2000.6.30.発行 vol.3  [私たちは化け物である 号]

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■「大作は内容を深化させる」石飛徳樹
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「無間地獄」
新堂冬樹著
幻冬舎 2000年
1800円+税

 近ごろ映画の世界では、2時間を優に超える大作がとても多い。
 「グリーンマイル」を始め、「エニー・ギヴン・サンデー」「インサイダ
ー」、まもなく公開の「ザ・ハリケーン」等々。
 しっかりした世界を構築するには、ある程度の長さが必要だということな
のだろう。
 しかし、長時間を構成しきれる作り手の力量と、それをしっかり鑑賞でき
る観客がいないと、それは、かなり不幸な結果に終わる。
 上記の映画はみなハリウッド製。いずれも、単なる娯楽作ではなく、見終
わった後に深い余韻を残す作品だ。
 この傾向が続くならば、ハリウッド映画の作者と観客の質が上がっている
と見てよい。

 国内ミステリーの世界では、高村薫あたりからだろうか、超大作がほとん
ど当たり前になっている。
 その背景には、映画と同じく、作家の力量の向上と読み手の成熟があるこ
とは疑いない。
 超大作化に伴って、内容の方もどんどん深化している。
 純文学の希薄化(批判ではありません)とあいまって、今やその境界線が
すっかりあいまいになっている。
 むしろ人間の存在意義などといった重厚長大なテーマを正面から扱ったも
のは、いまやミステリーの方に多くなっているのだ。

 と、1回目ということで、多少肩に力を入れて総論のようなものを振って
おいたわけだが、さて、この「無間地獄」である。
 2段組みの458ページというのは、今ではびっくりするほどの長さでは
ないが、まあ、相当な大作である。
 新人に近い作家ということで、多少心配しながらページを繰ったのだが、
50ページも進まないうちに、表面はニヒル、内側では哀しみが渦巻く巨大
な闇の世界の虜になっていた。
 主人公の桐生保は富樫組の若頭。時期組長に最も近い存在だ。
 サイドビジネスとして闇金融の桐生興業を経営し、都内の街金を支配して
いる。
 冷血無比。金以外のものは何も信じていない。金のためなら仲間だって平
気で殺せる。
 幼いころに父親から受けた想像を絶する仕打ちのせいで、こんな化け物の
ような人格が生まれたらしいことが徐々に分かる。
 ある時、桐生が張っている闇の網の中に、一人の男がかかってきた。
 その美貌を武器に、女をだまし続けるキャッチセールスマンの玉城慎二。
 桐生は、いつものように金のためだけにこの男を地獄にたたき込むことに
する。
 しかし、玉城とかかわるうちに、桐生は、子供のころに封印したはずの自
分がむくむく頭をもたげてきたことに気づき、強く恐怖する。
 桐生と玉城という、社会のゴミみたいな二人の人間があいまみえる衝撃の
結末から、私たちは一体どんな教訓を読みとればいいのだろう。
 鉛の塊を、頭に埋め込まれたような読後感である。

 桐生は化け物である。ゴミである。
 彼が父親から受けた仕打ちは、恐らく大半の読者は経験したことのないも
のだ。
 しかし、私たちは、化け物の人生をかいま見て、彼の受けた仕打ちに思い
を致して、深く感銘を受ける。
 それは、桐生とどこかで響き合うものがあるからだろう。
 自分がいま生きている人生が、桐生の人生と同じように醜いと、心のどこ
かで感じているからだろう。
 
 総選挙の期間中、政治家は「夢」だの「希望」だの「未来」だの、実体の
ないバラ色の言葉を浪費し続けた。
 私たちは彼らの言葉が出任せであることに、意識的に、あるいは無意識的
に気づいている。
 私たちは桐生と何ら変わらない化け物であると自覚すること。
 まずそこから始めなければいけない。
そこに目をつぶっていると、私たちはいつまでも「無間地獄」から抜け出せ
ない。

 この作品は、実に大作らしい、重厚長大な読後感を与えてくれる。

(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100冊 
好きなジャンル・文学)
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■「みんなでアーヴィングの世界に浸ろう!」ミラクル福田
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『オウエンのために祈りを』(上・下)新潮社刊

