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2001.7.10.発行 vol.40 [新刊と復刊 号]
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■■ [書評]のメルマガ 2001.7.10.発行
■■ vol.40
■■ mailmagazine of book reviews [新刊と復刊 号]
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[CONTENTS]-----------------------------------------------------------
★「日本の外から見た日本(2)」ペク・ソンス
→万葉集が韓国語で読み解ける? 言語に見る両民族の関係性を探る。
★「古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧(2)」高野ひろし
→大阪の漫才は「秋田実」という人がみんなつくっているって、ホント?
★「林哲夫が選ぶこの一冊(2)」
→「未知の日本」を探検したイギリス人女性が携えていった一冊の本とは?
★「全著快読 山田稔を読む(4)」柳瀬徹
→山田稔の全作を徹底紹介。今回は処女作『スカトロジア 糞尿譚』。
★「マンガのようなホントのような(2)」南陀楼綾繁
→体験や歴史を元ネタとして描かれたマンガを紹介。今回はナースが登場。
★「書評サイト探検隊(4)」グッドスピード
→書評のサイトの辛口批評。今回は「堕天使ビブリオテカを求めて……」
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■はじめに
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6月前半、チェコのプラハに滞在していました。日本からのメールはネット
カフェで見ていたのですが、6月10日号の「書評のメルマガ」も届いていたの
で、ひと安心。結局、一週間より以前の予約発行はできず、グッドスピード氏
にお願いして旅立ったのでした。
そのほか、「全著快読 山田稔を読む」の柳瀬徹さんより、山田稔『幸福へ
のパスポート』が編集工房ノアより復刊されることになったとのウレシイお知
らせや、林哲夫さんや高野ひろしさんから新刊を出すとのご報告、ペク・ソン
スさんからソウルに取材に行ってきますとご連絡などなど、執筆陣からメール
をいただきました。よし、オレも頑張らねばなあと思いつつ、その日はビール
を飲みに行ったのでありました。 (10日号編集・南陀楼綾繁)
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■日本の外から見た日本 ペク・ソンス
(2)固着された歴史の見方を柔らかくする
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イ・ヨンヒ『うたう歴史2――イ・ヨンヒの韓・日古代史物語』朝鮮日報社、
2001年
数日前、3泊4日でソウルに行ってきました。ソウルの街を散歩しながら、
映画を見たり、屋台で立ち食いしたり、ヒリヒリする胃袋をなでながら、本屋
で何時間も過ごしました。
その時、目に留った一冊が、イ・ヨンヒ(李寧煕)氏の新刊『うたう歴史2』
です。最近の韓国の本の多くがそうですが、まるで写真集のような紙に、ほぼ
3、4ページごとにフルカラーの挿絵が入り、文字も大事なところは赤や青や
緑になっている、とてもきれいで楽しい本です。
イ・ヨンヒ氏は、文学であり、言論でもある万葉集を、韓民族の古代語をも
って解いていくと、日本語では解釈できない部分が、面白いくらい自然にその
意味がわかってくると言います。そしてそこには歴史的な大恋愛や政治事件が
見えてくるそうです。
この本では、その中で7世紀末から8世紀始めに、百済の王と新羅の王女の
間で生まれ、日本に亡命した、そして、日本の天智王の異腹兄弟であり、妻で
もあった鏡王女を中心に、高句麗の淵蓋蘇文と新羅の文武王などが、日本の王
室を舞台に展開した巨大な物語りが描かれています。
そして、この物語りのところどころで、万葉集の多くの恋愛詞が、同時に政
