2002.2.28.発行 vol.63  [評論家生命 号]

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■評論家生命を賭けた自信と勇気/石飛徳樹
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★★文章読本さん江
斎藤美奈子著
筑摩書房・1700円★★

 斎藤美奈子がイヤミなのは、今に始まったことではない。
 デビュー作「妊娠小説」からして、既に明治の大文豪から現代のベストセ
ラー作家まで様々な名作を、「恋愛→妊娠」という、良識人たちがあえて目
を向けなかった切り口を設定し、それに沿って、遠慮会釈なくからかいまく
った「不敬の書」だった。
 その後、書評やコラムなどの連載を多数こなしつつ、長編評論として「紅
一点論」「モダンガール論」を発表。今回の「文章読本さん江」につながっ
ていく。
 それにしても、今回のイヤミ度は半端じゃない。
 彼女がやり玉に上げるのは、故人とか小物ばかりではない。現役の大物や
相当なうるさ型に対しても容赦がない。
 評論家生命を賭けてるんじゃないかっていうくらいの感じなのである。

 「文章読本さん江」は、谷崎潤一郎の「文章読本」を筆頭にし、作家や学
者、新聞記者らが書きたがる「文章読本」なるジャンルが存在することを指
摘し、それが持つ意義や歴史などをイヤミたっぷりに考察した評論だ。
 そこでは、谷崎のほか、三島由紀夫、清水幾太郎が御三家、本多勝一、丸
谷才一、井上ひさしが新御三家と定義される。
 そして、この6人を含む「文章読本」の書き手たちが、いかに力みかえっ
た恥ずかしい前書きを書いているか、を指摘したり、いかに活字至上主義で
素人の文章を蔑視しているか、といったことを白日の下にさらしていく。
 さらには、明治以来の作文教育の歴史を振り返り、学校の作文教育が不十
分だったために、「文章読本」が広く読まれるようになったのだ、と結論づ
ける。

 彼女の文章は非常に軽やかなので、感性の鋭さを前面に押し出したエッセ
イストのように感じてしまう。
 しかし、長編評論を読むと、意外なことにその手法は相当にアカデミック
である。
 つまり、文献等の膨大なリサーチを背景にユニークな立論を証明してみせ
るのだ。
 だから、彼女の評論は、かなり過激なことが書いてあっても、容易には反
論できない堅固さを持っている。

 彼女のイヤミには、粗雑さや下品さが全くと言って良いほど感じられない。
稀有なことだと言える。
 それは、彼女がとても冷静だから、である。彼女の文章の最大の特徴と言
ってよいだろう。
 この本では、様々な「文章読本」の様々な主張がメッタ切りにされている
のだが、その主張がどういう背景から出てきたのかを、きちんと説明してい
る。ただ単に馬鹿にしているわけではないのだ。
 切り方はどんな大物やうるさ型であろうと手心を加えていないけれど、単
に馬鹿にしているわけではないのだ。

 ただ、今回扱った素材は、これまでの評論とは全く異なる爆弾を抱えてい
る。
 文章について書かれた文章を批評の爼上に上げている点である。
 ここでは、前書きの文章についてとか、他人の文章を批判する文章につい
てとか、この評論にも該当箇所のある問題について、徹底的にイヤミな分析
をしている。
 下手をすると、直ちに自分に降りかかってくる。これは、相当に自信と勇
気のいる行為ではないか。
 評論家生命を賭けていると書いたのはそういう意味である。
 
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(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
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■「神さま、嫌わないでね」/ミラクル福田
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『神は日本を憎んでる』 ダグラス・クープランド 
本体価格2200円 (角川書店)

 よその国の奴にそんなこと言われたくねえよ。なんだよこのタイトル。面
と向かって言われるんならまだしも、本のタイトルだぜ、おい。
 なんてぶつぶつ言いながら、読んだけど、これがすごいのよ(本の造りは
雑だなぁ)。
 
 バブル経済が崩壊して間もないころの日本。高校3年生のヒロ(男)のク
ラスメイト3人(しかもかわいい女の子)が、突然、宗教にはまってしまっ
たところから物語は始まる。
 なぜ、(よりによってかわいい)女の子が3人も宗教に走ったのか? そ
のなぞを解き明かそうと、さえない青年ヒロは考え、不器用に世の中にぶつ
かっていく。まるで世紀末日本に現れたホールデン・コールフィールドみた
いに。

