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2000.10.30.発行 vol.15 [悲しみきれていない 号]
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■■ [書評]のメルマガ 2000.10.30.発行
■■ vol.15
■■ mailmagazine of book reviews [悲しみきれていない 号]
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■「号泣型の本領発揮」石飛徳樹
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壬生義士伝(上・下)
浅田次郎著
文芸春秋 上下各1524円(税別)
浅田次郎の泣かせは、ほろり型ではなく号泣型である。
だから、うまくはまらないと大仰な印象になってしまう。
その代わり、ツボにはまったら、電車の中であろうとどこであろうと、
涙を止めることが出来なくなる。
ベストセラー短編集「鉄道員」の中でいうと、
私は、旅券のために偽装結婚した男と女を描いた「ラブレター」で、
最もツボにはまった。
逆に、表題作「鉄道員」はちょっと大仰な感じがした。
もちろんそれは個人の嗜好によるわけだが、
今回の「壬生義士伝」は、ものの見事にツボを直撃した。
南部藩を脱藩し、新選組で人斬り稼業を続けた後、
鳥羽伏見の戦で燃え尽きた男・吉村貫一郎。
彼は心清き真の侍だったのか、金に汚い守銭奴だったのか。
明治維新から数十年後、
貫一郎の周囲にいて、その後の時代を生き抜いた人々が、
それぞれの立場から彼の思い出話をする。
藩に残した妻子や、近藤や土方ら新選組隊士との関係が語られるうち、
義に生きるとはどういうことか、が浮かび上がってくる。
「鉄道員」以来の新しいファンにとって、
浅田次郎は短編の泣かせ上手だと思われている。
しかし、本当は、浅田の本領は長編にある。
先述したほろり型と号泣型とも関係するが、
短編作家はほろり型でないと、なかなか難しいのだ。
短い文章の中で力業を披露しようとすると、どうしても無理が生じる危険が
高くなる。
単行本でまとめて読んだりすると、途中で満腹になってしまう。
一方、長編だと、そんなに号泣場面が次々訪れるわけはなく、
長い助走期間を経て、主人公に十分思い入れたところで強烈な泣かせが来る
から、思う存分涙を流すことが出来る。
浅田次郎の魅力は、極論すれば語り口の粗野さにある。
極道を好んで取り上げ、彼らの語りで物語を進めることが多いのも、そのせ
いである。
主人公の粗野さをたっぷり見せておき、ここ一番という時、優しさや気高さ
をズバッと出す。
これが涙腺に最も効くのだ。
この意味で新選組はまさに浅田次郎のために用意されたような素材だった。
構想20年というのも満を持していたのだろう。
決して大仰ではなく、これは浅田次郎の最高傑作だと思う。
(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
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■「悲しいことありませんか?」ミラクル福田
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『対象喪失 悲しむということ』小此木啓吾 中公新書 本体価格680円
“かなしみっていつかは消えてしまうものなのかなぁ”こんな歌がある。
まともに聴いたことがないのに、なぜか耳に残っていて、散歩している時
や会議に退屈している時、洗濯物を干している時に、頭の中でぐるぐる回
ってしまう。(この歌が回るのは、あんまりいい状態ではないと思う)
確かに、どんな悲しみも、日々の暮らしにまぎれて、知らず知らずのう
ちに忘れてしまうというのが実感だろう。でも、本当そうではない、悲し
みが癒えるまでには、心の中でもっともっといろいろな体験をしなければ
ならないんだ。そんなことを、この本は改めて教えてくれる。
しかし、“悲しみ”ってどんなものなんだ?どんな時に悲しいと感じる
のだろう?親しい人が死んでしまった時、恋人と別れた時、大切な本をな
くされた時、人に誤解された時・・・・・・。挙げればいろいろあるけれ
ど、根っこはたぶん一つ、“喪失”、何かを失うことだと思う。(誤解さ
れた時は、相手と共有していいた筈の認識が失われる)
例えば、親しい人が亡くなった時や恋人と別れた時のことを考えてみよ
う。最初に衝撃を受けて、深い悲しみに包まれる、そしていなくなった人
の優しかったこと(嫌な面)などを思い出す、というのが一般的な流れだ
と思う。普通はこの後は、“いつかは忘れてしまう”、恋人に振られた場
合なら“早く次の人を探す”という風になる。でも、小此木先生は力強く
言う、それでは悲しみを悲しんではいないのだ、と。
では、しっかりと悲しめていないと、何がいけないのか? それは、消
化しきれていない悲しみが、突然、心の奥底から蘇ってきて、その人の心
身に悪さをするからだ。
忙しさにまかせて、父親の死を充分に悲しめていない人は、命日に父親
の死因と同じ心臓発作に倒れた。男に振られて研究に打ち込んだ人は、研
究者として大成したが、後に鬱病になった。こんな例をたくさんあげなが
