|
2000.8.10.発行 vol.7 [良書の寿命は 号]
|
■■---------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ 2000.8.10.発行
■■ vol.7
■■ mailmagazine of book reviews [良書の寿命は 号]
■■---------------------------------------------------------------
---------------------------------------------------------------------
■「私、この本で徹夜しました」春久仙
---------------------------------------------------------------------
『ダルタニャン物語』 アレクサンドル・デュマ
夜が好きだ。世間が静かになり、みんなが寝入ってしっまた後で深夜にな
ればなるほどに時間の流れも穏やかになる。そんな気がする。だから本を
読むのは夜中に限る。ティーンエージャーの頃から読書といえば夜中。読
み始めると、これがなかなか眠れない。睡眠時間が足りなきゃ昼間、居眠
りでもすればよろしい。だから「私、この本で徹夜しました」っていうの
はいっぱいある。そんなのばっかりだ。
長い作品が好きだ。こぎみよいテンポでずんずんページが進んでいくんだ
けど、まだまだ続きがある。至上の贅沢、替え難い幸福。必然的に徹夜が
続く。
というわけでこの作品。謂わずと知れた名作中の名作。人類が生んだ最良
質のエンターテイメント。初めて読んだのが大学生の頃。講談社文庫で全
11巻。奥付には1982年の刊行とある。堀田力衛の訳文もお見事。
いやーハマりましたね、これには。ユゴー、ドストエフスキー、ディケン
ズ、マンと長さと面白さでハマった作品は他にもあるけど、こいつは特別。
ワインとコニャックを友に5日間かかりっきりで読んじゃいましたね。雰
囲気出すために、この間はクロワッサンとバケットとチーズだけで過ごし
たような気がするなぁ、たしか。
考えてみると文学史的にはたいした事ないんだよね、実は。もとはといえ
ば多作の人気時代小説作家が新聞の連載小説として始めた剣豪小説といっ
たところ。それだけにサービス満点。はらはらどきどき手に汗握るはやく
続きが読みたーい。読者のあまりの反響と「モンテクリスト伯」の大成功
を背景に第二部、第三部と書きつづけられた結果、いつしか西欧の騎士の
時代の爛熟から終焉までを描く稀有にして壮大なドラマへと姿を変えていっ
たわけですね。
ストーリーは田舎出の銃士ダルタニャンが一人前の(そして、おそらくは
最後の)騎士へと成長し元帥として命を落とすまでを描くヴィルトゥンク
ス・ロマンということになるんだけど、まずはそのを固める三銃士たち。
貴族の中の貴族と謳われたアトスに不世出の豪傑ポルトス、稀代の策略家
アラミス。ステレオタイプな人物設定もここまで大風呂敷を広げれば、あっ
ぱれあっぱれ。彼らがリシュリュー卿やルイ14世相手に大活躍となれば
誰もが夢中にならないわけがない。
僕的には作中から香りでる当時の生活の端々がたまらない。パリだけでな
く街道筋の街並みや宿屋の佇まい、酒場の喧騒、絢爛たる服飾の世界。帽
子に外套に長靴に手袋にフレグランスにと、その洗練の度合いたるや現代
のクチュリエ(アヴァンギャルド系ミニマリストおよびアンダーグラウン
ド・ベイシックの方々は除く)たちも真っ青。極めつけは随所に登場する
料理の数々。豚や羊はもちろん雉だの兎だのホロホロ鳥だのをポルトで煮
たりサフランで香りづけしたりローズマリーまぶして炙ったり‥‥。もう
死にそう。むかし岩波から「デュマの大料理辞典」っていう豪華本が出て
たけど買っときゃよかった。マジ失敗した。ご所蔵の方がいらっしゃいま
したら是非ご一報を。
で見渡してみると我々は彼らの時代を舞台にした小説(文学ではなくてね)
特に人々を愉しませてくれるために創られた物語にあまりにもめぐまれて
いない。パンと劇場のみを求めて善しとする人民への忌避なのか、高級趣
味のお文化をひけらかしたい極東の翻訳事情の現実なのか。ボードレール、
ベンヤミンが見出した近代、大衆・群衆の危うさを孕んだ豊なポジティビ
ティーを何だと思っとるんだ、まったく。
そこいくとデュマの場合、おおむね正義は勝つにしても完璧にではない。
主人公の強さや弱さ、善良さや狡さまでがどこか穴だらけだ。それでいて
アイロニカルにも人情ものにもならないかっこよさ。英国的ストイシズム
やドイツの構築美、イタリアの悦楽性とも一線を画すフランス流(?)の
スタイル。これこそが近代市民社会を支える了解=物語=心性=意識に立
脚するダンディズムではある(ちなみにエドモン・ダンテスは別です、あ
れは前近代の英雄譚)。
というすごい本であるのだけど、というか素晴らしい本だからこそ今は手
に入りません。読んだことのない人も、もう一度読みたい人も古書店かブッ
クオフにでも行って探してください。今さら言うまでもないけど良書の寿
命は短い。それもこれも今日までのユーザー(読者)+リセラー(書店)+
ディストリビューター(取次店)+メーカー(出版社)+クリエイター
(著訳者)の連帯責任です。かりに良い本なるものががあったとしても全
体としては結局、誰もマジでそんなものは望んではいないということだね。
つまりいまだ近代の受容もままならないくせに市民社会を喰い尽し、それ
が本来持っていた可能性に勝手に見切りをつけて自身は関係ないふりをし
ながら、中傷する知恵だけに長けてしまったこの国の実はこれが現実なわ
けなんだな。
「ダルタニャン物語 第三部、ブラジュロンヌ子爵」のなかでアトスがル
