2002.4.30.発行 vol.69 [「愚行」と「暮らし」号]

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■「ありあわせの食材で、あっと驚く料理をこしらえる」/石飛徳樹
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だれかのいとしいひと
角田光代著
白泉社、1300円

 以前、この欄で、角田光代の小説の魅力は脱力感にある、と書いたことが
ある。
 脱力しているとみて読み進むと意外に真剣じゃないかと思えてくる。
 しかし、じゃあ、真剣なのかと考え直して読んでみると、やっぱり脱力し
ている。
 そう書いたのだった。

 今回の短編集もまた、いつも通り、十分に脱力している。
 彼女は決して力むことがない。
 作家が力んでしまうと、読者に言いたいことが伝わらないということを知
っているのだ。

 「転校生の会」は、子供の頃にしょっちゅう転校していた男と付き合って
いて最近別れてしまった女が、転校生の心理を知ろうと、「全国転校生友の
会」という不思議な集まりに潜り込む物語。
 「ジミ、ひまわり、夏のギャング」は、恋人との同棲を解消したばかりの
女が、ジミ・ヘンドリックスのポスターをはがして持ってくるのを忘れたこ
とに気づき、ポスターを取り戻しにその同棲していた部屋に忍び込む物語。
 「バーベキュー日和(夏でもなく、秋でもなく)は」、親友のことを全部
知りたくなって、親友の恋人にも度を超した関心を持ってしまう女の子の物
語。
 あとの5編も、男と女のごくありふれた恋愛模様を、つかみどころのない
文体で描いている。

 例えば、「ジミ、ひまわり、夏のギャング」では、彼女はこのように締め
くくる。
 「さっき歩いた道を駅へ向かって歩いているだけなのに、あたしはなんだ
か、未知の場所へ、ときおり追っ手を気にしながら、それでも意気揚々と向
かっていく、宝物をごっそり背負ったギャングみたいな気分になる」
 力みやすい素人なら、この部分は次のようになろうか。
 「ポスターは持ち帰れなかったけれど、あたしはなんだか、大事なもの、
部屋に置き忘れてきた『自分』というものを取り戻したような気分だった」
 テーマは全くこういうことなんだが、それを「ギャングが分捕った宝物」
と表現するのが彼女の魅力である。
 彼女の小説には、抽象的な言葉が出て来ない。
 目に見えない、あいまいな心の動きまで、すべてを具象化してみせるのだ。
 それが彼女の芸である。

 もう1つ、彼女には芸がある。
 私たちが普段やらかしたり、周囲の人間が何げなくやっている会話や仕種
を冷徹に観察し、それを微妙に角度をずらして表現することができるのだ。
 例えば、彼女は、にんにくの茎と、白く丸いにんにくが同じ種類かどうか
といった他愛もない問題を議論している可愛らしいカップルを描く。
 ところが、2人は実は付き合いが長くなるにつれ、全く性格が合わないこ
とに気づき、今では、にんにくを始め、あらゆる話題を互いの人格を非難し
合うネタに使えるようになってしまったのだ、というようなことをサラリと
書いてみせる。
 角田光代にかかると、日常の風景が微妙にずれてみえてくる。
 彼女は、冷蔵庫にあるありあわせの食材を使って、今まで味わったことの
ないような料理をこしらえて、私たちを驚かせる。
 そんなタイプの作家である。
 
http://www.gozans.com/bk/?b=4592750071&s=shohyo 
(↑こちらからお買い上げ頂けます)
(石飛徳樹 朝日新聞名古屋本社学芸部記者 39歳 年間読書量100
冊 好きなジャンル・文学)
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■「ひとしきりの内省の後に、何ができるのか?」/ミラクル福田
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『百年の愚行』(普及版) Think the Earth Project発行 紀伊国屋書
店発売
本体価格2400円

 アウシュビッツ収容所の所長だったルドルフ・ヘスは、実直な勤め人だっ
た。自らが管理する収容所の経営について、無駄なコストがでないように気
を配り、仕事には誠意をもってあたる。そして、家に帰れば、妻にとってよ
き夫であり、子どもたちにとっては、優しい父親だった。自然や動物を愛す
るごく普通の市民だった。

アウシュビッツの写真集を初めて見たときの衝撃は今でも忘れられない。
あまりの惨さに「これが人間のすることなのか?」と思ったが、それよりも
驚いたのが、所長であるヘスが、「普通の人」だったということだ。
「恐ろしいことをした人」を恐れるよりも、「恐ろしいことをした人と同じ
人間である」ことの方が、ずっとこわかった。どんなにひどいことをした人
がいても、その人も自分も人間であり、何らかのきっかけさえあれば、自分
もそうしてしまう可能性がある、そう思った。これ以後、事件の報道などで、
エキセントリックに「悪魔」などという形容をする人をいっさい信じられな
くなった。

『百年の愚行』に掲載されている写真を見て、まず思ったのはそんなことだ。
「海・川・湖沼」、「大気」、「森・大地」、「動物」、「大量生産・大量
消費」、「核・テクノロジー」、「戦争」、「差別・迫害」、「難民」、
「貧困」。10にカテゴリー分けされた各章のどこに自分とかかわりがないも
のがあるのか、すっかり考え込んでしまった。自分がいま働いている出版と
いう業界はどんなふうに関係しているのか?

