2001.5.31.発行 vol.36  [ただの脱力ではない 号]

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■「脱力感の文章からのぞく真剣さ」石飛徳樹
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★★恋愛旅人
角田光代著
求龍堂・1400円★★

角田光代が書く小説の魅力は、その脱力感にある。
 人物のキャラも、プロットも、文体も。
 ただし、ただの脱力ではない。
 脱力しているとみて読み進むと意外に真剣じゃないかと思えてくる。
 しかし、じゃあ、真剣なのかと考え直して読んでみると、やっぱり脱力し
ているのだ。
 その両面性というか、つかみどころのなさが、はまる人にはピタッとはま
るし、はまらない人には恐らく異星人としか映らないだろう。

 今回の「恋愛旅人」は小説ではなく、角田光代本人が東南アジア諸国やモ
ロッコ、アイルランドを旅した紀行エッセーである。
 ここでも、脱力がきちんとなされている。

 作家が海外旅行をしてエッセーを書くことはよくある。
 しかし、それらの多くは、出版社やテレビ局のアゴ・アシ・助手付きの大
名旅行だ。
 これはそんなやわなものではない。
 旅行会社のパックツアーではもちろんなく、危険がいっぱいの女一人旅、
行き先も泊まり先も風任せの、まあ、ほとんど「放浪」である。
 それも猿岩石のようなエセ放浪とは全く異なるタイプの、沢木耕太郎的、
あるいは藤原新也的な放浪なのだ。

 とは言っても、「深夜特急」や「印度放浪」などとは、読後感が全然異な
っている。
 砂漠を背景に本人が無邪気に微笑んでいる「記念写真」が表紙に使われて
いることでも分かるように、沢木や藤原の放浪が持つストイックさや真剣勝
負な感じは、少なくとも表面からは、およそうかがえない。
 やってることは結構ストイックだが、アウトプットされた文章は、小説と
同じく、魅力あふれる脱力感が支配している。

 例えば、冒頭に置かれた、スリランカで21歳の少年にナンパされた話。
 33歳だと年齢をいうと、なぜ結婚しないんだ、なぜこんなところにいる
んだ、と少年に驚かれる。
 彼の反応を見て、いつのまにこんなに年齢を重ねてしまったのか、自分自
身もよく分からなくなっていることに気づく。
 カナカナという蝉の声が、4歳の時に日本で聞いた声と全く同じだという
ことに思い至り、そこから途方もなく遠くに来てしまったことに茫然とする
……。

 スリランカまで出掛けていって、なんと小さいことを考えているのか。
 角田光代にはまらない人は、きっとそう思うだろう。
 もっとドラマチックで、哲学的なことを思いつかんのか、と。

 手品を教えたがるビンタン島のホテルの子供の話、バンコクのバスで隣り
合わせた巨大な膀胱を持った西洋人の話など、ここには、18のエッセーが
収められている。いずれもミニマルな話で埋められている。

 私が最も気に入っているのは、ベトナムで出会った日本人の男の子とビー
ルを飲みながら恋愛談議をする「旅における言葉と恋愛の相互関係について
」と題された文章だ。
 その男の子は旅の途中で知り合ったベトナム人の少女と結婚を決めたとい
う。
 コミュニケーションがきちんと出来ない相手と、どうして結婚できるのか、
と不思議に思った角田光代は、ビールの追加を頼み、喧噪の中で彼の声がち
ゃんと聞こえるように身を乗り出し、根ほり葉ほり尋ねる。そして得た答え
とは???

 魅力的な導入、ぐいぐいと興味を引っ張る展開、アッと驚く結末。もうこ
れは上質のミステリーのような鮮やかさである。
 結末はもちろん明かせないが、とぼけた軽いタッチで書かれた文章に似ず、
主題はクールで深く考えさせられる。

 脱力しながら真剣なテーマをさりげなく示す。自分が真剣であることを悟
られないように、読者との間合いをじわじわと詰める。角田光代はなかなか
の使い手である。甘くみない方がいい。

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(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
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■「女にわかるか? 男の世界なのだ」ミラクル福田
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『ごろごろ』 伊集院静 講談社 本体価格1900円

 伊集院静って好きじゃなかった。なぜって、男なら当たり前だろう。運動
神経はいいし(野球部)、広告代理店に勤めて華やかなサラリーマンをして
たし、色川武大や井上陽水なんかと親しい(かった)し、『愚か者』の作詞
はしてしまうし、小説はうまいし、酒は強いうえにギャンブラーだし、見た
目もどことなくハードボイルドだし、極めつけは夏目雅子を嫁にしたことだ
(篠ひろ子は大目に見よう)。世の中のおいしいところを全部持っていって
る気がしないだろうか?

 でも、『ごろごろ』は装釘がよかったから、買ってしまった。
まず、箱に入っているのがいい。やきものでも出てきそうな雰囲気がある。
題字も作為的ではあるけど悪くはない。カバーがなく、剥き出しのまま箱に
本が入ってるのも『ごろごろ』っぽくっていい。
 ちょっと読んでみたらこれがまた格好いいのだ。


 ガンさんは倉庫で守衛をしている。50才前後で、目つきの鋭い無口な男だ
(たぶん村松友視似)。毎朝起きて、退屈な仕事をして、酒を呑んで眠る。
そんな生活に嵌り込んで、人生を投げてしまっている。
そんなガンさんの元に、昔の知り合いから電話が入る。一緒に雀卓を囲み、
競輪に行った仲間の一人が金を持ち逃げし、彼を探しているとのことだ。

