2001.8.20.発行 vol.44  [新刊のふり 号]

■■-----------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ                           2001.8.20.発行  
■■                                                     vol.44
■■     mailmagazine of book reviews       [新刊のふり 号] 
■■-----------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------- 
■『ガラクタをちゃぶ台にのせて』畠中理恵子
---------------------------------------------------------------------
『ガラクタをちゃぶ台にのせて』さえきあすか著

 「愛着」について考える本。
 著者は「ひと昔前(注:だいたい大正から昭和位?)に日本でつくられた
モノ、ガラクタを収集するかたわら、[弓屋かえる堂]の屋号でモノたちを
紹介したミニコミを発行する」女性。本書はそんな著者の、思い入れたっぷ
りなコレクションから愛すべきモノたちについて、まっすぐに語られたエッ
セイ集だ。
 ひろったちゃぶ台から始まり、でてくるでてくる不思議なモノ、モノ。
 迷子札(昔の人は、迷子にならないため子供に真鍮やらで住所や干支の入
った札を持たせたらしい)、
 ローラー洗濯器(手に持ちやすいサイズで木製のローラーのついた箱型。
多分箱の中に石鹸を入れて前後に動かして洗濯するのであろうと推測。特許
出願中とあるそうだが。…)
 衛生楊子(その昔楊子は人が削って作っていた。よって使用する前に煮沸
消毒などをしていたらしい。この楊子は箱の小さな穴から一本一本出せて、
他の楊子をさわる事もなく大変衛生的だとのこと。…)
 二宮金次郎の陶板(かつて一世風靡した尊敬の対象、二宮金次郎。陶製で
例の薪を背負いながら本を読む姿がやかれている板。鉄道省とか通信省とか
書いてあるらしい。役所用の金次郎?この金次郎の流行は愛知県岡崎市のお
地蔵さんを作っていた石材加工職人が昭和3年の博覧会に金次郎像を出品、
好評を得たことからヒントを得、宣伝。見事各学校に普及させたとのことだ。
すごい。)
 ネクタイ更正器(ネクタイを上手く結ぶための何か、らしい。)
 無針紙綴器(ホッチキスなどの針なしで紙を綴じれる器械。名前通り)
 野球少年のランドセル(昭和30年代に出回ったらしい。絵柄のついたラ
ンドセル。厚手の紙や布製。結構脆いので使い勝手には疑問があるらしい。
見た目は○)
 等など。その他吃驚するような変わったユーモラスなモノが登場する。
 全国の骨董屋や骨董市へ足繁く通い、出会ったそれぞれの品物は、内臓の
一部のように著者の中にすっぽりと収まっている。出会いの不思議から、そ
れに惹かれる力。著者はその「縁」を頼りに、自らの輪郭を手探りで見つけ
ているような気がする。
 何かを愛し、所有し(共存し?)、生活する。
 共に身近にあることで生まれてくるイマジネーションの新鮮さ。
 日々使っている、あるいは目にしている、自分にとって近しい何かの存在
と距離。
 手にとって触って、…ほっとして。
 モノの持つ生命力、言葉とでもいうのか。
 著者にはそれが聞こえるのだろう。
 「毎日を愉しく暮らしたい。
  ひとつひとつをていねいに生きたい。
  大好きなモノに囲まれて暮らしたい。
  そんな気持ちがいつも私の中にあります。
  だから古いものに惹かれたり、懐かしくてやさしいモノを集めているの
    だと思います。」
 「骨董品」とはちょっとちがう名もなき生活用品への愛着。
 著者ののびやかな、ゆったりとした人柄が
文章やモノの来歴解説ににじみ出て、いっそう魅力的な本にしている。
故郷のはなし、昔のはなし、家族のはなし。みんな愛着を感じる。
 「モダンガールの羽子板」の章の母からのハガキのはなしは特に好きだ。
 週に1枚、著者のお母さまはハガキをくださるそうで10年余、千枚近く
になる、という話。
  「お元気ですか?」ではじまり、
 日々の生活のこと、たとえば何が安くて買ったとか、食事は何を作ったと
か、妹の起床時間、遅々がパチンコに勝った、負けたなどこまかく書いてあ
り、最後にかならず「何事にも注意」と、「いつまでもあると思うな親と金」
でしめくくってあるのです。
 官製ハガキに黒のボールペンでたんたんと縦書きされた歯はのハガキは、
 全部広げてみるとお経のようにも見え、なんだか迫力があります。

 著者の日常への気持ちが読んでいて心地よい。生活を愛するたのしさを、
あらためて感じさせてくれる。
 写真/坂本真典、装幀/金田理恵。
 やさしい仕上がりになっている。 

