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2001.11.11.発行 vol.52 [書評が生んだ偶然 号]
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■■ [書評]のメルマガ 2001.11.11発行
■■ vol.52
■■ mailmagazine of book reviews [ 書評が生んだ偶然 号]
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[CONTENTS]-----------------------------------------------------------
★緊急コラム「飛行機に持っていけない小説とは!?」渡辺洋
→本誌で紹介された本が、テロ事件と意外なつながりを持っていた!?
★「古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧(4)」高野ひろし
→パブロックとはミュージシャンと観客とレーベルの幸福な融合である。
★「中山亜弓が選ぶこの一冊(3)」
→「いけてる」「いい感じ」は日本で最初のさりげない褒め言葉なのだ!
★「全著快読 山田稔を読む(8)」柳瀬徹
→山田稔は「政治の季節」に何を考えたか。前回につづき、3冊を紹介。
★「マンガのようなホントのような(3)」南陀楼綾繁
→開始から20年目に入った大河歴史マンガ『風雲児たち』を読もう。
★「書評サイト探検隊(7)」グッドスピード
→書評のサイト、本についてのサイトの辛口批評です。さて、今回は?
★「日本の外から見た日本」ペク・ソンス
→すみません、著者のご都合により今回も休載です。次回1月の予定です。
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■はじめに
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雑誌『潮』の12月号に、ノンフィクション作家の枝川公一さんの「テロと戦
争の真実はネットが伝える」と題する記事が載りました。テロ事件以後、ネッ
トで語られたコトバについて、紙媒体できちんと論じたたぶん最初の文章です。
冒頭で、ある事件が紹介されています。フィラデルフィアの空港で、ダイナ
マイトのイラストが描いてある本を持った青年が搭乗を拒否されたのですが、
「この本は、10年前に出版された小説で、美しい自然を破壊するプロジェク
トに反対する環境保護主義者の主人公が、橋を爆破したり、トラクターを焼い
たりするシーンが出てくるという」
ん? ナンだかこのストーリー、本誌9月12日号で紹介されたある本に似て
るんじゃないかな。どうも気になったので、枝川さんに問い合わせしたとこ
ろ、じつにおもしろいコトが判りました。そこでその本を紹介したご本人に、
その辺の事情を緊急コラムとして書いていただきました。一本の書評が、どん
な偶然を生み出したのでしょうか。 (10日号編集・南陀楼綾繁)
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■緊急コラム 飛行機に持っていけない小説とは!? 渡辺洋
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金曜日(9日)の夕方、今週は辞典CD-ROMのためのデータのエラー・チェッ
クと辞典の校正でやれやれ疲れたわい、気分転換にアマゾンでいろいろ検索
して、去年の秋に亡くなったヤングアダルトの鬼才ロバート・コーミアさんの
遺作小説と、ノーベル賞を受賞したV. S. ナイポールさんの小説『ゲリラ』
を注文して、さあ茶でも飲むかというときに、南陀楼さんが電話とファクスと
メールで、ある「事件」のことを教えてくれた。
10月10日、フィラデルフィア国際空港でニール・ゴドフリーという22歳の
青年がユナイテッド・エアラインに搭乗拒否された。理由は3つ。青年がダイ
ナマイトのイラストを表紙にあしらった小説を持っていたこと。「あの」事件
のあった9月11日に買った切符を持っていたこと(ただの偶然だ)。そして、
免許証が失効していたこと(この件はセキュリティの係官の判断ミス)。
青年はやむなく一度帰宅し、これから帰るはずだった実家に電話し、新しい
切符を買ってもらい、同じ日の午後、再度空港へ向かった、ただし今度は持っ
