2002.2.10.発行 vol.61  [課題図書認定 号]

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[CONTENTS]----------------------------------------------------------- 
★「正月読書日記2002」バルタン
 →先月号の呼びかけに応じて、正月読書日記を投稿してくれました。
★「今月ハマったアート本(5)」平林享子
 →前回はマグロ漁船に乗ってた筆者が復活。久々に見つけたイイ本とは。
★「もっと知りたい異文化の本(6)」内澤旬子
 →神はなぜ、たくさんの罪のない善良な人々を見殺しにするのか。
★「中山亜弓が選ぶこの一冊(4)」
 →学内フリーペーパーから出発した「juicy fruits」はどこへ向かうのか?
★「全著快読 山田稔を読む(11)」柳瀬徹
 →今回もフィリップ、アレー、デュヴェールなどの山田訳を紹介します。
★「出版史のヨコ道(6)」南陀楼綾繁
 →洲之内徹から豆本へ。なんだか美術の本が大好きになってきたぞ!
★「書評サイト探検隊(10)」グッドスピード
 →書評のサイト、本についてのサイトの辛口批評です。さて、今回は?

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 ■はじめに
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 本誌前月号の呼びかけに応えて、バルタンさんから「正月読書日記2002」の
原稿を送っていただきました。このヒトはぼくの友人で、切手収集のある分野
(何度も説明されたがよく判らない)ではトップレベルのコレクションを持っ
ているお方です。どんな「正月読書」だったか、興味シンシンです。なお、正
月だけに限らず、読書日記の投稿を募集しています。2000字前後をめどに、原
稿をお送りください。お待ちしています。あて先はkawakami@honco.net まで。
                      (10日号編集・南陀楼綾繁)

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■ 正月読書日記2002  バルタン
ルーマニアのクラシック切手と「牛」切手の大家が社長の出版社って一体?
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【1月忘日】
 毎年、年末年始は体調を崩し、去年などは挙げ句のハテに入院までもする有
り様。今年は無事に新年を迎えられた。近所の家内の実家、そして神奈川の私
の実家と義務を果たしに回る。移動時間には吉田健一『舌鼓ところどころ』(中
公文庫、1980) を読む。

「毎年。暮から正月に掛けて、天気がよくて遠くまで煙って見える日が続くの
は有り難いことである。(中略)色々と締切が迫っていても、これ以上書けば
気が違うだろうし、気が違って雑誌や出版社の編輯者が喜ぶ筈はないとすれば、
何も書かずにいて締切を延ばす方が編輯者に対して親切であるという考えで頭
が一杯になり、万事、ゆったりしてくる。」(「仕事をする気持ち」より)

 このあと筆者はその正月の過ごし方を披露しているのだが、これが抱腹絶倒
である。すでに正月は終わってしまったが、これを読んで3連休などにおため
しになることをお勧めしたい。

【1月忘日】
 元旦は除き、予定の全くない正月であり、食べては寝て本を読み、また食べ
ては本を読み眠るという毎日が続く。同じ吉田健一の本、『怪奇な話』(中公
文庫、1982)を読むと、『舌鼓ところどころ』とは違い、彼本来のくねくねと
した句読点の少ない文章の連続で、

「今日でも殊に一時的にであるならば召使の役を勤めるものは幾らでもいても
主人の傍に始終付いていてその為に用を足す召使というものは社長の秘書とい
う人種の中で人権に対する理解がないもの位しか頭に浮かばない訳である。」
(「山運び」より)

などという文章を読んでいればすぐにはそれは頭に入らずに何度か繰り返し読
んでいくことになりそれがまた一層の眠気を誘ってそのうちにまた眠り込むこ
とになるかというとそうでもなくてそこをさらに読み進ませるものが文学である。