治的風刺としても読めることを、韓国と日本の古代語を通じて見事に見せてく
れます。
たとえば、万葉集で良く唄われる「白玉」は、普通は「真珠」を意味するが、
同時に「新羅王」とも読めるそうです。「白:しら」は「白色」と「新羅の日
本式呼び方:しら、しらぎ」で解釈でき、「玉:たま」は、「丸い玉」と「王」
を意味する韓国古代語の「タム」が日本化された言葉だそうです。
歴史的な真相についていろいろ異論があるかもしれないけれど、韓半島や日
本列島における「国」や「民族」の意味が今とは異なる、政治も文化もより多
層に重なりあっていた古代の物語りを読みながら、現在自分が持っている固着
された歴史に対する見方が、少し柔らかくなった気がしました。
イ・ヨンヒ氏の本は、『もう一つの万葉集』『枕詞の秘密』『天武と持統』
(文春文庫)など、日本でもすでになん冊も翻訳出版されていますが、この新
刊もいずれ日本語で読めることを期待しています。
【編集部より】前回、ペク・ソンスさんの漢字表記が、一部文字バケしてしま
いました。正しくは「白盛(王ヘンに秀)」ですが、最後の文字は外字です。
また、今回の本は、当然ハングルで表記すべきですが、メールマガジンではハ
ングル表記ができないので、タイトルを翻訳いたしました。
〈ぺく・そんす〉1963生まれ。1985年に来日し、東京大学・大学院社会学研究
科修士・博士課程を終了。現在、神田外語大学・国際コミュニケーション学科
の専任講師。小学2年の息子が一人いる。今回のソウル行きではっきり感じた
のは、現在韓国でいわゆる386世代(80年代に大学に通った、60年代生まれ
の人たち)があらゆる分野で最前線にいるということでした。
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■古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧 高野ひろし
(2)社会主義とお笑いを大まじめでやり遂げようとした男
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富岡多恵子『漫才作者 秋田實』平凡社ライブラリー、2001年
今でもNHKのラジオで演芸番組をやると、漫才の場合、必ず作者の名前を
言います。テレビだとテロップが出るかなぁ。それが上方漫才となると、判で
押したように「秋田実・作」だった時代がありました。ゲラゲラ笑いながらも
子供心に「大阪の漫才は、秋田実という人がみんな作っているのだ」と思い込
んだものです。根っからの関西演芸好きの作家・富岡多恵子が、『漫才作者
秋田實』によってその数十年来の思い込みを解明してくれるんです。
旧制高校時代から社会主義にのめり込み、海外小説を原書で読んでいた秋田
は、頭ン中上出来です。しかも一方では外国の笑い話をドッサリ暗記しちゃぁ
友達を笑わせる。人見知りで引っ込み思案なのに、駄洒落を連発する。勿論父
親の影響で、芝居も演芸も小さな頃から見ています。この人の思考回路はどう
なっているんだろう? 社会主義と笑い話を自らに抱え込んだまま、東大(当
時は帝国大学)に進むんです。大学に入っても社会主義研究は止めません。止
めないどころか発禁だらけの機関誌の編集をし、非合法活動にいそしむんです
ね。でね、いかにも秋田らしいのは、勉強ばかりじゃいけないってんで、紡績
工場で働き始めちゃうんです。理論と実践! これが秋田の信条です。
暗記した笑い話は、友達を笑わせることで成就します。横山エンタツとの出
会いによって漫才作家の道を突き進んでも、この考えは変わりません。頭で考
えたネタに、どう血を通わせるか? そして可愛がっていた若手に、その発表
の場を与えるために奔走する秋田。漫才という対話形式のメディアにメッセー
ジを託すことで自分の影を薄め、風刺も笑いに昇華させちゃう。民俗芸能的な
万歳を、都会的な笑いのある漫才に変えてしまった秋田。社会主義もお笑いも、
大まじめでやり遂げようとした秋田實。きっと死ぬまでその思いは変わらなか
ったんじゃないでしょうかねぇ。
『漫才作者 秋田實』1,300円(本体)
http://www.gozans.com/bk/?b=458276391x&s=shohyo