ていく本を『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』に換えて。彼の顔を覚え
ていた係官たちが4人がかりでハリー・ポッターの内容をおよそ20分に渡っ
てチェック、身体検査もされてパスした上で、再度搭乗拒否。のちに父親が搭
乗拒否の理由を問い合わせたところ「爆弾に関するジョークを言ったため」と
いう事実とは違うコメントが返ってきた(それに、連邦法では爆弾がらみのジ
ョークを言った乗客は即刻逮捕のはずだ)。
(以上「フィラデルフィア・シティ・ペーパー」より抜粋)
http://www.citypaper.net/
要するに彼は持っている本によって危険人物と見なされたわけだ。そしてそ
の本というのが、テロ事件直後の本誌46号で私が紹介した、エドワード・ア
ビーさんの小説『爆破 モンキーレンチギャング』(築地書館)の続編『ヘイ
デュークは生きている』("Hayduke Lives!", Little Brown & Co)だと言
うからびっくり。
『爆破』は環境を破壊する工事現場やそのための機械や交通機関を爆破する、
いわゆる「環境テロ」の物語だったが、私は未読のこの続編は、そのヘイデュ
ークを中心にしたメンバーが今度もひと暴れという内容のようだ。
それにしても持っている本で搭乗拒否というのは恐れ入る。今度、ナイポー
ルさんの『ゲリラ』が手元に来たら、それを持って久しぶりに飛行機に乗って
みるか。
※"Hayduke Lives!", Little Brown & Coの表紙は、アマゾン・コムで見る
ことができます。検索してみてください。
http://www.amazon.co.jp/
『爆破 モンキーレンチギャング』2,400円(本体)
http://www.gozans.com/bk/?b=4806712221&s=shohyo
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
〈わたなべ・ひろし〉1955年生まれ。詩人・編集者。ホームページ「F451」
http://www.catnet.ne.jp/f451/welcome.html
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■古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧 高野ひろし
(4)パブという小さな箱で燃え上がったロックの魂
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ウィル・バーチ(中島英述訳)『パブ・ロック革命』シンコーミュージック、
2001年
アメリカで誕生したロックンロールは大西洋を越え、ビートルズ、ストーン
ズらイギリス人によってロックへと変革を遂げましたよね。彼等を旗手に、ロ
ックは世界中で一大ビジネスとして成長していきます。まったくイギリスとい
う国は、保守的なんだか革新的なんだかよう分からんなぁ。
さてロックが大きな商売になると感づいた時代、それに背を向けるように小
さなライブハウスやパブで自分達のロックを作ろうとしたミュージシャンがい
ました。その音楽を総称してパブロックと言うんです。パブロックの誕生から、
彼等を一手に引き受けたレコード会社・スティッフの設立と栄光を書きつづっ
たドキュメントが『パブ・ロック革命』です。
ニック・ロウ、エルヴィス・コステロ、ドクター・フィールグッド、イアン・
デューリー、そしてグラハム・パーカーといった超くせ者の面々が、巨大なマ
ーケットや音楽産業の歯車のひとつになることを無視し、自分たちが影響を受
けた音楽を独自に昇華させたんですね。そして「これが俺たちのやりたい音楽」
といって、手を伸ばせば届くような観客に向かって、アピールしました。パブ
という小さな箱で燃え上がったロックの魂。彼等の音楽は鍛えられそぎ落とさ
れ、磨かれていくんです。
そんな彼等をバックアップしプロデュースしていった人々は、やがて当時と
しては画期的なセンス溢れるプロモーションを駆使した、ヒップでクールなレ
ーベルを立ち上げていきます。まぁ、大いなるいかがわしさも常についてまわ
り、そこがまた刺激的なんですよぉ。
パブロックは、ミュージシャンと観客とレーベルの幸福な融合のひとときだ
ったんだなぁ、きっと。パブロックが作り上げた音楽とシステムは、時代の機
運をも背負い込んで、次なる音楽世界・パンクロックへとなだれ込んでいくの
であります。ニック・ロウの新譜もトリビュート盤も出たばっかり。詳しくは、
本書の帯を見てね!