【1月忘日】
 切手収集家としては正月休みといえど、切手関係の文献を読まずにはいられ
ない。物故したこのジャンルの大家、伊達仁郎編著『切手が語るナチスの謀略』
(大正出版、1995、3800円)は、ドイツ第三帝国の活動を切手と絵はがきを通
じて語るもので、1000点以上のマテリアルの写真がおさめられている。文章や
写真の引用ではなく、実際に当時使用されたもののオリジナルのコレクション
集であり、その背景についても極めて深く調査している力作である。ちなみに
この出版社は鉄道関係でもマニアックな書籍を多数刊行しており、渡辺社長は
ルーマニアのクラシック切手と「牛」切手の大家でもある。読んでいくうちに
気持ちが切手の方に移っていき、途中で読みかけのまま、自分のコレクション
を収めたアルバムを引っ張り出して眺めていくうちに、今度は入手できていな
い切手を探すためインターネットオークションを覗きにいくなどして深夜に至る。

【1月忘日】
 始終家にいて、外食にもあまり行かないで、ということになると3度3度の
食事が問題になってくる。暮れに上等の松坂牛の「牛スジ」(であることが泣
ける)でベースを仕込んだハヤシライスに、豚肉と玉葱、カレーのルーを追加
してカレーに変身させるなどは初歩的な技だが、それ以外のネタを求めて東理
夫・馬場啓一『スペンサーの料理』(早川書房、1985、1300円)を拾い読む。
ご存じロバート・B・パーカーの一連の作品の主人公である探偵スペンサーの
料理シーンを集めて解読、レシピを添えたものなのだが、読んでいくうちに料
理ではなくスペンサー本に横すべりしていく危険を感じて本を閉じ、慌てて晩
飯の支度にとスーパーへ走る。寝る前には食味本の続きで池波正太郎『むかし
の味』(新潮文庫、1988)を読む。

【1月忘日】
 正月休み唯一のイベント、切手収集家の集まりで渋谷に行く。行き帰りに筒
井康隆『笑犬楼よりの眺望』(新潮社、1994、1500円)を読む。行きは電車だ
が、帰りは渋谷から直で我が家の真横までくるバスを発見。たっぷり50分か
かるので、ゆったり読めるのがいい。夜は一転して半藤一利『永井荷風の昭和』
(文春文庫、2000、562円)を読み始め、永井荷風の『摘録断腸亭日乗』(岩波文
庫、1987)、果ては川本三郎『永井荷風と東京』(都市出版、1996、3200円)を
引っ張り出して夜のふくるを忘るるなり。

(ばるたん)1961年生まれ。会社員・切手収集家。最近の愛読書は奥本大三郎。
インドの19世紀の切手を集めはじめました。昨年は大病を患ったが見事に復
活。ついでに体重も見事に復活(泣)。

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■今月ハマったアート本  平林享子
(5)ルックス、内容ともに「こんなの欲しかった」欲を満たされた一冊
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谷川渥(監修)、小澤基弘、渡邊晃一(編者)『絵画の教科書』日本文教出版
(発行)、三晃書房(発売)、2001年 

 この3、4ヶ月、マグロ漁船に乗っていた。といっても大げさではないくら
い娑婆世界と断絶してひたすら労働に追われる日々だったので、本屋さんにも
行けず、必要な資料をオンラインで注文するのが精一杯でした。やっとマグロ
漁が終わり、久しぶりに本屋さんに行ったら、目に飛び込んできたのがこの本
でした。蛍光ピンクの歌舞伎町のような帯が平積みの中でとくに目立っていて、
いったんは避けたものの、最終的には手にとってしまいました。そのハデな帯
をはずすと、あら素敵、なんとも愛らしい風情の本が姿を現われました。

 この『絵画の教科書』、発売されたのは、2001年7月です。調べたところ、
「ダ・ヴィンチ」で装丁大賞も受賞しているそうで、すでにあちこちで賞賛済
みかもしれない。でも、マグロ漁船に乗っていた私には、知るよしもありません。

