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2000.12.10.発行 vol.19 [どこで闘うかを 号]
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■■ [書評]のメルマガ 2000.12.10.発行
■■ vol.19
■■ mailmagazine of book reviews [どこで闘うかを 号]
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■「私、この本で徹夜しました」辻和人
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粉川哲夫著「カフカと情報化社会」(未来社)
ISBN4-624-01100-7 2900円
カフカを「情報操作 」の作家として捉える視点から現代の社会を考え抜
いたこの本は、刊行後10年を経て ますます輝きを増していくように思え
る。情報の授受の如何によって周囲の世界の意味や自分自身の位置がまるき
り変わってしまうことを初めて知らされた衝撃は大きかった。
著者の粉川哲夫氏は1941年生まれの評論家。「自由ラジオ」という自
前のメディアを主宰していたことでも有名である。
この本は基本的に、全ての「 戦いたいと思っている人 」のための知的ト
レーニングの本なのではないだろうか。表現活動にせよ政治活動にせよ、或
いは家庭生活を営むとか職場で労働するとかいったミクロな単位での活動に
せよ、何らかの活動をしたいと考える人は全て他人を相手にしなければなら
ず、そこには不可避的に力関係が発生してしまう。その力関係の強者・弱者
を分かつのは、相互の了解事項となる情報の手綱を握れるかどうかであろう。
しかも通信手段が高度に発達を遂げた現代では権力作用の現われ方が複雑に
なり、権力主体が単純に割り出せなくなっている。そこで著者は、カフカの
作品や生涯に即して情報化社会における様々な権力作用のあり方を解き明か
し、大小の権力と戦い抜く術を示唆してくれる。
論理の方向性そのものは、刊行後10年たった今では珍しいものではなく
なってきているかもしれない。しかし、情報と権力の関連をここまで細かく、
具体的かつわかりやすく追った論考は、まだ出ていないのではないだろうか。
例えば「城」について−
「文学辞典などでは、Kは城から招聘されて遠い道のりを苦労しながらや
って来ると、『あなたは呼ばれてない』と言われ、以後Kの不条理な闘いが
始まる−といった解説が非常に多かった。ところが詳細に読むと、本当は
『Kは招聘された測量技師』などではなくて、それは単なるハッタリではな
いか。考えてみると、Kという男は口先以外には、何の財産もないんです。
そういう人にとって嘘とか、その意味では、彼はそれらを駆使した一種の対
抗的情報操作によってこの村の権力と闘っているとも受けとれます」。
言われてみるとその通り。我々はカフカをある先入観に従って一義的に読
んでしまいがちなのだが、実はカフカの作品は「語り手=読者=主人公」の
三者の関係が絶えず操作されていて、語り手が常に物語の「真実」を語って
いるとは限らないということなのだ。信じこまされていた情報は虚報であっ
た、などということは我々の実人生においては日常的に起こっていることだ
が、何故かフィクションを読む時は語られた事項を鵜呑みにしてしまう。日
常世界においても虚報によって成り立つ部分は思いの他多いのかもしれない
のに。「おそらく、カフカの世界は、いまやあたりまえの世界になろうとし
ているのでしょう。そうだとしたら、わたしたちは『城』の語り手の位置に
身をおかなければなりません。『城』が謎めいていてはならないのです」。
またイーディッシ演劇(東欧系ユダヤ人の大衆演劇)とカフカのつながり
を巡る話も面白い。カフカはユダヤ民衆文化から多くの素材を得ると同時に、
その演技の独特な「身ぶり 」に深く影響されたという。カフカが頻繁に観
にいったレヴィ一座は、貧弱な舞台装置のせいで役者の運動空間が極度に制
限されていたこともあって特に、発声や身ぶりの独立した効果に大きな比重
を置いていたらしい。カフカは言葉と身ぶりの弁証法を学んでいったが、粉
川氏は更にそれをブレヒトの異化効果と結びつけ、「少なくとも、出来事を
異化し、読者(観客)をその日常的惰性から覚醒させる点では、カフカとブ
レヒトは共通している 」と述べている。単なる客観的な叙述をするのでなく、
独自な身ぶりで「語る」ことにより、読者が情報の解読に積極的に参加する
