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2000.7.30.発行 vol.6 [懐古趣味者 号]
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■■ [書評]のメルマガ 2000.7.30.発行
■■ vol.6
■■ mailmagazine of book reviews [懐古趣味者 号]
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■「宮部みゆきの隠された魅力」石飛徳樹
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「ぼんくら」
宮部みゆき著
講談社 2000年
1800円+税
宮部みゆきを希代のストーリーテラーなどとほめそやしても、
何を今ごろ先刻承知、てなもんだろう。
遅すぎた直木賞受賞後の第一作となる「ぼんくら」だが、
ミステリーとしての謎解きの納得度といい、
その謎が徐々に広がり深まっていく、その語り口といい、
脇役に至るまでの登場人物のアンサンブルといい、
読みやすいうえに品があって可笑しみもある文体といい、
まあ、名人の仕事を見るようで、とても読み心地がよかった。
江戸は本所深川の片隅にある鉄瓶長屋で、奇妙な出来事が連続して起こる。
名うての殺し屋による若者殺し。
差配人と呼ばれる世話役の、いわくありげな交代劇。
岡場所に娘を売ろうとする博打狂いの親父。
新興宗教に入れ込む善良な庶民たち。
これらの出来事は一見何の関係もなさそうだが、
事件のたびに、鉄瓶長屋から住人が一人また一人と去っていく。
臨時町廻り同心の井筒平四郎が、いかにぼんくらだとはいえ、
空き家だらけの長屋を目の当たりにして、
ついに、これらの出来事の間に見えない糸が張り巡らされていることに気づく。
基本的には、貧乏長屋の人情ものだから、あったかい話なのであるが、
時折、クールな視点や常識と対立するような考え方が入りこんできて、
それがこの小説世界を、ずいぶん彫りの深いものにしている。
それを象徴的に示すのが、同心井筒の桜が大嫌いで椿が好きだという性格である。
常識的には桜の嫌いな人はほとんどいないだろう。
もう少し具体的に挙げてみるならば、
親孝行というものが胡散臭いもので、
孝行者の多くは一旦世間からそう呼ばれてしまったために、
看板を下ろせなくなってるだけであるとか。
孝行は親のためにするのではなく、
親を見捨てたことを一生後悔しないよう、自分のためにするものだ、とか。
娘が岡場所に行くことを承知するのを聞いて大喜びするダメ親父に対して、
泣いて謝りながら売り飛ばす男より、ひょっとするとましなのではないか、と考えて
みるとか……。
また、こんなのもある。
「闇を切り裂いて差し込んでくる陽光を、そのなかに仇敵が潜んででもいるかのよう
に、
きっとにらみ据えていた」。
闇と陽光のイメージが逆転した、ハッとさせられる描写である。
ここで作者が言っているのは、
常識的な態度が、時として世の中をいかに住みにくく歪めてしまうかということだ。
孝行の強制が人を苦しめることもあるし、非人間的な振る舞いが人を救うこともあ
る。
つまりはいつも陽光が善で、闇が悪とは限らないということだ。
そういった反常識、というより、非・常識(非常識ではない、念のため)を、
うだつの上がらない中年同心や、
威厳がなくて古株たちに馬鹿にされている若い差配人らが考えている。
だから、彼らは、無用に熱くなったりせず、冷静に事件と向き合える。
悪い奴を捕まえろと叫ぶ善良な人たちに対して、
まがりなりにも法律の専門家である井筒は、
「悪い奴を捕まえることと、善良な人間が借金をしたという事実は、話が別だ」
などと冷静に説くことができる。いわゆる法の精神というやつだ。
それは悪を許すこととは違う、と、この「ぼんくら」を読めば分かるはずだ。
悪人の犯罪に対して、「法律は甘すぎる! 殺してしまえ!」と、
あまりにヒステリックな反応をする、
マスコミを中心にした今の世間というものに思いをいたすにつけ、
宮部みゆきのクールな感覚が貴重なものに思えてくるのだ。
(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100冊
好きなジャンル・文学)
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■「東京、独り歩きのすすめ」ミラクル福田
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『東京私生活』 冨田均 作品社 2800円
● “散歩の極意”
いきなり高飛車な見出しで始めてしまったけれど、こんなふうに著者が書
いているわけではない。もっと、さりげなく東京の街を歩き、克明にその姿
を本の中に写し取ってくれている。
まず、表紙を見てみると、そこには田端駅を出て、山手線の内側を西日暮
里方面へ向かう著者の姿がある。著者・冨田均氏は、ちょうどこの写真の右
手、山手線と京浜東北線の向こう側(外側)で生まれ育ち、今もそこに暮ら
している。生まれながらの東京人である。といっても、生まれてからずっと