 白い透明ビニール(スニーカーなどに使用される素材らしい)の表紙に、蛍
光ピンクで「絵画の教科書」とレタリング・タッチの書名が印字されています。
監修者名と編者名、出版社名も蛍光ピンクと蛍光キミドリです。レトロな近未
来感。今どきのツボをおさえた装丁は、オシャレな印刷物を作る印刷会社とし
て有名なグラフで、印刷・製本ももちろんグラフです。
 本文の書体や文字組みも、軽くて手触りのいい本文用紙とよく合っているし、
本全体の雰囲気が、ちょうどいい塩梅に調和しています。もうこれだけで「買
い」の条件を満たしていますが、肝心の内容がまた、かなりいい出来ばえなの
です。

 あとがきによると、編者の二人は、国立大学教育学部で絵画の理論と実技を
指導していて、書店の美術書コーナーには技法書や理論書が多数並んでいるけ
れど、学生や初心者向けに、一冊でまとまった絵画のテキストの決定版がない、
そこで絵画の諸相をひとつにまとめた本を作ろうとした、とのことです(ちな
みに編者のふたりは、美術家としても有名です)。執筆者53人は、学者と美術
家が半々くらいです。

  絵画に関するさまざまなテーマ、161項目についての説明が、見開きごとに完
結していて、コラムも15本あります。「美術とは何か」「絵画とは何か」「作品
とは何か」「作品の完成について」といった根源的なテーマもあれば、日本画、
テンペラ画、フレスコ画、木版画、銅版画といった技法に関する項目もたくさ
んあり、理論書と技法書がまさにコンパクトに1冊にまとまっています。興味
をもった項目だけを「つまみ読み」できます。

 「作品における署名について」「作品に付けられる標題について」「額装の効
果について」といった、重要なのにそういえばあえて文章化されることのあま
りない問題を扱った項目もたくさんあって、項目立てに「親切、丁寧」を感じ
ます。執筆者の先生たちはこうした項目について一般的な説明をふまえた上で
自分の考えを語っていますが、文体はすべて「ですます」で、それもあってか
美術の本にありがちな難解で高飛車な感じがしません。美術家や美術教師をめ
ざしてがんばっている学生に向けて先生が教えを説く、というのがこの本の制
作意図なので、内容も変に難しくないですし、比較的どの先生も親切な語り口
になっています。これまでに自分が体得したことを、師から弟子へ語り継いで
いく、といった思いが感じられます。

 また、監修者の谷川渥氏が、「芸術と模倣」「絵画と鏡」「絵画における時
間の表現」「だまし絵」といった項目の執筆を担当しているのですが、他の著
書ではたぶん考えられないことですが、「ですます」調で、だれにでもわかり
やすいよう噛んで含めるように語っておられるのです。こうしたところも、
この本のユニークなところです。

 内容もルックスも、ひとつの快挙なのでは。これで3500円は、かなりお買
い得だと思いました。

『絵画の教科書』3,500円(本体)
http://www.gozans.com/bk/?b=4783010064&s=shohyo
(↑こちらからお買い上げ頂けます)

〈ひらばやし・きょうこ〉編集者・ライター&オンライン書店「クローバー・
ブックス」店主。3月1日〜13日まで、神宮前のオーパ・ギャラリーで、
「クローバー・ブックス展〜期間限定ショップ〜」を開催します。詳細はこ
ちらをご覧ください。みなさま遊びにきてください。
http://www.ifnet.or.jp/~kyoko.hi/new/new01.html

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■もっと知りたい異文化の本  内澤旬子
(6)チェコ編  強制収容所を生き延びた4人のユダヤ人
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アヴィクドル・ダガン(千野栄一・姫野悦子訳)『宮廷の道化師たち』集英社、
2001年
 
 第二次世界大戦下でユダヤ民族が被った悲劇について書かれた名作はいくつ
も日本で紹介されています。ワタクシも小学生のときに文庫版の『アンネの日
記』は読みました。「ユダヤ人はかわいそう」って感想しか持てませんでしたが。
 オトナになって第二次世界大戦以前から綿々と続いてきたユダヤ民族迫害の
歴史について、そしてパレスチナ問題についてポツポツと知っていくことにな
ります。