 出版に直接に関係することは、「海・川・湖沼」、「大気」、「森・大地」、
「大量生産・大量消費」、「核・テクノロジー」といったところか。紙やイ
ンクの製造のために水や空気が汚染されることと、大量生産して大量消費
(消費されずに廃棄されているものがどれだけあるか、考えるだけでこわい)
している本、その製造を支える技術とエネルギー。仕事以外の生活を含める
と、もっと増えてしまうだろう。

世界で起こっている「愚行」と、自分の日々の「暮らし」とを、頭の中でも
結びつかせることは難しいことではない。『百年の愚行』の写真を見て「愚
行」の意味を理解できない人はいないだろう。問題なのは、「愚行」をやめ
るとなると、「暮らし」が成り立たなくなってしまうことだ。喰わなくても
生きていければいいが、そうもいかない。

でも、どうすればいいんだろう。

出版業界では、毎年、6万点以上の本が作られている。冊数に換算するとし
たら何倍すればいいのか。2千か、5千か、一万か? でも、そのうちの何
冊が読まれているのだろう。なくてもいい本がたくさん出版されて、なくて
はならないものが絶版になっていく。お寒いかぎりだ。

思いっきり考えさせられた後、どうしたらいいのかよくわからないから、ま
た忘れたふりをして生きていくのかなぁ。いやだなぁ。誰か教えて。
http://www.thinktheearth.net/jp/book/
 
http://www.gozans.com/bk/?b=4901818007&s=shohyo 
(こちらからお買い上げ頂けます↑)
(ミラクル福田 某人文系出版社編集 31歳 年間読書量80冊弱
好きなジャンル 文芸・芸能)
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■「昔はアメリカが今の日本の立場だったのに……」/守屋淳
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『アイアコッカ』リー・アイアコッカ著 徳岡孝夫訳 新潮文庫

「うりゃードンペリ持って来い、金はあるんじゃー」って感じだったバブル
経済も、高度成長期も、遥か彼方のモヤにしか見えないようなクラーイご時
世ですが(笑)、実はバブルまでの頃って、ちょうど日米が逆――日本が好
景気でウハウハ、アメリカどん底不況っていう時期もあったんですよね。

そういえば、その昔に、アメリカの議員たちが日本車をハンマーでぶっ壊し
ている映像とかTVでやっていたのをご覧になった方も多いと思います。あ
れは、アメリカの鈴木宗男さんみたいなものだったんでしょうか(笑)

そんなどん底景気だったアメリカでも、企業の立てなおしで大活躍した経営
者がいました。考えてみれば、今の日本が参考にすべきはそんな人たちの手
法ではないか、ということでフォードの社長や、潰れかけたクライスラーの
立てなおしで抜群の手腕を見せたアイアコッカさんの自伝です。

当時、この本はベストセラーにもなったので読まれた方は多いかもしれませ
んが、まず、とにかく一度読み始めたら最後まで止まらないほど内容が面白
いのです。

その原動力になっているのが、まずアイアコッカの出自。お父さんが昔の大
不況をホットドック屋さんで乗り切ったとか書かれていますが、エリートな
どとはとても言えない境遇から身を起こし、フォードに入社して抜群の成績
を挙げて社長まで駆け上ります。ここいら辺は、いわゆる立志伝の面白さ。

そして、フォード社長となってからは、オーナーのフォードとの関係が何と
いっても面白い。フォードが絶対君主で、アイアコッカは宰相みたいな立場
なんですが、この本を読む限り、フォードはダメダメな二代目の典型、とに
かく仕事はできず、でも見栄っ張りで、陰謀や策謀を張り巡ぐらし……、と
超巨大オーナー会社の内幕がスリリングに描かれていて読者を飽きさせませ
ん。

しかし、いいことは続かないのが世の常、アイアコッカはフォードに嫌われ、
突然社長の座を解任されます。呆然自失の彼に差し伸べられた手のひとつが
「クライスラーを立てなおしてみないか?」。フォードへの復讐心を胸に、
彼はこの申し出に乗ります。ところが、クライスラーに出向いてみると、聞
いていた以上に、いやほとんど騙されたといっていいほど無残なクライスラ
ーの惨状。しかもそこに追い討ちをかける石油ショックと大不況……。

ここからアイアコッカの七転八倒がはじまるのですが、この姿が、まさに今
の日本の企業と重なり合って来る部分です。結局、消費者に支持されるもの
さえ作ればメーカーは生き残れる、でも、その前に資金繰りが、ああ……

ホント下手な作りものの小説読むよりも、よほどスリリングで面白い体験が
出来ます。あ、この本、訳も最高です。昔、必要があってアイアコッカの日
本で出版された本を全部読んだことあるのですが、この訳者徳岡孝夫さんが
訳すと、突然原文が輝き出すような感じになるんです。いや、翻訳の達人っ
て世の中にいるものです……


(すいません、こちら本は古本屋さんでしか手に入らないようです))
(守屋淳 36歳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好き
なジャンル 古典) 
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■あとがき
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>なんか、個人情報保護法案とかが今、審議されてて、大騒ぎになってます
ねー
>ああ、マスコミやライターの取材が規制されかねないって騒いでますねー
>今日、TVでその討論みたいのやってたんだけど、外国人のマスコミの人
が、「記者クラブみたいな自分たちの規制をまず撤廃しなきゃだめ」みたい
なこと言ってて、痛いトコついてるなーと思いましたね
>ああ、痛い痛い(笑)
>それに、マスコミが事件解決に役だってるとかプラス方面のキャンペーン
みたいのしてるけど、たぶん問題は逆なんだよね。自分たちが振りまいたマ
イナスをどう反省し、今後どう繰り返さないかを話さなきゃいけないと思う
んだけど、そういうのってあんまり聞えてこないんだよねー
>うう、マイナスは見ない振りして、プラスだけ大声で言うのって、すごく
キツ―――イこと言えば、昔のオウム真理教か、ちょっと前の鈴木宗男議員
みたい(笑)
>マスコミの総ムネオ化でしょうか。まあ、似てなくもないかも……
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