ら、解説は進められる。ここで、実名で特に詳しく心を分析されてしまう
人が、フロイトだ。
父親や友人たちを失った時、七転八倒、紆余曲折しながら、フロイトは
自分の心を観察し続けた。その時の実践の記録がフロイトの「喪の仕事/
悲哀の仕事」という概念に表されている。これを一言で言うのは乱暴極ま
りないけれど、言ってしまうなら、「悲しみを本当に悲しむためには、失
った対象(人)との関係をしっかりと認識しなさい」ということだ。(当
たり前のことに思えるかもしれない。でも、当たり前のことをまじめに理
屈をつけて説明することが心理学なのだから、納得するためにはこの本を
読んであげてください)
どんなに愛していた人に対しても、愛するがゆえに強い敵意を向けるの
が人間。どんなに憎んでいた人でも、憎むがゆえに申し訳なさを感じてし
まうのが人間。そんな対象を失った時、入り組んで、複雑な人間の(自分
の)悲しみを、時間の流れにまかせて流してしまうと、後々までしこりを
残すことになる。そして、現代はそれがうまくできにくい、そんな時代な
のだと言う(20年も前に)。
じゃあ、悲しみを悲しむには、どんな方法があるのか。どんな心境にな
れれば、悲しめたと言えるのか。ここで端的に言ってしまっても、おそら
く納得はできないと思う。だから、まずはこの本を読んでみて欲しい。自
分のこれまでの暮らしの中からも、まだ、悲しみきれていない悲しみを見
つけることができると思うから。
最近起こった喪失体験をトレースしていきながら読めば、以前、途中で
投げ出した本だったけれど、読めるのではないか。そんな気持ちで読んだ
本だったけれど、読後感は、もっとヘビーだった。いままで、隠蔽してき
た未完の悲しみが、2つほど見つかってしまったのだ。今更だけど、付き
合うしかないですね。
(ミラクル福田 某人文系大手出版社編集 30歳 年間読書量100冊
弱 好きなジャンル 文芸・芸能)
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■「私、この本で爆笑しました」守屋淳
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『妊娠小説』斎藤美奈子 ちくま文庫
男にとって、現実的な最大の恐怖ってなんだろう?――って考えると、も
しかしてそれは、「あなた出来ちゃったの」もしくは「アレがないの」と
いう不意打ちの言葉なんじゃないのでしょうか(もちろん最初からそのつ
もりで、なら問題はなんにもありゃしませんが)。
だって、自分の分身がいきなり製造されちゃって、その上、生むことにで
もなったら、その責任をいきなり何十年と負わなきゃいけないんですぜ。
しかも、生む生まないは、こちらが選択できることではない・・シェー
あ、もちろん、女性にとっても、それがただならぬ一大事であることは言
うまでもないのですが。
まあ何にしろ、こんなドラマになりやすい事例をフィクション界が放って
おくこともなく、実は大昔からこれをネタにした話は跡を絶たないわけで
す。その文学の系譜を追ってみたのが本書。いや、これもう恐怖とお笑い
の混じった一大傑作となっております。
これを読んでまずびっくりするのが、何といっても島崎藤村。『若菜集』
とかいちゃって初々しい文学の人かと思いきや、なんと、従姉妹を妊娠さ
せる→一人で海外に逃げる→日本にもどってくると、また従姉妹を孕ませ
る(実話)とか、凄いことをやってるんですねー。しかもそれが世間にば
れそうになったので、『新生』という小説にして発表すると言う・・もう、
唖然茫然、どうしようもない御仁だったりするわけなのです・・
さらに、辻仁成さん。『クラウディ』という小説の中で、
≪「(略)二枚のスキン。なのに、私が生まれてしまったわけ。」
「タフな精子だったんだね、その、つまりお父さんのは」≫とか書いちゃ
ってるわけですが、すかさず斎藤姉御、≪<タフな精子>なら二枚重ねの
<スキン>を通過できるのか≫という爆笑モノの突っ込みをいれてみせた
りもしています。
ま、とにもかくにも、男の馬鹿さ加減、紋切り型を、たっぷり堪能できて、
しかも男だったら冷や汗までかけまくるという傑作です。ぜひご一読を。
(守屋淳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好きなジ
ャンル 古典)
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■あとがき
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>メルマガって、全体で、1週間にどれくらいの部数が発行されているか、
知ってます?
>えー、うーん、百万部くらいかな・・
>ぶー、残念でした。まぐまぐの数字なんですが、なんと三千四百万部超
えているんですって
>しぇー。す、凄いねー。もしかしてそれって既存の雑誌の一週間の発行
部数超えちゃってるんじゃない??
>正確な数字わからないけど、その可能性もたぶんあるんでしょうねー。
もちろんメルマガは基本的に無料だけど、考えさせられる数字だよね・・
>確かに。活字って金出して手に入れるものではない、とかいうご時世が
来るのかもしれませんねー。
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