2001.12.31.発行 vol.57 [ まぶたでシャッター 号]

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■■ [書評]のメルマガ                            2001.12.31.発行  
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■トピックス
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■みすず書房さんの注目既刊・新刊
リチャード・パワーズと言えば、『舞踏会へ向かう三人の農夫』で昨年大ブ
レークした作家ですが、その新作が登場、売れているそうです。
『ガラティア2.2』若島正訳 みすず書房 3200円

また、1月には、『敗北を抱きしめて』(岩波書店)がやはり昨年話題にな
ったダワーなどの論文が収録された
『歴史としての戦後日本』アンドルー・ゴードン編 中村政則監訳 
予価 上2,900円 下2,700円が発売になります。
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■最も熱かった1970年に、最も熱い恋愛を体験した一女性の告白
/石飛徳樹
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「水曜の朝、午前三時」
蓮見圭一著
新潮社・1400円

 1970年の大阪万博は、当時子どもだった者にとって、今なお格別な
存在である。
 筑波万博であろうと、ディズニーランドであろうと、USJであろうと、
すべてのテーマパークは、大阪万博の体験者にとっては全く色あせて見える。
 愛知万博なんて、もちろん冗談じゃないってなもんだ。

 なぜ大阪万博は格別なのか。
 空前絶後の規模と派手さもさることながら、だれも目にしたことのないよ
うな巨大な未来都市が、わずか半年の間だけ我々の前に姿を現し、太陽の塔
など一部を残して、きれいさっぱりとなくなってしまったからである。
 当然、万博の記憶には、1970年という時代がはっきりと刻印されるこ
とになる。

 この謎の新人作家がものした恋愛小説は、大阪万博の持つ「時代の刻印」
を、語りの手段として見事に生かした最初の作品である。

 1992年、翻訳家の四条直美が、脳腫瘍のため、45歳の若さで逝った。

 彼女が一人娘に遺した長時間に及ぶ告白テープを、娘の夫が10年近くか
けて文章に起こした、という体裁を取っている。
 告白の中身は以下の通りだ。

 東京の由緒ある家庭に生まれた直美は、家族や許嫁の縛りから逃れようと
大阪に行き、万博のコンパニオンになる。
 コンパニオンは、外国の要人のアテンドなどもするため、容姿や家柄に加
え、知識と教養を必要とされる。
 つまり当時の日本では花形的な存在だった。
 直美はそこで、運命の人臼井に出逢う。

 臼井は容姿も教養も完璧で、コンパニオンの間では大人気だった。
 ちょっとニヒルな部分があったけれど、女には、それもまたたまらない魅
力だった。
 直美は、人は好いが面白味のない許嫁を捨て、臼井と付き合い始める。
 彼女にとっては万博の盛況と相まって、まさに有頂天の日々だった。

 しかし、万博も終わりに近づいた暑さの残る9月のある日、臼井を奪い合
った女から、直美は臼井に関する一つの事実を聞かされる。

 驚かされるのは、大阪万博についての微に入り細をうがった記述である。
 スイス館にあった光の木、ブルガリア館のレストラン、子どもたちが胸に
着ける迷子バッジ、会場近くにある「阪急オアシス」という名のスーパー等
々。
 たった今見てきたかのように描写されることで、私たちの記憶がスーッと
手繰り寄せられ、時代の感覚が形になって蘇ってくる。

 70年は、何もかもが信じられる時代だった。
 政治も経済も恋愛も、あらゆる価値観が信念をもって存在し、明るい未来
を保障されていた。
 「人類の進歩と調和」という万博のテーマが、単なる題目ではなかった時
代だ。
 そんな70年、直美は、激しく真っ直ぐな恋愛を経験する。

 70年はまた、旧来の因習や偏見が根強く残っていた。
 そんな時代背景の中で、直美の恋愛は社会のプレッシャーに敗れ去ってい
く。

 万博が終わり、連合赤軍事件や石油ショックを経た70年代から80年代
にかけては、日本人のあらゆる価値観が相対化していく20年だった。
 社会主義も経済成長も、恋愛でさえも絶対的な価値を持ち得ず、人々はシ
ラケと称される幼稚なニヒリズムへとはまりこんでいった。
 70年はつまり、問題を内包していたにせよ、戦後日本が最も熱くなって
いた最良の年なのだ。

 直美の恋愛も、70年にパッと火がついて燃えさかり、その後、時代の動
きと軌を一にして、ゆっくりと下降していく。
 しかし、それは表面だけのこと。心の中では、臼井への想いがマグマのよ
うに鳴動を続けていたのだ。

 92年、直美は息を引き取る。そこに臼井はおらず、凡庸な新聞記者の夫
と、臼井の妹によく似た一人娘が見守っている。
 開頭手術を間近に控え、直美はこう感じる。
 「未だにあの時こうすればよかったとか、どうしてそうしなかったのかな
どと真剣に悔やんでいるのです。後悔や羨望や嫉妬といった後ろ向きの感情
にかき乱されて、早く手術の日が来ればいいと思う一方で、過去の様々な記
憶を辿っては、思い出し笑いをしたり、時に歓びで胸がいっぱいになったり
もするのです」

