2000.9.30.発行 vol.12  [本番行きまーす 号]

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■「ただただ荒涼とした風景」石飛徳樹
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「光源」
桐野夏生著
文芸春秋 2000年
1619円+税

新聞社の学芸部で映画を担当している関係で、
映画の撮影現場に行くことが時々ある。
出かけるたびに驚くのだが、
そこはものすごいエネルギーが渦を巻いている場である。

無数の人間が走り回り、あちこちで罵声が飛び交っている。
監督(ないし助監督)の「本番行きまーす」という号令一下、
瞬時にして一切の動きと音がなくなり、
息詰まる緊迫感の中、俳優だけが体を動かし、声を発することを許される。

渋谷の街にいるようなチャラチャラした格好の若者たちが、
軍隊並みの序列と規律に嬉々として従っている。
観客が気づかないくらいの細かい問題で、激しく議論を戦わせ合っている。

以前の新聞社はそれに近いものがあったようだが、
現在では、記事を巡って本気で怒鳴り合ったりする場面には、
そうそうお目にかかれない。

ところが、映画の撮影現場ではそれが日常茶飯事だ。
これほど人間の本性がむき出しになる場所は、
先ほどの喩えではないが、ほかには軍隊くらいしか思いつかない。
小説の舞台にしない手はなかったのだ。

これは、一本の映画ができるまでの物語である。
プロデューサーの優子は、家を抵当に入れて資金をかき集め、
映画を作ろうとしている。
監督は、才能のきらめきを見せる新人、
主演男優は、人気・実力ナンバーワン、
主演女優は、ヘアヌード写真集を出して話題の元アイドル、
撮影監督は、優子の元恋人で、腕のいいベテラン、

限られた予算の中で最高のスタッフ・キャストをそろえ、
快調なスタートを切ったはずだったが、
撮影が進むにつれ、彼らはそれぞれの立場でエゴをむき出しにし合い、
そして、ある時、臨界点を超えてしまう……。

撮影現場に集まったのは、実は一皮めくれば、深い闇の中にいる人物ばかり
だった。
優子は、映画のためなら、仲間を、恋人を、夫さえも裏切ることを辞さない。
新人監督は、自分への過信と失敗した時の恐怖の間で挟まれている。
男優は常に愛され、注目されていないと気が済まない。
女優はもう一花咲かせるために、映画を、男を利用しようとする。

桐野夏生の描く人物はみな、恐ろしいまでにハードボイルドである。
ただし、「女性作家らしからぬ」という形容句をつけるのは間違っている。
むしろ、男性のハードボイルド作家がしばしば持ち合わせている叙情的な
甘さが(その甘さが人気の秘密だったりする)かけらも感じられない分、
ただただ荒涼とした風景が浮かび上がってくる。

さらに荒涼感を際だたせているのは、
起承転結という基本形を崩した語り口である。
「OUT」「柔らかな頬」そして「光源」と、パターン崩しはどんどん進行
している。
特に「結」の部分がほとんど溶融してしまっていて、読者には救いを求める
場が与えられない。

確かにこの小説は、意外な形で映画が完成したところで終わっている。
しかし、登場人物たちが抱えていた問題はほとんど放り出されたままだ。
そもそも解決する方がリアルではないのだ、というのが、
起承転結が重視されるミステリーの世界で長く過ごしてきた作家が出した
「結論」なのだろうか。
(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
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■「きみはもう『瀕死の双六問屋』を聴いたか?(読んだか?)」
   ミラクル福田
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『瀕死の双六問屋』 忌野清志郎 光進社   定価1905円(本体+税)

 忌野清志郎の最新CDだ。なんと書店で売っている。しかも本がついている
(CDがついているともいう)。キヨシロウの音楽を聴きながら、本まで読め
るという(本を読みながら音楽まで聴けるともいう)。とてもゴージャスな
本だ(CDだともいえる)。

  イイマーノの本は、『十年ゴム消し』(河出文庫)、『エリーゼのために』
(彌生書房)、『忌野旅日記』(音楽之友社)などがあるが、なかでも『忌
野旅日記』は傑作だ。なんど腹をかかえて笑ってしまったか知れない。冗談
のような旅なのだが、どうも冗談ではなさそうなのだ。(読んだのは新潮文
庫版だったけど、親本が生きていて、文庫は品切れ。厳しい世の中ですな)

  そのイマーノが、小説のような社会評論のようなエッセイのような本を書
いた。しかも、お薦めレコード(CD)と劇画まで載っている。さらに、『双
六』の内容は熱くて、文章がカッコいいときた。加えて、値段が税込み1905
円とは。買わずにいられようか?なんと太っ腹なイマーノでしょう(出版社
でしょうともいう)。

 『双六』にはイマーノの音楽への愛があふれている。“この音楽を知って
るか?まだ聴いていなかったら、是非、聴いてくれ!”そして紹介されるデ
ィスクは、38枚。さらに、イマーノは怒っている。社会に、会社に毒され
た自分と同じ世代の人たちに。“音楽を忘れちゃいないかい?ベイビー。ブ
ルースを忘れないでくれ”若い世代にはこんな声をかける。“主張しろ!で
かい声を出せ!世の中がくだらない方向に変えられてしまうぜ。おまえの夢
はなんだ!?”