ことを求めた、ということであろう。
セクシャリティの問題も鋭く追求している。粉川氏は、カフカ研究者にし
てフェミニストであるエヴリン・T・ベックに長いインタビューを試みてい
る。ベックはカフカがホモセクシャルであることを指摘した上で、父権制社
会の権力構造の網に捕われる女性たちの位置についてカフカが理解していた
ことを語る。更に、カフカが実生活ではその権力をつきあっていた女性たち
に行使し、特に手紙という手段で女性たちを操り、苦しめていたと語る。
「カフカを読んだら、『どこで闘うかを選ぶことだ』と自分に言い聞かせ
ます。『注意深くやらないと、がんじがらめになって逃れられなくなる』と
ね。ですから私はカフカを、そうしてはいけないネガティブな例として利用
するのです」。
もちろん、カメラや電話、コンピューターなどの具体的なメディア機器と
カフカとの関連の問題等についても触れているけれど、それは実際この本を
お手に取ってのお楽しみということにしよう。
カフカというたった一人の作家を研究することで、世の中の全てが語れて
しまう不思議さにはただただ驚くしかない。それは、カフカがその創作の核
心に据えた「情報操作」の方法が、社会を形成する大小の権力をいかに深く
考察することで生まれてきたかを示すことであるだろう。
しかし、それ以上にすばらしいのは、著者がカフカの文学の成果を足がか
りにして、権力作用から逃れる術を懸命に模索する姿が窺えることである。
粉川氏はカフカを読みながらどんどん関心領域を広げていき、様々な人と積
極的に対話し、さらに我々が生きている世界ヘのフィードバックを考える。
このような肯定性こそがカフカに欠けていたものであったのであり、逆に言
えば、粉川氏が持つ社会変革への意志を得て初めて、カフカの文学は完結す
るようにも思えるのである。
<辻和人 詩人 36歳 読書量年間50冊 文学・思想・コミック
詩集に「クールミント・アニマ」(書肆山田)がある。
現在第2詩集を準備中>
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■「私、この本で徹夜しました」辻野純一
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『富嶽 米本土を爆撃せよ』上、下巻分冊 前間孝則 講談社文庫
富嶽という爆撃機を知っていますか?
平成12年11月3日、その日は文化の日。夜7時NHKを見ていたら、
太平洋戦争中に計画された爆撃機・富嶽の設計図の一部が見つかり、それを
基に制作されたラジコン機が群馬県尾島町主催のラジコンショーで飛んだと
いう内容のニュースが放映された。
東武線太田駅を降り、しばらく歩くと富士重工群馬製作所が見えてくる。人
にきいた話だが、この工場の中にはまん中にでかい道が一本あり、そこは昔
は滑走路だったとか。
ここ太田には何ヶ所かに分かれて富士重工の工場があり、さながらスバルの
町(スバルというのは富士重工が作っている車の呼称)といったところ。
戦前、ここには世界でも有数の規模を誇る中島飛行機太田製作所があったの
である。
中島飛行機、その名を知る人は今の時代、そう多くはないと思うが、従業員
26万人、「隼」、「疾風」、「月光」などの軍用機を生産していた大飛行
機会社だったのだ。なにしろ、あの有名な三菱のゼロ戦を中島でも生産、本
家三菱以上に大量生産できるマスプロ技術をもっていたのだ。
この会社の創立者が中島知久平(1884〜1949)。
この人は、海軍の軍人だったが、これからは飛行機の時代になる、といって
退役、自ら飛行機製作会社をはじめたなかなかの大人物。
当時は飛行機といったら飛ぶより落ちる方が普通で、海軍内でも、いわゆる
大艦巨砲主義がごく一般的だったのだ。そんな時代だから、飛行機が軍艦を
攻撃し、これを沈めるなどという事は誰も考えもしなかったし、そんなこと
を言ったらきっと狂人あつかいされたのではないだろうか。
ところで、戦記ifもの、ともいうべき小説を読んだことがありますか。残念
ながら、まだ私は読んだことがないのですが、たとえば重大な戦局でifがあ
ったなら・・。ミッドウェー、ガダルカナルで日本は大敗けして、それから
後坂道をころがる様に負け続けたわけですが、歴史の真実をifで修正、ミッ
ドウェーでは攻略に成功、逆に敵の空母をバンバン沈めたとか、レイテ突入
直前にUターンした栗田艦隊がUターンでずつっこみ大和の巨砲が火を吹い
ていたら、とか。しかしまあ、その程度のことではどっちみち結果は同じだ
ったろうが。
だが、もし富嶽が大量に生産され米本土を爆撃していたら。それも開戦1年