 70年の激しいスパークと、その後の22年間、種火となって秘かに燃え
続けた臼井への想い。後悔と歓びに満ちた直美の人生。
 結末で分かる隠しテーマと共に、読み終わって本を閉じた後に、胸がかき
むしられ、思わず叫び出したくなるような恋愛小説である。

 ところで、この蓮見圭一という作家は一体どんな経歴の持ち主なのだろう。
 本の奥付やカバーの見返し、インターネットの新潮社のホームページにも、
何も載っていない。
 大阪万博についての記憶量の多さや、団塊の世代に対する醒めた視線から、
私たち新人類と呼ばれる世代に近い人のような気がしているのだが。
 
http://www.gozans.com/bk/?b=4104500011&s=shohyo 
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(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
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■初めて落語を聴く人に、どう面白さを伝えたらいいの?/ミラクル福田
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『落語を楽しもう』 石井明 岩波ジュニア新書 本体価格700円

 芸能ごとに関心があるのだけど、歌舞伎をちゃんと観たことがないので、
詳しい人に連れってもらうことにした。でも、なかなか連絡がこない。なぜ
かと思ったら、どの舞台を見せたものかと悩んでいるようなのだ。
 確かに、面白さがわかっていない人に、何を最初に観せるかというのは、
重大な問題だ。良さを一緒に分かち合いたいと思えば思うほど、悩んでしま
う。つまらないものや、玄人うけするものなどを見せてしまったら、もう二
度と観に行こうとはしないだろうから。
 
 その点、僕の落語との出会いは幸せだった。確かちょうど11年前の成人式
の日。新宿末広亭で、その昔みそ汁のCMでお馴染みだった柳家小さんが
「粗忽長屋」を、錦松梅の古今亭志ん朝が「強情灸」をやったのだ
(たぶん)。小さん師匠の噺は、お年のせいかメリハリはなかったものの、
笑わせてくれた。そして志ん朝さん。
 みんなが笑っている噺で、「笑えなかったらどうしよう……」。期待半分、
不安半分のビギナーの私。でも、心配の必要はなかった。心の底から腹がよ
じれるほど笑って、椅子から転げ落ちそうになった。なめらかで張りのある
噺っぷり、ひとつひとつの身振りがピタピタと決まり、まるでまぶたでシャ
ッターをきっているような感覚。
 15〜20分の出来事だったけど、それ以来、落語を心がけて聴くようになっ
た。

 芸能ごとに限らず、映画や音楽などの芸術といわれるもののジャンルは、
本では間接的に表現される以外ない。だから、本来の面白さというのはなか
なか伝わりづらくなってしまう。こればっかりはどうしようもない。だから、
これらのジャンルの入門書というのは、本当にそれで楽しさがわかるように
なる本、という意味のものにはならないと思う。

 『落語を楽しもう』には、いま、寄席に行くとどのように噺家が現れ、話
し始めるかに始まり、落語や話芸の歴史に触れ、そして落(さげ)の分類ま
で、また落語に関する江戸時代のことまで幅広く教えてくれる好著だ。
「若い人たちに落語に興味をもってほしい、そして落語を聴いてもらいたい」
(あとがき)。著者の思いは充分に伝わってくる。しかし、ここからどこま
で落語を聴きに行く人がいるのかどうかはわからない。ある程度、落語を聴
いた後にこの本を読めばいろんなことが整理されるのではないかと思う。

 春風亭小朝は『苦悩する落語』(光文社)で、学校などの行事で落語を聴
かせる場合、一流の落語家が行って噺をしなければならない、と言っていた。
確かにその通り。
 芸能ごとに関心をもったら、まず聴いてみる、これが最良の入門の仕方だ。
本はおそらく、それから先の奥行きを与えてくれるものだろう。立川談志の
『現代落語家論』(三一書房)、柳家小三冶の『落語家論』(新しい芸能研
究室)、冨田均の『寄席末広亭』(平凡社ライブラリー)、安藤鶴夫、江國
滋、郡司正勝などなど、読むものはいくらでもある。

 それにつけても、今年、残念なのは、古今亭志ん朝の死。落語に導いてく
れたうえ、
現代の最良の話芸を観せてくれた志ん朝さんには、どれほど感謝したらいい
ものか。年末年始は、志ん朝さんを偲びつつ、歌舞伎でも良い入門ができる
ように期待します。
http://www.gozans.com/bk/?b=4005003141&s=shohyo 
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
(ミラクル福田 某人文系出版社編集 31歳 年間読書量80冊弱
好きなジャンル 文芸・芸能)
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■知識人のホンネ、じゃじゃ漏れです/守屋淳
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『新しい戦争?』中山元 冬弓舎 1000円