 熱いオヤジだ、イマーノは。でも、いまこんなオヤジが身近にいるだろう
か。会社で偉くなっている人たちは、その昔、火炎瓶を投げはしなくても、
社会に対して積極的に発言したり、逆に発言しないことでも主張をできた世
代だ。でも、その団塊の世代前後のおじさん、おばさんは、いまの社会に対
してどんなことを言ってきたのだろう?親たちの世代の人間は、いまの20代
や30代に何を伝えてきたのだろう。社会に対してどんな働きかけをしてきた
のだろう?いわなきゃいけないことがたくさんあるのに、誰もなにもいわな
い。そして、育つのは"シャイな若者"だ。

 「人々は笑顔や軽い挨拶をどんどん忘れていく。シャイな若者が充満して
いるので世界中がぎこちなくなってしまった。俺はずっと楽しみにしていた
んだぜ。ここに来て君と何か話しをしたかったんだ。昔、俺はずっとシャイ
だったが、世の中が超シャイになってしまった現代ではとても図々しい態度
のロック・スター・オヤジに見えるらしい。」(11P.)
テレビで見ても、ラジオを聴いても、イマーノは昔からずっとシャイだった。
居心地が悪そうに訥々と、それを誤魔化すためにとんでもない話を振ったり、
床を転げまわったりしていた。そんな彼のこの発言だ。

 イマーノがこんなことをいうようになるのは、とても寂しいことだ。だが、
こんな状況だからこそ、『双六』の中で語ってくれているんだ。読めば力が
漲ってくる。おそらく、この世の中で、正気でいるということは、イマーノ
のようにパワフルに生きて行くことなのではないだろうか。

 気の抜けたおじさんやおばさんになってしまう前に、やることはたくさんあ
る。

 ところで、『瀕死の双六問屋』ってなんだ?と思っていたら、『噂の真相』
('00年10月号)に載っていた。「すごいロックの問屋が瀕死の状態」という
ことだそうだ。
(ミラクル福田 某人文系大手出版社編集 30歳 年間読書量100冊
弱 好きなジャンル 文芸・芸能)  
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■「私、この本で驚愕しました」守屋淳
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『生は彼方に』ミラン・クンデラ 早川書房
 
小説でも映画でも、TVドラマでも何でもいいんですが、脇役の人生って、話
の終った後に、どうなっちゃうのかって、気になったことありませんか?

だいたいハッピーエンドのドラマであればあるほど、おいしいとこはみんな主
人公がもってっちゃったりするのが普通です。でも、万一脇役の立場に立った
なら、本当にそれで良いんだろうか? という・・・  

例えば、有名な『卒業』という映画で、ラストシーン、主人公は、他の男と結
婚式を挙げようとする寸前のヒロインを連れ出して逃げ、ハッピーエンドを向
かえるのですが、でも連れ出されちゃった男の人生はどうなるの――この疑問
の前提には、こんな問いかけがあるのかもしれません。≪もしかして、実際の
人生において自分は女の子を連れ出す方ではなく、連れ出される方になってし
まう場合も在り得るのではないか・・≫(単純な2分法として捉えれば可能性
は五分五分でしかない)。そして、そういうドラマ自体、もし視点を変えて脇
役であった者の立場から物語を作りなおした場合、果たしてどんな物語が立ち
あがるのだろうか・・・

考えてみれば、これはとても意地の悪い考え方です。自分で、自分は人生の主
人公と信じていれば、それで在る意味幸せなんですから。わざわざ、それをひ
っくり返す必要はない、主人公にとってハッピーエンドであれば、それでいい
じゃないか・・

現存する作家で、最も意地の悪い視線を持つ(と僕が勝手に思っている)作家
であるクンデラは、こういうとこ見逃しません。見逃さないどころか、舌なめ
ずりして描こうとするのです。そして、それがたまらなく面白い・・・

ここで紹介する『生は彼方に』の主人公は、少壮の、自信に満ち溢れた詩人で
す。この主人公が、どう人生の主役と脇役を行き来するかは、読んでのお楽し
みですが、僕はこの小説のラストシーンを読んで正直驚愕しました。意地が悪
く、鮮やかで、そして人生の深奥を覗かせるようなそのラストシーンに・・

人生に迷いが生じてしまったとき、ぜひご一読下さい。
(守屋淳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好きなジ
ャンル 古典) 
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■あとがき
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>総理大臣が、昔、検挙されたかされないかで話題になっていますね
>そうそう、なんか警察は回答しないとか言ってるんでしょ?
>それって、要は検挙歴があるって暗に答えてるようなものだよねえ??
>そうだよねー。推理ドラマで言えば、『答えられないということは、やはり
お前が犯人なんだな』と名探偵だか刑事に突っ込まれ、うなだれて終るという
パターンだもんね・・
>平気で嘘つく人が総理で、真実は明かせませんというのがこの国の警察なん
だってことなんだよねー
>トホホホ、ですね・・・
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