|
2002.5.31.発行 vol.72 [ それは読者が 号]
|
■■----------------------------------------------------------------
■■ [書評]のメルマガ 2002.5.31.発行
■■ vol.72
■■ mailmagazine of book reviews [それは読者が 号]
■■----------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------
■トピックス
--------------------------------------------------------------------
■書評雑誌の新創刊
メタローグより、隔月刊の書評誌『RECORECO(レコレコ)』が発売
されました。なんと、弊メルマガの南陀楼綾繁さんや内澤旬子さん、石飛徳
樹さんが連載しています。表紙が「加藤あい」でちょっと書評誌とはわかり
にくいですが(笑)、ぜひのぞいてみてください。590円。
■石飛さんお休み
今回、石飛さんがお休みです。来月は力を入れて書くとのことなので、楽し
みにお待ち下さいまし。
--------------------------------------------------------------------
■『夜明け前のセレスティーノ』/ミラクル福田
--------------------------------------------------------------------
『夜明け前のセレスティーノ』 レイナルド・アレナス
国書刊行会 本体価格2400円
『あ・じゃ・ぱん』は、矢作俊彦が書いた奇想天外で、ものすごく読み
にくい小説。でも、これがあんまり楽しかったから(第二次大戦後、日本
がフォッサマグナで分断されて、東日本が共産圏となり、中曽根が書記長。
西日本は“吉本のおかん”が首相になり、新潟では角栄が農民ゲリラのド
ンで、何やら怪しげな三島由紀夫が納豆を食べる……。という小説)、「5
月はこれだ!」と思ったのに、すぐに覆してしまった。『夜明け前のセレス
ティーノ』に圧倒されてしまったもので。
何とも不思議な小説で、長編詩のようなので、「最後まで読めるか」と少
し気弱になったりしたけれど、まったく問題なく一気に読めてしまった。
舞台は、カストロが政権を執る前、アメリカの半植民地だったころのキ
ューバの寒村。「ぼく」は、じいさん、ばあさん、かあちゃん、おばさんと、
セレスティーノという従兄弟と一緒に暮らしている。人付き合いのダメな
家族は、村で誰からも相手にされない。とうちゃんは、かあちゃんが「ぼ
く」を産んですぐにいなくなった。痩せた土地でトウモロコシを作ったり、
水たまりで魚をとったりしている。「ぼく」は毎日、水くみの仕事をしなけ
ればならなくて……。
熱帯の強い日差しと、年がら年中吹き付ける貿易風。そんなキューバの
貧しい村は、感受性の強い少年の眼に、どんな風に映っているのだろうか。
いや、この小説は、頭の中で考えていることでも、夢の中の出来事であっ
ても、現実と同じ比重で語られている。セレスティーノという従兄弟は、「ぼ
く」が作り出した人物なのに、セレスティーノがいるものとして周囲も描
写されている。ややこしい。そして、それらが渾然としている。だから、
糸をたぐるように、筋を追ってもよくわからないだろう。では、何が楽し
めるのか?