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
〈たかの・ひろし〉東京生まれ・町歩き人&路上ペンギン写真家・ウクレレブ
ラザース主席ウクレレ弾き。この10年ほどペンギンのオブジェを街角に置いて
写真を撮り続けています。その路上ペンギン写真が一冊にまとまることになり
ました。『ペンギン日和』1260円(税込)、うなぎ書房より7月30日発売予定
です。
「銀の輔旅日記」http://www.page.sannet.ne.jp/yamazo/ginnosuke/
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■林哲夫が選ぶこの一冊
(2)旅に生きたイギリス人女性が鋭い観察眼で描く明治初期の日本
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イザベラ・バード著、高梨健吉訳『日本奥地紀行』平凡社ライブラリー、
2000年
本は旅の道具である。ちょっと電車で隣町まで出かけるのにも、何か一冊カ
バンにしのばせる、ところがその一冊が決まらない、あれでもない、これでも
ない、軽いヒステリー状態、で、結局出かけるのを取りやめる、などという経
験、誰しもあるだろう(ない?)。しかし、今ここで「旅の道具」と断言した
のはそういう意味においてではない。文学(もっとも広い意味で)そのものが
「旅」だと言いたいのである。ホメロスの叙事詩は言うに及ばず、『山海経』
はかっこうの旅行案内書だし、ブッダの放浪が初期教典となり、『聖書』は追
放で始まりエクソダス(大脱出)へと続く。孔子さま漫遊録すなわち『論語』
である。『西遊記』や『ジル・ブラース物語』『ドン・キホーテ』などはその
まんま旅行記……。つまり文学はすべて旅、だから本は旅の道具なのである。
と、まあ大きく出たが、要するに夏休みも近いことだし、旅の一冊を取り上
げてみようというだけの話である。今日、地球上に秘境はない、と誰かがうそ
ぶいていた。たしかにそうかもしれない、ヒマラヤがゴミで埋まるくらいだも
の、まして日本国内など、ただでさえ人口密度が高いのだ、人跡未踏の場所な
どあるはずがない。イザベラ・バードの『日本奥地紀行』は、そんな時代がや
って来るとは誰も予想だにしていなかった、明治11年という転換期における、
東北・北海道が舞台である。
イギリスの片田舎に牧師の長女として生まれたイザベラは幼少の頃から病弱
だった。医者に船旅をすすめられ、カナダ、アメリカを訪れたのが23歳のとき。
オーストラリア、ニュージーランド、ハワイ、アメリカをひと周りしたのが41
から42歳にかけて。ふたたびアメリカを経て、上海、そして日本にたどり着く
のが47歳。半年あまり滞在して奥地を探検。香港、マレー半島、カイロと寄っ
て帰国した。10年後、妹、夫に先立たれ、漂白の思いは止まず、インド、チベ
ット、ペルシャを巡遊、病院を建設。日本を再訪するのが63歳のときで、日清
戦争のさなか、2年にわたって朝鮮、中国、日本の間を往ったり来たりしたとい
うから肝っ玉がすわっている。最後の旅は70歳、モロッコ。あの世へ旅立つの
が73歳。まさに旅に生きた女性である。
1878年5月20日、イザベラは横浜に上陸した。富士山の美しさに感動しな
がら、日本人の第一印象を「小柄で、醜くしなびて、がにまたで、猫背で、胸
は凹み、貧相だが優しそうな顔をした連中がいた」などと容赦なく描写してい
る。領事館に立ち寄った後、フランス人の経営するオリエンタル・ホテルに投
宿し、旅行者の誰もがするように手持ちの金貨を両替した。驚くなかれ、当時
の交換レートは1ドル1円だった!(英貨では約3シリング8ペンス)
イザベラは東京の公使館を訪ねるため汽車に乗った。「この鉄道は、英国人
技師たちの建設になるもので」「工事にどれほど費用がかかったのか、政府だ
けしか知っていない」と彼女は書いている。石井研堂『明治事物起原』(ちく
ま学芸文庫)にあたってみると、明治政府も資金調達には苦心したらしく、英
国人レーの入知恵で百万ポンド(おおよそ500万円)の外債を起こし、加え
て英国人リードから300万円(=300万ドル)を借り入れたという証言が引用
されていた。これで英国人が設計施工するわけだから、英国まるもうけの構図
ができあがっていたことになる。