 去年の初秋、飯田橋のギンレイホールで『サイモン・バーチ』という映画
を見た。この映画の存在は知っていたが、“体が小さい少年の話”というだ
けで、暗い内容だと勝手に決めつけて、見ようとすら思わなかった。ところ
が、気になる女の子にこの映画を“見に行きたい”と言われたのである!も
ちろん行くしかない。こんなふうに、この映画とは少し不埒な出会い方をし
た。映画館でポスターを見ているとその原作者はジョン・アーヴィングだと
書いてある。知らなかった。不覚だった。しばらく経ってしまったが、とも
かく、『オウエンのために祈りを』をようやく読んだわけだ。

 まず感じるのは、テンポよく読めるスピード感だ。以前に比べると少し押
さえ気味のような気がするが、アーヴィング本人がディケンズを評したエッ
セイ「小説の王様」(『ピギー・スニードを救う話』所収)で言っていると
おり、“語りを運ぶ勢いをはかって、人物に共感させていられるのなら、三
百ページまで進んだ小説が三十ページ目と同じように読めるのである”。
  出てくる人物や小道具がストーリー展開に絶妙に絡んで(そばをつゆに絡
ませながらずるずる食べる感覚)、アルマジロがこの場面に絡んでくるのか
!クリスマス劇で御子イエスの役をしたときに、ぐるぐる巻きにされて動け
なくなったのはこういうわけか!マリア像はこんなになってしまうのか!こ
の章のタイトルの理由はこうだったのか!と感心することしきり。絡んだ糸
を少しずつ解きほぐしていく感覚がたまらなく快感だった。(詳しくはご一
読あれ)

  テーマで見てみると、『ガープの世界』や『ホテル・ニューハンプシャー
』など、これまでのアーヴィングの小説では暴力と性が取り上げられている
けれど、『オウエン』では、暴力よりも信仰、性よりも政治(戦争)につい
て多く語られている。信仰について、親友で語り部のジョン・ホイールライ
トは冒頭でこんなふうに言う“彼オウエン・ミーニーがいたから、ぼくはい
まキリスト教徒なのだ”と。オウエン自体が奇蹟としてジョンの信仰の礎と
なっている。しかし、ジョン自身もオウエンが話す予言的な話は、実際に体
験するまで信じられなかったのだ。その予言的な話(奇蹟)がどんなものな
のか、これがミステリーのように少しずつ少しずつ明らかになってくる。だ
が、ストーリーについては冒頭の個所以外、ここでは触れない。(詳しくは
ご一読あれ)

 では、オウエンはどんな人物なのか。女の子に抱えてもらえるほど小さく
て、その声は金属的な響きがするという奇妙な少年が主人公オウエン・ミー
ニーだ。彼は誰からも好かれ、特にジョンの母親からはジョンへの愛情に負
けないくらいの愛情を受ける(家庭環境は少し変わっているが)。オウエン
は特に彼女のおっぱいと匂いを絶賛する。しかし、野球の時にオウエンが打
ったファウルボールがジョンの母親の頭に当たり、彼女が死んでしまう。
  ここから物語は時代を行きつ戻りつしながら進んでいく。この後、オウエ
ンは段々と、見た目や声以外の点でも普通の子供とかなり違った成長をとげ
ていく。そしてこんなことをジョンに言うようになる。“神さまはきみのお
母さんを奪った。ぼくの手が道具となった。神さまはぼくの手を使った。ぼ
くは神さまの道具なんだ”また、ジョンはオウエンを評してこう言っている
。“彼がどんなふうにもてるのか、なぜもてるのかは難問だが、まだ十六歳
で、特別内気な、あるいは不器用な時期にも、オウエンは自分で世界がどん
なものかをはっきり把握しているように見えた”
 なぜオウエンは自分のことを“神の道具”なんて言うのか?なぜがこんな
にも同級生のジョンと違って自信があるように見えるのか?
 オウエンには、自分が何をするべきかがわかっていたのだ。未来で何をす
べきか、世界をどう把握すべきかが。それがいったいどんなものなのかは、
小説の最初から丹念に読んでもらいたい。ささいなエピソードの中にも、オ
ウエン・ミーニーの未来が発見できるはずだ。

