2000.1.31.発行 vol.24  [クールという外套 号]

■■---------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ                            2000.1.31.発行  
■■                                                     vol.24
■■     mailmagazine of book reviews    [クールという外套 号] 
■■---------------------------------------------------------------
------------------------------------------------------------------- 
■お知らせ
-------------------------------------------------------------------
■2月より、メルマガのコンテンツが一部リニューアルされます
◎10日号
1)月ごとに変わる著者による、「私、この本で徹夜しました」「暗記し
ちゃうほど繰り返し読んだ本」
2)さまざまな切り口による特集企画
この二つを隔月にお送りする予定です。

◎20日号
豪華、業界人・読書人による連載
畠中理恵子(書店店長)
朝日山(奇数月担当)
他、以前の書評で大評判だった方を含めて、毎号三人体制でお送りします。

◎30日号
今までと同じ連載陣
石飛徳樹(新聞記者)
ミラクル福田(編集者)
守屋淳(翻訳・著述業)
以上の予定です。今後とも、ご愛顧のほどよろしくお願い致します。

■本の販売は、ちょっと延期になります
メルマガで紹介した本を、今号より買えるようになると予告したのですが、
ちょっと延期になります。次の10日号から開始できる見通しです。もう
しばらくお待ち下さいませ。
------------------------------------------------------------------- 
■「梁石日の底知れぬパワーを見よ」石飛徳樹
-------------------------------------------------------------------
「死は炎のごとく」
梁石日著
毎日新聞社・2001年
1800円+税

 個人的な利害に熱くなる人は大勢いても、いま、社会的な問題に熱くなる
人はどんどん減っている。
 例えば、政治家や官僚の不正が明るみに出ても、マスコミはただ型どおり
に嘆いてみせるだけだし、世間の人たちは「政治家なんてどうせそんなもん
でしょ?」と、すぐにクールを装う。
 本気で熱くなる人間はカッコ悪い、というイデオロギーが、若者を中心に
広く浸透してしまっている。

 世の風潮を反映してか、小説の世界でも、技巧的で複雑な構造を持った作
品が増えているような気がする。
 言ってみれば新古今和歌集である。
 ところが、梁石日の新作となるこの長編は、技巧主義全盛の時代に、万葉
集を読まされるほどの衝撃力がある。圧倒的な緊張感とスケールの大きさ、
そして社会に対するストレートな怒りなどが、読む者に迫ってくる。

 1970年代初頭。在日韓国人の宋義哲は、在日青年組織の大阪支部で政
治活動をしつつ、詐欺まがいの商売で妻子を養っている。
 政治にも商売にも、そしてセックスにも、過剰なほどの精力を注ぎ込む男
である。
 72年、南北朝鮮は統一3原則を掲げた共同声明を発表。単純な宋義哲は
大いに高揚する。
 ところが、韓国の朴正煕大統領は舌の根も乾かないうちに非常戒厳令を敷
き、独裁的な維新憲法を公布。宋義哲は大いに絶望する。
 さらに翌73年、金大中拉致事件が発生。宋義哲は、祖国のためには朴大
統領を暗殺するしかないと思い詰める。
 それは初めは宋義哲の夢想に過ぎなかったが、彼の周囲にいる怪しげな人
物たちの手によって、その夢想は次第に現実味を帯びていく。

 宋義哲には、実在のモデルがいる。大阪に住んでいた文世光という若者だ。
74年8月、彼はソウルに渡って朴大統領を狙撃、大統領暗殺には失敗した
ものの、夫人を死亡させた。

 小説は、現実と虚構を織り交ぜながら進んでいく。
 まず、前半は虚構が勝っている。
 体力と気力のあり余った若者が捌け口を求めて鬱々と彷徨う様子。それが、
薄汚れた大阪の街を背景に丹念に描き込まれる。
 それは極めて現実感にあふれ、どちらかというと純文学の世界である。
 一方、後半は現実の文世光事件に沿って、畳みかけるようにストーリーが
展開する。
 南北の情報部員にCIA、日本の公安や過激派が跳梁跋扈し、テロルへの
歯車がゆっくり回り始め、徐々にスピードアップし、最後には誰も止められ
なくなっていく。
 このあたりになると、私たちの生きている現実を大きく飛び出し、ル・カ
レやフォーサイスにも劣らない面白さになっている。
 特筆すべきなのは、純文学的な前半とサスペンスあふれる後半とがスムー
ズにギアチェンジされている点である。虚構と現実の継ぎ目がほとんど分か
らないほどだ。

