2004.8.20.発行 vol.176 [乱歩VS甚一 号]

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■■ [書評]のメルマガ                        2004.8.20 発行  
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■                                               vol.176 
■■     mailmagazine of book reviews  [ 乱歩VS甚一 号] 
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[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
 →本をめぐる情報+アルファの雑談です。ついにあのシリーズが復刻。
★「下連雀しゃんしゃん日録」長谷川洋子
 →巷で話題の古本屋「上々堂」の女店主が綴る細腕太腹繁盛記。
★「今月ハマったアート本」平林享子
 →1959年からチェコで刊行された絵本シリーズの翻訳が出ます!
★「もっと知りたい異文化の本」内澤旬子
 →今回は異文化と歴史紹介が上手な小説家を三人、合わせ技でご紹介。
★「中山亜弓が選ぶこの一冊」
 →ロマン優光、中原昌也、太田螢一。この三人にはふかーい関係が。
★「全著快読 古山高麗雄を読む」荻原魚雷
 →没後二年になる芥川賞作家の残した約50冊を丹念に読んでいきます。
★「食の本つまみぐい」遠藤哲夫
 →〈大衆食堂の詩人〉エンテツが料理文化史の重要本を紹介します。
*本文中の価格は、すべて税抜き(本体)価格です。

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■南陀楼綾繁のホンのメド  おかわり
 前号で紹介しきれなかったネタを落ち穂拾いしておきます。
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【トピックス】
★晶文社から「植草甚一スクラップ・ブック」復刻
 誰もが必死になって集めた、あの「植草甚一スクラップ・ブック」全41巻
が再刊されます。しかも、四六判・ビニールカバー装という刊行当時の体裁で。
もちろん月報だって付いている! 9月から毎月3冊ずつ刊行されるので、こ
の機会に全巻揃えるのもよし、一冊だけでも買ってみるのもよし、です。1990
年代以降、植草甚一の再編集本が何冊も出たが、けっきょくはこのシリーズに
は適わないという気がします。

★「皓星社通信」リニューアル
 皓星社のメールマガジンが今月からリニューアル。読み物の連載がふたつ始
まります。荻原魚雷「つまり、そういうこと」と、濱田研吾「失われた声を聞
く」です。8月18日配信号では、濱田氏が、放送劇作家の西澤實が手がけたラ
ジオドラマ『架空実況放送』について書いています。よくもまァ、こんな番組
よく知ってるよなあ。濱田氏もメルマガ編集長の佐藤健太氏も、20代にしてす
でに老年の域に達しておられます(とくに佐藤氏は出版界イチの「助教授面」
です)。今後の展開に期待。
 バックナンバーと購読の申し込みは以下↓
http://www.libro-koseisha.co.jp/top11/back_number.php

★モクローくん大感謝祭は22日(日)まで
 千駄木「古書ほうろう」で続いている「第一回モクローくん大感謝祭」は、
いよいよ最後の週に入りました。後半から展示を「花森安治の装幀本」に入れ
替えています。「古書モクロー」では、古本(戦前の実用本から最近のエッセ
イ集まで)、紙モノ(絵葉書、マッチラベルなど)、CD(レアなものが多いの
か意外によく売れてます)を毎日追加。最後まで見逃せません。なお、22日
は日曜日のため8時に閉店します。どうぞヨロシク!

【イベント】
★旭堂南湖の独演会「第四回 幻の南湖」
 マニアックな演目で熱心なファンの多い上方講談の旭堂南湖が東京で興行。
今回は「旧江戸川乱歩邸公開記念興行」として、「探偵講談 乱歩一代記」を
はじめ、「講談紙芝居 原始怪獣ガニラ」「新作講談・波照間島」などを語る。
ゲストの山前譲さんと乱歩を語るコーナーもあり。
 会場では南湖さんの同人誌『世界の中心で、講談をさけぶ』も販売するらし
い。コレは行かねば。

日時:8月29日(日)13時開演 
場所:お江戸両国亭
料金:インターネット前売特別予約2200円(8/20日まで受付)
   当日2500円
http://www003.upp.so-net.ne.jp/nanko/yotei.html

【映画】
★フィルムセンターで高峰秀子特集。
160本を越える出演作の中から80本以上の作品を連続上映するものです。
 第1部は、9月3日(金)〜10月10日(日) 
 第2部、10月12日(火)〜11月19日(金)

 第1部は、戦前から1950年代前半にかけての作品で、ぼくが観たことが
あるのは、「綴方教室」「昨日消えた男」「馬」「秀子の車掌さん」「待って居
た男」「或る夜の殿様」「銀座カンカン娘」「カルメン故郷に帰る」「稲妻」
「二十四の瞳」というあたり(けっこう観てるな)。
 今回観たいのは、戦前は「チョコレートと兵隊」、戦後は「グッドバイ」
「我が家は樂し」「カルメン純情す」。ナカでも注目は、「野球場での毒殺事
件をめぐって展開される犯罪映画」という「明日はどっちだ」。永井龍男が原
作(原案?)とあるのも謎。
http://www.momat.go.jp/FC/NFC_Calendar/2004-09/kaisetsu.html