目くらいで。もしそうなっていたとしたら、戦局の展開は日本に有利に進ん
だろう。
で、富嶽である。
知久平は軍部もびっくりの情報網をもっていた様で、彼は1942年当時、
2年後には敵のB29大型爆撃機が日本を空襲、東京は焼け野原になると予
言していたそうだ。なにしろコンソリデーテットB36のことまで、ある程
度の情報をつかんでいたと言うから驚きである。
そこで知久平の大構想がでてくるのである。その大構想とは何か。それは、
日本全土を飛びたち、米本土を爆撃できる巨大飛行機をつくる構想だったの
だ。その飛行機こそが富嶽なのである。
富嶽、又の名をZ機という。
時は日露戦争、日本海海戦の時、背水の陣でのぞんだ東郷長官が旗艦三笠に
掲げたZ旗(皇国の興廃この一戦にありの意)にちなみ、皇国の興廃このZ
機にあり、ということなのだ。
戦局ますます日本に不利となっていく中、中島飛行機のスタッフ、陸・海軍
が合同、まさしく官民一体となって知久平の構想を実現させるべく「試製富
嶽委員会」が設置される。旧軍の陸・海の仲の悪さは有名で、なんと中島飛
行機の工場も陸軍用、海軍用と別々という効率の悪さである。この犬猿の仲
ともいえる陸、海、が一緒になってなんとかしようということになるが、元
々が犬猿だから急に共同で仕事ができるワケがない。まあ、このころのいわ
ゆるセクト主義的エゴというのは、戦後55年たった今も日本の風土に力強
く根づいてはいるのだけれど。
ここでちょっと富嶽と日本を焼け野原にしたB29を比べてみようか。まず
大きさからして富嶽はB29の有に2まわりは大きく、今のジャンボ・ボー
イング747に近いものがある。そして肝心の爆弾搭載量だが、B29の9
トンに対し20トン、速度はB29の575kmに対し700Km。エンジ
ンはB29が4発なのに対し、6発!
この驚くべき高性能巨人機をなんとか実戦に間に合わせるべく涙ぐましい努
力がなされるのであるが・・
ちなみに、現代に生きる我々が飛行機に乗って1万メートル上空を飛んでも
別に酸素マスクをつけるわけでもなく、地上に居る時と同じでいられるが、
これはキャビンが与圧されているからで、なんとB29はこの時すでに与圧
室をもっていた。
又、高度が高くなるほど酸素が薄くなりエンジンのパワーが低下するのであ
るが、B29には排気タービン、いわゆるターボが装備されていた。当時、
この排気タービンを日本でも研究していたが、ついに実用化できなかった。
今ではオバチャンの軽自動車にもついているのに。
まあ、以上の様に技術的にクリアしなければならないハードルが多々あった
のである。
本書は、中島知久平を知らなくても、時代背景に少々うとくても大変わかり
やすく書かれていて、しかもこの手のものに精通しているミリタリーオタク、
メカオタクでも満足できる内容といえる。
それにしても私は、本書を読み終って富嶽の計画のスケールの大きさ以上に、
中島知久平という人物の大きさに圧倒されてしまったのだ。今となっては謎
だが、私は知久平はとても日本の国力、技術では富嶽の完成は無理だ、とい
うことを承知の上で、日夜スタッフにハッパをかけて技術を磨かせたのでは
ないか、と思うのだ。何のために? それは、戦後日本の復興のために。
そんな気がしてならないのだ。
興味のある方、是非ご一読あれ。
夢中で読み進むうち、2日目の朝をむかえているかも知れませんぞ。
<辻野純一 出版者勤務 年間読書量60冊 好きなジャンル いろいろ>
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■あとがき
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>缶コーヒーって何かお気に入りあります?
>いや、適当に自販機あるの買ってますけど・・
>チッチッチ、甘いですね(笑)。今度ぜひ缶の裏見て下さい。
>はあはあ、裏ですか?
>そうです、裏のコーヒー豆とか砂糖とかミルクとか書いてるの。あれって、
入ってる重さ順に並んでいるの知ってました。
>重さ順ですか??
>そう、例えばショート缶なんかは、コーヒー豆が一番先に来ているのが当
たり前のように思うでしょ。
>そりゃそうですねー。本格が売りなわけだし、コーヒー豆より砂糖がたく
さん入っているコーヒーなんてオエッって感じだし・・
>まあ、今度じっくり眺めてください。とんでもないメーカー結構あるんで
す、これが。あ、お薦めは伊藤園、ここは良心的ですよー。
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