2000.8.20.発行 vol.8  [繰り返し読むことの効用 号]

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■「暗記しちゃうほど、読み返した本」原口賀尚
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「ながい坂」 山本周五郎 新潮文庫

 中学三年のときに一回、高校一年のときに二回、高校二年のときに一回、
そしてこの文章を書くために三十歳にしてもう一度読み返した。しかし高校
の頃は通して読むのとは別に、常に傍らに置いて断片を拾い読みした。それ
こそ、布団に入るときも、トイレに行くときも。

 なにがそんなに私の心を捉えたのだろう。

 江戸時代後期、七万五千石の小藩における御家騒動と、平侍から城代家老
までのし上がった、一人の男の立身出世物語。言ってしまえばそれだけの話
だけれど、決してそのようには読まなかった。

 倫理、というものを、この小説から学んだ。

 八歳の主人公、阿部小三郎は、父親と通い慣れた道を通って釣りへ出かけ
る。家老の屋敷が並ぶ通りを抜けて、橋を渡って沼地へゆくのだが、ある日
その橋がきれいに取り払われていた。そこへ家老屋敷から小者が出てきて、
ここは家老滝沢家の私道であるので、通ってはならない、と伝えられ、父親
は頭を下げて退散する。少年にとって、橋というものは道が取り外すことの
できないものであるように、取り毀すことのできないはずのものだった。そ
れが一個人の都合で簡単に取り毀されてしまい、それについて誰もなにも言
わない、ばかりか父は卑屈に頭を下げて遠回りをする。こんなことは許され
てはならない。

 これが出発点。そこから主人公は自分に常に厳しく、学問も武芸も修め、
藩主に見出されるという幸運もあり、名門三浦家を継ぎ、三浦主水正と名乗
り、仕事を成し遂げ、藩主継承の争いにも勝利し、城代家老にまで上り詰め
る。

 主人公・三浦主水正は困難に突き当たると常に「これは自分が選んだ道な
のだ」と自らを律する。自分の選んだ道、そのことがどのような逆境におい
ても主水正を支える。読者は、主人公の自己決定・自己責任、その覚悟を強
烈に何度も読みとることになる。

 しかし、人間として成熟してくるにしたがい、身体レベルでの虚無感に、
度々襲われるようになる。

 藩主を監禁し新しい藩主を立てて、政権を握ろうとする一派と抗争中に、
疑問が起こる。果たして、彼ら一派は本当に悪なのか、彼らのなしている改
革は確かに失敗しているし、多くの弊害も生んでいるが、彼らには彼らの理
念があったはずだ、自分たちが勝利し、何事か改革を成し遂げたとして、そ
れがいつまで続くというのか、百年と続くものでもないではないか。そのよ
うな思いが主水正の頭をかすめるようになる頃、発作が起きるようになる。

 強い不安感に悩まされ、呼吸が苦しくなり、身体を支えていることもでき
ない。藩内の一派との対立・抗争の中で、自分たちが成し遂げようとしてい
ることの虚しさを、どう克服するのか。どのように自分が立っている場所の
確かさを確認するのか。自己決定という意識だけでは乗り越えることのでき
ない大きな壁にぶつかっている。

 そこから主人公の視点は成長する。人間は善と悪、清と濁を同時に抱えて
いる、どちらが良く、どちらが間違っているというのではない、これからし
ようとしていることは、これまでのような血で血を洗う抗争なのではなく、
まったく新しい出発なのだ、「去年の花は今年の花ではない」、人間のする
ことに、同じ、虚しい繰り返し、などということはない。そのように、無気
力を生む相対主義を克服してゆく。

 しかし、そのような読みは、今回三十歳になって読み返してみて得たもの
だった。高校生の頃はむしろ前半の、自分が選んだ道を、孤独に歩いてゆく
主人公の厳しい姿に打たれたものだった。繰り返し読むことの効用はこうい
うところにあるのだろう。
<原口賀尚 元書店員 30歳 年間読書冊数 60〜70冊>
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■「暗記しちゃうほど、読み返した本」臼井真紀
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『バレエの魔力』鈴木晶著 講談社現代新書 680円

バレエときいて、既にひいている方もいるかもしれませんが、そんな食わず
嫌いにもおすすめのバレエ入門です。入門なんてしたくない!という人も、
だまされたと思って読んで欲しいです。

なんて言っている私自身は、バレエにはまりまくっていて、クーラーも買わ
ずに、チケット代に給料をほとんどつぎ込んでいるので、本当に興味のない
人が読んでも面白いの?と詰め寄られたら自信がない。でも多分大丈夫、
だと思う。

新書ですから、もちろんまずバレエの基本的な歴史とか、世界の有名バレエ
団、作曲家、振付家についてわかりやすく解説があります。また、著者は精
神分析学専攻でもあるので、踊りにたいする精神学的解説もしっかりつけて
くれています。でも、この本の1番おもしろいところは、著者の独断とも思
える作品解説にあります。

バレエというのは、見ていて不思議に思えたり、滑稽に思える場面がけっこ
うあって、そこをあえて気にしない、気にしないと念じながら見るものです。
(本当か?) あくまで踊りがメインで、そのためにストーリーがあるので、
それは当然なのですが、そこをあえてあっけらかんと、つぼをついて独自の
解説をしてくれています。

たとえば、誰でも名前くらいは知っている「白鳥の湖」。第一幕のおわりに、
王子様が一人で踊るシーンがあるのですが、それを「マザコン坊やのユーウ
ツ踊り」と呼んだり、もうひとつのバレエの代表作「ジゼル」には、「恋人
にだまされたくらいで、気が狂うか?」とつっこみをいれたり。

バレエをよく見る人にとっては、「そう、そう」と思わせてくれたり、「な
るほど、そうだったのか」と納得させてくれます。そして、見たことのない
人にとっては、なんとなく高かった敷居をとっぱらって、「1度見てみよう
か」という気にさせてくれると思います。

バレエを見に行くと、圧倒的に女性が多いし、趣味をきかれてバレエとこた
えると、そこで会話が途切れることもしばしばあります。この本の一章目
のタイトルは「おじさんたちよ、バレエを見よう」です。別に私はおじさん
とバレエ談義がしたいわけでは決してありませんが、もう少しファン層が幅
広くなればと日頃思っていたので、この本の出現は本当に嬉しいです。

と、ここまで書いてなんですが、私がこの本を何度も読み返している本当の
理由は、巻頭に熊川哲也くんの素敵な写真があるからです。ごめんなさい。
<臼井真紀 新米美形編集者 27歳 年間読書冊数 30冊 >
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■あとがき
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>活字離れとか言われてるじゃないですか。あれウソですね
>はあはあ
>メールにショートメール、HPにチャットにメルマガにと、現代ほど活字
の飛び交っている時代はないんじゃないかと・・
>なるほど、では、なんで「活字離れ」とか言われるんでしょうね
>それは<資本主義と結びついた活字離れ>、ないしは<ラング離れ>じゃ
ないんでしょうか
>ああ、なるほどねー。そうですよね、本買えーっていうのは、活字離れと
か、言論の自由とか言う前に、資本主義に忠実であれってことですもんね。
なんか、資本主義活字ママが、「うちの子に限って」って金切り声あげてる
みたいですねー、コワイ、コワイ(笑)
>いや、ヒステリー起こしてる間に、子供が回復不能なほどグレなきゃいい
けど・・
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