【買いたい本】
★『佐藤さとる幼年童話自選集』全4巻、ゴブリン書房
「毎日新聞」の広告で見るまで、この版元の名前は知らなかった。『だれも知
らない小さな国』とはまた別の、佐藤さとるの幼年童話の自選集が出ていたと
は。セットケース入りで欲しいなあ。

【雑誌】
★『別冊畸人研究 金剛山研究』1000円
 今回は、海老名ベテルギウス則雄がこの数年通いつめた北朝鮮の名峰「金剛
山」の大研究。とんでもなく細かい文字で150ページ以上。イデオロギーを抜
きにして、自分で見たこと体験したことを忠実に記録している(が、目の付け
どころがかなりヘン)。巻末の「ふとまき日記」は海老名氏の奥さんのベテル
ギウス観察日記なのだが、今回はベテルギウス本人よりは同居することになっ
た海老名の両親の畸人ぶりが目につく。

【ギャラリー】
★真鍋博展はイイぞ
 ときどき度肝を抜くようにイイ展覧会を開く「東京ステーションギャラリー」
で、「真鍋博展 イラストからのコミュニケ−ション」が開催中(大阪、倉敷
からの巡回)。星新一や筒井康隆をはじめとするSF・ミステリのイラストと
装幀、未来予測図、深く関与した万博の製作物などなど。原画だけでなく、そ
の絵が使われた本も一緒に展示してあるトコロが憎い。本人が、出身地である
愛媛の図書館と美術館に生前から寄贈してきたものが元になっている。最後の
部屋の出口にあった、細かい字で書き込まれた日記帳を見逃すな! 図録も上
出来です。

日時 9月12日(日)まで 月曜休
場所 東京ステーションギャラリー
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/

★Juicy Fruits200号記念展
 大竹美緒さんが発行する、辛口女の子ミニコミ「Juicy Fruits」が通算200
号を迎えました。これを記念して、ローテンション&ハイペースの4年間をミ
ニコミ・フリーペーパー・漫画・イラストなどの作品で振り返ります。展示に
あわせ、ミニコミのバックナンバーや、漫画家・イラストレーター等が多数参
加した観光地レポート、「日本みやげ話」も販売します。豪華なゲストによる
みやげ話が満載です!

日時:8月20日(金)〜25日(水) 14:00〜20:00
場所:高円寺・ギャラリーハト市場
http://www.koenji.org/

ミニコミセラピー 21(土)、22(日)
悩みを聞きながら症状別のミニコミを処方します。
http://www.juicyfruits.net/200koten.html

【先月読んだ本】
32冊。出版史、文壇史の本は一冊読むと他にも読みたくなる。
◆東直己『熾火』角川春樹事務所◆小田扉『団地ともお』第2巻、小学館◆
丹波哲郎・ダーティ工藤『大俳優 丹波哲郎』ワイズ出版◆遠藤哲夫『汁かけ
めし快食學』ちくま文庫◆吉川潮『突飛な芸人伝』新潮文庫◆江崎誠致『離宮
流』講談社◆藤木TDC『アダルトメディア・ランダムノート』ミリオン出版◆小
林信彦『名人 志ん生、そして志ん朝』朝日選書◆蜂巣敦『殺人現場を歩く』
ミリオン出版◆狩撫麻礼(原作)・いましろたかし(画)『タコポン』上巻、
エンターブレイン◆恩田陸『Puzzle』祥伝社文庫◆本秀康『ワイルド マウ
ンテン』第1巻、小学館◆秋山満『COMの青春 知られざる手塚治虫』平凡
社◆青井夏海『陽だまりの迷宮』ハルキ文庫◆中川五郎『ロメオ塾』リトルモ
ア◆松本正彦『劇画バカたち!!』第2巻、劇画史研究会◆島本和彦『吼えろ
ペン』第11、12巻、小学館◆野中英次『魁!!クロマティ高校』第10巻、講
談社◆木村千歌『マイニチ』久保書店◆石井政之編著『文筆生活の現場 ライ
フワークとしてのノンフィクション』中公新書ラクレ◆多島斗志之『聖夜の越
境者』講談社文庫◆戸川昌子『深い失速』新風舎文庫◆谷沢永一『文豪たちの
大喧嘩 鴎外・逍遥・樗牛』新潮社◆小田扉『そっと好かれる』太田出版◆さ
そうあきら『マエストロ』第1巻、双葉社◆かわかみじゅんこ『キキララ火山』
飛鳥新社◆長谷川郁夫『われ発見せり 書肆ユリイカ・伊達得夫』書肆山田◆
安田武『ある時代』日本エディタースクール出版部◆小田久郎『戦後詩壇私史』
新潮社◆恩田陸『まひるの月を追いかけて』◆押切蓮介『でろでろ』第2巻、
講談社