東京に住んでいるという人はさほど珍しくはない。しかし、これほど東京と
いう街を愛し、これほどよく歩いて、記録している人は、まず、いないので
はなかろうか。
散歩の好きの一人として、“散歩の達人”冨田氏の散歩から学べる“散歩
の極意”は多くあるけれど、3つ挙げるとするとこんな具合になる。
@ 名前をつける、A 独り歩き、B しっかり見る
@の“名前をつける”ことについて、冨田氏はのっけから語ってくれる。
「私が上野から王子飛鳥山を通って赤羽へいたる小高い丘を喪山と呼んだの
は高校生の時だが・・・」。高校生の時、何をしていたのだろう。春日部の
ボーリング場で遊んで、近くのピザ屋で近隣の女子高生を横目で見ながら、
声もかけられず、うじうじ、もんもんとしていたのは、間違いない。当時、
自分が毎日通っている駅までの道や山に名前をつけることなんて思いもよら
なかった。この名前をつけるということが、どれほど冨田氏の散歩を深めて
いることか。
氏が名づけた道や場所がこの本の中にはたくさん出てくる。“喪山”、“
蛇道”、“赤ちゃん橋”などなど。名前をつけるには、まず、その地に幾
度となく足を運ばなくてはならないし、その場所に思いいれがなければなら
ない。名前をつけることによって、それまで以上にその場所に愛着が湧き、
身近に感じられる。ただ、実際やるとなると少し照れくさいけど。
Aの“独り歩き”を実践している人は多いのだろうか?散歩のブームが始
まったのは『散歩の達人』が発売になった頃からだから、もう随分になる。
でもいまだに、台東区谷中には、週末になると、カメラを抱えたカップルか
ら、観光ガイドに連れられて歩くお年寄りまで、老若男女問わず、やってく
る。しかし、みんな“連れ”がいる。確かに大勢で歩くのは楽しいけれど、
興味の対象が違う人と歩いていると、街の風景も自分の中には残らない。一
緒に歩いた人との思い出が残るばかりである。本の中にこんなくだりがある
「よくだれかといっしょに歩いているんでしょ、といわれることがある。理
由は単純で、ひとりではあんなに歩けるはずがない、というのである。これ
はまったく逆の話で、ひとりでなければあんなには歩けない」
冨田氏は独りで歩く。自分の好きな風景を、時には写真で切り取りながら、
時には独り、吾妻橋のたもとで隅田川の流れをみながら、ワンカップをちび
りちびりやりながら・・・。これぞダンディスム!格好いい!街を味わうに
はやっぱり独りがいい。寂しいけれど。
Bの“しっかり見る”ということはどんなことか?散歩の時に、ただボー
ッと歩いているのはもったいないということなのだ。しっかり見ていれば、
神保町で車の中にいる巨人の松井にサインをしてもらえる。古本屋の中で、
磯田光一氏が狙っていた本をかっさらうこともできる。もっとしっかり見て
いれば、吉本隆明氏が行きつけの魚屋を替えて、上野丸井の地下によく現れ
ることを知ることができる(知りたくないなんて言わないでね)。
●ノスタルジー?!
@からBまで、冨田氏の散歩の仕方について、書いてきたけれど、ここま
で読んで頂いた方は、この本は散歩のHOW TO本かと誤解されてしまう
かもしれない。これまでは冨田氏の歩き方である。『東京私生活』のすごい
ところは、散歩を通じて「東京風景の記録者兼記憶者」たらんと決意し、そ
れを実践していることである。30年間もかけて東京を歩き、人と出会い、
それを写真に残しながら、変わっていく東京を見続ける。その結晶が538
枚、この本には収められている。
写真を軸にまとめられた、各章の目次を見ると、冨田氏が東京のどのよう
なところに惹かれていたのかがよくわかる。その一部を挙げる。
第一部:都電、新宿、浅草、喪山、菓子屋、酒屋、豆腐屋、魚屋、薬屋、文
房具屋、本屋、商店街、喫茶店、飯処、蕎麦処、酒処、映画館、寄
席 劇場、遊技場
第二部:木造平屋、木造二階屋、木造三階屋、消失家屋、長屋、アパート、
旅館、銭湯、駅舎、寺社、運河 橋、
写真のキャプションには“消失”という文字が多く見られる。現在見るこ
とができない建物や風景だ。その建物があったときの話を読んでいると、見
ることができなかったことが残念でならなくなる。もうすでに自分が生まれ
ていたときに、確かに存在していた建物や風景なのに、見ることができなか
ったのだ。
水色できれいだったという浅草仁丹ビル、ずらっと建ち並ぶ十条仲原・清
水谷の国鉄官舎、登りたかった王子飛鳥山の回転式展望台、幟がたくさんあ
ったとげぬき地蔵通り・漢方薬の笹屋、立ち飲みをしたかった吉池一階スタ
ンド・吉池酒場、アンダーグランドではない旧池袋演芸場、むかしもお洒落
だった旧田園調布駅などなど。
ただ単に、古い時代に憧れている懐古趣味者ではないか、と言われてしま
いそうだ。確かに古い時代に憧れはあるし、現在の窮屈さから逃避したい気
持ちもある。当時のことがわからないから勝手なことを言えるのだとも思う。
でも、古いものを見るということには、ノスタルジーを感じる以外に何かあ
るのではないだろうか。いま、まだそれが何なのかはわからないけれど。
東京の貴重な風景と、もう、失われてしまった風景がこの本には収められ
ている。次の世代に何かを残すことが出版に携わる者の仕事ならば、この一
冊は大きな仕事といえるだろう。さあ、この本を持って街へでよう!
