2002.2.20.発行 vol.62  [飢餓耐性 号]

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■■ [書評]のメルマガ                             2002.2.20.発行  
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■トピックス
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■サイードが滅茶売れ!
みすず書房さんの新刊『戦争とプロパガンダ』が紀伊国屋のデイリーベスト
で一時期2位いになるほどの売れ行き、重版もすごい勢いでかかっているよ
うです(現在、三刷り)。クラシックものが音楽チャートの2位(小沢征爾
=ウィーンフィル)、書籍ではサイードが2位……おお、これぞ文化立国日
本の姿でしょうか(笑)
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■空の飛び方教えます/小林圭司
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今年上半期の収穫といえば、リチャード・パワーズ『ガラテイア2.2』で決
まり、なのだろう。
気が早すぎる、って?
そりゃあ、これを凌ぐ作品が続々と出てきてくれれば、そんなにうれしいこ
とはないんだけど。
世の中にあまりに氾濫しすぎた、過剰な恋愛小説に食傷してしまうと、あの
過剰な理系的情報量はさておいて、AやCよりも純粋無垢なHにクラクラきて
しまう男がたくさんいそうだ(もちろん、私も)。
みなさんにもぜひ、このメタフィクション純愛小説を読んで涙していただき
たい。

と言っておきながら、今回おすすめするのは

『ミスター・ヴァーティゴ』 
ポール・オースター著 新潮社刊 本体2400円

だ。
もちろん翻訳は柴田元幸大先生だ。
売り文句は、もしかしたらこれだけでいいのかな?
オースターが『幽霊たち』や『鍵のかかった部屋』を書いた小説家で、『ル
ル・オン・ザ・ブリッジ』なんて映画も撮っていて、しかもえらい男前なの
は、みなさんご存知ですよね?
柴田先生が名翻訳家で名英語教師で名エッセイストであることも、やっぱり
ご存知ですね?
で、今回の作品も、ちゃんとおもしろいんですよ。

だから、私がみなさんにお伝えしなければならないのは、この小説が、単に
空を飛ぶファンタジーではない、ということなのかもしれない。
飛ぶだけではなくて、落ちてもくるのだ。
主人公の少年ウォルトは最初、地べたからスタートする。
両親は既になく、意地の悪い叔父・叔母の家に身を寄せ、セントルイスの盛
り場で小銭をせびってなんとか生きている悪ガキだ。
そんな中で、ユダヤ人であるイェフーディ師匠に出会う。
師は、自分の言うことを聞けば、空を飛べるようになり、そうなれば百万長
者になれる、と言う。
ウォルトは師と、やさしい母親代わりのインディアンのマザー・スー、兄代
わりの黒人の天才少年イソップと暮らしながら(原文のママ、PCは省略)、
厳しい修行に耐え、やがて空を飛ぶことができるようになる。
しかし、幸せで幻想的なお話は、現実的で暗い暴力によって、無惨にも地に
落とされる。
オースター作品の中でも最もおとぎばなし的と言われながらも、単純なファ
ンタジーで終わらないのは、その想像力が軽やかに空想の高みに昇っていく
だけではなく、現実の重みがいつも影のように寄りそっているからなのだろ
ろう。

ウォルトに感情移入している読者は、飛んだり落ちたりするたびに一喜一憂
しなければならないが、飛行とは関わりのない後半も早いテンポで展開して
いき、まさしく「ヴァーティゴ=目まい」を起こさせる。
本国よりも読まれているのではないか、といわれる日本でのオースター人気
だが、これだけの質の作品を続けることができ、しかもこれ以上はない翻訳
者を得ているのだから、この先も飛翔し続けこそすれ、落ちることなどない
のだろろう。
これまでの作品と比べてどうこう論じるよりも、今回もとにかくおもしろ
い、読んで損はないことは保証させていただきます。

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<小林圭司 出版社営業部員 33歳 年間読書量50冊 好きなジャンル
 翻訳小説・サッカー ああ、もうすぐJリーグが始まってしまう。その前
にもっと読書時間をとらなければ…。>

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■『秋田・消えた村の記録』/畠中理恵子
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『秋田・消えた村の記録』佐藤昇之輔著

