2000.2.20.発行 vol.26  [少年期のトラウマは?号]

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■■ [書評]のメルマガ                           2000.2.20.発行  
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■■     mailmagazine of book reviews   [少年期のトラウマは?号] 
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■お知らせ
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■今号の連載執筆者を、編集部からご紹介いたします。
●小林圭司氏
――某出版社の超辣腕営業マンとして知られています。その余りにも柔らか
い人当たりから、100人が101人警戒心を解いてしまうという恐るべき
技の持主です。特に女性書店員の人気は抜群。しかし、謙遜しながらも読書
量、学識ともにすぐれ、何より文章が滅茶うまです。

●朝日山氏
――数々、ご投稿頂き、人気も高くついに連載の始まった当メルマガの核弾
頭(?)です。文章の巧さ、過激な煽り、鋭い論旨には正直編集部もたじた
じになります。

●キウ氏
――某大手書店退職後、音楽業界で活躍する謎の読書人です。夕映えのよう
な文章で、私小説にこだわるその姿勢は、まさに文学の鬼。一生かけても読
みきれない本を買い込みつつ、今日も仕事と読書と音楽三昧のようです。

●畠中理恵子さん
――実は、パソコンが不調(TT)で、来月からの登場になります。神保町
の書店員の顔にして、当メルマガには第一回目に登場していただき、絶賛を
頂きました。
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■『ナボコフ夫人を訪ねて−現代英米文化の旅−』小林圭司
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『ナボコフ夫人を訪ねて−現代英米文化の旅−』
マーティン・エイミス著/河出書房新社刊/本体2800円

この本には33ものエッセイが納められていて、その内の半分は作家につい
て書かれているのに、なぜよりによってナボコフ「夫人」がタイトルなのだ
ろう。
きっと河出書房新社が、「ナボコフがいちばん有名だろうからこれがいいん
じゃないの」と安直につけたに違いない・・・と思いきや、原題からして
「VISITING MRS NABOKOV」とある。ごめんなさい、河出さん。

実はぼく個人としては、J.G.バラードやアンソニー・バージェスといっ
たカルト作家に会いに行くくだりがいちばんの関心で、というよりもほとん
どJ.G.Bのところ読みたさに買ったようなものだったのだ。
あの硬質のインナースペースSFや、『クラッシュ』のような自動車事故・
ポルノ小説を書いた作家の実人生とは?
やっぱり性的にノーマルではないのだろうか?
『太陽の帝国』のモデルになった、本人の少年期のトラウマは?
それに、『時計じかけのオレンジ』の作者なんてのも、絶対にフツウじゃな
さそうだ。
著者と似た作風のジュリアン・バーンズとはビリヤード勝負なんかしちゃっ
て、ダウンタウンのTV番組みたいだ。
グレアム・グリーンとかジョン・アップダイクなんて大御所も出てくる。
そんな豪華メンツに加えてナボコフ夫人&息子も登場して、ミーハー的興味
は尽きることがない。

著者のマーティン・エイミス自身にも既に数点の邦訳があり、『サクセス』
や『時の矢』など、難しめのポストモダン的メタフィクションで知られてい
る小説家である。
そんな彼が10数名の作家に会うだけではなく、サッカーチームの中国遠征に
帯同し、フランクフルト・ブックフェアの狂乱を揶揄し、「ロボコップ2」
の撮影現場を見学し、さらにはカンヌ映画祭やらストーンズのコンサートや
ら共和党大会やらに出没しては、その鋭利な批判精神をいかんなく発揮す
る。
高尚な純文学だけにとどまらず、どこにでも飛び込んでしまう雑多な好奇心
が頼もしい。
扱われているのは80年代が中心なので、時事ネタとして読んでしまうとい
かにも古びて感じるが、この本のよさはこの作家らしい洗練さ、理屈っぽさ
というエッセンスを凝縮しているところにあるので、十分おもしろく読め
る。
時と対象が変わっても、この人の書くものはいつも皮肉っぽい笑いが効いて
いるのだろう。
もっとも時代もそんなに変化していないのかもしれない。
マドンナなんてこのエッセイ集で扱われているのは写真集『SEX』の頃の
話なのだが、現在でも最先端の音づくりをうまいこと取り入れて、ショウビ
ズの最前線にとどまっている。