『パブ・ロック革命』2,500円(本体)
http://www.gozans.com/bk/?b=4401616944&s=shohyo
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
〈たかの・ひろし〉東京生まれ・町歩き人&路上ペンギン写真家・ウクレレブ
ラザース主席ウクレレ弾き。写真集『ペンギン日和』(うなぎ書房)。
「銀の輔旅日記」http://www.page.sannet.ne.jp/yamazo/ginnosuke/
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■中山亜弓が選ぶこの一冊
(3)「対話」というゲームへの攻略マニュアル
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平田オリザ『対話のレッスン』小学館、2001年
わが職場でも、長らく働いたアルバイトを送り出し、若き新人を迎えて半年
が過ぎた。アルバイトの交替はこれで何度目かだが、その度ごとに人間関係を
0から構築しなくてはならないので、苦痛はないが苦労がある。
特に、一連の仕事を伝える以上にたいへんなのが、互いのコミュニケーショ
ンの接点を探る作業である。たとえば「返事は"はい"か"いいえ"で。なんでも
"はぁ"で答えていちゃ、ちゃんとわかったのかわかってないのかもわからな
いよ」てな調子で、私は姑のように注文をつけながら、互いのコミュニケーシ
ョンのルールを固めてゆく。
そんな格闘期にこの『対話のレッスン』を読んだので、本の中で戯曲タッチ
で書かれたイケてないコミュニケーションの具体例に「そうそう」と頷くこと
しきりで、感じ入るところが多かった。
例えば、少子化の中で兄弟や友人にもまれる機会が少ない子供の中には自分
の要求をはっきり表現することが苦手で、ケーキが食べたくてもただ「ケーキ」
というように単語でしか言えない子がみられるとか、半疑問形のような婉曲表
現が広く使われるようになった背景には社会進出を遂げつつある女性が男性と
同様の命令や断定口調を使うことを避けつつも語尾に「ね」や「わ」「よ」を
付したおねネエ言葉を会費した結果の当面の打開策と考えられる……などなど。
どこか自分の身の回りでも思い当たるふしがある。確かに、学生時代の友人
がよく半疑問形を使うのが気になっていたが、30代も半ばになり職場に部下
や後輩が増えたり、気遣いの多いママさん同士のつきありの中で得た処世術な
のかもしれない。
と、長々、世間話をしてしまったが、とりあげた『対話のレッスン』は単な
る言葉に関する四方山話でもなければ、上手い話し方を伝授するハゥ・トゥ本
でもない。
劇作家・演出家として深く言葉にかかわる筆者が、テレビや新聞・雑誌で伝
えられる政治家や芸能人、スポーツ選手の言動から電車内の女子高生、はては
身近な役者や家族たちの会話を観察しながら、その背後の社会現象を分析しつ
つ、来るべき社会とコミュニケーションを考えるという壮大な試論なのである。
といっても、よくある有識者が若者の言葉の乱れや無知を嘆くようなもので
はなく、むしろ「いけてる」「いい感じ」といった言葉の中に、これまで「ナ
イス」「グー」といった外来語に頼ってきた日本語に欠乏しがちなさりげない
国産の褒め言葉の誕生を発見し可能性を指摘するなど、その着眼点と思考は柔
軟なのだ。
ところで、私はこれまで漠然と会話という言葉を使っていたが、本書のタイ
トルにはあえて「対話」という言葉が使われている。筆者の定義によると「会
話」とは予めコンセンサスのとれた仲間内の調和的なコミュニケーションで、
日本人が得意とするところだが、「対話」は未知の相手や目的や利害・価値観
が一致しない者同士が違いの相違を擦り合わせながら、妥協や折衷案と違った
高次のアイデアを生み出すためのやりとりとされている。
かつて、筆者の平田オリザ氏と話をしたとき「日本には国語の授業はあるが、
演劇の授業はなく、たまに戯曲が国語の教科書に収録されている程度だ。国語
と別立てで、演劇の授業を行うべきなのに」というような事を言っていた。そ
のときは教育制度にも及ぶ大胆な発言にちょっと大仰な印象を受けつつ、演劇
を志すからにはその位の勢いや信念がなくてはいかんのだろう、程度に思って
いた。
しかし、自分がライターという出版業界の末端のごくごく限られた分業を担
っていた状態から、ひょんなことから店の運営という他者との共同作業の中に
身を置くにいたると、へたに難しい日本語をたくさん知っていても理屈をこね
るだけでコミュニケーションを複雑にするだけの人もいれば、言葉は単純だが
適切な理解力と表現力を持った人もいることを実感し、当然ながら仕事をする