アメリカでのテロ関連で、今年、いろいろな本が出版されました。

アメリカVSイスラム過激派、タリバンとは何か、といった面を描いたものな
ら、雑誌の増刊を始め種々出されました。

また、事件の底流となる文化や社会、思想的な局面においても、実に多彩な
著者が健筆を振るいました。なかでも、チョムスキーの本なんかは、ベスト
セラーにまでなっちゃったくらいですし……

でも、一人の論者だけの意見ではなく、事件の様々な切り口・見方を網羅し
ているのを、一冊手軽に読んで済ませたい(何冊も読むのは面倒くさいです
もんね)と思っている方には、まさにうってつけのものが出ました。それが、
本書なんです。

特徴を一言でいうと、「朝まで生TV」で、現在の世界の思想家・知識人総
出演しちゃったものをまとめた、「これがアメリカ同時多発テロの本質だ」
てな感じの本なのです。

著者の中山元さんが、テロ事件に触発された世界の名立たるオピニオン・リ
ーダーたちの言動を腑分け、紹介してくれているんだけど、これがもう、テ
ロによって発言者たちが思わず自分のホンネを剥き出しにしちゃった部分が、
ボロボロ出てきて、いや、恐ろしくも楽しめるすごい本になっています。

まず、衝撃的なのが、「帝国主義復活」をもらす知識人が結構出てきている
こと。「帝国主義」なんて、歴史教科書の話なんじゃないのと思うとさにあ
らず、いるんです、テロを契機に復活を唱えちゃう知識人が。

イギリスのマーク・スタインは、《西洋諸国はこれまで、イスラム地域を直
接支配せず、間接的な支配という『安価な』方法に頼ったが、これがイスラ
ム地域の人々にとってはかえって害をもたらしたと強弁》、《新植民地主義
という表現がお嫌いなら、〈グローバル・コミュニティ救済活動〉と呼べば
いいではないか》と、おっしゃるそうな、トホホ・・

同じくイギリスのフィリップ・ハンシャー《イギリスの文化、政治、宗教的
な価値を強制することは、アフガニスタンの国民の利益になる》とまで、お
っしゃるそうです。まあ、ちょっと自分はイギリス文化を知ってるよーんと
いう立場で、エラそうな本を書かれた日本人著者の顔を思い浮かべたくなる
発言でもありますが……

ともに百年前の発言を聞いてるみたいですが、これ、昨年の話なんです……
しかし、こういう発言を聞いて、ゾゾーという鳥肌立つ感覚を味わうと、ア
ジアの国が日本の政治家の発言に神経質になる気持ちがちょっとわかります。
ゾゾーと寒気がするとはいえ、日本は植民地支配の経験がない国(現在がそ
うだというムズカシイ議論には思いっきり目をつぶって《笑》)、ほとんど
のアジア諸国は過去に植民地としての艱難辛苦を味わっちゃってるわけでも
ありますし……

閑話休題、
さらに、アメリカ内部では、テロ事件をきっかけに、アメリカやそのグロー
バル・スタンダード化を批判してきた知識人(サイードがその代表)とその
反対派で熾烈な批判や政治的圧力・弾圧に近いことまで起こっているようで、
マッカーシズムの再来か? という声も出始めてる状況のようです。現在は
下手すりゃ、マッカーシーが大統領みたいなもんかもしれませんし。味方じ
ゃなきゃ敵って理論、共産主義者じゃないと宣誓しなければ共産主義者とい
う理屈とまさにパラレルですから……

知識人たちのホンネ、バトルの状況をのぞいてみたい方には、とってもお薦
めの本です。
http://www.gozans.com/bk/?b=4925220055&s=shohyo 
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(守屋淳 35歳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好き
なジャンル 古典) 
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■あとがき
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>いやー新年ですねー
>はあはあ
>なんか、昨年を振り返ると、「ドラえもん」が現実化したっていう年だと
思ったんですが・・
>なんですか、それ??
>いや、ドラえもんって便利な道具が出てくるんだけど、必ずのび太くんが
悪用したり、道具が暴走したりして、破局に至るというパターンじゃないで
すか。
>ああ、今回のテロも、航空機とか郵便システムとか便利な道具が悪用され
たうえでの、悲劇ですもんねー。
>まあ、格好よくいうと「2001年宇宙の旅」現象とも言えるかもしれま
せんが。あれだって、骨の道具で最初の殺人(?)が起き、コンピューター
の暴走であら大変って感じでしょ。まあ、この後書きのへなちょこな性格か
らいえば、「ドラえもんの現実化」の方が似合っているかと(笑)。そうい
えば、日米の関係もジャイアンとスネオの関係になぞらえられたりしました
し・・・。
>なにいってんの、あなたが大晦日の「ドラえもん」特番、一人寂しく見て
いるからでしょう。
>うう、本当のことバラさないで、シクシク(笑)。こんな感じですが、今
年も何卒よろしくお願い致します。
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