ちなみに、本メルマガ連載の塩山芳明さんの6月読了リストはこちら(「コミ
ックMate」9月号より無断転載)。
29冊。「激ダメ本は2冊。まず『読書という迷宮』。カバーの少女趣味(沢渡
朔が可哀想)。ドイモなタタキ(“作家の魂の深淵に分け入る泣ける書評”だと。
バーカ! 泣きてぇなコッチだ)、深刻ぶったトロい文体に権威主義(紅衛兵が
『毛沢東語録』を暗唱するように、吉本隆明をやたら引用)と、三拍子揃った
クズ本。(以下、まだまだ続くので略。ちなみにもう一冊の激ダメ本は『アナ
イス・ニンの日記』。良かったのは『整理前の玩具箱』)
◆『荒木一郎のビッグ・マジック講座』徳間書店◆富岡多恵子『中勘助の恋』
平凡社ライブラリー◆グレアム・フラー編『ケン・ローチ』フィルムアート社
◆ナンシー関ほか『超高校級』河出書房新社◆『工藤正廣詩集 ロシアの恋』
未知谷◆鹿島茂『解説屋稼業』晶文社、『悪女入門』講談社現代新書◆根本敬
『怪人無礼講ララバイ』青林工藝舎、『学ぶ』テレグラフファクトリー◆徳川
夢声『夢声対談集 問答有用3』朝日新聞社◆呉智英『知の収穫』双葉文庫◆
飯島耕一『詩の両岸をそぞろ歩きする』清流出版◆南陀楼綾繁『ナンダロウア
ヤシゲな日々』無明舎出版◆杉作J太郎『L.L.COOL J太郎』マガジン・ファイ
ブ◆溝口敦『雲を駆る奔馬 三代目山口組若頭山本健一の生涯』徳間書店◆大
竹誠『街の忘れがたみ』ギャップ出版◆山本博文『江戸お留守居役の日記』講
談社学術文庫◆草間彌生『ニューヨーク’69』作品社◆野見山暁治『遺された
画集 戦没画学生を訪ねる旅』平凡社ライブラリー◆『北村太郎詩集 冬の配
当』思潮社◆布川秀男『もう取り戻せない昭和の風景 東京編』東洋経済◆
『天沢退二郎詩集 血と野菜』思潮社◆斎藤槇爾『読書という迷宮』小学館◆
黒田三郎『流血』思潮社◆『ウォーホル』講談社◆青木正美『古本屋五十年』
ちくま文庫◆『アナイス・ニンの日記』ちくま文庫◆赤瀬川原平『整理前の玩
具箱』大和書房◆島田裕己『創価学会』新潮新書

【南陀楼のお私事】
★「モクローくん通信」19号は来週末発行です
 古書目録と古本屋をこよなく愛する南陀楼綾繁と、それを横目で見てはため
息をつく内澤旬子が贈る、世界で初めての「古書目録ファンペーパー」。頒布店
は、書肆アクセス・喫茶ぶらじる(神保町)、古書ほうろう(千駄木)、海文堂
書店(神戸)などです。切手送付の方には定期的にお送りします。メールでお
問い合わせを。
kawakami@honco.net

★メルマガ「早稲田古本村通信」連載中
「早稲田で読む・早稲田で飲む」の16回目。今回はさんざんカネをつぎ込んだ、
早大盛況書籍部について。購読は以下のアドレスからどうぞ。
http://www.w-furuhon.net/
 
★「彷書月刊」9月号(8月25日発売)
 鳥取市の定有堂書店のサイトを取り上げました。
http://homepage2.nifty.com/teiyu/

★「レモンクラブ」9月号(8月12日発売)
 今回は、藤木TDC『アダルトメディア・ランダムノート』(ミリオン出版)を。

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■下連雀しゃんしゃん日録   長谷川洋子(古書上々堂)
(6)ふつうのくらしに寄り添う古本屋になりたい
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★某月某日(水)晴れ/酷暑
 入り口でギギギっと音がして顔をあげると車椅子の女性とその介添えの男性。
走って出て行って車椅子のためにドアを大きく全開にしてさしあげる。昨日も
来店された母子。子、といっても60代半ば。元教授、といった風貌なり。昨日、
エッセイを一冊買ってくださったのだが、息子さんが本を選んでいらっしゃる
間、車椅子のお母様はさぞかし手持ち無沙汰だろうと「何か気になるご本があ
ればお持ちしますよ」と私がついつい出しゃばった真似をしてしまい、「僕の
本を選びに来ているので母の本はいいです。」と息子さんからピシャリ。
 そんな、あんさん……、と一瞬思ったけれど、親子の間のこと、しかも介護
していらっしゃる、その様々な気持ちなど考えずに声をかけてしまった私は、
いい格好し損ねた世間知らずだったのであろう、と反省。古本屋にしちゃ愛想
良すぎ、といつも相方のイシマルが苦笑いするが、こうまでぴしゃりと言われ
たん じゃ、苦笑いじゃあ、済まない。心証損ねたなあ、と思ったところ、連
日のご来店だったので意外な展開に嬉しくて思わず「昨日はどうも」
 すると、ニコニコしながら「昨日から目を付けていたんですよ。これ。でも
重たいかな?」と言って『江戸事典』(函なし6000円なり)を持ってレジに。 
「あ、それからちょっと待って下さい。外にあった本も」と『洗濯のコツ』と
いう本も。
「母の介護してるんでね、洗濯やアイロンもしなきゃいけなくて、こういう本
読んで勉強しようかなあと思って」
 通りがかりの女性が手に取ってくれるのでは、と、料理・家事関係の本は外
の平台に出しているが、こういう男性が本当の実用書として買って読んで下さ
るのかと思うと感慨一入。上々堂の本がお役に立てばなによりです。どうぞ無
理なさいませんよう、母子お二人、お元気で。
 ふつうのひとの、ふつうのくらしに寄り添う、そんな古本屋になりたい。と
思った一件。

★某月某日(木)晴れ/炎暑
 もうすぐ8月。戦争の月。6月下旬から店頭に出している『戦争の作り方』
(冊子版300円/マガジンハウスから今出ている本の前身。新本。古本に非ず)
は一日に1〜2冊売れて行く。若い人から年配の方まで。中には友人にプレゼ
ントという人も。戦争を考える季節。夏休みに覚えた四字熟語、鼓腹撃壌など
あり得ない。か?