『ガラクタをちゃぶ台にのせて』
さえきあすか著 坂本真典写真
四六判・222頁・本体価格2000円+税
2001年7月10日発行
ISBN4−7949−6495−1
晶文社刊

http://www.gozans.com/bk/?b=4794964951&s=shohyo 
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
<畠中理恵子 書肆アクセス店長 神保町の看板娘、じゃなくて看板奥様>
-------------------------------------------------------------------
■「サッカーは退歩している」小林圭司
-------------------------------------------------------------------
『Eat foot おいしいサッカー生活』
 西部謙司・著 1400円 双葉社・刊

Jリーグは再開し、日本代表はオーストラリア代表に完勝し、J2では独走
していたはずの大宮が大変なことになり、インターハイは市船が藤枝東を
破って優勝。
まだこんなに暑いというのに、日本中サッカーだらけでご苦労なことだ。

本当は先月惜しまれつつも引退したドラガン・ストイコヴィッチのことを書
きたかった(あれ?でもこれは「書評」のメルマガだっけ?)。
当メルマガ毎月10日号執筆者のYさんと見に行った彼の公式戦最後の試合
はとても盛り上がって、二人とも「ピクシー、オレ!」コールを絶叫してし
まったのだった。

でも、彼の引退景気を当て込んで出された本が、揃いも揃ってトホホなもの
ばかりなのだ。
スカスカな文庫とか、彼の軌跡をマンガで紹介してみたものとか。
これだったら、木村元彦の『誇り』と『悪者見参』(どちらも集英社文庫版
あり)だけ読んでおけば十分だ。
どちらもピクシーとユーゴスラヴィア・サッカーを扱ったすばらしい本だ。
これを取り上げさせていただくという手もあったのだが、すごく好きなサッ
カーの書き手の本が出たので、そちらにさせていただいた。

『Eat foot おいしいサッカー生活』は、双葉社の誇る「サッカー
批評叢書」の第5弾として刊行された。

熱心にサッカー・サイトをチェックしている人には、「2002クラブ」の
コラム執筆者として、西部氏はよく知られているかもしれない。
メルマガを購読していらっしゃる方のほとんどはネット環境にあるだろうか
ら、お暇なときにぜひ読んでみていただきたい。
このコラムは、大住良之氏が「サッカーマガジン」のサイトで連載している
「On the Ball,Off the Ball」と並んで、サッカーとサッカーにまつわるこ
とのおもしろさが凝縮された、最高のエッセイだ。
同時に、サッカーを肴に飲んでいるときのウンチクとしても、最高のネタ供
給源でもある。

この本の冒頭、英国の老ジャーナリストが投げかけた言葉は「サッカーは退
歩している」。
もうこれだけで3時間は飲めそうだ。

著者と老ジャーナリストの機知に富んだ会話からモダン・サッカー論へ展開
するあたり、初出の雑誌「サッカー批評」で読んだときも感心したのだが、
読み返してみてもやっぱりうまい。
ユーモアと感傷と論理と主張がよいバランスで調和しているのだ。
サッカー専門誌の編集記者であり、3年間パリに滞在し欧州サッカーについ
ての造詣も深いにもかかわらず、知識を押しつけるのではなく、こなれた文
章で読ませる独自のスタンスには感服させられる。

だから、本書も「欧州サッカー文化論」などというお堅いものではなく、
「寝ても覚めても、夜も昼も、毎日がフットボール。」という当たりのいい
読み物になっている(ちなみにどちらもオビ文句)。
テーマは各国リーグの特色、育成、サッカージャーナリズムの問題、監督
論、フィリップ・トゥルシエについて、と幅広い。
それぞれに独自の視点とすぐれたバランス感覚が発揮されている。

おすすめは先にあげた「サッカー退歩論(第1章)」だが、「取材ノートの
余白から(第5章)」や「考える足とヘディングする頭(第6章)」はたの
しいし、「監督たちの肖像(第7章)」は歴史的名監督について語られる前
半部、トゥルシエについて論じた後半部ともに充実している。

こんな自由な本を読んでいると本当に、「サッカー的だな」と思える。
西部氏はあとがきで、サッカーは「やる」が一番、二番が「見る」で、三番
目がに「語る」だ、と述べているが、こういう本なら「読む」を四番目に加
えたいぐらいだ。
本書は欧州中心だったが、次作は「2002クラブ」でもよく取り上げてい
る、ドメスティックなサッカーについてまとめた本を期待したい。

http://www.gozans.com/bk/?b=4575292583&s=shohyo 
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
<小林圭司 出版社営業部員 32歳 年間読書量50冊&年間生観戦数5
0試合 好きなジャンル 翻訳小説・サッカー>
--------------------------------------------------------------------- 
■『既刊本を売ろう』朝日山
--------------------------------------------------------------------- 
「人間の証明」森村誠一 角川書店版、角川春樹事務所版の2種あり