上では後者に信頼が置けるという経験則が身にしみたのである。つまり前者は
日本語力はあるが対話力がなく、後者は日本語力は劣るが対話力が豊かという
ことである。
これまで学校教育では、語彙や綴り方、要約問題など日本語力の教育や評価
には力を入れてきたが、実生活でそれを使いこなす力は養いもしなければ、評
価せずにきたというわけだ。そして、その遅れた対話力を取り戻す助けとなる
のが、様々なコミュニケーションを疑似体験できる演劇にあるというのである。
平田氏は演劇を通して培った観察眼をもって世代間のギャップや異文化間の
ギャップといった言葉で片づけられてしまうOLと上司の、日本人が外国人と
の齟齬を単なる愚痴や居直りにとどまらずに分析し、その溝をどう埋められる
のか提案しているのである。
対話の指南書というより、対話というゲームの攻略本といった趣があり、自
分でも日常をもう少し新鮮で潤いあるものにすべく試してみたくなる一冊なのだ。
『対話のレッスン』1,429円(本体)
http://www.gozans.com/bk/?b=409387350x&s=shohyo
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
〈なかやま・あゆみ〉中野の特殊書店タコシェに勤務。年末のイベントの準備
で忙しい。11月24日(土)は16:00より辛酸なめ子先生の新刊「千年王国」
(青林堂)発売記念サイン会 、12月1日(土)〜13(金) は早見純先生の描
きおろし色紙展示販売を行ないます。詳しくはホームページまで。
http://www2.pot.co.jp/tacoche/
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■全著快読 山田稔を読む 柳瀬徹
(7)「バリケード」の内と外のあいだで【後編】
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『選ばれた一人』河出書房新社、1972年
『教授の部屋』河出書房新社、1972年
『ごっこ』河出書房新社、1976年
『選ばれた一人』の主人公逸見仁介は、同僚から「お大事に」と声をかけられ
たことで、いつの間にか自らの講義が「健康上の理由で当分休講」となってい
たことを知る。たまたまいあわせた集会で強いられて言った言葉がもとで「パ
ージ」されたのだ。
しかし彼は学部長から発言の一部始終を録音されたテープを聴かされるまで、
自分が何を言ったのか思いだすことすらできず、その後もそれが本当にあった
ことだという実感が持てない。耳の奥にテープの声がよみがえるたび「それは
彼と実際に生じたはずの最初の事件との間にまるで一枚の厚いガラスのように
はさまり、彼はその表面を空しく爪でひっかく」ような思いに、「過去の一部
を永久に奪いさられたような」無力感に襲われるのだ。
「まあ、しまいまで読んでェな」などとしばしば読者に語りかける調子からし
て、かなり意識的に滑稽譚めかして書かれた連作集『ごっこ』にしても、ユー
モラスの語りとはうらはらに、現実と書くことの間の〈厚いガラス〉にひびひ
とつ入れられない無力感はかえって強く伝わってくる。『幸福へのパスポート』
所収の諸作に絶えず響いていた声にならない悲鳴は、この三冊で最大音量に達
しているように思える。
それでも重苦しさのなかに埋没することのないのが山田稔の美徳なのであっ
て、閉塞感のなかに秘かな自由を見いだしたり、対立するはずの相手にいつの
間にか共感を覚えていたりする語り手たちを、静かに見つめる作者の視線がい
つにもまして心地よい。奪われた研究室に茶菓子を持って日参し、深く関わる
こともないままただ学生たちと時間を過ごすといった芸当は、やはりこの作者
の分身たちにだけに許される、内と外との往還そのものなのだ。
題材的にも技法の面でも、山田稔はその後この三冊には戻ってはこなかった。
〈厚いガラス〉に対峙するための苦しい模索のなかで、おそらくは何かをつか
み取ったのだろう。しかしこの地点に立ってこの作家の処女作から近作まで眺
めてみると、底に流れている変わらないものがより鮮明に見えてくる。
※『選ばれた一人』『教授の部屋』『ごっこ』は、いずれも現在入手不可。復
刊望む。
〈やなせ・とおる〉青山ブックセンター本店勤務。11月23日(祝)に古武
術家の甲野善紀氏とフランス文学者にして新陰流師範の前田英樹氏の対論と演
武!の会を行うことになりました。なんだか今から胸騒ぎがする。詳細は、
http://www.aoyamabc.co.jp/
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■マンガのようなホントのような 南陀楼綾繁
(3)歴史教科書に『風雲児たち』を!