★某月某日(金)晴れ/大暑なり
 本日をもって憧れの40歳となれり。隣の「アイトレーニング」(視力回復
のクリニック)から本日発売の缶ビールをお客さんから貰ったのでお裾分け、
といただく。ここのインストラクター氏も脱サラ組なり。朝、店出しの時、互
いに天気のことや健康のこと話しては「今日もがんばりましょう」と励まし合
う仲。少しずつ界隈の店主とも仲良くなって皆さんから優しい言葉を頂戴し勇
気づけられる。今夜は深夜1時までの営業。普段は飲まないビールだけれど誕
生日、ということで一人こっそり乾杯。
 金土は深夜1時まで開けています。飲み会帰りにふらっとおいで下さい。

★某月某日(火)晴れ/時々雨
 上々堂泣かせの天気が続く。
 青空の下、外に絵本や雑誌を華々しくディスプレイしたと思いきや、一天に
わかにかき曇り。思わずその場にへたり込むこと、ここひと月の間、一度や二
度ならず。
 いつぞや、深夜のお客さんに「あんなに本を外に出していて大丈夫なんです
か? 目が届かないでしょうに」と言われた事もあるけれど。開店以来そうい
うことで嫌な思いは一度もないから。もしも本がなくなったとしたら、取られ
るような出し方をしている私が責められるのでしょうねえ。相方に「調子よす
ぎ、人が良すぎ」とも、云われる所以。でもね、このディスプレイを楽しみに
して下さってるお客さんは結構あるんですよ。私も上々堂の前で立ち止まり、
平台の前で笑顔で「なつかしいねえ、この絵本」などと、話し合ってるご夫婦
や友人同士、そんな姿を見るのは楽しみ。だからやめない。

 でも突然の雨はご勘弁。本の出し入れは結構な重労働かつ筋力アップの運動
なり。当方、胸はぺしゃんこだけど古本屋を始めてから腕に筋肉がついた。最
近はネットで雨雲の動きを一時間おきにチェック。

★某月某日(水)くもり
 開店当初からの常連男性客が先日、久々に来。古本好き、というよりは読書
家タイプとお見受けする。年のころは60歳前後か。海外の小説や、近代日本文
学などの渋めのところを買っていかれる。時々レジで会話をかわすが、新米古
本屋女店主を困らせるような「ながっちり」でもなく、「教え魔」でもなく実
に紳士的で知的な男性。
 彼が「もうだいぶ、慣れましたか? 順調そうですがどうですか?」と声を
かけてくれた。開店以来、私のヨチヨチを危なっかしく思いながら見守ってく
れていたのだろう。なんとかガンバッテます、はい。

「本を読む時間はありますか?」等とも聞かれ、深沢七郎のこれこれが読みた
いけど図書館になかなか行けなくて(古本屋のくせに、自分の店にはないのだ。
だって、入るとすぐ出ていく)と言っていたところ(彼は上々堂で『庶民烈伝』
を買ってくれたのだ)今日、「これでいいかしら」と図書館から『深沢七郎全集』
の第4巻を借りて来てくださった! 感謝すべきなり。「僕は図書館で毎回10冊
は借りるんですよ。ついでがあったから借りてみました。」何と云う親切。あ
りがたや。ホントは又貸しはイケナイんだけど、『庶民烈伝』『盆栽老人とそ
の周辺』など時間を見つけてはむさぼり読む。本当にかくの如くに親切な御仁
が他にあろうか。いか様にお礼をすればこの気持ちが表せるものやら。

★某月某日(日)晴れ/暑さに慣れて来た
 夏休みに入り、子供と一緒に本の整理、という家が多いのだろうか、買い取
り依頼がぼちぼち。絵本がどさっと入った事も。また、絵本が沢山ある古本屋
というのことがこの10ヶ月余りで少しづつ知られてきたのか、親子で絵本選び
に来て下さる。
 店内では私の勝手で適当に自分に心地よい曲、イーノやグールドなど流して
いるせいか、子供連れのお母さんは「シッ!ここでは静かにしてね」と子供を
諭す光景は何度も。そんな子供が緊張するようなこと言わはらんと。と思うけ
ど、そうさせちゃう店の雰囲気なんだろか。赤ちゃん連れのおきゃくさんのと
きは、ゆったりしたクラシックやオルゴールの曲に変えることもあるけれど。
なにぶんプレーヤーの調子がここのところ芳しくないので一度入れたCD入れっ
ぱなしじゃないと器械が読み取らないという悲しむべき状況なり。買い換え時
期だ。)

 半年ほどたった頃から店内の陳列について、雰囲気について、また、文庫本、
単行本の並べかた、貸し棚にしている岡崎武志堂、浅生ハルミンの小部屋の位
置、等々、ああしたい、こうしたい、という思いが日々フツフツと。11月の一
周年にはああ、良かったね、頑張ったかいがあった、と皆さんに赤飯でも配れ
るよう、この夏を明るく元気よく乗り切って行こう。