イザベラは通訳を雇った。「多くの日本人が、その職を求めてやってきた。
英語をよく話せることが、必須条件である。応募者たちが、発音が下手で、さ
らに単語をでたらめにつぎあわせて、それでも充分な資格があると考えている
のには恐れ入った」。耳が痛い。結局、三人だけ有望そうな候補が残ったが、
そこへ紹介状も持たず、十八歳くらいにしか見えない男が飛び込んできた。身
長155センチ、がにまた、「顔はまるくて異常に平べったく、歯は良いが、眼
はぐっと長く、瞼が重くたれていて、日本人の一般的特徴を滑稽化しているほ
どに思えた」。この男、イトー(伊藤)は北海道をよく知っており、英語の読
み書き会話を無難にこなすということで、あまり気乗りはしなかったものの、
一刻も早く出発したいイザベラは採用を決定した。月給12ドル(召使いも兼ね
るので必ずしも高額とは思えない。当時の茶店で出す茶が1杯1銭5厘として、
今日コーヒー1杯が仮に300円とすれば、2万倍、ということは月給24万円で
ある)。いずれにせよ「このさき三カ月間、彼は守り神として、またあるとき
は悪魔として、私につきまとうであろう」というイザベラの予感は的中する。
イトーこそイザベラにとって探検すべき「未知の日本」の重要な一部分となっ
た。
さて、準備は整った。いよいよこれからイザベラの日本北部への旅が始まる
わけだが、そちらは本書で堪能していただきたい。ハッとするような鋭い観察
につり込まれ、あれよあれよと言う間にアイヌの村までお供させられてしまう。
ところで「旅の道具」に話を戻すと、イザベラはどんな本をこの困難な旅に携
えて行ったのだろうか? 出発時の荷物には、ブラントン氏日本大地図、『英
国アジア協会誌』数冊、サトウ氏の英和辞典、が数えられている。いずれも旅
人の必需品だ、と思って読んでいると、青森で日本人クリスチャンたちに対し
て(妙な話だが)彼女自身がクリスチャンであるという証拠を見せるために
『聖書』を取り出すというくだりがあった。やはり牧師の娘である。
『日本奥地紀行』1,500円
http://www.gozans.com/bk/?b=4582763294&s=shohyo
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
【執筆者より】4月10日号の文中「六峰書房」は「六蜂書房」の誤りでした。
訂正してお詫びします。
〈はやし・てつお〉1955年生まれ。画家。『少々自慢この一冊』(EDI)出来。
荒川洋治、坪内祐三、紀田順一郎などきわめつきの本好きたちが語る自慢の一
冊です。小生も末席に加えてもらっています。購入は基本的に直販です。
editorial-design@mta.biglobe.ne.jp
また、青弓社より拙著『古本デッサン帳』が出ました。ご一読を。
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■全著快読 山田稔を読む 柳瀬徹
(4)現在の声を内包した、若き日の作家の息づかい
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『スカトロジア 糞尿譚』未来社、1966年。
(講談社文庫版、1977年。福武文庫版、1991年)現在いずれの版も入手不可
屠殺場のような血まみれの床に置かれた寝台で、「産婦人科における屈辱的
姿勢」を強いられながら、なぜ「私は手術の間じゅう上機嫌だった」のか。ひ
そかに望んでいた患部をすっぽりと除去する、記号論理学の泰斗と同じ名の手
術法とは異なる処方を施されたにもかかわらず、「解放はすでに始まっている」
などとどうして思えるのか。
秘密は壁に留められた、担当医が赤鉛筆で丁寧にグラデーションを施した患
部の図の「やわらかな、桜貝のような色」にある。地図帳に彩色して遊んだ記
憶が蘇り、目の前の同好の士との邂逅を勝手に喜んでいるうちに「ホワイトヘ
ッドではなく、痔核をひとつひとつ鋏で切る」手術への恐怖心が取り除かれて
しまっていたのだ(「I外科病院にて」)。
誰にとっても少なからず酷薄な現実を、たとえ一時の気休めであろうとも、
優しい桜貝の色に塗りかえてしまう魔法の鍵。そのありかをこの作家はきまっ
て誰もが見逃すようなささやかな一点に見いだす。独特の卓抜なユーモアはい