 梁石日は、山本周五郎賞受賞作「血と骨」で、社会の枷に捕らわれること
なく大胆奔放に生ききった金俊平という、これまで見たことのない人物を造
形した。
 「血と骨」を読んだ時、その驚くべきオリジナリティーに、梁石日はこれ
以上の作品を書くことはできないのではないかと思ったものだ。
 しかし、今回また、金俊平に伍する激しいキャラクター宋義哲を作り上げ
た。
 文章の主体がコロコロ移っていくといった粗削りな部分は相変わらず存在
するが、エンターテインメントとしては「血と骨」を超えている。

 梁石日の小説は、北風と太陽の寓話に喩えるなら、明らかに北風である。
 しかし、彼の底知れぬパワーには間違いなく、現代人が着込んだ「クール
という外套」をはぎ取る勢いがある。
(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
--------------------------------------------------------------------- 
■「悩める男」ミラクル福田
--------------------------------------------------------------------- 
 『精神の氷点』 大西巨人 みすず書房 本体価格:2200円

 先だって、各地で行われた成人式のヒドイありさまが、新聞・ニュースな
どで何度も報道されていた。わが東京都の石原都知事も「成人式はやらなけ
りゃいいんだ。二十歳をもって、成人とすることそのものがおかしい。昔は
十五歳で、男は元服し、女の人はお嫁に行った。感性とか情操は十代が一番
みずみずしい。選挙権を二十歳で与え、もって成人とする、という考え方そ
のものが、人間の肉体生理からいっておかしいと思う」と言っている。うむ、
ということは、もっと早くに大人にしてしまえ、ということなのだろうか?

 そんなこと言ってるけど、都知事は二十歳そこそこの自分のことを、すっ
かり忘れているようだ。当時、彼を評してこう言った人がいる。「一群の特
定の若い男たちと若い女たちとが、まるで盛りのついた牡犬および牝犬の群
れのように、行き当たりばったりつるんでふざける、(中略)畜生小説の作
者は、当年満二十三歳の既婚者である。その大の男がおのれを「非大人」と
見立てつつ「大人への不信」などという言葉を吐き出すていたらくは、不潔
も極まって、さもしいというもおろかな気が、私にはする」(『遼東の豕』
晩聲社)

 確かに、いまの若い人の方が程度は低いと思うけれど、その原型を自分た
ちが作り出してしまった、という思いくらいあってもいいだろう。

 若き日の石原慎太郎をこのように評したのが大西巨人だ。巨人といっても、
巨人ファンというわけではない。(巨人ができる前からこの名前なのだ!ジ
ャイアンツファンよ、文句あるか!(と、著者は言っていない))今回、取
り上げた本は、1947年に書かれ、1949年に単行本として発行された小説。そ
の本が、50年近くたって、みすず書房から復刊された。みすず書房はエライ!
(復刊されなければ読まなかっただろう)。(博覧強記の大西巨人は、主著
『神聖喜劇』(ちくま文庫)で、同じく博覧強記の主人公を生み出している。
これまたすごい小説)

 小説の主人公は、戦後になって復員してきた水村宏紀という26歳の青年で
ある。4年もの軍隊生活から解放されてせっかく自由の身になったのに、明
るい未来を築いていけるはずなのに、とても頭がいいのに、顔だっていいの
に、全くなにもする気がなく、自堕落な生活を続けている。

 その理由は、出征以前の彼の過去にあった。どうしようもなく、愚かな社
会(戦争に突き進む国の指導者たち、それに盲従する民衆、なんの対抗もで
きない知識人)を、まっとうなものにするには、社会変革をする必要がある。
そう認識しながらも、実現できないことに苛立つ彼は、ついに22歳で「余生」
を生きることを決意する。愚かな社会を生きていくために、彼独自の論理で、
社会との関係を持とうとする。

 この決意後の、水村独自の論理に基づいた行動("どこが論理的なんだ"と
思うかもしれないけど)と、復員後の無為な暮らしから、いかに立ち直ろう
とするか("立ち直る"かどうかは別として)をご覧いただきたい。艶っぽく
て、滑稽で、恐ろしい行動をとった水村が、悲しいくらい一所懸命に悩む姿
は、なかなかいいものだと思う。成人式で暴れる若者にはどんな風にみえる
だろうか。暗いやつ、あぶないやつというくくられ方をするんだろうなぁ。
石原さんはどう見るんだろう?