イ14世に向けて放った言葉。すなわち貴族という在り方を一身に体現し
た人物が、まさに彼が真の貴族であったという当のそのこと故に突きつけ
ざるを得なかった、自らの属する世界システムに対する最終的なnon。
激するでもなく臆するでもなく理知でもって、むしろ淡々とそれを語らせ
ることでデュマは澱んだ過去との訣別の方法と馬鹿げた現在との対しかた
を示している、ほんの数ページで。すごいよな。少なくともここだけでも
読ませたい。特にあいつとあいつとあいつには‥‥。
Yes! 世紀の変わり目というのに、過去を終わらせられないまま未来
が始まってしまっているウヤムヤなこの時代にこそこの作品はもっと読ま
れて良い(持ってない人は悪しからず)。スタンダールだのトルストイだ
のショーロフだの歴史の変革点を描いた作品なら幾らもあるけど残念らが
らそんなのハリウッドと大して変わらない。ハリウッドももちろん大好き
だけど今年の夏休みはやっぱりこれでもう一度(たぶん最低3日位は)徹
夜しーよぉっと。うふふ。
<春久仙 出版社編集部所属 30台後半 年間読書冊数100〜150
冊>
---------------------------------------------------------------------
■「私、この本で徹夜しました」臼井真紀
---------------------------------------------------------------------
『きらきらひかる』 江國香織著 新潮社文庫
映画化までされている有名な本で恐縮ですが、とにかく好きなので書かせて
いただきました。
この本の主役は3人。アル中で精神病気味の笑子(女)と、ホモの医者睦月
(男)、そしてその恋人の紺(男)(つまり彼もホモ)。
物語はこのホモ医者の睦月とアル中の笑子が結婚してしまうところから始ま
る。それもお見合いで。
それだけで、なんだか特別な境遇の変わったひとたちの物語のように思え
るかもしれない。でも本当はそうじゃないところに、この本を何度も読んで
しまう魅力がある。
「普段からじゅうぶん気をつけてはいるのですが、それでもふいに、人を
好きになってしまうことがあります。ごく基本的な恋愛小説を書こうと思い
ました。誰かを好きになるということ、その人を感じるということ。人はみ
な天涯孤独だと、私は思っています。」と、あとがきで江國さんは書いてい
るのですが、その通りだ!とうなずける本なのです。
互いに愛しあいながらも、性的関係をもてないという漠然とした不安と、
常識では考えられない結婚であることから生じる周囲のプレッシャーに、
必死で抵抗する笑子と睦月。ホモとか、精神病とかのレッテルがついている
だけで、ほんとうは純粋な恋愛小説です。読んでいると、なにがいけないの
と思えてしまいます。
自分の気持をめいっぱいに発信している人間は、自分の行動の規定を社会
とかジョーシキにおいている“普通”の人々にとってはじゅうぶん変人です。
でも本当は、息子がホモであることを隠すために何度もお見合いをさせる母
親とか、後継ぎの子供を強要する父親の方がよっぽど変人です。
わたしはこう思うんだけど、それってヘンなのだろうか?と不安になるこ
とはだれにでもあると思います。(いや、ならないかもとまた不安になった
りもする。)
そんな不安を持っていたり、世間がわたしを受入れてくれないの、なんて
思ったりするときに、いいのよわたしはこういう生き方でって思わせてくれ
る精神安定剤のような本です。よかったら服用してみてください。
<臼井真紀 新米美形編集者 27歳 年間読書冊数 30冊 >
---------------------------------------------------------------------
■あとがき
---------------------------------------------------------------------
>先日、世界バレエフェスティバルと言うのを見ました
>ほうほう
>バレエって、なんかたくさん廻れば廻るほど盛り上がるんですよー
>それって、いつもよりたくさん廻っておりますって奴ですか(笑)
>いや、ホントそんな感じ。なんか、その大衆芸能もそうなんですが、人間
ってたくさん廻るものに生理的快感を覚えるんでしょうかね??
>うーん、そういえば子供の頃くるくるまわって、気持ち悪くなりながら、
なんか快感感じてた気もしますね
>今度、気分が落ち込んだらくるくる廻ってみようかな(笑)
======================================================================
■ 電子メールマガジン「[書評]のメルマガ 」(毎月10・20・月末発行)
■ 発行部数 1500部
■ 発行:[書評]のメルマガ発行委員会
■ 掲載された内容を許可無く転載することを禁じます。
■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
■ ご意見・御質問はこちらまで anjienji@mcn.ne.jp
■ HPアドレスhttp://page.freett.com/anjienji/review/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を利用して発行しています。
■ メールマガジンIDナンバー0000036518
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行って下さい。
======================================================================
|