 千年以上にわたる迫害と追放を受けながら、一体ユダヤ人はナニを支えに生
きのびてきたのか。「選民」ってそんなに簡単に信じられるものか?  と、興
味はいつのまにかユダヤ教と信仰生活へ。しかし、カバラ神秘学やらタルムー
ドの解説を読んでもテンデ頭に入らない。愚民にわかるレベルで考えさせて欲
しいんだってば。
 そこで、この小説『宮廷の道化師たち』です。

 第二次世界大戦中のプラハ。ユダヤ人である4人の男達は、強制収容所へ連
行されながら、それぞれの特技や体型のおかげで、最高司令官の館の道化師と
なる。かれらは司令官らの残忍な気まぐれに耐え、多くのユダヤ人が死んでい
くなかで、終戦まで生きのこり、それぞれの人生を歩み始める。
 なかでもジャグラーのアダムは、目の前で妻を殺されながら、生き延びるた
めにジャグリングの手を乱すこともできなかった。彼が妻を殺した男を自分の
手で裁くために旅に出るくだりは、まるで冒険に出かける王子のおとぎ話のよ
うに淡々と綴られていきます。この不思議な文章のリズムが、まるでアダムが
神の意志で行動しているような雰囲気をどんどんふくらませていきます。

 なぜ神が存在しながらもたくさんの罪のない善良な人々が殺されるのか。悪
が富と栄誉をもって生長しているのか。実は神は自分の気晴らしのためだけに
我々を生かしているのではないか。おぞましい収容所の司令官と同じように。
我々は神の宮廷道化師に過ぎないのではないか……。
 背筋がぞおっとしました。神に人格をつけてしまうセム系一神教とは、なん
て怖くて切ない宗教なのでしょう。ムズカシイ言葉はひとつも出てきませんが、
胸を打つ考察が、話の合間にはさまれています。エルサレムの壮絶に美しい風
景描写も一読の価値あり。彼らがエルサレムを手放さない感情をちょこっとだ
け理解できました。
 
 作者のダガンはチェコ系ユダヤ人で、この小説はチェコ語で書かれました。
そのあたりの事情は訳者にひとりである千野栄一氏の解説に詳しく載っています。

『宮廷の道化師たち』1,800円(本体)
http://www.gozans.com/bk/?b=4087733505&s=shohyo 
(↑こちらからお買い上げ頂けます)

〈うちざわ・じゅんこ〉イラストルポライター。碧鱗堂製本主人。共著に『ア
ジア路地裏紀行』(下川裕治編、徳間文庫)、『東方見便録』(斉藤政喜文、文
春文庫)など。イラストを担当した松田哲夫『印刷に恋して』(晶文社)が好評
発売中。二色印刷のキレイな本です。買ってね。

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■中山亜弓が選ぶこの一冊
(4)表現の場を広げてゆく新しい女の子のセルフプロデュース力
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 今回、紹介したい「juicy fruits」は、一部の専門店でないと入手できない
ミニコミである。(お店に出向けない方すみません。でも同じ内容はwebでも見
ることができるので、興味を持たれた方は、文末のアドレスへアクセスしてみ
てください。)体裁は、今どき珍しい手書き原稿のA5判片面コピー印刷と、い
たってシンプル。それというのも、約2時間もかかる通学時間を有効利用すべ
く、美術系女子大生・今日マチ子こと大竹美緒さんが電車の揺れをものともせ
ず(というか揺れをフリーハンドなテイストに盛り込みながら)に車中で書い
て学内で配布するフリーペーパーだからだ。

 しかし、編集人は、これを学生仲間にとどめず、学外にも普及すべく、10号
分つまり10ページをひとまとめにし、シールやステッカー、あるいは豆本や短
編コミックといったおまけを奮発し、プリンタで出力したカラーの表紙にはさ
んでパックにつめて、100円というリーズナブルな価格で売り出したのである。