 子供の頃、『つばめの家』という児童文学を読んだ。
 主人公一家は、廃村、集落の離散を経験し都心の団地へ引っ越してきた。
新しい環境に気後れしてなかなか馴染めない主人公。
自然に囲まれた捨ててきた家と、新しい箱みたいな、土のない団地生活。
だんだんと友人をつくり、生活にも慣れた頃、
自分がもっていた家が
かけがえのない存在で、また、
新しい友人にも魅力的な者であることに気付き勇気を得ていく主人公。
誰もいなくなった家は朽ちてしまうというが
つばめが住んでいればもちこたえてくれるかも…、と
捨てた土地をまた取り戻し、希望に満ちた未来を夢見る話しは
まあ、出来過ぎているが、
なかなか感動的だった。

思えば、
私が小学生だった昭和40年代の児童文学には
よく過疎になった村が題材にされていた。
村おこしを考える話。
少ない村民で肩を寄せあって生きる主人公たちは魅力的だった。
ふる里がある、と思い
自分の生活する土地へ
何かしらの感情や情熱をもてる姿に
郊外の、新興住宅地で暮らす私は憧れを抱いていた。

 本書を初めて見た時、
子供時代の一冊が鮮やかに思い出された。
ずっと今も過疎は深刻に続いているのだ。
自分が鈍感になり
人が都会を目指してやってくることも
いつしか当たり前のように感じていた。
背景にある
土地への複雑な感情やらには気がまわっていなかった。
でも、確実に過疎は進み
多くの集落が消えていっている。
私が子供だった頃よりずっとたくさんの。
驚くような数の消えた村だった。
 「この10年で消えた百二十五の村を訪ねる。」帯より
−「過疎化」が社会問題になり、都市以外の町や村で人口流出が目立ってき
たのは、高度成長期といわれる昭和30年代だ。
豊かな生活を求め、生活の場であった故郷の土地を(言わば)捨て
新しい「豊かな」生活を求めて、違う土地での暮らしへ向かう。
残された村や町は、歯が抜けるように人や家が減り
後は…。
 本書は、1987年から1997年10年間で消えた125の集落を尋ね、
村の位置や地形、発祥、戸数、更に移転年や移転先、電気、電話の開通年や
現在の様子、そして、移転者からのひとことが
丹念に綴られた。中には危険地やダム建設のため移動した村もあるが、殆ど
は人口流出による過疎化で村としての将来を危惧し集団移転という新しい出
発を選択した村々だ。林業、農業での生活が新しい時代について行けなくな
る。
近くの集落まで容易にはたどり着けず、
学校や医者も遠く、冬は雪に閉ざされる。
山の生活は、自然の恵みに守られ、祖先の歴史の刻まれた捨てがたい場所だ
が不便さを、若いものには強いられないと
集団移転に同意する古老。
鉱山の閉山により寂びれた村や、
洪水や山崩れへの恐怖、
電気や電話などの遅れへの苛立ちをもった人々は、
 昭和40年代に行政が実施した「集落再編成事業」という政策を利用し
(山村地域で、分散している小集落を移転統合し、生活環境の整備、就労場
所の確保を目指す)離村を決意した。

今でもたんぼを耕しに通う人もいる。
 誰も来ない、廃屋が点々とする荒れた村もある。
そこに集落があったことさへ今はわからないような、
まわりの自然に還っている土地もある。
著者の言うように、もう、この村落が元に戻ることはないだろう。
でも、確かに在ったという事実は忘れられていいのか。
何だかそう思えない。
勿論、忘れられるということは時間の流れの中では自然なことで、
殊更取り上げるほうがおかしいのかもしれない。
本書で語られる古老の「懐かしく思う」という言葉や
「淋しく思うこともある」「先祖の土地への愛着もある」という思いと共に
時間の風化に任せて朽ちていくのがむしろ美しいのかもしれないが。
しかし、やはり誰かがある日その土地の存在に気づけるように
何か印を残しておくことが大切なのではないか、とも思う。

著者はせめてモニュメントを作成できないか、と言っている。
是非実現してほしい。
本書の何よりすばらしい所は、
「消えた村」が在ったことを記憶している、という事だ。
失われていくことは、淋しいだけでない。
自分たちが歩いてきた道にあるものを
記憶している事の、
何よりの大切さを感じた。