難解な彼の小説に挫折したことのある方にも是非おすすめしたい。
もっと読まれてよい作家かもしれない。
日本でも割とメジャーなニコ○ソン・ベ○カーあたりはこの本の中ではかな
り手厳しくやられているが、正直、『もしもし』や『フェルマータ』はぼく
も好きではない。
エイミスの作品の方が文学的な完成度も志もはるかに高い。
なんてことをニ○ルソン・○イカーの翻訳出している会社の人間が言っては
いけないのかもしれませんが・・・。

『ナボコフ夫人を訪ねて−現代英米文化の旅−』
マーティン・エイミス著/河出書房新社刊/本体2800円
http://www.ganessa.com/goods_dtl.php3?SHOPID=0906200024&GDS_NO=15
(↑こちらから本がお買い上げ頂けます)

<小林圭司 出版社営業部員 32歳 年間読書量50冊(トホホ...) 好き
なジャンル 翻訳小説・サッカー>
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■「栄光なき天才たち」森田信吾(&時々、伊藤智義) 朝日山
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「栄光なき天才たち」森田信吾(&時々、伊藤智義) 集英社

集英社というと、忘れられない思い出がある。少年ジャンプがまだ三、四百
万部くらいで、まだまだ部数を伸ばそうとしているころ、連載の狭間を埋め
る形で、いじめや校内暴力を正面から捉えた異色作が何度か掲載されていた。
記憶が定かではないが、作者は後に「きまぐれオレンジロード」を出してブ
レイクする、まつもと泉ではなかったか。正直言って全然面白くない作品だ
ったが、何よりジャンプ編集部の姿勢に感銘を受けた。

今もそうかもしれないが、ジャンプだけはやりたくないと、多くの漫画家に
言わしめる過酷な作家管理と、アンケートハガキ絶対主義マーケティングで
勇名を馳せていた当時のジャンプ。しかし、編集部は売らんかな、儲からん
かなだけを考えていたわけではない。現代の子供の直面している問題に対し
て、マンガはいかなる回答を出すべきか。真剣に考える者がいたのだろう。
原稿を落とした人気漫画家の作った穴や、アンケートに敗北した連載を止め、
新連載をやるまでの間隙に、校内暴力やいじめを真っ向から問う作品を読者
に投げつけていた。

残念ながら、ジャンプ編集部の力をもってしても、そんな作品を満足に書け
る作家は掘り起こせなかった。だが、そんな伝統はつい最近まで受け継がれ
てきた。「栄光なき天才たち」はそんな文脈から出てきたマンガだ。

タイトルから想像できるように、この作品は能力を持ちながら栄光を掴むこ
となく、あるいは逸してしまった偉人伝である。群論の提唱者ガロア、遺伝
子のメンデル、いわずと知れた野口英世、日本文壇史から抹殺されたベスト
セラー作家島田清次郎など、歴史の記号に文学的想像の翼を羽ばたかせて、
骨肉を与えて紹介していく。子供向け偉人伝には書かれない偉人の側面に切
り込む……歴史小説の手法をマンガでやった異色作だ。

だが、そんな集英社の出版魂も、最近は不況の波に押されてきつつある。マ
ンガ文庫の「栄光なき天才たち」が四巻で止まったままで五年。本来なら17
巻。加えて「新・栄光なき天才たち」の文庫化も手付かずだ。

何よりこのマンガがいいのは、この人は偉いでしょう式の記述で、人物が記
号化する子供向け偉人伝とは違い、子供にも読める、しかし文学的方法で天
才の姿を活写しているからだ。四巻所収の有名な野口英世を挙げてみよう。
野口英世の場合、彼を日本の学歴社会から拒絶された人間として描き、日本
に受け入れられるには世界的業績を残すしかないのだと苦闘する人間として
描かれている。

すると、渡辺淳一の野口英世伝「遠き落日」を読みたくなる。渡辺淳一は野
口英世の業績が今の医学会では全くといっていいほど残っておらず、医学史
上、全く意味のない人間となっていることに疑問と興味を持ち、いろいろと
調べた。

彼は勤勉刻苦の人生を生きたのは確かだ。驚異的な集中力の持ち主で、LLカ
セットすらない時代に二週間あったら全く知らない外国語でも日常会話や医
学の講義ができる、ピーター・フランクルも真っ青になる語学の天才でもあっ
た。人に借金を申し込む口先も天才詐欺師の域であった。

反面、病気とも言える浪費癖があり、どんなに大事な金でも、すぐに散財し
てしまう。ロックフェラー研究所にいたときには、アメリカでもトップクラ
スの給料をもらっていながら、借金はほとんど返さず踏み倒す。母親に対し
ては最高の息子でも他の親族には異常に冷たく接した……なんてことがわか
ってくる。渡辺淳一は人間野口英世に強烈な共感を抱き、のちに吉川英治文
学賞をこれで取った。