 その内容は、アート系の女子大生のアンテナにひっかかる森羅万象が、1回
1テーマでとりあげられ、イラスト入りで構成される。女の子らしく、夜道の
心得やデートのおしゃれ&マナー特集なんていう乙女チックなものもあれば、
生理用品の種類と用法上の注意といったまさに血のにじむ思いの記事まである
し、モーグシンセサイザーやコンピュータトラブルやモバイルといったテクノ
系あり、植物園、プラネタリウムはたまた市場や銭湯、ラブホテル街訪問、徳
島・京都・岐阜・青森と日本各地の旅行記などなど、彼女にかかると日常のす
べてがネタになってしまう。

 もっとも学内フリーペーパーがスタート地点なので、最初の10号くらいはゼ
ミに沿った内容が目立ったが、次第にフットワークが軽くなり、街を歩いて足
で書いた記事が増え、その取材力やセレクトは、約1年100号を経た現在、一
般誌にちっとも遜色ない。

 確かにケイタイにしろ、銭湯にしろ、特集されるネタ自体は‘いまさら’なも
のも多い。しかし、生まれてはじめての銭湯ではオロナミンを傍らに置き、湯
上がりに談話するホステス風の二人連れを観察したり、同窓会では旧友のファ
ッションチェックを怠らない、鋭い女の観察眼が発揮され、A5判の小さい紙面
の中にもしっかりとこの発行人のまなざしを感じることができるのだ。

 ただ、「juicy fruits」をおすすめするのは、その観察眼のするどさや取材力
だけが理由ではない。地道に100号を刊行する間に、別冊の豆本シリーズを作
り(1号目はアタリもあまく製本も乱れていたが、2号目からは大幅に改良)、
ネットでも紙面を公開、さらには100号記念展覧会&ワークショップまで開催
と、手書きコピーという古いミニコミの形を維持しながら、それをネットに、
あるいは3次元の空間に移しかえ、変換しながら、表現の場を広げてゆくセル
フプロデュース力にも注目しているのである。
 編集人が自らホームページを使ってバックナンバーを公開しながら取材によ
る新境地に到達したことを解説してみたり、個展の案内から推薦の言葉まで、
客観性と節度をキープしながらきっちり自作をおす。単なるウリとや紹介と違
った自分を語る言葉や方法を持った編集人。そんな女の子の登場に大いに期待
したいのである。

 80年代、バブルの頃、その豊かさや男女雇用機会均等法の恩恵に預かって女
の子たちは楽天的に好きなことをして、好きな仕事を選んだ。ところが90年代
に入ってバブルが崩壊してから、そんなのんびりした空気は失せて、行き場や
表現の場を失った女の子たちが増えたのではなかろうか。ひところ、演劇のワ
ークショップや映画や現代美術の制作現場の片隅には、何かをしたいのだけど
それが見つからず、演出家なりアーティストなりに才能を見いだして欲しい女
の子たちがいて途方に暮れていた。みんなが、小室ファミリーやつんくファミ
リーに入ることができるわけじゃないのと同様に演劇の世界でも美術の世界で
も簡単に才能を買われるわけではないからね。
 しかし、自らをプロデュースする言葉とすべさえ知っていれば、女の子は待
つ必要もなければ、途方に暮れることもない。

「Juicy fruits」の編集人・大竹美緒は、100号発行を記念した全バックナン
バー公開展覧会のDMにこんなことを書いた。
「イワユル「女の子新聞」と一括りにできない絶妙な辛さ&(字の汚さ)。各誌
にも取り上げられた手書き新聞、「juicy fruits」が約1年で100号を迎えまし
た。〜中略〜ミニコミ実践派の軌跡をごらんあれ」

 軽やかに自作を語り、おすすめする才能。90年代も終わって、21世紀に入り、
あの途方に暮れていた女の子たちはどうなるのかな?どうすればいいのかな?
と思うとき、このあり方は、大きなヒントになるのではないかな。