★某月某日(月)晴れ
 ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』、斎藤隆介『八郎』を持ってお父さん
と小学生の女の子がレジへ。ああ、この人は本を知っている人だなあ、という
雰囲気のお父さん。こんなお父さんと暮すのは幸せだなあ、などと思いながら
レジを打ちかけたところ、そのお父さんが「あの棚の『荷風全集』はあの値段
でいいんですか?」と「あ、はい。10000円でよろしいですよ」「じゃあ、一緒
にお願いします」とあっさりお買い上げ。日曜日に出したばかりで、きっとす
ぐには出ないだろうから荷風ファンの私が夜な夜な読もうと密かに楽しみにし
ていたのだが、まあ、売れた方がそりゃあ、もっと楽しい。
 断腸亭日乗やその他の作品に私が惹かれるのは、荷風の胸のすくような(!)
皮肉家ぶりと徹底した個人主義。私の生き方もどこか似ているのかもしれない。 
と思いながらレジに「10000」と打ち込んで、休みが取れたらば向島あたりにで
も行ってみようかなあ、と。

★某月某日(月)快晴
 この本面白いですか? と、時々聞かれる。
 聞いてくるのはちょっとのんびりした感じの若い人に多い。他人任せが嫌い
で他人に決められるのも嫌いな私は どうもそういう問いかけに冷淡。自分で
まず一ページ繰ってみてはいかがですか、私の言葉が先入観になって判断をに
ぶらせるといけないからとなるべく角がたたぬよう言葉を選んでお断りするの
だが、今日もまた30代前半の女性が絵本『100万回生きたねこ』を持ってそ
う言った。前述のごとく答えると
「お姑さんが本読めないので何か読んであげるのにいい本がないかなあと。
それに、父も先が長くないからそんな人が書いた本がないかと」
 ああ、そうだったのか。
 私は本当に狭い了見で店番をしている。お姑さんに本を読んで聞かせてあげ
る。私にそんな芸当ができるのかしら?

 店内ぐるっと回って、石田千『月と菓子パン』(晶文社)を彼女に差し出し、
「読んでいる方も聞いているほうも清々しい気持ちになれると思いますよ」と
すすめてみる。一時間近く棚をあちこち見ていた彼女は月パンも手にしていた
らしく「お姑さん猫が好きなんです。」とさっきの絵本と月パンとリルケの『愛
の手紙』を買って「居心地がいいから長居してしまいました。また来ます。」
 私の中にはどこを探しても見付からない素直さと優しさ。
 上々堂に来る人々は天からの使者かもしれず。私に、心の澱を洗い流せ、と
いう。

本日もお買い上げ、有難うございました。また次回も宜しくお願いいたします。

*古書上々堂 〒181-0013 三鷹市下連雀4-17-5 
TEL 0422-46-2393

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■今月ハマったアート本  平林享子
(15)チェコの絵本作家による「ジス・イズ」シリーズ。ヒットまちがいなし?
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『ジス・イズ・サンフランシスコ』ミロスラフ・サセック著、松浦弥太郎訳、
ブルース・インターアクションズ 2004年9月1日刊、1680円

 数日前、素敵な絵本がうちに届きました。『ジス・イズ・サンフランシスコ』。
どことなく柳原良平さんの絵を思い出す、懐かしいモダンで洒脱なイラストで
す(船と海、その他の乗り物もたくさん出てきますし)。くぅ〜、これを嫌い
になれというほうが無理ですわ。しかも翻訳はCOW BOOKSの松浦弥太郎さんで
はありませんか。ヒットまちがいなしの気配です。

 チェコスロヴァキア、プラハ生まれの絵本作家ミロスラフ・サセックが、世
界の都市を描いた絵本「ジス・イズ」シリーズは、1959年から刊行され、当時、
たいへん人気を集めたとか。最近アメリカでも復刻されたそうですが、この日
本版は、そのアメリカ版(いろいろアレンジされているらしい)の翻訳ではな
く、原書初版の復刻ということです。既刊の『ジス・イズ・ニューヨーク』に
続き、今回がサンフランシスコで、9月にはパリ、10月にはロンドンと続く予定。

 柴田元幸さん翻訳によるエドワード・ゴーリーの絵本シリーズが、陰鬱な雰
囲気の絵にもかかわらず大人たちの心をつかんでヒットして以降、出版される
絵本の流れがちょっと変わり、それによって書店の絵本コーナーが活気づいた
ように感じますが、またまた魅力的な絵本シリーズの登場です。

 彩色がきれいです。とくに、色のにじみ方が。手描きの絵をパソコンにとり
こんで出力したときのにじみ方のようだなあと思ったら、原書(1960年)の画
像をとりこんでオリジナルの色を再現したのだそうです。このにじみが、オリ
ジナルに近いものなのか、コンピュータを経由して増幅されたものなのかは、
わかりませんが、にじみの効果もあって、絵に不思議な遠近感があります。ち
ょうど雪舟の「天橋立図」のように(偶然ですが、似たような構図の絵もあり
ますわ)、見ているうちに近いのか遠いのかの感覚が狂ってしまって、で、気
がつくと絵のなかに引き込まれてしまっているという。

