2000.11.20.発行 vol.17  [金閣寺の主人公みたい 号]

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■「暗記しちゃうほど、読み返した本」中山修一
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『花ざかりの森・憂国』三島由紀夫、新潮文庫

 高校生の頃、私の性格の悪さをたとえて「お前って、『金閣寺』の主人
公みたい」と友人から言われたのが、三島由紀夫を読み始めたきっかけだ
ったと記憶しています。でも長い小説を読む忍耐強さに欠けていたため、
手に取ったのがこの短編集でした。三島自身解説でこう言っています。「
もし、忙しい人が、三島の小説の中から一編だけ、三島の良いところ悪い
ところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、「憂
国」の一編を読んでもらえばよい」。しかし私が惹かれたのは、所収の「
海と夕焼」という短編で、今でも時折読み返します。

 あらすじは、文永9年(1272)の晩夏、鎌倉・建長寺の裏山から、
稲村ヶ崎の海に沈む夕日をみながら老齢の寺男・安里(アンリ)が、口の
きけない、耳の聞こえない一人の少年に、みずからの経験した「不思議」
を語り聞かせる、というものです。
 大好きな裏山から夕焼けに浮かぶ鰯雲をみながら、安里は異国のことば
でつぶやく。そして少年に語りかける。「お前は何を私が言っても分かる
まい。しかしあの村人たちとちがって、お前は私の言うことを信じてくれ
るだろう。私は話すよ。きっとお前にも信じにくい話かも知れないが、き
いておくれ。お前のほかに、誰も私の話を本当にしてくれそうな人はいな
いんだから」。
 60年前、アンリはフランスのセヴェンヌの羊飼いだった。時は第5十
字軍が聖地奪回に失敗したころだ。ある日の夕暮れ、羊たちとともに丘を
のぼりかけると、キリストに出会う。キリストはいう、「エルサレムを奪
い返すのはお前だよ、アンリ」と。多くの同士を集めてマルセイユに行け
ば、地中海は二つに分かれ、エルサレムに導かれる」と。
 アンリら少年十字軍らは多くの犠牲者をだしながらも、マルセイユに着
くが、海は分かれない。永いこと祈ったが海は満々と水をたたえている。
そのうちある信心深い様子の男にエルサレムに舟で連れていくという申し
出があり乗船するが、彼らはエルサレムに行くことなく、アレキサンドリ
アの奴隷市場でことごとく売られてしまった。
 売られ売られてインドの地で、修行に来ていた大覚禅師に助けられたの
が縁で、師に供だってアンリが来たのがこの鎌倉の地である。今や、いた
ずらに来世を願ったり、まだ見ぬ国にあこがれることもない。ただ夏の空
を夕焼けが染め、海が緋色に輝くのをみると、みずからの生涯のはじめの
ころに訪れた不思議を思い返さないではいられない。「安里は自分がいつ
信仰を失ったか、思い出すことができない。ただ、今もありありと思い出
すのは、いくら祈っても分かれなかった夕映えの海の不思議である。奇跡
の幻影よりも一層不可解なその事実、何のふしぎもなく、基督の幻を受け
入れた少年の心が、決して分かれようとしない夕焼けの海に直面したとき
のあの不思議ゥゥゥ」「おそらく安里の一生にとって、海がもし二つに分
かれるならば、それはあの一瞬を措いてはなかったのだ。そうした一瞬に
あってさえ、海が夕焼に燃えたまま黙々とひろがっていたあの不思議ゥゥv。
 
 この短編を、長い間、戦中派と呼ばれる世代の経験と重ね合わせて、読
んできました。しかし読みなおして一番面白い部分は、耳も聞こえない、
口もきけない少年に安里が語りかけているところ。夕焼に導かれ、絶対に
通じないのに語りはじめる、この瞬間、この不思議。これは、三島という
人間の経験に還元されない、ある普遍性にとどきえているように思われる
のです。
<中山修一 新曜社営業部 32歳 年間読書量今年は20万円ぐらい 超好
きなジャンル 週刊マンガ>
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■「暗記しちゃうほど、読み返した本」今野倫子
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「一千一秒物語」 稲垣足穂 透土社

星の角度には品性が宿るように思う。
ここに出てくる星たちも、また然り。

「    さあ御食事がすみましたら
     こちらの方へ集つて下さい
  いろんな煙草が取り揃へてあります
 目録によつてどれでもお好み次第に…… 」

といった序詞から始まる足穂の「一千一秒物語」は小説や詩といった
ありふれた言い方よりは、様々な断片が詰め込まれた作品集といっておくの
が妥当な気がする。

                    ☆
 
    或る夜
    月の影さすリンデンの並木路を口笛吹いて通つて行くと
    エイツ! ビユン! と大へんな力で投げ飛ばされた!
    それだけだつた 話はね (或る晩の出来事)