出版不況に出口がなかなか見つからないためか、最近「本が読まれなくなっ
た、売れなくなった」という話を聞くことが多い。出版人の書く本でも「本
が読まれなくなった、本が売れなくなった」という言説を当然の前提として
いることが多い。本は売れなくなっているだろうか。

人口一億二千万人の日本で、現在の本の販売数は約八億冊。一人当たり年間
七冊程度買っている計算になる。読書人口を六千万人と見積もれば、年間十
四冊、三千万人と見積もれば二十八冊買っている計算になる。この数字、少
ないと思いますか?
普通、社会人としてまともに仕事をしていて、週に一冊本を買うという人が
いるとして年間に買う冊数は50冊を越える程度。図書館やブックオフで買
ったり読まれたりする本を含めると、読まれる本はもっと多くなるはず。

統計を見ても、まだ本が売れていたとされる二十年前、三十年前より、今の
販売冊数の方が多いのです。十万部売れるマーケットにこれまで十点のとこ
ろに二十点供給すれば一冊あたりの販売数は半減する。本が売れなくなった
のではなく、店も商品も単に供給過剰になっているだけじゃないのかねぇ。

私が出版社の社長だったら、既刊の販売比率を上げようとするでしょうな。
本は一点を刷れば刷るほど利益率が高くなる。同じ売り上げなら既刊を売っ
た方がはるかに儲かる。いかにも新刊のふりした表紙と帯を付けたら、最近
の本読んでないアルバイトは新刊と勘違いして平台に並べるかもしれない
(笑)
もしこの作品を自社が持っていたら……、朝日山はカバー付け替えて新刊の
ふりさせて出庫するでしょう\(^o^)/

「人間の証明」はメディアミックスの先駆けとなった角川書店が、当時横溝
正史に続いて売り出した森村誠一の大ヒット作品。今も続く棟居刑事シリー
ズのたぶん最初の作品。三十代後半以上の方には「母さん、ぼくのあの帽子、
どうしたでせうね?」で始まる西条八十の詩に続いてジョー山中の"Mama,do
 you remenber♪"が流れた、あれと言ったら思い出される方が多いと思う。

日本を代表するホテルの最上階にある超高級レストランに向かうエレベータ
ーの中で一人の黒人が倒れた。胸にはナイフが刺さっており、どうも別のと
ころで刺されてからここまでたどり着いたらしい。殺された黒人ジョニー・
ヘイワードはなぜ病院を目指さず、ここに上ってきたのか?なぜ目撃者に
「ストウハ」と言い残して死んだのか。

担当刑事棟居は、持ち前の異常な熱心さで事件に取り組む。彼が刑事という
仕事に執念を燃やすのは、社会正義のためではない。この世に存在する全て
の人間に復讐するためだ。戦後間もないころ、衆人環境の中唯一の肉親であ
る父を米兵になぶり殺しにされ孤児となった棟居は、全ての人間を憎んだ。
米兵だけでなく、父がなぶられるのを見ていた群衆も、治療に手を抜いた医
師も、調書を取るだけの仕事しかしない警官も全て憎んだ。こいつらを追い
つめ、復讐することのできる職業として彼は警察を選んだ。

突き止められた殺人現場に落ちていた古い麦わら帽子。棟居は、「ストウハ」
がストローハット(麦わら帽子)のことであり、夜に輝くホテルの光にジョ
ニーは麦わら帽子を見たことを突き止める。なぜジョニーは、麦わら帽子に
執着したのだろう……。

残った手がかりはやはりジョニーが持っていた古い西条八十の詩集のみ。ジ
ョニーの母国からの情報で捜査の方向を定めた棟居は、わずかな手がかりに
食いついて犯人を追うが、犯人はすぐさま手を打ってくる。状況は絶望的だ。
ヘイワード殺人事件の捜査と同時並行するひき逃げ事件を追う、民間人小山
田と新見。ここでキーになるのは「熊の縫いぐるみ」……。最後に二つの事
件が合流するとき棟居は賭けに出た。賭けたものは「人間」。棟居と犯人の
取調室の攻防、そして……。

この作品、実は朝日山に小説の面白さ、凄さを教えてくれた最初の作品でも
あって、最近の面白くねぇ新人作家のミステリに辟易して二十ウン年ぶりに
読み返しましたが、やはり古さを感じさせない傑作でした。何が面白かった
の、凄かったのと言うと、それは完成度の高さと森村誠一の気迫。