「カリフォルニアの青いバカ」的な明るさとは違い、ちょっと暗めの色調が、
やっぱり東欧の匂いを感じさせます。それに、廃車の山とか、青い空を真っ黒
にしてしまうものすごい数の電線とか、刑務所とかをわざわざ描いていて、街
を見つめる画家の視線がちょっとだけダーク寄りなところも、いい塩梅です。

〈ひらばやし・きょうこ〉
近ごろ絵本や漫画の翻訳が続いている柴田元幸さんに、「エキサイトブックス」
でいろいろとインタビューさせていただきました。 
http://www.excite.co.jp/book/
また、9月15日ごろ、編集を担当した『太陽レクチャー・ブック003 北欧イ
ンテリア・デザイン』(平凡社)が発売になります。よろしくお願いします。
http://www.cloverbooks.com/new/new01.html
 
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■もっと知りたい異文化の本  内澤旬子
(20)小説に学ぶ外国の歴史
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 いまさらですが、「冬のソナタ」以降の韓国ブームに呆然としております。
これまでコリアンピーポーに根強い偏見を持っていた世代の人たちが、ヨン様
の声を理解するためにハングル勉強してんですから。フィクションのちからを
ひしひしと感じました。
 そんなわけで今回は異文化と歴史紹介が上手な小説家を三人、おすすめ作品
とともに紹介します。

 一人目は桐野夏生。小説のデキは良くても、青山もギリシャも架空の国も、
どこでもなんだかおんなじような場所になっちゃう村上春樹などは全然違いま
して、この方はその国の匂いとか色とか、微妙に日本人をささくれさせるその
国の感性などをしっかり書いて、臨場感を出します。そして言わずもがなです
が、小説もおもしろい。
『ダーク』(講談社)を読んだ時に、はじめて光州事件がどういう事件だった
のか、「わかった」ような気になりました。歴史的背景などには全然触れられ
てないんだけど。今の釜山のダウンタウンの様子も秀逸。実によく雰囲気を伝
えてます。
『グロテスク』(文芸春秋)ではうろ覚えですが、中国の田舎が書かれてます。
これに関してはどこまでが本当で、どこまでがフィクションなのか、中国事情
に疎いので、わかりません。登場人物の男が、貧困のど田舎から必死の思いで
ぎゅうぎゅう詰めの電車に乗って、乗り継いで都会に出て、そこからさらに日
本へ密航してやってくるくだりがとにかく恐い。異文化摩擦の連続の果てに東
京が、新宿がある。読後、気軽に中華料理店に入れなくなりました。

 二人目は佐藤賢一。こちらは正当な歴史小説家ですので、歴史背景などの記
述もあり。だけど最小限。海外歴史小説なんて、名前を読むだけで眠くなるの
に、この方の文章はリズム感あり、お色気ありで、退屈させずに17、8世紀の
フランス世界へすんなり入ることができた。なんと言ってもおすすめは『カル
チェ・ラタン』(集英社文庫)。ロクでもないインテリどもがやりたい放題。
ヨーロッパにでんと構えるカソリック世界の価値観と人々の暮らしがよくわか
ります。

 三人目は陳舜臣。中国といえばこの人。私は中国史が苦手なので、まずは短
編から挑戦中。『青玉獅子香炉』(文春文庫)は、故宮博物館の大量の宝物が、
中国の動乱期に戦火を避けて中国大陸を転々と移動する話です。歴史が動けば
宝物もお引っ越ししなければならないわけで、香炉の行方を気にしているうち
に、清王朝から中国と台湾建国までのあらましが頭に入るというスグレモノ。
受験生におすすめ。

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■中山亜弓が選ぶこの一冊
(16)実在の本、未だ存在しない本
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ロマン優光『音楽家残酷物語』ひよこ書房、840円
中原昌也『キッズの未来派わんぱく宣言』リトル・モア、1890円
中原昌也『待望の短編集は忘却の彼方に』河出書房新社、1365円
太田螢一『????』

 イベント続きのうえ、消防の講習などもあってとっちらかったまま締め切り
をとうに過ぎてしまった私……。頭の中では、一冊の本どころか、ある本ない
本が渦巻いている、これまたとっちらかった状態。なので、今回はそんな実在
の本、未だ存在しない本を頭の中から取りだしてお話します。

 まずは、男道を語る説教MCが効いたライブパフォーマンスで名を馳せる
〈ロマンポルシェ。〉。その片割れ・ロマン優光の初エッセイ集『音楽家残酷
物語』。これはロマンさん本人による、綴り間違いだらけの汚い手書き原稿を
そのまま収録した、解読困難な奇書。
 内容的には彼の音楽のルーツであるパンク、幼い頃に観た特撮もの、焼死し
たAV嬢、マンガや文学、目下の恋愛などについて思いつくまま綴ったもの。
 ミススペルにまみれながら『マクベス』の一節から早川義夫のフレーズまで
を気ままに引用したかと思えば、「生活人としての俺はまったくもって最低で、
本当才能しか俺にはないんだから、まあ才能はあることは100%まちがえない
んだが、いまだもって何の才能があるんだか、さっぱりわからんのよ」という
名調子が飛び出す。結局、何を言わんとしているのかはいまひとつわからない
が、壮大さだけはどどーんと響いてくるから不思議。