 不況で女学生の就職も難しい昨今。働き盛りのお父さんだけでなく、女の子
にとっても受難の時代だが、そんなときだからこそのセルフプロデュース。
 大竹さんもこの春から就職活動に入るそうで、職探しと並行して、「juicy 
fruits」のほかにリクルート活動専門ミニコミも発行し、ハッピーエンドで完
結することを願いつつ、活動の過程をレポートし、就職AtoZをものす気でいる
らしい。こんな趣向もこれまで何でも観察して記事にしてきた彼女らしいが、
はたして社会との接触が今度は彼女の表現に何をもたらすのだろうか。
 この1年、100号の間に大いに学習し成長してきた「juicy fruits」と彼
女だけに、この先の成長が楽しみなのである。

大竹美緒「B◎55」
http://www2.odn.ne.jp/~march/mio/ 

〈なかやま・あゆみ〉中野の特殊書店タコシェに勤務。現在「さよなら『タル
ワキ』フェア」を開催中。藤本和也オリジナルバッヂなどのグッズもあります。
3月16日からは「古屋兎丸フェア」。24日午後3時には、本人も来店予定です。
http://www2.pot.co.jp/tacoche/

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■全著快読 山田稔を読む  柳瀬徹
(11)貧しい市井の「小」作家を、遠く離れた島国で読むよろこび
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アルフォンス・アレー『悪戯の愉しみ』出帆社、1975年(福武文庫版、1987年)
トニー・デュヴェール『小鳥の園芸師』白水社、1982年
シャルル=ルイ・フィリップ『フィリップ傑作短篇集』福武文庫、1990年
山田稔編訳『フランス短篇傑作選』岩波文庫、1991年

 文学全集などでの、ゾラの『ナナ』やフローベール『三つの物語』といった
文学史上の「大」作家の翻訳の仕事は、いってみれば仏文学者としての山田稔
の業績だろう。しかし前回取り上げたグルニエや、ここに挙げたフィリップ、
アレー、デュヴェールなどの訳業には、ひとりの散文作家としての共感や愛情、
そしておそらくは少しばかりの対抗心がこめられているように思える。

 残念なことにこの三人の作家の本も例によってそれぞれ絶版、もしくは品切
れの憂き目にあっているのだが、おととし突然神の恩寵のごとく復刊された岩
波文庫の『フランス短篇傑作選』には、グルニエも含め四人とも、一篇ずつ訳
出されている。

 この本のラインナップにはヴィリエ・ド・リラダンやプルースト、アポリネ
ールやデュラスといった新旧の「大」作家のものもある。しかし作家の「大小」
に関わらず、バラエティに富んだいずれの作品にも着想の意外性や洗練された
表現が溢れていて、しかもそれが短篇であるがゆえに惜しげもなくあっという
間に収束してしまう。思わず溜息が漏れる。決してこれ見よがしではないが、
それゆえに見事な「文の芸」が息づいている。
 
 翻訳のアンソロジーには既訳があったり版権の問題が絡んだりして、かなり
の制約を受けるはず(巻末の解説にはそれによって編集方針の変更が余儀なく
された事情が説明されている)なのだが、そんなことは微塵も感じさせない。
この選別自体がまぎれもなく「芸」なのである。下品な言い方をすればこの短
篇集は本当に「お買い得」だと思う。

 無理に一篇だけ選ぶとすれば、フィリップの「アリス」だろうか。実はこの
作家は日本では戦前から小牧近江や淀野隆三、堀口大学などによって何度も紹
介されている。本国でもほとんど読まれなくなったという、貧しい市井の人々
の生活にほんの少しのドラマと鮮やかなユーモアを与えて描き続けた、貧しい
市井の「小」作家を、私たちは遠く離れた島国で読み伝えていくことができる。
なんと名誉なことだろう。

