日浦朝子 小学校教師
藤堂要 保険会社員
岡屋敷恒造 労働会館資料部勤務だったが病床に臥す
村瀬定市 関西電力勤務から町工場の工員に転職
青戸俊輔 心理学者
蒔田 放送局勤務
この八人が「憂鬱なる党派」だ。学生時代、西村と青戸と藤堂は「社会民主
主義的」な研究会のメンバー、あとの五人は共産党の学生党員だった。
歴史的な背景になっているのは「山村工作隊」「火炎瓶闘争」などの過激路
線を展開していた時代の共産党だ。過激な運動で退学にされそうになった学
生党員たちを、彼らから日和見主義者とみられていた西村がハンストで救う
(このハンストは高橋和巳の実体験をもとにしているらしい)。そこから生
まれた奇妙な友情や、運動のなかで起こったリンチ事件とそれがもとになっ
た古志原という学生の自殺が、トラウマのようにおおいかぶさっている。
主人公は西村で、物語は故郷の広島に戻っていた彼が大阪に出てきたところ
から始まる。西村は自ら執筆した原爆被災者たちのドキュメントを出版する
ために、かつて京都で学生運動を軸に交じあった友人たちと再会してゆく。
高橋和巳自身によれば、映画『舞踏会の手帖』のように、主人公が旧友のと
ころをつぎつぎとめぐってゆくというイメージがあったらしい(河出文庫版
上巻収録の秋山駿との対談)が、アメリカ留学の決まっている青戸を例外と
して、みな冴えない、暗い影を背負った生活をしている。そしてやがて多く
の者は、いろいろなかたちで破滅していく。
一千枚に及ぶ大長編をここで要約してもしょうがないが、もうひとつの大き
なポイントは西村が住みつく釜崎の貧民街の人々だ。「菊屋旅館」という安
旅館で同室となる売春婦・山内千代など、「憂鬱なる党派」たちとは別な意
味でNo Futureな人々。ちなみにこの小説のクライマックスは釜崎の労務者
暴動だ。
そしてこの小説は「昭和三十年代小説」でもある。
華麗なショー・ウィンドーや、疲れて粘土色の瞳をした新
聞売子らのまえを、動くともみえぬ遅々とした雑沓が彼方へ
と流れていった。
という冒頭が、いかにも「昭和三十年代」っぽいと思うのはぼくだけだろう
か? エピローグでも反復されるこの「雑沓」は、主人公たちとも貧民街の
人々とも遠い、高度成長をはじめた「日本」のように思える。主人公たちが
道ですれ違ったカミナリ族?(ゴダールの『勝手にしやがれ』の主人公みた
いな子たちね)たちへの世代的な違和感を表明するところなどもそうだし、
「You are my destiny」のようなポップ・ソングもでてくる。
この小説は、残酷な喜劇なのだと思う。岡屋敷の葬儀で西村が乾物屋の車が
流す流行歌に食ってかかる場面、最後に千代が西村の友人たちに電話をかけ
まくる場面など、作者がどこまで意識的だったかはともかく「笑える」場面
も多い。
もちろん革命についてとかのコムズカシイ議論もふんだんに盛り込まれてい
るから、そちらを期待するむきにも楽しめるだろう。最も悔い改めないスタ
ーリン主義者・村瀬の論理など、立花隆『中核VS革マル』にでてくるセク
トの論理と驚くほど似ている。
三十四歳(刊行時)にして、革命運動に対してかくも痛烈な認識をもってい
た高橋和巳が、なぜ一貫して全共闘運動を支持し、赤軍派の討論に参加した
りしたのか? 謎だ。
あのころの学生は政治的というよりロマンティックだった、いまの学生のほ
うがよっぽど政治性がある、とは蓮實重彦・東大総長が全共闘運動を評した
言葉だが、この時代はもっとそんな感じだったのだろう。
<地場潤一:編集者 年間読書量?冊(1冊全部読了することはまれ) 好
きなジャンル・音楽(最近の収穫はマニュエラで買ったジャン=リュック・
ポンティの『キング・コング』とエッセンシャル・ロジックの『ビート・リ
ズム・ニュース』)>
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■コンテンツの紹介
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当メルマガは、月3回(10日、20日、月末)の発行です。
10日号)
「私、この本で徹夜しました」
上記のタイトルで、本好きの出版業界人の方々2〜3名に執筆して頂きます。
執筆者は毎月代わります。
20日号)
「暗記しちゃうほど、読み返した本」
上記のタイトルで、10日号と同じ著者が執筆いたします。
月末号)
連載執筆者の書評
・石飛徳樹(朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100冊
好きなジャンル・文学)
・ミラクル福田(某人文系大手出版社編集 30歳 年間読書量100冊
弱 好きなジャンル 文芸・芸能)
・守屋淳(フリー 34歳 年間読書量100冊 好きなジャンル 古典)
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■あとがき
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>今、メルマガって、もの凄くたくさんあるじゃないですか
>はあはあ
>中には、著作権の扱いとか滅茶いい加減なのも多いみたい
>と、いいますと
>友人の作った英単語集なんだけど、中身を無断で配信されたりとか結構し
たんだって
>ひえ―――――っ、ひどいことしますな
>実は、僕も関係した本の中身を勝手に配信されて、やめてもらったことあ
るし・・・当人は知らなかったとかいって、すぐ辞めちゃうんだけど、問題
ありありですな
>本にも、いい加減に作ったのもありますが、二年や三年、必死な思いして
完成させたものもあるんだし、それで生活しているんだから、著者の権利は
ぜひ尊重して欲しいですねー
>そうだよ、それをちょちょいと抜書きされて、勝手に流されたんじゃ、泣
くしかないもんな
>そろそろ、出版界も正式に動いて、きちんと著作権料頂くなりした方がい
いかもしれないですね
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