 この本、実はよくわからん才能をもてあまし、無頼な音楽家生活を送るロマ
ンさんが、重ねた借金の形に、二年余りに渡って書いたそのときどきの雑感。
表現欲求や自己主張の発露としての文章でなく、お金がなく、書きたいことも
なく、それでも書いたという、乾いた不毛の地平から万物に対する惰性と怒り
のメッセージがこの一冊なのだ。
 世間が『セカチュー』や『冬ソナ』という一つの感情やドラマに括られる大
きなうねりに身をまかせる中で、ドラマもクソもないけど、何もない日常の中
で文字通り偶像的なアイドルもしくは似非アーティストを看破したり、真の表
現者を追い求め吠える吠える!しれはクーラーを拒んで、あえてジリジリやけ
つくアスファルトの上で暑苦しさを甘受するような……。でもって、語り口は
壮大!
 版画や製本のワークショップで「作りたいものを作って下さい」と言われて、
いつも(ただ版画や本を作ってみたいだけで、表現したいものなんてないの)
って気持ちでいた私には、この不毛な地平からのメッセージは、不毛ゆえに共
感大であった。

 さて、この『音楽家残酷物語』は第一回中原昌也文学賞という謎の文学賞受
賞作となっている。賞を与えた中原昌也氏といえば、最近『キッズの未来派わ
んぱく宣言』や『待望の短編集は忘却の彼方に』と立て続けに小説を刊行して
いる。
 その内容といえば“原稿なんて書きたくない”という思いが念のように立ち
のぼり最後には原稿になってしまうサイケデリックな一編、あるいはたった二
行の超短編小説…。
 表現欲求とか世界の中心で愛を叫ぶような行為と対極の脱力の地平からのテ
クスト。いったい、たった二行の超短編小説のその先にある表現とはどんなも
のなのかしら?
 中原作品の行方に思いを巡らし、脱力の地平のその先を見てみたい、と思う
のであった。

 ところで、タコシェではこのロマンさんや中原昌也氏のサイン会を行ったの
ですが、その一方で場所を高円寺の「円盤」に移し、私は太田螢一さんのスラ
イドトークショーを行いました。
 80年代半ばから現在まで、約20年の間に描いた作品の画像をプロジェクタ
ーで見せながら、作品のアイデアの源泉や構図や配色の意図などを太田さんが
語るイベント。
 太田さんは雑誌などに作品を発表した後でも、納得ゆくまで描き足したり修
正するし、依頼がなくとも、発注を設定してポスターを描いたりキャラクター
をデザインするという、仕事でなくても描いてしまう真のアーティスト。
 とは言っても、それは自己表現ではなく、作品によって描かされているとい
う感覚らしい。仕事のためだけでなく、常に描き足され、生み出されてゆく作
品群。太田さんの作品集は現在のきなみ品切や絶版だが、本がなくなってしま
ってもオリジナルの作品自体が変容して、生き続けている。
 太田さんはシルクスクリーンで自らTシャツを刷っていて、タコシェでもそ
れらをお取り扱いしているが、手作り品にもかかわらず一般のプリントTシャ
ツと変わらない値段になっている。それは、あくまでTシャツを着て、それぞ
れの人の胸の上で作品を微笑ませてほしい、という希望から。
 それを思うと、お菊人形のように生きてる太田作品を画集なんていうしかつ
めらしい形の中に並べるのは、標本もしくはお墓に入れて並べるみたいなもの。
だから、もしもし、再び本が出るならば、画集とか作品集然としたものじゃな
くて生きた本、本自体が生きている作品のような、絵が生成途中みたいな、そ
んな本がいい。そんな本を手にしたい。なーーんて世の中にない本のことを空
想する。
 もし、どなたか、私の空想の中の生きた本を作る方、いらしたらご連絡くだ
さい。待ってます。

〈なかやま・あゆみ〉中野のショップ・タコシェで働いています。
9/4(土)〜17日(金)鳩山郁子原画小展&グッズフェア「ミカセ・ナ・オミセ」。
9/25(土)15:00より宇野亜喜良サイン会の予定。詳しくは↓
http://www.tacoche.com/

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■全著快読 古山高麗雄を読む  荻原魚雷
(20)楽になろうとは思わない
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『点鬼簿』講談社、1979年3月刊

 古山高麗雄さんは終戦直前に捕虜になっていたので帰国が遅れた。日本にも
どってきたとき、家族の生死すらわからなかった。朝鮮の新義州から日本に移
った古山さんの家族は一文なしになっていた。『点鬼簿』は、そんな戦後の混
乱期を回想する「父」をはじめ七篇をおさめた短篇集。帯に「点鬼簿=死者の
姓名を書いた帳面、過去帳のこと」とある。

「戦友」という短篇では、兵隊仲間との友情云々というが、軍隊は「縦の関係
であった」という。「A一等兵がお前の戦友だ、いいか」と命令される。
「戦友が決まると、新兵は、戦友の靴を磨いたり、洗濯をしたり、その他いろ
いろ、身のまわりの世話を焼かないといけない、というのであった」
 戦友を呼ぶときに「殿」とつけなかったらビンタされた。下級兵士同士を互
いに殴らせる「対面ビンタ」、柱に抱きつかせミンミン、ツクツクホウシとな
かせる「蝉」、ほかにも女郎の真似、汚れた雑巾で顔をふかせたり、靴の裏を
なめさせるなど、さまざまな私刑があったという。