 でも、『ライ麦畑』のアメリカなんかより、現代日本はもっと過激だ。お
となたちがどうこうというレベルではない。
 10年ほどの間(89年〜00年)で首相は、竹下、宇野、海部、宮沢、細川、
羽田、村山、橋本、小渕、森、小泉とコロコロ交代し、北朝鮮からテポドン
が飛んできて、異様な強さを誇った円はいまや世界経済のお荷物状態。大地
震で大都市が壊滅的な被害を蒙るし、ガキの凶悪犯罪が増え、地下鉄に化学
兵器がばら撒かれるが、学校の先生は下半身の暴力に走ってるし、キティち
ゃんはいい年をしたおとなにも大人気。
 なんにも考えなくてすむ、とても幸せな世の中だけど、確実になにかが壊
れていっている。そんな日本をクープランドはこんな風にとらえている。

 「日本はもう、資本主義の曲線の終わりにきてるんだ。僕らは地球上のど
の文化よりも、ショッピングという考えを押し広げてきた結果、これからど
うするかの地図さえないんだ。導いてくれる神話も、歴史的な経験もないの
さ。僕らは純粋に切り捨てられる運命にあるんだ。歴史を日本にどう適応で
きるかという点から言えば、もう既におわっているのさ」

 ありがちでたいして目新しくもない言い分だ。でも、こんな言葉が近頃、
ホントに身にしみる。どう考えても、バブルのまんま、価値観が壊れたまん
ま生きてるヤツが多すぎる。
 旦那がいるのに、「こんど付き合ってる代理店の男は、服の趣味とかコロ
ンなんかがあたしの趣味とぴったり! 運命感じる」なんて言われて、どう
答えたらいいんだよ。
 30過ぎて親から家賃を送ってもらっているヤツ、婆さんから車の駐車場代
と小遣いを貰ってるヤツもいた。40前でジャニーズのコンサートに香港まで
行って現地の人間と小競り合いして震え上がらせた、なんて自慢は聞きたく
ない。こんな知り合いばっかりじゃないけど。

 高度経済成長以後、それぞれの生き方を尊重するという、美しい建前のも
とに(本来は悪いことじゃないけど)、すっかり規範がなくなって、金があ
ればとりあえずものが買え、楽しく過ごせるようになった。なんにも考えな
くても生きられる世の中になって、小泉を熱烈に担ぎ上げたり、宗男をファ
ナティックに叩いたり、バカみたいだ。

 どう考えても今の日本はおかしくなってて、それをどうにもできなくなっ
てしまっている。だから、「よりによってかわいい女の子」は宗教に走り、
ヒロが惚れたまともな女の子は外国へ行く。そして、ちょっとぼんやりした
男の子は、いろんな価値やら事柄がばらばらになってしまった日本で途方に
暮れてたたずんでいる。

 そんな日本で、どう生きてけばいいんだろう。

 ひ弱なからだでうろうろしながら、精一杯ヒロは考える。そして、読んで
るぼくも考える。最後にぼくがたどりついた答えも、ヒロが最後に教えられ
る答えも、似たようなものだった。できることって、たいしたことじゃない
んだけど、なんとかやっていから、神さま、嫌わないでね。

追記
『さようなら、ギャングたち』を高橋源一郎が書いたのは、確か、1960年代
をリアルに表わす言葉が見つからなかったからだ。その時代が彼にとってど
んなものだったかは知らない。でも、彼にとってかけがえのない時代だった
のだろう。ぼくがしっかり見ることができた時代は、『神は…』の舞台1990
年代。(それ以前はなにをしてたのでしょう?)
 でも、その時代がまさかカナダ人から描写され、しかも社会の問題まで抉
りだされるとは思ってもみなかった。やっぱり日本でも、ファンタジーや心
理ものばかりでなく、こんな小説を書いて欲しいなぁ。

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(ミラクル福田 某人文系出版社編集 31歳 年間読書量80冊弱
好きなジャンル 文芸・芸能)
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■株は儲からない、と稀代の相場師は言った/守屋淳
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『相場師一代』是川銀蔵 小学館文庫 600円

みなさん、今から考えれば日本の全盛期であったかもしれないバブルの頃、
株とか金融商品とか、金とか土地とかちょっと投機目的も入ったマンション
とかに手を出されなかったでしょうか?? 