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みなもと太郎『風雲児たち』全30巻、潮出版社、1982-99年
ココのところ、遅まきながらネットオークションなるものにハマってしまい、
昔懐かしい本や雑誌を安く手に入れています。そのひとつに、みなもと太郎の
『風雲児たち』全三十巻(潮出版社)があります。数年前に貸本屋で全部読ん
でいるのですが、二十巻までがまとめてオークションに出たのを買い、さらに
三十巻までを書店で買って、数日かけて一気読みしました。
このマンガは、最初の構想では、西郷隆盛、坂本竜馬、吉田松陰、勝海舟、
伊藤博文、佐久間象山、大村益次郎……といった、幕末の「風雲児たち」の群
像を描く長篇でした。ところが、幕末を用意した、江戸時代、徳川幕藩制とは
ナンだったのかを説明するためのプロローグのつもりで関ケ原の戦いを描いた
作者は、トンデモないことに気づいてしまいます。一日で終わってしまったこ
の戦いが、二百五十年間も続いた徳川家による支配体制をつくりあげ、その一
方で、「なんのために関ケ原にきたのかまったくわからない藩が三つある。す
なわち長州、薩摩、土佐の三国であった」。この三藩は歴史のなかにこの戦い
の意味を見出そうとあがき、幕末にいたって、やっとその答えを見つけます。
「江戸時代は間違っていた」というコトに気づいた三藩から、倒幕の志士た
ちが登場してくるのです。
この「歴史観」を明らかにするためには、関ケ原から一足飛びに幕末に行く
ワケにはいかない。そう考えた作者は、その後、ナンと順を追って江戸時代を
描きはじめてしまうのです。そのなかには、「解体新書」をめぐる苦闘のドラ
マがあり、大黒屋光太夫の漂流があり、シーボルト事件があり、高野長英の悲
劇があります。
さらにスゴイのは、この作品が基本的に「ギャグマンガ」だというところで
す。歴史をネタにして笑わせるためには、読者に一定程度の知識をもたらした
上でないと無理です。みなもと太郎は、資料を丹念に読み込んだのち、それを
現代のいろんな風俗と混ぜこぜにして笑わせてしまう、というムチャクチャ高
度なワザを駆使しているのです。
スタートから十五年掛かって、どうやら幕末まで行きついたのですが、掲載
誌(『コミックトム』)のリニューアルのため、惜しくも維新を描ききるとこ
ろまでは行きませんでしたが、その後も、ちょっと路線を変えて『雲竜奔馬』
で続きを描きました。この作品は全五巻で完結しましたが、ナンとも嬉しいこ
とに、今年八月からリイド社の月刊誌『コミック乱』で『風雲児たち』幕末編
が連載されはじめました。発表舞台が変わってもじっくりと筆を進めていく、
著者の姿勢にはアタマが下がります。
今年の四月、「新しい歴史教科書」が検定を通ったと報じられました。ご当
人たちは、これまでの「自虐史観」を批判して新しい「歴史観」を提示したの
だと得意げですが、その「歴史観」はなんら独自のものではなく、支配者のイ
デオロギーに従属するものでしかありません。こんな教科書よりは、自前の
「歴史観」をマンガで打ち立ててしてしまった『風雲児たち』の方が、よっぽ
ど歴史教科書としてふさわしいと思うのです。
※今回は、「定有堂書店」サイト連載の「私事しながら仕事する」第17回
(2001.4.6)の原稿に加筆訂正して転載いたしました。
『風雲児たち』全30巻
http://www.gozans.com/bk/?b=4267903611&s=shohyo
(↑こちらからお買い上げ頂けます。これは第1巻のURLです)
〈なんだろう・あやしげ〉1967年生まれ。ミニコミライター。共著『ミニ
コミ魂』(晶文社)。古書情報誌『彷書月刊』(弘隆社)で、本に関するサイ
トを紹介する「ぼくの書サイ徘徊録」を連載中。このメルマガとも微妙に関連
してますので、気が向いたら買って(立ち読みして)ください。
http://www3.tky.3web.ne.jp/~honnoumi/
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■書評サイト探検隊 グッドスピード
(7)「豚式中年」の読書生活