著書:『東京徘徊 永井荷風『日和下駄』の後日譚』(少年社)、『私を愛
した東京』(筑摩書房)、『住所と日付のある東京』(新宿書房)、『東京
の池』(共著、作品社)、『東京映画名所図鑑』(平凡社)、『乱歩「東京
地図」』(作品社)◎在庫の確認はしておりません。
(ミラクル福田 某人文系大手出版社編集 30歳 年間読書量100冊
弱 好きなジャンル 文芸・芸能)
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■「私、この本で政治を勉強しました」守屋淳
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「票田のトラクター」「新・票田のトラクター」
ケニー鍋島・作 前川つかさ・画
小学館
はっきり断言できますが、これは漫画史に残る一大金字塔です。
まず、実用的な意味で言えば、なんたってこれを読むことで、政治の裏側
のほとんどがわかってしまうのが凄い。公共事業をエサにした集票構造や、
宗教団体などを使ったマネーロンダリング、与野党談合の実態から、さら
に票田買いといった言わば<選挙におけるアート>まで、ある意味で政治
版「ナニワ金融道」といった趣ですべてをあからさまにしていくその怒涛
ぶりは、もうクラクラしちゃうほどの迫力です。
これを都会の人間が読むと、「フザケンナー、おいらの税金返せ―」と叫
びながら三回廻ってワンしそうな、とにかくどうしようもない今の日本の
実態が痛いほど感じ取れるんですねー。(日本全体の借金が約450兆ま
でに膨れ上がっちゃった理由がよ――くわかります。しかし、なんか、昔
は<兆>というと天文学的数字だったのに、今は妙に身近になっちゃいま
したねー)
しかもそこに描かれる政治家同士のやりとりや権謀術数は、司馬遼の幕末
モノや、三国志も真っ青の壮絶さと面白さ。わたしゃ、ここに出てくる竹
下元首相をモデルにした登場人物の、人間落としの術をマネして、出版流
通業界生き抜いてきたようなものです、ホント(ちょと、おおげさ)
この原作のケニー鍋島というかた、どうも小沢一郎氏と懇意の政治ジャー
ナリストらしく(その昔、噂の真相が身元暴いてました・・)、ちょっと
小沢一郎に擬せられた主人公の格好良さだけはちょっと割り引いた方が、
いいのかもしれませんが(笑)、特に清濁併せ持つ男の魅力を表現させた
ら、ちょっと並ぶ者がいないほどの巧さを見せ付けます。
なんか、最近見かけなくなっちゃった、<懐の深い男>が、ここにはうろ
うろいるんですねー。うーん、こういう点もほとんど三国志ですな。
しかし、この漫画、すごく話題になったわけでも、売れたわけでもない。
それはたぶん、連載されていた雑誌が「週間ポスト」という女性と若い男
性、それにもちろん子供は読まない雑誌に連載されていたからだ、と推測
できるのです。しかし、これをそのまま埋もれさせちゃうのは、惜しい。
とにかく幕末モノ好きー、三国志スキーという方には、間違いなく喜んで
頂ける一品です。ぜひ、どうぞ
あ、そうそう、同じ著者&漫画のコンビで「霞ヶ関のフリーメイソン」と
いうのもあります。
こっちは官僚の実態を暴いたすごい傑作なんですけど、諸般の事情から2
巻で中断しちゃったのが残念な作品です。古本屋さんで見かけたらどうぞ。
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■あとがき
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>最近ねームカツク電話が多いんですよ
>はあはあ
>いきなり、名前も名乗らず「奥さんいますか」とかぬかすんだよなー
>・・・・
>「いません!!!」とか言って切るんだけどねー(TT)
>・・・・なんか、「本」のメルマガのメンバーの一人が、入籍したことに
関係あるんですか(笑)
>そうそう、また一人裏切りモノがでちゃって、ブルーなときにそんな電話
がなって・・・シクシク。というわけで、不肖わたくし、≪「本」のメルマ
ガ独身者の火を死守する会総統≫に就任しました(笑)
>他にメンバーはいるんですか(笑) やめときなさいって、そんな不毛な
こと(笑)
>シクシク、あ、総統というのは、デスラー総統が目標です(笑)
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