 大人になるかならないかの瀬戸際では、思い切り暗く悩んでしまうのも、
なかなかいいもんだと思うのですが。ソクラテスも、プラトンも、ニーチェ
も、サルトルも、みんな悩んで大きくなったんだから。あれれ? 野坂?
(ミラクル福田 某人文系大手出版社編集 30歳 年間読書量100冊
弱 好きなジャンル 文芸・芸能)  
---------------------------------------------------------------------
■「美徳と悪徳と」守屋淳
---------------------------------------------------------------------
『失楽園』ミルトン 岩波文庫

 この本、中身をスポーツ新聞の見だし的に言うと「神の軍団と悪魔の軍団
の熾烈な抗争!」「ルシファー、キリスト後継者宣言に反乱闘争!」「神さ
ま新兵器投入! おそるべき破壊力」「人間の自由意志が勝つか、サタンの
誘惑が勝つか! エデンから完全実況生中継!」・・
まるで、ちまたにゴロゴロしまくってるSFファンタジーそのものやないの、
と思われる内容なのですが、実際、この本はそれらすべての元ネタの一つと
いっていいものなのでしょう。その意味で、面白くないわけがない大絵巻な
のです。

と、同時に、今の人間――特にサラリーマンが読むと、おいおいこれって会
社の派閥争いの話じゃないの!!? と感じずにはいられない部分もあって、
それがまた傑作なのです。

まず、話は悪魔が神に戦いを挑んで、敗れちゃったところから始まります。
この悪魔の大将、実は大天使だったルシファーなのです。なんで、悪魔にな
っちゃったかというと、天使の三分の一を引きつれて神に反乱を起こしたか
ら。その原因ていうのが、まさに会社にごろごろある跡目争い(笑)

神さま株式会社の重役だったルシファー君、ある日社長が社員を集めて、キ
リストなる人物を紹介するのに立ちあいます。「彼がわが御子、後継者であ
ーる」
それを聞いてルシファー君、怒るまいことか。あんな実績もない青二才が後
継者だとーー。それでこの会社はどうなる! 実力派重役である我輩の力が
なければなにもできないくせにー!! そう、社長が息子に二代目継がそう
として、実力ある専務が造反しちゃう会社抗争の図式そのままなのです。
で、天使のうち三分の一も反乱にくわわって(こんなに反乱に加わるんじゃ
跡目選びがそもそも無理筋だったんじゃないの? とも思いますが、まあ、
これは別の話)戦うんですが、悪魔軍団は大敗けにまけます。

で、神さま。勝ったは良いけど、天使の三分の一がいなくなって天国がみょ
ーに寂しくなります。で、それを紛らわすために作ったのが人間だという・
・おいおい、それって人間はペットかお妾さんに近いような・・

で、サタン(ルシファーの悪魔名)は、社長にお妾さん(アダム&イーブ)
がいるという情報をキャッチ、お妾屋敷のエデンに出向いて、復讐に誘惑だ
ーとばかりお妾さんをスケコマしてしまうわけです。

なんだかなー、お前らのどこが神さま&元神さまなんだーと叫びたくなる話
なんですが(笑)。この話にはとってーも考えさせられる部分があります。

神さま、人間に対して命じるのが「産めや殖やせや」「人間は動植物の主た
れ」ということなんですが、これって現在の基準に当てはめれば滅茶苦茶な
悪徳になりかねないという・・

だって、人口大爆発によって今世紀は食糧難、資源の枯渇、垂れ流されるご
みという問題の解決が難しくなっているわけだし、人間が絶滅させてしまっ
た動植物の長―――いリストを見る限り、人間が動植物の主なんておこがま
しい限り、結局、人間&神さま中心主義でいるかぎり、地球のみなさま(動
植物並びに人間)にとってはいいことなんて、結局一つもないのかもしれな
いという・・天国だー地獄ダーと内輪もめなんかしている余裕はないんです
ホント(笑)
こんなSFスペクタル&モラルも考えさせられる一冊、ご一読いかがでしょ
う。
(守屋淳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好きなジ
ャンル 古典) 
---------------------------------------------------------------------
■あとがき
---------------------------------------------------------------------
>あれ、紹介した本の販売はどうなったんですが??
>す、すいません。ちょっといろいろ齟齬があったようで、次号からはたぶ
ん・・
>まあ、本の流通って一筋縄ではいかないところもありますからねー
>はあはあ、鋭意努力してまいりますので。ペコペコ(笑)
======================================================================
■ 電子メールマガジン「[書評]のメルマガ 」(毎月10・20・月末発行)  
■ 発行部数 1870部
■ 発行:[書評]のメルマガ発行委員会                  
■ 掲載された内容を許可無く転載することを禁じます。          
■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
■ ご意見・御質問はこちらまで anjienji@mcn.ne.jp              
■ HPアドレスhttp://page.freett.com/anjienji/review/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を利用して発行しています。             
■ メールマガジンIDナンバー0000036518
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行って下さい。 
======================================================================



▲トップページへ戻る