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「豚式書思」
http://www.col.ne.jp/~moonunit/
牛がダメなら豚、というわけではないけれど、「豚式書思」という名の読書
サイトを見つけた。1956年生まれの45歳なる「サラリーマン」の個人サイト
だ。サイトのヘッダには「だらけた中年おやぢの活字生活」とある。「お気に
入り」に追加するにはちょっとばかし恥ずかしい名前だが、このサイトの巻頭
言(というか開設宣言)がいい。
「豚式なる勤労者、もとより浅学菲才。ただ、猿の自慰行為の如き読書に耽け
り、齢四十を閲す。」そして「老生ここに発心、小人の慢心わらわらと捲き起
こり、牛の涎の如き喫書、此を書き止め胥吏下流の筆録と笑われなん。」と記
している。45歳を老生とは謙遜だろうが、味わい深い言葉である。
コンテンツは、未読だが購入した本のリストを載せている「積書豚山」、読
んだ本がずらりとリストになっている「読書進捗」(今年のリストを見ると、
月平均9冊は読んでいる)、しっかり読み込んだ読書感想を掲載する「豚式日
常」、そして、読書生活を書き綴る「蜻蛉日記」が主なもの。そのほか、3つ
の掲示板がある。
読書傾向としては、村上龍/春樹といった現代小説から、教養読み物(新書
とか)、サルトルの『マラルメ論』(渡辺守章、平井啓之訳、ちくま学芸文庫)
やノーマン・マルコムの『ウィトゲンシュタイン』(板坂元訳、平凡社ライブ
ラリー)といった人文書まで幅広い。「豚式日常」では、柄谷行人の『増補
漱石論集成』(平凡社ライブラリー)なんかを取り上げていて、単なる印象で
はない、自分の言葉での読解を試みている。
「蜻蛉日記」もおもしろい。S・トゥールミン+A・ジャニク『ウィトゲンシ
ュタインのウィーン』(藤村龍雄訳、平凡社ライブラリー)を読むが、アタマ
が痛くなってきたので、途中で放り投げて関川夏央の『本よみの虫干し』(岩
波新書)を読んで快復したとか、朝昼晩に何を食べたのかのメモもあり、この
人自身の不思議な生活を覗いているようで興味深いのだ。
おそらく会社では「ダメ人間」だろうが、この人は買いだ。
「豚式なる勤労者、もとより浅学菲才」うーん、それにしてもいい言葉。
(1999年3月公開。現在までのアクセス数は62328)
〈ぐっど・すぴーど〉1968年生まれ。書評サイト探検隊隊長(自称)。「本」のメ
ルマガ(毎月5日号)で「一字千金の記」を連載中。豚式がいいのか、牛式が
いいのか、真剣に悩む今日このごろ。
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■あとがき
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ある日、市ヶ谷駅のエスカレーターで、前にいるヒトのシャツのロゴが目に
留まりました。その「A Way of Life」というコトバを見た瞬間、アタマのな
かで瞬時に、「American Way of Life」というコトバを連想し、さらに、中学
生の頃の愛読書である小林信彦『唐獅子株式会社』(新潮文庫)を思いだしま
した。
ナゼそうなるかと云うと、この連作短編集のある話で、プロレス巡業で英語
を覚えたというタレントやくざのダーク荒巻が、「American Way of Life」を
「命のアメリカ道路」と訳してしまうくだりがあったからです。その意味は、
「アメリカの道路は車が多いから気をつけろ」転じて「しゃんとせい」という
コトなのだとか。
思い出した瞬間、モーレツにその本が読みたくなり、その足で駅前の書店に
向かいました。買ってすぐに確認すると、そのエピソードは「唐獅子生活革命」
のなかに出てました。ちなみに、この話は1970年代後半のアメリカ風生活様式
を皮肉ったもので、植草甚一のエッセイの文体模写まで入っています。
中学生のぼくは、植草甚一の本を読む前に、小林信彦のパロディでその文章
を知っていたのか。オリジナルよりも先にパロディに出会ってしまう世代だっ
たのだなあ、といろいろ考えちゃいましたよ。 (南)
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