「ぼく」が家の前で土を食べているところや、セレスティーノが、木の
葉の裏から、村中の木の幹に詩を書く情景を思い浮かべるのも、それを次々
と斧で切り倒していくじいちゃんの力強い姿にうっとりするのも楽しいだ
ろう。でも、それよりも、すごいのは、ひたすら読ませてしまう力強いリ
ズムだ。たとえ前のパラグラフと次のパラグラフの間に飛躍があっても、
「それは読者がつなげればいいことでしょ」なんて具合で、どんどん前に
進まされてしまう。ドライブ感はこれまで味わったことのないものだ(訳
がいいのでしょうね)。
こんな小説(面白さは伝えきれていないと思います。力不足です)の作
者であるレイナルド・アレナスは、1990年にアメリカで自殺をしている(『蜘
蛛女のキス』のプイグもこの年にエイズで亡くなっている)。キューバの寒
村で生まれ、土を食べるたりしながら幼年時代を送り、14歳でキューバ革
命のために立ち上がる。その後、農地の経営を学んでいたところ、ひょん
なことから国を代表する作家に才能を見出され、デビュー。しかし、同性
愛者であることで迫害を受けてアメリカへ亡命するも、アメリカは金がす
べての魂のない国で、そこでエイズにかかって自殺。ここらあたりの話は、
自伝『夜になるまえに』(国書刊行会)にすべて書かれている。
ここ数年、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』やサルサブームなども
あって、キューバに注目が集まっている。「社会主義だけど、結構、いいと
こなんじゃないの」なんてことをいう人も多い。でも、アレナスはそのキ
ューバでカストロから迫害を受けた。5000人の男とやったという話は胸が
悪くなるけど、同性愛者ということで、監獄にぶち込まれて拷問を受ける
なんて、カストロのやってることはおかしいだろう。
キューバ音楽をキューバの「明」と捉えて、アレナスの文学を「暗」と
捉えてキューバを見てみると、音楽も文学も、よりいっそう立体的に見え
てくるのでは。
http://www.gozans.com/bk/?b=4336040303&s=shohyo
(こちらからお買い上げ頂けます↑)
(ミラクル福田 某人文系出版社編集 31歳 年間読書量80冊弱
好きなジャンル 文芸・芸能)
---------------------------------------------------------------------
■「万物と経営は流転する」/守屋淳
---------------------------------------------------------------------
『経営に終わりはない』藤沢武夫著 文春文庫
藤沢武夫――ソニーの井深大や盛田昭夫、ナショナルの松下幸之助、いろいろ
あったけどダイエーの中内功といったカリスマ経営者たちと比べると、一般的
な知名度でいえば劣るけど、間違いなく戦後日本を代表する一人の経営者の自
伝です。藤沢武夫とは、本田宗一郎とコンビを組み、ホンダを実質的に経営し、
成長させた人物なのです。
本書で何よりも興味深いのが、ホンダという会社の立志伝の理由。
つまり、戦後ごく小さな会社から始まったのが、どのようにして現在の日本を
代表する企業、しかもいつまでも若若しい雰囲気を失わない世界のホンダとな
ったか。
もちろん、そこには本田宗一郎という天才的技術者の存在が欠かせません。本
田宗一郎の特に際立った凄さは二つあります。おそらく自分が叩き上げの苦労
を味わったからという理由もあるのでしょうが、まず、他人を一切えこひいき
しないこと。
ホンダがまだ小さい会社で、みんなで油まみれでエンジンなどの開発に深夜ま
で取り組んでいたとき、本田宗一郎の奥さんが夜食のうどんをつくるのが常だ
ったそうなのです。みんな、腹がペコペコなので、わーっとうどんの列に並ぶ。
そんなとき、本田宗一郎は必ず列の一番後ろに並ぶ。部下がゆずろうが何をし
ようが、ずっと最後に並んで一緒にうどんをすすっていたそうです。
もう一つの凄さ、それは、目の前に、先人の真似をしながら楽に進める道と、
自分で試行錯誤しながら進む苦難の道があったとき、本田宗一郎はいつも間違
いなく後者を選んだこと。当たり前ですが、最初はうまく行かず地獄の苦しみ
を味わいますが、一端独自のモノを作り上げると、強い。物真似ではないから、
他社には容易に真似の出来ないモノができあがるわけです。それが、結局ライ
バルとの差になるという……
ちなみに、ソニーという会社の天才的な経営者だった、井深大と盛田昭夫の二
人もこの本田宗一郎とまったく同じく、独自なものにこだわった人物でした。
例えば、盛田昭夫はアメリカ式の決算方式を非常に早い時期から取り入れて、
ソニーの経営を行ってきました。近年、他の企業が外圧をうけて日本式の決算
方式を捨てて四苦八苦しているのを横目に、ソニーが一人勝ちしているように
見える部分があるのは、恐らくこのような理由もあったのでしょう。
先に苦労するものは、後で強いのです。
しかし、こんな本田宗一郎にも弱みがあった。それは経営がさっぱりだったこ
そ。そこに登場したのが、自分が経営を切盛りして、天才的な技術者に思う存