推理小説と考えれば、ミスリードなど考えていない作りで、本筋の犯人は終
盤までには大方わかってしまうだろう。しかし、これは欠陥ではない。森村
誠一は最初からフーダニット(犯人探し)を書いてはいないからだ。森村誠
一はフーダニットのふりをするという伏線を張り、最後に読者を感動の渦に
巻き込むとは思わせない。

しかも倒叙型のサブストーリーや縦横無尽に張られた伏線、すなわち西条八
十の詩や「キスミー」、「熊のぬいぐるみ」などが秀逸にして、最後に全て
が集束する。無駄な部分が全くない。山形浩生流に言えば、伽藍小説。それ
でいてテクニックを意識させないのは、森村誠一自身が言っているように、
無自覚にだが、二十数年暖めてきたテーマをこの作品に全力で叩きつけた気
迫が、読者に伝わり、酔わせるからだろう。

高村薫が、単行本を文庫化するときに、やたらと書き直すことはよく知られ
ている。全く別の作品になってしまったものもある。数年前「IN POCKET」
に載っていたインタビューによると、彼女は子供のために書き直すのだとい
う。子供が大人向けの小説を読もうとした時、まず目が行くのは値段が安い
文庫だろう。その時、もし自分の作品を読んで、小説なんてこの程度のもの
かと思われたら、その子はその後小説なんて読まなくなるだろう……大筋こ
んな内容だったと記憶している。

既刊を新刊のふりして並べるというのは冗談としても、下手な新刊を並べて
読者に「本ってこの程度のものなのか」と思わせるのは、やはりまずい。
あなたの周囲の、この人は一流だと思える人を観察してみよう。彼らは新聞
を読んでいても内容を信頼しているか。投書欄を貴重な意見の宝庫だと思っ
て熱心に読んでいるか。答えは、みなさんの周囲にたくさん転がっているは
ずだ。

本だって同じであろう。新刊は大々的に宣伝される。新商品なのだから当然
だ。しかし、新刊が良い商品かどうかなんて、読んでみなければわからない
ではないか。安心感をもって売れるのは、評価の定まった既刊本だろう。評
価の定まった既刊本なら、不良在庫にもなりにくい。しかし、新刊洪水がそ
うした本さえ押し流している上に、店が大事にしないというなら、わざわざ
質を悪くしているのだから売れなくなって当然ではないか。

二十年、三十年前の本と言ったところで、今の高校生、大学生には新刊と同
じだ。元がいいなら、売り方一つで新刊並に売れてもおかしくない。客は新
刊が欲しいのか、良い本、面白い本が欲しいのか。今一度書店も版元も考え
てみる必要があると思う……。

角川文庫版 660円
http://www.gozans.com/bk/?b=4041365198&s=shohyo 
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
(朝日山 百姓 36歳 年間読書量50冊 好きなジャンル 特になし)
---------------------------------------------------------------------
■あとがき
---------------------------------------------------------------------
>変な話ですが、このあいだ某ユニクロにいってパンツ買ってきたんですよ
>はあはあ、
>それでレジでお会計してもらうとき、店員の人が「シールでよろしいです
か?」って聞いてきたんです
>ああ、よく言いますね。
>ぼく、そう言われるとほぼ100%無意識にうなづくんですが、そのとき
は直後にハッとしまして、おいおいパンツをそのままカバンに入れろと言う
んかい、と……(笑)
>パンツって、もしかして下着の方?
>そうなんです(笑)。いや、今どきの10代はそんなものかもしれませんが、
三十過ぎて剥き出しのパンツ二枚もカバンにいれてうろうろするなんて、そ
んなー(笑)。他でカバン開けた時「この人、カバンに剥き出しトランクス
男だわ。変態?」とか思われてもやだし。で、やっぱり袋入れてくださいと
言ったら、けっこうブーたれた顔をされてしましました、シクシク
>うーん、それは店員の人にカバンにパンツが似合ってると思われたんじゃ
ないんですかねーきっと。でも、それって一体……(笑)
======================================================================
■ 電子メールマガジン「[書評]のメルマガ 」(毎月10・20・月末発行)  
■ 発行部数 2110部
■ 発行:[書評]のメルマガ発行委員会                  
■ 掲載された内容を許可無く転載することを禁じます。          
■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
■ ご意見・御質問はこちらまで anjienji@mcn.ne.jp              
■ HPアドレスhttp://page.freett.com/anjienji/review/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を利用して発行しています。             
■ メールマガジンIDナンバー0000036518
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行って下さい。 
======================================================================



▲トップページへ戻る