『秋田・消えた村の伝説』
佐藤昇之輔著
A5判・260頁・1997年11月10日刊
無明舎出版刊(秋田)
本体2000円+税

http://www.gozans.com/bk/?b=4895442896&s=shohyo 
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<畠中理恵子 書肆アクセス店長 神保町の看板娘、じゃなくて看板奥様>
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■『異端の名医は「自分の山を登れ」と言う』/朝日山
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「健康医学 ファースティング」笹田信五 人文書院
「絶食療法」笹田信五 NHK出版

ある機械メーカーの社員と話をすることがあった。彼のいる会社の商品の一
つに無洗米を作る機械がある。この社員氏、他の商品はともかく、この無洗
米を作る機械が大嫌いだという。これほど社会的に問題のある機械はないと
まで言う。自分の会社の商品をそこまで言うか?ふだん過激な私も、思わず
引いた。こりゃ逆らうとこわい(^_^;)

彼曰く、無洗米の売り方が米を研ぐ必要がありませんだけなら文句は言わな
い。米のとぎ汁が環境汚染になるとかいう、バカ業者の言い分を真に受けて
書くだけのクソライターがいっぱいるのに腹が立つ。

確かに糠は窒素やリンを含んでいるから富栄養化の原因にはなる。しかし、
これまで糠が富栄養化を及ぼすほど大量に廃棄されたなんて話は聞いたこと
がない。その上、米の消費量がこれほど減っている時代に環境破壊など笑止
千万。それより人糞尿の方がはるかに大量の窒素やリンを放出している。

問題の優先順位を全く考えていないバカライターの戯言を真に受ける消費者
が、環境にやさしいと勘違いして無洗米を買う。すると、どの米屋も無洗米
を売らなきゃならなくなる。そのせいで今どれだけの米屋が泣いているか。

ただでさえ苦しい環境下、中小米屋は大手でないと採算がとれそうもない高
価な機械を買うことを強いられる。うちの機械ののせいで米屋は何人失業者
を出すだろうか?そんなことを考えると正直この会社にいるのが恥ずかしく
なる……そもそも米ぐらい自分で研げってんだ!

だったら会社をやめたらと言いたかったが、んなことは言えない。せいぜい、
こんな人もいるよと、私は本を紹介するしかできないのであった。

この本の著者、笹田信吾博士は日本唯一の官営断食医療施設、淡路島断食道
場の親玉だ。もともと彼は神戸大学で循環器系の研究をしていた。循環器系
というのは、血液の循環にかかわる分野で、要するに心筋梗塞や脳卒中など
が研究対象になる。

俊英笹田は、大学病院に担ぎ込まれて亡くなる成人病患者をたくさん見てき
た。医師として患者を助けたい気持ちは人一倍もっている。だが、助けられ
ない。心筋梗塞や脳卒中、ガンなどは、症状が現れて病院に担ぎ込まれた時
点で、もう手遅れなのだ。患者を救えない医師に何の意味がある?

医師の使命を果たしたいと願う彼が目をつけたのは予防医学である。中でも
彼が選択したのは、標準で二週間断食(ファースティング)をやる荒技だ。

蛇足ながら、この手法は私も入所して確認したが、決して苦しみを伴う手法
ではない。だから体験者は全く気がつかないが、体はそれなりに危険な領域
に踏み込むことがあるので医師が診ていないところでやってはいけない。も
っとも、一日くらいならOK。

この手法は医学界で当然異端視されている。彼の母校神戸大学医学部の循環
器系の系譜に繋がる医師でも否定的に見ている人がいるくらいだ。彼自身、
ドイツ留学を中途で切上げ淡路島に赴任する時、自分で決めたことながら
「これで医者としておしまいになるだろう。二度と世に出ることはないだろ
う」と思っていた。しかし、学閥ではなく、結果で評価する医師たちの中に
は、彼を高く評価する人もそれなりにいる。

生物は例外なく飢餓耐性を持っている。自然界で食べ物が常に満ちあふれて
いるなんて事はあり得ないからだ。しかし先進国の人間は生物史上初めて食
料に不自由しない環境に生きている。飢餓耐性はあっても、豊かさの耐性は
身に付けていない。豊かさに無防備な結果大量に出てくるのがいわゆる成人
病であると彼は言う。

断食とは、そうした生物本来が持つ能力を目覚めさせ、治癒力を向上させる。
彼の手法は、一見目覚ましい成果を上げた。しかし、彼はこれではダメだと
考えた。なぜなら2週間かけて断食道場で整えた体を、1ヶ月、2ヶ月で元
の不健康な状態に戻してしまう入所者があとを絶たなかったからだ。