僕の周りの出版関係の人たち、金儲けに別に執着しないような人が多いので
すが、それでも片手ぐらいの人数はどれかに手を出し、あちゃーという失敗
しちゃってるみたいです。

TV朝日のニュースステーションでお馴染みの森永卓郎さんによれば、バブ
ル崩壊後の九十年代、株と土地と普通預金の三つの内、もっとも利率がよか
ったのは普通預金で(笑)、土地と株もってたら資産半分以下になっていた
らしいですし、いやー恐い世の中ですねー。

というわけで、今回ご紹介するのは、昭和の相場師、是川銀蔵さんの自伝で
す。これは単なる業界裏事情でも、金持ちの自慢タラタラ本でもありません。
株はもちろん、およそ勝負事に関わる立場になった人には、目から鱗の法則
が縷々つづられた名著です。

まず、すごいのは前書き。是川さん、こう来ます。
《株は大儲けできるものと錯覚し、危険も省みずに株式投資に大金をつぎ込
み、人生を棒にふるような人達が出てきては困る》
《そこで私は自らの人生を自らの手で綴ることにより、株で成功することは
不可能に近いという事実を伝える使命があると思い、筆をとることにした》

伝説の相場師が、こういうんだから、そりゃ素人で失敗する人がぞろぞろ出
てくるのは、当たり前なわけですねー。
では、なぜそうそう成功できないのか? どうも、投資する人が自分の実力
以上のことをやろうとすることに原因があるようです。

《株式相場は、誰でも実力以上のものをやればとまどい、不安心理がつき
まとう。それが失敗につながるのである》
《 いかに相場に熟練した投資家でも、下げ相場の過程では不安にかられ、
持ちこたえられずに手持の株を投げ出してしまう。事実わたしも何度かこう
した心理状況の中で痛い目にあわされたことがある。
不安に襲われ、持ちこたえられず安値で投げてしまうために大損を出すの
だ。》

株の大原則は、バイオリズムのように上がり下がりを繰り返すということで
す。そこで自分の実力以上のことに手を出すと(失敗即破算のような状況と
も言いかえられます)、辛い時期を堪える忍耐心を、投資家はすぐに失って
しまうし、正しい判断も下せなくなるというのです。
そこで是川氏、こう指摘します。
《しかし、手持の余剰資金で活動していれば、不安はあっても投げるまで追
い込まれることはない。投げない限り実損はないわけである。だから私は、
「借金や信用はいかん、余剰資金で現物を買え」
と奨めたのである。》

外にも、およそ勝負事すべてに引き写せそうな、名言の宝庫ですが、ここで
あんまり引用しちゃうともったいないので、ぜひ買って読んでください。

是川氏は、一人の人間としてもとっても面白い生き方をした人です。戦中は
中国で違法な商売に手を出し、引き上げ後は、

《 四人の子どもを持ち、家族五人を抱え、家賃は払わず、米代も払えない
貧窮生活の中で三年間、毎日のように嵐山から大阪の図書館へ通いつづけ、
経済関係の本や資料をあさりつくした》

と、後の相場師の礎をつくり、その後はなんと戦後の食糧難を解消すべく二
期作を独力で開発したりしているのです。相場師になってからも、モラルに
外れたことをやる奴らが嫌いで、悪徳でならした投資グループなどを株で叩
き潰したりもしているようです(ただし、ここいらは本人の自伝のため、
100%の真偽はわかりませんが・・)。良い人生を歩んだ方だと思います。

ちなみに、本メルマガの20日号の筆者・朝日山さんは、それとは知らずに
是川さんにお茶をおごってもらったことがあるそうです。なんだかとっても
うらやましいぞ(笑)
 
http://www.gozans.com/bk/?b=4094034714&s=shohyo 
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(守屋淳 35歳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好き
なジャンル 古典) 
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■あとがき
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>最近、ディアスという週刊誌でつかこうへいさんが、二回ほど時事問題に
ついて書いているんですよ。
>はあはあ
>それが、つか節炸裂で、もう大傑作なの
>へー、最近あんましエッセイも小説も、見ない感じだったんですけどねー
>小泉さんが真紀子さんを切って揉めたときも、あれは切り方が悪いと、つ
かさんは書くんですね。
>ほうほう
>切るときに真紀子の目を見て「愛しているのはお前だけだ」「おれを信じ
てついてこい」といえば、真紀子さん文句言わず身を引いたんじゃないか、
とか(笑)。ムネオ問題にかんしては、「ムネオを笑うものは、ムネオに泣
く」で、日本人みんなムネオ的要素は持っているんだとか・・
>おお、確かに往年のつか節、「銀ちゃ――ーん」って感じですね(笑)
>同じ雑誌に30代の人がエッセイとか書いてるんだけど、格の違いは嫌に
なる程あきらか。変な書き手の世代交代はいいから、こういう人にバンバン
書いてもらいたいですね。
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