つも小さな細部からにじみ出てきて、しだいに全体を淡く染めていく。
山田稔の散文作品では排泄行為あるいは排泄物そのものの描写にしばしば出
会う。比喩としては相当に不適切であることを承知でいえば、それらもまた周
囲にやわらかく作用する染料なのだ。愛する者の発する言葉に耳を傾け、顔も
知らない隣人の排泄音には耳を塞ぐなどという偏狭さはここにはない。差別を
源泉としない淡色の愛の、かすかな色彩の推移に感応する痔核ならぬ網膜は、
誰であろうと「ホワイトヘッド」すべきではないものなのだろう。
富士正晴主宰の同人誌「VIKING」に62年から連載された、古今東西
の文学作品に散見する糞尿譚についての文章を中心に編まれた本書は、山田稔
にとってはじめての著作だった。数年後のパリを散文作家の生誕の地とみなす
ならば、この本からはまだ完全には定まってはいないものの、まぎれもなく現
在の声を内包した、若き日の作家の息づかいが聞こえてくる。
〈やなせ・とおる〉 青山ブックセンター本店勤務。先日、編集工房ノアから
『幸福へのパスポート』復刊の報せをいただいた。嬉しい。この号が出る頃に
は書店に並んでいるはず。1人でも多くの方がこの旅券を取得されることを願
うばかり。
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■マンガのようなホントのような 南陀楼綾繁
(2)「生命を預かる仕事」のアタリマエな日常
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たかさきももこ『白衣でポン』現在第4巻まで(以下、続刊)、集英社(ヤン
グユーコミックス)、1999年―
マンガの主人公が就いている職業として、医師、警察官、消防士、海難救命
員、飛行機や列車の操縦士といった「生命を預かる仕事」がよく出てきますね。
これは、サラリーマンや学生と違い、仕事に絡めてドラマティックな展開がし
やすいためだったり、基本的に「正義」のイメージがあるためでしょう。ただ、
マンガである以上、デフォルメは付き物で、現場のヒトは「いくらなんでもそ
んなコトはねえよ」と毎回突っ込みを入れているに違いないのですが。
女性が主人公の場合、上位に来るであろうと思われるのが、看護婦です。数
年前には、佐々木倫子『おたんこナース』(小学館)がベストセラーになりま
した。今回紹介する『白衣でポン』の作者、たかさきももこは高校卒業後に准
看護学校に入り、6年間ナースとして働いた体験があります。
『白衣でポン』は、「たちばなクリニック」の新米ナースで、お調子者の桃
園クララがやらかす数々の失敗を描くコメディ。彼女が起こす事件のひとつひ
とつが、逆に、ナースという仕事がいかにタイヘンかを判らせてくれて、勉強
になります。桃園の同期でクールな若葉、バツイチの大空主任、女好きの水上
医師など、周りのキャラクターも人間的です。
この作品がこれまでの看護婦モノと違うのは、ナースという「生命を預かる
仕事」がタイヘンで厳しいものであると同時に、普通の人たちの仕事のように、
バカバカしかったり脱力したりする局面もよくあるのだ、というアタリマエの
ことを描こうとしている点です。
現実のナースは、「やさしくてしっかりしていて、献身的でマジメ、キレイ
好き、働き者で奉仕の精神、夫の健康管理もしっかりしてくれて、妻にするに
はもってこい」という「白衣の天使」でもなく、「ナースにはエッチな人が多い。
ナースはストレスがたまるから、性で発散させる」というAVまがいの「妄想」
の存在でもなくて、普通に泣いたり笑ったりして生活しているヒトたちなので
す。こういうコトを、エッセイではなくストーリーマンガで描ける作者は、「体
験」を「物語」に昇華させるテクニックを身に付けているのでしょう。
『白衣でポン』現在第4巻まで(以下、続刊)。各857円
http://www.gozans.com/bk/?b=4088644557&s=shohyo (第1巻)
http://www.gozans.com/bk/?b=4088645162&s=shohyo (第2巻)
http://www.gozans.com/bk/?b=4088645278&s=shohyo (第3巻)
http://www.gozans.com/bk/?b=4088645480&s=shohyo (第4巻)