いくら道場内で医学的な成果を挙げようと、社会に戻ったらもとの木阿弥で
は意味がない。最後は精神の力が問題になる。彼はドラステッィクな医学的
方法に加えて、ストレスと闘う武器として「生かされている医学」を標榜し
て現在に至っている。

「健康医学 ファースティング」は彼が心の問題に踏み込む前に書かれたも
ので、内容は分かり易いが、病名やらγ−GDPやらグラフやら、ほとんど
医学の論文みたいな内容だ。

「絶食療法」では医学の記述はそれなりに残っているものの、主に書いてあ
るのは精神面のコンサルティングに近くなってくる。最初に出てくる「爽や
か指数」と「不快指数」で構成されるポジショニングチャートなどは、何を
今さらと思う人も多かろう。

その後に展開される呼吸法やら一日だけの断食、ミニ・ファースティングな
ども、「絶食療法」だけを読んだら、多くの人はそんな簡単なものかと失笑
するかもしれない。最後まで読めば、こいつは宗教の世界にかぶれたかとす
ら思われる可能性もある。

違うのだ。彼は人の価値観で生きているからストレスがたまる。自分の価値
観で生きればストレスはたまらないと言っているだけなのだ。それを理解す
るためには、古い本である「健康医学 ファースティング」に書かれている
背景を理解しないと、一見インチキそうに見えて、この人の本当の姿は見え
てこない。

今のところ彼の到達点である「他人の山を登るな」「自分の山に登れ」とい
うメッセージは、決して人文界の影響から来たのではない。目的達成のため
に、医学だけでなく、人文界の成果も使おうという発想をしているだけなの
だ。

もちろん、私は彼の手法が万能であるとは言わない。私のような偏屈には、
はっきり言って不要だ。しかし、救われている人がいるのを目にすれば、自
分に向かないからと言って否定はできない。

もちろん彼自身も、自分の手法が完全であるなど言ってはいない。断食が有
効な病気の範囲から可能な年齢など、規定もされている。決して「奇跡」を
宣伝しているわけではない。

そんなわけで書店人の皆さまは、笹田センセの本を売るときは、そのあたり
の事情を勘案して売っていただきたい。この人の本は、売り方を間違うと本
来の良さが見えなくなります。裏を返せば、こういう本をいかに読者に読ま
せるかが、書店人の腕の見せ所とも言えるのではないでしょうか。

『絶食療法』1500円
http://www.gozans.com/bk/?b=4140110899&s=shohyo 
『健康医学』1400円
http://www.gozans.com/bk/?b=440982001x&s=shohyo 
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(朝日山 烏書房付属小判鮫 37歳 好きなジャンル 何だろ?)
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■読者の方からのお薦め本の紹介です
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『Baby ER 新生児集中治療室』エドワード・ヒュームズ著
川上 直子訳 加部 一彦訳 秀潤社 1.900円

Baby ER。
いわゆるERもののつもりなのかもしれませんが、そういうんじゃなくて、そ
うか、医療ってか、医療制度って、今のままいくと日本も、こういう心配を
しながら人が生まれたり死にかけたりすることを受け止めるようになるのか
とおもわされる、垣間見ることができるといった内容でした。
圧巻は第2章。これはすごい。人間ってこんなだったんだな、と気がつかさ
れるだけでお買い得でした。文学部向きかも。
《高萩さま》
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■あとがき
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>今回のオリンピック、ごたごた続きですねー
>はあはあ
>しかし、アイスダンスとかの芸術点って微妙な審査方法ですよねー。これ
が絵画だったとしたら、「ピカソ君の芸術点は9.5、おおっとスラー君は
9.75で金メダルだ。ピカソ君が《お前らの芸術センスは印象派で止まっ
てるんだろ》と審査員に抗議」とかになるんじゃないかと(笑)
>ううむ、審査員がどれほどの審美眼と芸術センスがあるのかも問題ですよ
ねー。
>そういえば、昔、芸人の人をホンモノと偽者芸術見分けさせて、一流や二
流にランク付けするTV番組があったじゃないですか
>ああ、五万円のワインと二千円のワインをあてろとか、のやつですね
>あれを審査員全員に課して、パスした人だけ実際に審査できるようにした
ら、どないでしょ。ついでに修士レベルの美学のテストも必須にして・・・
>ううん、審査員一人もいなくなるような気が(笑)
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