 戦場では人が死ぬ。あっけないほど簡単に死ぬ。弾が五センチずれていたら、
五秒か六秒早く出発していたら……。「人の生死は、運で決まるとしか言いよ
うがない」と古山さんは書く。そして死んだ「戦友」が生きていたら、今ごろ
どんな生活をしているだろう、といったことをあれこれ考える。

「そんなことを思ってみても、鎮魂にも慰霊にもなりはしない。(中略)自分
だけ生き残って申しわけないだの、後ろめたいだのと私は言えない。私が言う
と空々しい。そして、そのようなことを言ってみても、私は、解放もされない
し、楽にもなれない。楽になろうとも思わない」

「女」という作品には、「重い忘れられない追憶」という言葉が出てくる。こ
の短篇は、『日本好戦詩集』(新潮社)に所収の「田吾作の初恋」とほぼ同じ
人物の話。私小説なのかエッセイなのかわからないかんじも同じ。「女」は、
「田吾作の初恋」の後に書かれているけど、単行本は『点鬼簿』のほうが先に
出ている。とにかく、あわせて読んでほしい。

〈おぎはら・ぎょらい〉
先日、『サンパン』と『山口瞳研究』に原稿を書きました。それから来月から
皓星社のメルマガで読書エッセイの連載をはじめます。タイトルは「つまり、
そういうこと」(仮)です。

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■食の本つまみぐい  遠藤哲夫
(7)飲食店ガイドに光明ピカッ
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『ミーツ・リージョナル』2004年8月号食堂特集
散歩の達人別冊『東京夕暮れスタイル』2004年7月発売の大竹聡さん

「飲食店ガイド」の類は重要だ。これで食文化の程度や傾向がわかる。とりわ
けバブル崩壊後は、B級グルメだのワンコイングルメといった、フツーの飲食
のそれである。しかし雑誌記事も含め点数は多いが、その内容たるや、食文化
的な水準から見たらペンペン草の荒野。

 ファッション系なら、ガキのころからオシャレし、たくさんの店に出入りし
ても、それぐらいじゃライターになれない。ところが飲食系は、たくさん食べ
歩いたぐらいの「実績」で、書くチャンスがある。なのにだから、飲食店ガイ
ドも満足に書けない。書けないついでに「ガイド文ライター」をバカにし、「評
論家」だ「エッセイスト」だとナニサマを気どる。「カリスマ」にバケもする。

 そもそもフツーの飲食をテーマにするのは、とても難しい。そのワケの1つ
は日本の食文化の特殊性にも起因する。素材や産地などモノのイワレや調理の
ウンチクなど、つくる側の情報を「賞味」することに眼目があり、自ら飲食を
楽しむセンスの向上は眼中になかった。さらに近年のグルメブームは「情報競
技」というべき風俗だ。「TVチャンピオン」番組に象徴される。単品あるいは
ジャンル別に、どこそこのナニナニはこうである、といった情報の熟知合戦。
飲食の楽しみの探究とは縁のない情報通ごっこ。かくて食べる側の食文化つま
りライターの文化度は貧弱のまま。店や料理に関する知ったかぶり、まるで関
係ない周辺情報、お粗末なエッセイ? ナニサマが、なくてもよい文章を書き
連ねる、自己満足や自己陶酔の惰性。安い遠洋冷凍マグロ刺身を食べる時も、
あるいは売れ残り品や賞味期限切れ品の再流通再利用といったことで安さが維
持されている店の飲食にまで、ありがたそうな素材情報や調理情報が舞う。陳
腐というしかないが、フツーの飲食ほど食べる側の文化度が問われる。

 ああ、天にツバ、自分のことだ、自覚しているだけマシか。これじゃ、食文
化に明日はない。そういや、飲食系の本がこれだけ出ているのに、食文化どこ
ろか程度の悪い事件つづきだ。……と思っていたら、そうでもない。なんかイ
イかんじ、に遭遇した。

 まず、関西の京阪神エルマガジン社発行の『ミーツ・リージョナル』8月号
の食堂特集でオッと思った。そして先月発行、関東の散歩の達人別冊『東京夕
暮れスタイル』の大竹聡さんの文章で、ピカッピカッときた。大竹聡さんは、
ご存知、当メルマガの執筆者だが。これぞガイド、明るい予感。この傾向に期
待しよう。ああ、興奮して前置きが長くなったので、本の紹介とはいえないが、
突如オワリ。

〈えんどう・てつお〉フリーライター。『汁かけめし快食學』ちくま文庫から
発売中。今年は地方テレビに2度出演したが、今度は全国ネット初登場。8月
16日朝TBSの「はなまる」。たぶん数十秒も映らないだろうが、ビデオ撮りの
ため近々朝10時にTBSへ行かなくては。そんなに早く都心へ出たことがない。
それにウチにはテレビがないのだなあ。いいのか? イイノダ。
「ザ大衆食」
http://homepage2.nifty.com/entetsu/

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■あとがき
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 すいません。また遅れてしまいました。15日夜までには発行するように
心がけます。では。                 (南陀楼綾繁)
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