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
〈なんだろう・あやしげ〉1967年生まれ。ミニコミライター。共著『ミニ
コミ魂』(晶文社)。先日のプラハ旅行についての手記を書きはじめたら、何
回書いても終らない。現在も「烏書房」サイトで定期的に更新中。
http://homepage2.nifty.com/hon-karasu/
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■書評サイト探検隊 グッドスピード
(4)難解な「奇書」に面白さを見出す
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「堕天使ビブリオテカを求めて……」
http://www.ja4.cs.gunma-u.ac.jp/~okajima/
「本当に面白いものは、えてしてつまらないもの、難解なもののベールに覆わ
れている。」
個人サイトの紹介にそう書き付ける青年は、情報工学を専攻している学生だ。
「書評」と銘打たないまでも、読書日記や読んだ本の感想などを個人のサイト
で公開している人は数多い。このサイトもそのひとつ。本の感想を書き付ける
「聖丁内禁書目録制定省」、自作の小説を紹介する「ビブリオグラフ」、こんな
本があったらいい、あるいはいま構想中の小説について語る「架空の書物」、
自分の発明的言語を書きとめる「私的言語 Ars Poetica」、そしてリンク集「未
知なる書物へ」のコンテンツがある。(この自己愛には恐れ入る)
この青年が「敬愛すべき知の巨人達」として挙げている高山宏、澁澤龍彦、
阿部日奈子、小栗虫太郎、バルトルシャイティスといった人名を見てもわかる
ように、「聖丁内禁書目録制定省」で紹介している本は、貴書ならぬ奇書であ
る。サイト自体の色づかいも紺や紫、黒でいかにもといった感じだが、とはい
え、そこで取り上げている本は、ヴォルテール『ザディグ』、海野十三『俘囚』、
マルキ・ド・サド『美徳の不幸』、湯川秀樹『目に見えないもの』などなど、
いわゆる「古典」も含まれている。書名の下に、一言キャッチをつけ、さらに
本文からお気に入り文章を引用、そして400字前後の短い読書感想という体裁。
普段お目にかかったり、思い浮かばない本が取り上げられているところは実に
新鮮で参考になる。
なかでも気になるのは「私はエーを取ることが多かった。ただし英語ではな
くドイツ語のエーであった」という一文を「名文」としてこのサイトの主が引
用している湯川秀樹の『目に見えないもの』も読んでみたいし(講談社学術文
庫に入ってます)、『ガリヴァー旅行記』のスウィフトが書いた「アイルラン
ドにおける貧困家庭子女が、両親および国家の高負担となることを防止し、む
しろこれを社会有用の材たらしむる件についての私案一つ」という長ったらし
いタイトルの作品も読んでみたい(こちらは、筑摩書房の『ちくま文学の森』
第7巻「恐ろしい話」に収められています)。
がしかし、人に読んでもらいたいと思うなら、詳しい書誌情報を載せてほし
い。さらに近刊の「奇書」もぜひ取り上げてほしい。古典はもちろん面白いけ
れど、現代にも「奇書」はあるはずだから。それをぜひ読みたいんだよ、青年!
〈ぐっど・すぴーど〉1968年生まれ。書評サイト探検隊隊長(自称)。「本」の
メルマガ(毎月5日号)で「一字千金の記」をヘトヘト連載中。
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■あとがき
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近所の古本屋さんがサイトを開いた。そこには、定期的に本を売りに行くの
で、ときどき覗いてみる。先日の日記では、ぼくが売った雑誌を店のヒトが読
んで、こういう記事があるのでオススメだと書いてあった。ところが、ぼくは
その記事を読まないママに売り払ったのだった。だから最近は、その店に行く
たびに、一度売ったその雑誌をこっそりと立ち読みしている。 (南)
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