    
    北星の夢幻曲が始まりかけると 突然 オーケストラの
    中から黄いろい煙がパツと舞ひ上がつて 見る見る内に
    會場に擴がつてしまった    
    入り口に居つた係員達が驚いて 窓といふ窓を皆んな開け
    放してその排出に努めた 煙がなくなつてしまつた時
    何うしたわけか オーケストラも 澤山の人々も 何時
    の間にか居なくなつて 廣い會場内には 只眩しい花瓦
    斯の光が淋しげにふりそそいでいるだけであつた
    一體何うなつたのか? 會場内に居つた人々は 皆んな
    なくなつてしまつたので 知る由もなかつたが その不思議
    な出来事は 多分 その夜降るやうに 空一ぱいに輝いて
    いた星屑のさいだらうと云う事に衆論が一致した
                                  (AN AFFAIRE OF THE CONCERT)    
  

                                            ☆

このような話がこの中には68編つまっている。頁をめくる度に溢れ出てく
る月や星たちの洪水。必ず文章には付随してくるであろう、教訓やら感情
やら、ましては意味さえもここには存在しない。少年も月も星も、銀河の物
質として同次元に自由自在に動き回る。それは時には「お月さま」であった
り、「流星」であったりと、まるで昔のサイレントを彷彿させる雰囲気を持ち
合わせている。

足穂は1900年に生まれ、22歳でこの作品を書いている。飛行家を目指
した痩せた色白のハイカラな青年の(彼は、鼻眼鏡をかけ、いつもしゃれ
た洋服を着ていたそうである) 魂はいつも空の彼方にあったのだろうか。
この作品は今の時代においても、まったく古さを感じさせない普遍性を持っ
ているように思う。それは、ここに今も昔も変わらぬ夜空への眼差しがあ
るからだと思う。

この作品には確固たる無限の宇宙の領域があり、完全に独立した無機
的な美しさが感じられる。拡がりゆく闇はやさしく甘く、せつない。そして、
穏やかさというものが形を変えて存在しているように思う。これは視覚的
なものも大きく影響している気がする。

銀文字で書かれたノスタルジックな表紙。挟み込まれた幻想的な写真。
コーティングされた上質な紙に印刷された昔ながらの活字。ほどよいか
すれ具合や旧仮名、旧漢字で書かれた文章は、16才のしがない少女
には十分すぎるほど、魅力的だった。今よりも不自由で不器用な当時
のあたしは、自分の力じゃどうにも出来ない星とか光とか、そんな美し
さに惹かれてたんだと思う。
 
執拗に繰り返す星たちが内面に溶けこみ、自分の中に入ってくる。宇宙
と繋がっているという安堵感が、いつしか眼に映る光景も変えてくれるよ
うに思う。
 
最後に疑問をひとつ。
何故か月はいやに短気で、乱暴者に描かれている。少年をこづき廻し
たり、短剣を引き抜く。悪い友達もいるらしい。
これはなぜなんでしょう?
足穂にぜひ聞いてみたかったですね。

           
                      ☆
     
          さよなら、よき夢をごらんなさい!
          私の紳士淑女諸君! 
          又、明晩御目にかかりませう

<今野倫子 書店員 年間読書量50冊 好きなジャンル文学・音楽>
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■あとがき
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>首相どうするかで、政治がゴタゴタしてますね。
>あの、一つ想像しちゃうんですけど・・
>はあはあ
>日本の総理大臣って、例えば大企業の社長としてつとまるのかな・・と。
例えば、ソニーの社長として、国際企業を切り盛りできるかどうか・・
>うーん、そう言われてみると、専門家(サッカーの中田)に対して知った
かぶりして、しかもその知識が間違ってたとかいう人物ですからねー、絶対
無理って感じですよね。
>そう、まあ平取締役すら無理でしょうね。自分のいた会社で言えば、窓際
に飛ばされた口ばっかしの人にそっくり(笑)。みじかな組織に当てはめて
見れば、トップの器じゃないのが見えちゃってるから、支持率も低いわけな
んだろうけど、そういう人を守るとかいう保守の議員がたくさんいたりして
・・
>国益より、身内の論理を優先する国会議員をのさばらさている有権者の責
任でもあるんですけどね・・
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