※『悪戯の愉しみ』『小鳥の園芸師』『フィリップ傑作短篇集』
上記はいずれも現在入手不可。復刊望む。

『フランス短篇傑作選』660円(本体)
http://www.gozans.com/bk/?b=4003258819&s=shohyo 
(↑こちらからお買い上げ頂けます)

〈やなせ・とおる〉青山ブックセンター本店勤務。自身の訳ではないものの、
年の初めに刊行された山田稔編『チェーホフ 短篇と手紙』(みすず書房)の
巻頭の「チェーホフの距離」という文章も凄く良いです。待望の新作ももうす
ぐ出るらしい。

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■出版史のヨコ道  南陀楼綾繁
(6)「美」を論じるよりも「美」を感じさせる本
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蝦名則『美術本屋の旧刊案内』日本古書通信社(こつう豆本139)、2002年

 正月以来、ほとんどずっと洲之内徹の本を読んでいた。『芸術新潮』に連載
されていた『気まぐれ美術館』は、高校の図書館で毎月読んでいたが、『絵のな
かの散歩』から『さらばきまぐれ美術館』(いずれも新潮社)へと続く6冊を通
読するのははじめてだった。

 小さな画廊を経営しながら、しばしば商売から逸脱し、忘れられた画家の足
跡を求めて日本中を旅する。その旅を描いていくと、苦しかった過去や(多く
の女性と付き合いながらも)孤独に生きる現在の自分がぽろりぽろりとこぼれ
だす。思いつき一筆書きみたいな文章なのに、一編の終わりまで来るとバラバ
ラのエピソードが深く結びつき、読んでいるこちらの心に沈殿する。そんな不
思議な力を持っている。

 通読のきっかけとなったのは、同人誌『ARE』『SUMUS』(両者とも「書評のメ
ルマガ」執筆者の林哲夫さんが発行)の洲之内徹特集を読み返したこと。『気ま
ぐれ美術館』シリーズを毎日持ち歩き(最初の3冊は新潮文庫に入っているが、
あとの3冊は単行本だから重かった)読み終えたあとは、洲之内の没後に出た
『芸術新潮』の特集号や、関係者による回想録『洲之内徹の風景』(春秋社)、
美術館で行なわれた洲之内コレクション展覧会の図録へと進んだ。

 うーん、まだ足りない。もっと洲之内徹を読みたい。『SUMUS』掲載の「洲之
内徹文献補遺」には洲之内の雑誌掲載文や関連文献がリストアップされている。
なかでも気になるのが、美術書専門の古書店「えびな書店」の目録『書架』。
最近の号はぼくも愛読しているが、1991年発行号で「洲之内徹と気まぐれ美
術館」という特集を組んでいるのだ。さぞや興味深い本が並んでいるのだろう
と思われる。

 その「えびな書店」店主の蝦名則が、『美術本屋の旧刊案内』という本を出
した。本といっても、わずか80ページ、手のひらにおさまる豆本なので、す
ぐ読めてしまう。古美術商、画商、コレクターに分けて、それぞれの立場で本
を出した人を紹介している。中村作次郎、春海熊三、廣田不孤斎、長谷川仁
(日動画廊)、倉橋藤治郎など、美術界では有名なのだろうが、ぼくなどはは
じめて聞く名前ばかりだ。

 おもしろいのは、「美」を正面から論じた本があまりないという指摘だ。た
しかに、抽象的な「美」を読者に伝えるには難しいし、それは文章でやること
ではない。それよりも、具体的なブツのデティールを書いていくほうが読み物
として成立させやすいし、読者はそれによって「美」を感じることができる。

「コレクターの本の成否は第一に選ぶ眼、第二に費やす言葉の質量で決まる。
読者を唸らせるにはこの微妙な塩梅が必要である」。たしかに洲之内のエッセ
イも、この二つの配分が絶妙だったからこそ、あれだけ多くの読者を魅了した
のだろう。画商に分類される洲之内徹については、「読者の方がよくご存じだ
ろう」として、この本では割愛されているが、蝦名氏には『気まぐれ美術館』
シリーズを中心に洲之内をじっくり論じてほしいものだ。