今では手に入らない六巻所収の「理化学研究所」には、対極的な物理学者仁
科芳雄と寺田寅彦が出てくる。クライン・仁科の公式で名を残す仁科博士の
サイクロトンと原爆開発。日本が世界水準の物理学を持つために、戦争に勝
つために、そして若き俊英たちを戦場に送らないように苦闘する仁科博士。
これを読むと、最近出た岩波文庫の「科学者の自由な楽園」に手が伸びる。
これには仁科博士の弟子にあたるノーベル賞受賞者、朝永振一郎博士の理化
学研究所での思い出が書いてある。悪名高き武見太郎にも、まじめに科学者
やっていた時期があるとは、これで私は初めて知った(^o^)。


対する寺田寅彦博士は、文学史に名を残す寺田寅彦と同一人物だ。ここでは
彼の弟子で雪の研究で名高い中谷宇吉郎博士の視点から、独自の物理学を追
及する学者として描かれている。中谷宇吉郎全集発刊中の岩波書店よ、中谷
宇吉郎全集の発刊終わったら、チラシの代わりにダイジェスト版の文庫出し
なさいよ。一万部くらい売ったら、三百人くらい全集買う個人が出るかも知
れんぞ。

編書房の「出版に未来はあるか」で、井家上隆幸氏が最近は「活字離れでは
なく、活字知らず」と言っている。昔はいったん活字を読んでいて離れたが、
今の若者は活字を経験を持っていないのが、これまでとは全く違う変化だと
いう主張は、じつに鋭い指摘だと思う。だが逆にマンガが活字を読ませるこ
とだってある。

最近「バカボンド」から「宮本武蔵」を読むという流れが出てきたそうだが
、「栄光……」はそんな変化を先取りしている。こんな、読者に「活字の本
読みたいでしょう、もっとこの人物について知りたいでしょう」なんて手招
きしているマンガを出版界はもっと大事にすべきではないか。こういう本が、
読書家を育てるんだぞ。

活字知らずには、活字の魅力を知らしめなければならない。誘惑して、道を
間違えさせなければならない(^o^)。そう考えれば、「バカボンド」だとせい
ぜい「宮本武蔵」くらいしか売れないが「栄光なき天才たち」はありとあら
ゆる本に手を伸ばす気にさせる分、市場波及力は大きい。

そんな本が常時手に入る状態でなければ、出版に未来などあるものか。集英
社よ、細々しか売れないだろうけどプライドを賭けてこいつを守ってくれ。
全巻出し続けてくれ。そして読者諸君、自分が読まなくても、子供向け偉人
伝よりはるかに面白いから、子供のために買いなさい。学校のセンセは生徒
に薦めなさい。学校図書館にあるフツーの偉人伝など捨てればよろしい。か
わりにこれを入れなさい。そして、集英社に続きを出そうという気にさせて
やって欲しい。それが本を育てるということだと思うから。

『栄光なき天才たち(1)』集英社
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『栄光なき天才たち(2)』集英社
http://www.ganessa.com/goods_dtl.php3?SHOPID=0906200024&GDS_NO=11
『栄光なき天才たち(3)』集英社
http://www.ganessa.com/goods_dtl.php3?SHOPID=0906200024&GDS_NO=12
『栄光なき天才たち(4)』集英社
http://www.ganessa.com/goods_dtl.php3?SHOPID=0906200024&GDS_NO=13
『風と光と二十の私と』講談社
http://www.ganessa.com/goods_dtl.php3?SHOPID=0906200024&GDS_NO=14
(↑こちらから本がお買い上げ頂けます。これは、編集人からもイチ押しの
大傑作です)

(朝日山 百姓 36歳 年間読書量50冊 好きなジャンル 特になし)
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■「坂口安吾との出会い方」キウ
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「風と光と二十の私と」「桜の森の満開の下」 坂口安吾 講談社文芸文庫

 坂口安吾をはじめて手に取るとき、多くの人は何から入るのだろう。やは
り「堕落論」だろうか。

 二十代前半で角川文庫の「堕落論」ではじめて坂口安吾を読んだのだけれ
ども、よく分からなかった。続いてやはり角川文庫の「白痴・二流の人」を
読んだのだけれど、人物論中心の、随分とゆるい(緻密さの感じられない)
歴史小説を書くものだな、と惹かれなかった。