 ベトナム特需で、横浜がいまよりも活気があって、猥雑で、賑わっていた
頃のことだ。食堂で知り合った、足の悪い時計職人、押し出しの強い中古車
ディーラー、凄みのある保険屋、そして人足手配師のガンさんの4人が、麻雀
を通じて親しくなっていく。互いの深いところには触れない、微妙な間柄の
男たちは、みな"何か"を抱え込んでいた。

 いまだに"何か"を抱え込んだままのガンさんは、昔を思い出しながら、"何
か"を突き止めようとかつての仲間を探す旅へ出かけるが…。


 さえないおやじたちを描いた小説だ。池袋や上野の酒場に行けばごろごろ
してるようなうらぶれた男ばかりが出てくる。みんなわけありで、世の中に
背中を向けて生きている。でも、この男たちが妙に色っぽいのだ。

 おそらく、高倉健や菅原文太が一連の映画の中で抱えていた"何か"。それ
があったからこそ、男として「ピカピカの気障でいられた」"何か"が、『ご
ろごろ』のおやじたちにはあるのだ。だから色っぽいのだろう。

 色気のある男って、最近、見たことがあるだろうか? あまりないのでは
ないか。『ごろごろ』の魅力は、この色気の元、男なら誰もが持っている、
どうにもできない"何か"を掬い上げているところにあるだろう。
 だからといって、読んだからって、色気が備わるわけではない。でも、も
う見かけなくなった懐かしい男たちがここにいる。
 男ならわかって欲しいなあ。

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(ミラクル福田 某人文系出版社編集 31歳 年間読書量80冊弱
好きなジャンル 文芸・芸能)
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■「勝つ、というノウハウ」守屋淳
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『勝者のシステム』平尾誠二 講談社+α文庫 640円

神戸製鋼ラグビー七年連続日本一と言えば、ラグビー知らない人でもちょっ
とはご存知の事件かもしれませんが、そのときのキャプテンであり、後に日
本チームの監督も努めた名プレーヤーの書いた本です。

そして、これはラグビーやスポーツファンばかりでなく、人生一般、企業一
般のさまざまな場面で勝ちたいとか、成績挙げたいという人には、必読の一
冊なんです。

実は、ちょっと仕事でいろいろなスポーツの監督やら名選手やらの本読んだ
んですが、この平尾氏と野球の森監督(今、横浜の監督さんですね)の著書
が図抜けてレベル高かったんです。要は二人とも滅茶苦茶クレバーで冷静沈
着なんですね。森監督なんて、なにせ、満塁ホームランで大逆転、チーム大
喜びって場面でも、次の手はどうしようって一人で渋く考えているような人
――そして、それが監督の仕事だと言う人なんですから。

一方の平尾誠二氏も似たタイプなんですが、なにより場の流れを読むのが天
才的です。
例えば、味方が敵陣深く攻め込んだとします。みんなチャンスだと思います
よね。
でも、平尾氏は言います。これはチャンスじゃない、と。敵はみんなピンチ
だと思って必死だからチャンスじゃない。かえって、そういう状況から、ポ
ーンと球が押し返されて、ああ、チャンスが潰れたと選手も観客も思う――
こういうときこそ、チャンスなんだそうです。観客も敵も、気が抜けるから、
そこをつけ込めという……こんな読みができちゃう人なんです。そりゃ書い
たものが面白くないわけがない。

で、本書。ゲームの前の情報戦の話なんてホント白眉です。ちょっと長いけ
ど引用しちゃいます。
≪トーナメントでの重要なゲームの前に、新聞、テレビなどの取材を多く受
ける。わたしのコメントというのは、神戸製鋼が何を考えているか、という
ヒントになるものだから、相手チームとしては必ずチェックするはずだ。
 そのときに「今年の神戸製鋼は強い。相手はたいしたことない」というよ
うな、相手の感情を逆撫でするようなことを言ってはいけない。「うちも今
年はたいしたことない。今度はもしかしたら、もっていかれるかもしれない」
というようなことを冷静に話しておいて、相手のプレイの分析をするのであ
る。
 要するに、こちらがやられたら嫌なことをぽんぽん言うのだ。こんなこと
をしてくるだろう、あんなこともしてくるだろう、そう話すと神戸製鋼はそ
のプレイに対して練習し、対策を練っているなと考え、まずゲームでは使っ
てこない。
 トーナメントは一週間おきぐらいのゲームだから、この期間に練習できる
ことは限られている。まずこちらから、こうくるだろう、これも警戒しなけ
ればならない、という情報を相手に送り込んでおいて、相手のプレイをかな
り限定させてしまう。そうしておいて、その他の考えられるプレイを集中的
に練習するのである≫

どうです、嫌らしいですよねー。もう、小憎いほど戦い方をしっているとい
う感じ(笑)。ライバル負かしたいなー、ビジネスで成功したいなーってい
う方には必ず参考になる部分がある本です。ぜひ、どうぞ。

http://www.gozans.com/bk/?b=4062563045&s=shohyo 
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(守屋淳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好きなジ
ャンル 古典) 
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■あとがき
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>あの、例えば宇宙人が牛そっくりだったとします
>はあはあ
>それで今地球に来たらタイヘンなことになるのでは・・・
>なんですか、いきなり(笑)
>いや、伝染病やら何やらでヨーロッパじゃ数百万頭の牛殺してるわけじゃ
ないっすか。あれって、牛型宇宙人から見たら、ホロコーストそのものでは
ないかと
>うーん、そりゃ人間は悪魔に見えるかもしれませんね
>だいたい宇宙人が人間型なんて最近の話で、昔はタコだったじゃないです
か。これは決して絵空事ではないかもしれませんぞ……
>ああ、確かにタコでしたねー(笑)でも、絵空事でしょう(笑)
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