 なお、「こつう豆本」は日本古書通信社が30年以上出しつつけているシリ
ーズ。豆本というと、高価な限定版というイメージがあるが、「こつう豆本」
は並製が1冊788円、250部限定の特装が2940円(いずれも税込)なので、
けっして高くはない。この『美術本屋の旧刊案内』の特装本は、雑誌『工藝』
の本文用紙で装丁されていて、美しい。一冊持っていて損はないシリーズだと
思います。

「日本古書通信社」
http://www.kosho.co.jp/kotsu/
「書肆アクセス」(こつう豆本を常備)
http://www.bekkoame.ne.jp/~much/access/shop/shoppage.html

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■書評サイト探検隊  グッドスピード
(10)10点満点評価での1点は「10年に一度の大愚作」なり。
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「幻影の書庫」
http://www.sf.airnet.ne.jp/tsuki/mystery.html

「月田家のホームページ」内にある書庫。月田さんとは何者かがわからないけ
れど、これまたミステリーの書評サイトである。手がかりはひとつ、原書房の
「八ヶ岳「雪密室」の謎」という読者解答公募企画で、優秀賞を受賞した人物
であるということだ。

 書評サイトといっても、ミステリーファンがこうじて目が肥えていまったご
とく、作品の細部にわたりツッコミを入れる書き方。私のようなミステリーに
疎い者にとっては、正直なところ読むのがつらい。でもそこは大きな問題では
ない。10点満点の評価がついている。しかも、その評価基準も詳しく設定されて
いるのだ。それは下記のとおり。

10点 歴史に残るべき名作               
9点 各人のベストテンに入る優秀作。         
8点 ああ、面白かった。秀作。            
7点 まあ、面白かった。佳作。            
6点 腹が立たない。水準作。            
5点 パンチが足りない。平凡作。          
4点 取柄がない。凡作。              
3点 銭泥棒。時間泥棒。駄作。           
2点 作者に殺意の湧く。愚作。9点の反対。               
1点 歴史に残るべき大愚作。10点の反対。              

 私にはこの評価基準だけでもお腹いっぱい。しかも10年に一度の大愚作の
紹介もしているという気の利きよう。その意味で、読者に議論を誘うサイトで
ある。そのためか、掲示板もちゃーんとついている。

 でも侮ってはいけない。こうした読者のネットワークが、作家を育て、出版
を支えているのだから。もしかすると、プロの作家もこのサイトを覗いている
かもしれない。 
(1997年6月公開。現在までのアクセス数は134290)

〈ぐっど・すぴーど〉1968年生まれ。書評サイト探検隊隊長(自称)。隊員が
いないのに隊長とはこれいかに。隊員募集中。

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■あとがき
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 本誌の執筆者でもある、林哲夫さんの新刊『喫茶店の時代』(編集工房ノア、
1900円)が出た。「本書は、実のところ、喫茶店についての本ではない。(中略)
要するに、現実の喫茶店という存在あるいは現象には関わっていないのである」
(はじめに)とあるように、この本は、林さんが「喫茶店」をキーワードにど
んな風に本を読んできたか、というその報告集なのだ。ぼくはこの本を手にし
た翌日に読了したが、付箋代わりに上の隅を折ったページが何十箇所もできて
しまった。読み終えたあと(いや読んでいる最中から)、その折ったページで
引用されている本や雑誌を、片っ端から古書店サイトで検索し、何冊かを注文
した。数日後、それらの本が届き、読みはじめる。『喫茶店の時代』から、た
くさんの読書が派生していく。この本を「書評のメルマガ」課題図書に勝手に
認定します。読んだヒトは感想文を提出のこと(命令口調)。なお近々、林哲
夫インタビュー「『喫茶店の時代』の〈注〉を読む」を掲載予定です。乞うご
期待。ああ、今回めちゃくちゃ字数が多いぞ。         (南)

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