 今回、参考にした書籍に『ユリイカ 1989年12月号』があるが、ここで、
『オウエンンのために祈りを』の第1章が訳されている。そして、付記とし
て刊行予定となっている。しかし、実際に刊行されたのは1999年の7月だ。
なんと月日が経っていることか。翻訳は大変なのですねえ。ちなみにこの時
の邦題は『オウエン・ミーニーのための祈り』でした。

(ミラクル福田 某人文系大手出版社編集 30歳 年間読書量100冊
弱 好きなジャンル 文芸・芸能)  
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■「私、この本で電車の中なのに号泣しかけました」守屋淳
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「アラベスク」全4巻 山岸凉子 白泉社文庫

三十過ぎの男が、電車の中で少女漫画を読んでいる。
しかも彼は、何と感動の余り泣きそうになっている。
しかし、このまま泣くのは格好悪いよーとも思っている。

(三十過ぎのどぶねずみ色のスーツ来たよれよれ男が、べたべたの少女漫画
読んでるというだけで何だかとってもダサダサなのに、ああ、目が潤んでき
ちゃって、ああぁもう泣きそうだけど、これで泣いたら、恐怖の三十過ぎ少
女漫画電車内号泣男として末代まで後ろ指さされそうだし、あああぁぁぁ)

これほどの葛藤を巻き起こしてしまった、恐るべき漫画。それが「アラベス
ク」なのです。
内容は、粗筋だけ言えば結構べたべた。ロシアの片田舎でバレリーナを目指
す主人公が、その才能をキーロフ・バレエ団に見出され、コーチとの恋愛を
間にはさみながらたくましく成長し、栄光を掴んで行くという・・・もう、
少女漫画の超ゴールデンパターン、踏みまくりのお話。

しかし、この漫画、他の同種モノとは、もう隔絶した境地を開いてます。
その力の源のひとつが、人物のおそるべき造形力。
話の後半、恋人を殺したと口走る謎めいたピアニスト、そしてコーチのライ
バルが出て来るのですが、彼らの造形がとにかくすごい。
少女漫画の登場人物(小説でも下手なのはそうですが)って、みんなどこか
似たような感じの人になりがち(例えば、「エースを狙え!」だと、みんな
優秀で善い人、とか)なのにくらべ、このピアニストやコーチのライバルは
異様な他者ぶりを際立たせています。まるで、現実そのもののように、底知
れぬ不気味さをたたえた<他人>が、画中に存在し得ているのです。彼らと
主人公、そしてコーチの三人が様々な葛藤を繰り返しながら、最後に圧倒的
な止揚を向かえる・・・ああ、今思い出しても、感動がぶり返してきます。

山岸凉子はこの後に、二十世紀末の日本を代表する芸術といっても過言では
ない、「日出る処の天子」を世に送り出します。アラベスクで見せた異様な
人物造形の巧さが、そこでは十全に開花し、見てはいけないものを見せられ
た――そんな思いを抱くほど。壮絶な冴えを見せつけられます。
「アラベスク」と「日出る処の天子」、この二つを未読の方は、ぜひ。
(守屋淳 隠遁者 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好きなジャ
ンル 古典) 
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■あとがき
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>暑いですねぇ
>今年は猛暑らしいですからね
>ということで、お薦めのビールを一つ
>はあはあ
>日本ビールというところから、「オーガニック ビール(有機農法ビール
)」っていうのが出ているんですよ。最初見たときは、「ふん、てやんでい、
俺は地球と環境にやさしくない男なんだよ」と思って、鼻もひっかけなかっ
たんですが・・・
>なんか、エコロジーって感じですもんね
>ある日、魔がさして飲んでみたんです
>ほうほう
>これが、滅茶うまなんです。もーこれ飲んじゃったら他のビールは飲めな
いってくらいに美味しい。見かけたら、ダマされたと思って、ぜひ一度。
>うーん、しかし、「信じるものは騙される」という格言もありますからね
(笑)
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