分力を発揮してもらいたいと願う大器量の人――それが藤沢武夫だったのです。
藤沢武夫の面白いところは、「万物流転の法則」なるものを唱えていたことで
す。つまり、どんな強いものも歴史上は必ず衰え、滅びるときがある。だから
こそ小さいもの、生まれたばかりのものでも、そのライバルの衰えに乗じて成
長し、大きくなることができる――もちろん、これは発展途上のホンダにかけ
あわせた思想だったことは間違いありません。
そして、この指摘は実は非常に鋭いところをついています。軍事にしろビジネ
ス競争にしろ、例えば、軍事力や兵力、資本や抱える人材の数、ネームバリュ
ーの高いほうが圧倒的に有利なことはどの理論でも例外なく指摘するところな
のです。つまり純粋に理論的にいえば、弱者は強者にまず勝てないのです。し
かし、現実は案外そうでもない。その秘密の一端が本書では明かされているの
です。
藤沢武夫は、経営に25年携わりホンダを去りますが、そのとき最大の誤算が
起こったといいます。それは、本田宗一郎が、辞める時は俺も一緒だよ、と言
ったことです。これは超巨大企業の中でも最も美しい引退劇でしょう。少し長
めですが、引用します。
《「かねてから考えていたとおり、今年の創立記念日には辞めたいと思う。社
長はいま社会的な活動をされているし、どうされるかわからないが、私からい
わないほうがいいだろうから、専務から私の意向を伝えてもらいたい」
が、私は本田宗一郎との二十五年間のつきあいのなかで、たった一回の、そし
て初めで終りの過ちをおかしてしまいました。本田は私のことを聞くとすぐ、
「二人いっしょだよ、おれもだよ」
といったそうなのです。ほんとに恥ずかしい思いをしました。
その後、顔を合わせたときに、こっちへ来いよと目で知らされたので、私は本
田の隣に行きました。
「まあまあだな」
「そう、まあまあさ」
しかし、実際のところは、私が考えていたよりも、ホンダは悪い状態でした。
もう少し良くなったところで引き渡したかったのですが。
「ここらでいいということにするか」
「そうしましょう」
すると、本田はいいました。
「幸せだったな」
「ほんとうに幸福でした。心からお礼をいいます」
「おれも礼をいうよ、良い人生だったな」
それで引退の話は終った。》
藤沢武夫の凄さは、最後に美辞麗句を列ねなかったことにもあらわれています。
「もう少し良くなったところで引き渡したかった」とあくまで客観的な分析を
書き連ねつつの引き際。他とは一線を画した名経営者たる所以がここにありま
す。
そしてこの後、本田宗一郎と藤沢武夫は、一切会社に口を出さなくなります。
ホンダが強い企業で有り続ける理由がよくわかる話だと思います。
http://www.gozans.com/bk/?b=4167130025&s=shohyo
(こちらからお買い上げ頂けます)
(守屋淳 36歳 ご隠居 年間読書量100冊《仕事で他にも少々》 好き
なジャンル 古典)
---------------------------------------------------------------------
■あとがき
---------------------------------------------------------------------
>なんか、最近、世界がかまびすしいですね。イスラエルとパレスチナ、イン
ドとパキスタン……
>はあはあ
>それで、どこもアメリカの真似をしているのが怖いんですよね。
>まね?
>そうそう、テロは絶対悪であり、敵はテロを仕掛けているのだから、悪その
もの。ゆえに掃討してもいいはずだ、という……
>ああ、アフガニスタンのときは戦争の連鎖が問題になっていましたが、今の
問題としては「大義名分を真似っこした戦争」が起こり始めたわけですな。
>それで、パンドラの箱開いたブッシュ大統領が、「戦争は利益にならない、
やめなさい」とか言ってるし、いやはや
>ああ、お前が言うなーとTVを見ながら推定1千万人が突っ込み入れたとい
う噂もありますな(笑)。
>ううん、ブッシュ恐るべし、1千万人に突っ込みを入れられるボケ役か(笑)
======================================================================
■ 電子メールマガジン「[書評]のメルマガ 」(毎月10・20・月末発行)
■ 発行部数 2260部
■ 発行:[書評]のメルマガ発行委員会
■ 掲載された内容を許可無く転載することを禁じます。
■ COPYRIGHTはそれぞれの記事の記者が有します。
■ ご意見・御質問はこちらまで enji1128@yahoo.co.jp
■ HPアドレスhttp://www.aguni.com/hon/
■ このメルマガは『まぐまぐ』を利用して発行しています。
■ メールマガジンIDナンバー0000036518
■ 購読・解除・変更手続きは http://www.mag2.com/ より行って下さい。
======================================================================
|