 それらを読む時期や順番、編集の形態に寄るのかもしれないけれど、あま
り幸せな出会いはしなかった。

 講談社文芸文庫の「風と光と二十の私と」を三十になって読んでショック
を受けた。いわゆる私小説に分類される小説群であるのだけれど、圧倒され
た。観念的な愛、肉体、憎しみ、自己を縛り付け、突き放す「家」。様々な
ものに引き裂かれ、傷つき、血を滴らせながら、狂気すれすれのところを力
強く生き抜く作者の姿がそこにはあった。私小説によくある、静かな諦観は
もちろんなく、破滅的な生活をただ描くのとも違う。そういう自然主義風な
ところはない。どこか理念的であり、それ故に七転八倒の苦しみを生きざる
をえない。しかしそのような凄惨なありさまが、なぜか読み手には力強く映
る。

 続いて「桜の森の満開の下」を読んだ。こちらは一転して寓話と歴史小説
を集めた作品集。角川文庫版で「二流の人」を読み、歴史小説として楽しめ
なかったのだけれど、この文芸文庫版の編集のもとでは、世間に流通してい
る「歴史小説」という範疇で読むことが、間違っていたことを思い知らされ
る。

 はっきりとした寓話は「桜の森の満開の下」「閑山」「紫大納言」「夜長
姫と耳男」だけなのだが、それらとランダムに並べられている歴史小説もま
た、「寓話」なのだ。

 「二流の人」は才能にあふれながら一流の人たりえない黒田如水を描いて
いるのだけれど、なぜかそこで「芸術」について語られてしまう。

  小利口な奴に及びもつかぬ芸当で、時に際し、利害、打算を念頭になく
 一身の運命を賭けることを知らない奴にいわば『芸術的』な栄光は有り得
 ない。芸術的とは宇宙的、絶対的の世界に於けるということである。
 (P173)

 これは徳川家康を評しての一文。

  彼は自ら評して常に己を賭博師という。然り、彼は賭博師で、芸術家で
 はなかったのだ。彼は見通しを立てて身体をはったが、芸術家は賭の果に
 自我の閃光とその発見を賭けるものだ。(P245)

 これは、黒田如水を評した一文。

 歴史的な出来事をさも劇的に表現して、それについての評を下す。その繰
り返しの中で、自身の理念とその格闘が形作られていく。

 振幅の激しい作家であるから、その「理念」について、ひと括りに語るこ
とはできない。単純な二項対立は存在しない。ただ言えることは、そのよう
な坂口安吾の理念は常になにかと格闘していて休む間がない。その格闘の様
こそが、作品となって現れ出る。私小説的な作品においては自身が格闘し、
歴史小説・寓話においては登場人物が格闘する。

 出会い方の難しい作家であるように思う。出会い方を間違えれば、その魅
力に気づかずに、遣り過ごしてしまう。私の場合、私小説系の作品をまとめ
て読むことで、その魅力に気づいた。文芸文庫のこの二冊は、そういう点で
よい出会い方を提供できる編集となっている。

『風と光と二十の私と』講談社
http://www.ganessa.com/goods_dtl.php3?SHOPID=0906200024&GDS_NO=14
(↑こちらからお買い上げ頂きます。『桜の森の満開の下』はなんと品薄
で無理だそうです(TT))

(キウ 元書店員 31歳 年間読書量60冊 好きなジャンル・文学)
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■あとがき
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>わたくし、次の総理で滅茶苦茶な名案を思いつきました
>はあはあ
>次の首相はですね―、ゴアさんにお願いしてはどうかと
>あのねー、まず日本人じゃないでしょ・・
>しかし、アメリカ好景気のもと、「情報ハイウェイ構想」実現した人です
よ。実はこれ、日本人が考えて(何と、今のNTTドコモの社長)やろうと
したの、当時の官僚が潰しちゃって、それをゴアさんがアメリカで実現した
んですよ。それ以来アメリカ景気強いの何の・・
>おやまあ、日本の官僚ってホントどうしようもないですねー
>それくらい辣腕な人なんだから、やってもらえば日本が良くならないわけ
がないでしょ。だいたい、次の総理候補とか言われてる人に比べたら、ゴア
さんの方が圧倒的に期待持てるでしょう
>うう、確かに反論できないのが、なんだかなあ・・
>別にレンタルでもいいから、ジャパンマネーはたいて借りてこよう、おー
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