2002.7.10.発行 vol.76 [ 衝撃の新発表がラストに 号]

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■■ [書評]のメルマガ                        2002.7.10発行   
■■                                                vol.76 
■■     mailmagazine of book reviews [ 衝撃の新発表がラストに 号]  
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[CONTENTS]------------------------------------------------------ 
★新企画「リレー連載 私のsome day本(1)」夷蔵 
 →本棚の隅っこで読まれず待機している本を「some day本」と呼ぶ。 
★読者投稿「読書日記2002」岡田新一 
 →弱冠24歳の「本の本」好きの筆者が散歩しながら広げたページたち。 
★「古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧(8)」高野ひろし 
 →大社長の息子として生まれ「通人」として生きた益田太郎冠者の評伝。 
★「林哲夫が選ぶこの一冊(6)」 
 →ますます快調、ロング書評。今回は故・関美比古の写真集を読みます。 
★「全著快読 山田稔を読む(16)」柳瀬徹 
 →念願かなってついに山田稔さんにご対面した柳瀬さんであります。 
★新連載「パルプレビュー徘徊記(1)」グッドスピード  
 →本サイトから雑誌・新聞に舞台を移し、書評のいまを活写します。 
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■私のsome day本  夷蔵 その1 いまこそ検証したい、恐怖の「大王」の実在 
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 五島勉『ノストラダムスの大予言』祥伝社(ノンブック)、1973年 (第5巻は
1986年刊。その後、「スペシャル日本編」「中東編」「残された希望編」「地
獄編」と続き、ラストの「最終解答編」は〈ハルマゲドン〉1年前の1998年7月
に出された)

 夏物を引っぱり出すついでに、正体不明のダンボール箱をこわごわ開けると
「遠足のしおり」が春夏5年分10冊にLEDゲーム「パックリモンスター」その
下から色紙が出てきた。「向こうに行ってもガンバッテください」。小5の終
わり、転校するときにもらった寄せ書きだ。「忘れるなよ」「歯ぁみがけよ」
の間に「1999年には何もおこらないよ。心配するな」とあった。ヒデキく
んから。  

 そうだった。僕は当時、ノストラダムスの予言詩を、人類滅亡を、本当に恐
れていたのだった。   五島勉の『ノストラダムスの大予言2』との出会いは
小4のとき。脳裏に恐怖を焼きつけられたまま『1』を買うと、すぐに『3』
が出た。破滅のデンプシーロール。五島さんのが他よりコワカッタのは、提示
される恐怖がより具体的だ(と思えた)から。「水爆」ではなく「10メートル
のコンクリート壁をすり抜け、人間の内部のみを焼き尽くす中性子爆弾」とい
ったやつです。それでも「なんでえ、あのアナリストと同じじゃん」と気づく
中学生になると、すっかり忘れてしまった、はずだった。でもあったんです。
なぜか『4 ・5』や『日本篇』や類書の『ファティマ・第三の秘密」』やら
諸々10冊ほど。some day読もうと思っていたわけじゃない。無意識に買って
いたらそのほうがコワイが、高校時代にまとめて拾ってきたことを思いだし、
安心した(なぜ拾ったのかは考えないようにした)。  

 オウム真理教のレトリックの源は五島だ、とバッシングがあった。世紀末大
異変は起こらず、五島さんは、「謝った」とも「ひらきなおった」とも聞いた。
そのいずれもがおかしいと思った。本一冊、鵜呑みにするのはバカバカしいし、
叩き伏せるのはもっとバカ。あなたちっともキッチュじゃなくなりましたね。
少なくとも僕は、この本で初めて「地球号」を身近に考えるようになった。い
え、それもどうかと思いますが。  

 それにしても……グランドクロスは1999年8月18日に起こり、その影響は
あったのか。ソ連は物質を瞬時に凍らせる「冷凍ミサイル」を完成させたのか。
最近の子どもの手相には十字が刻まれているのか、などなど、通読して今度は、
そんな恐怖の「大王」の実在を検証してみたくなってきてしまった。協力者募
集。ただし、予言を週刊誌の占いと同程度は気にする人で、困ったときは神様
を信じたくなって、五島勉ファンの人。よろしくお願いします。新世紀もノの
字の呪縛はつづく。   

〈夷蔵〉1970年生まれ。父親の転勤について東北地方を転々、大学時から東京
に住み着く。肉体労働して中国をぶらつくのに飽きたころ、編プロに入社。そ
の後、古書情報誌『彷書月刊』に拾ってもらう。古本道修業中。楽しい。

(編集部より) このリレー連載では、ずっと本棚の隅っこにあって、読んで
ないけど捨てられない、いつか読むつもりはある(それはsome day?)本につ
いて、諸氏に語っていただきます。今回から3回は夷蔵さんにお願いしています。

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■読書日記2002 岡田新一
新宿御苑で『ミカドの肖像』を思い、名曲喫茶で『喫茶店の時代』を読む 
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【6月某日】 
 近頃は家でごろごろしてばかりだったので、たまにはでかけようと、午後か
ら新宿御苑へ。環境月間の無料開園日とのことで、ふだんなら200円の入場料
が無料になる。最近読んだ猪瀬直樹の『ミカドの肖像』(小学館)によれば、
かつて皇室の庭園だった新宿御苑は、大正時代には9ホールのゴルフ場として
利用されたところであり、また、大正天皇の大喪の儀式が行なわれた場所でも
あるそうだ。皇太子時代の昭和天皇はよほどゴルフに夢中だったのか、大正天
皇の崩御から大喪までの1ヵ月半の期間も待てずにここでゴルフを楽しんだり、
また大喪の5日後にはもうゴルフを始めたりしていたとのことである。皇族が
ゴルフ場や葬儀場として使った場所だと思って歩いていると不思議な気持ちに
なってくる。ゴルフ場だったころの名残はみられなかったが、皇族が休憩所と
して使用していたという洋館が残っていた。月に2度だけ開館しているとの案
内があったが、今日はその日にあたらないので建物のなかに入ることができな
い。あきらめ、温室や池などをみてまわる。とても新宿にあるとは思えないほ
ど敷地が広い。歩き疲れてしまったため、今回は園内すべてをまわることができ
なかった。洋館のなかにも入ってみたいし、緑のなかを歩くだけでも気持ちが
いいから、また訪れたいと思う。  

【6月某日】 
 高円寺駅ガード下の都丸書店を流してからパル商店街の湘南堂書店で『噂の
真相』を購入し、すぐそばの名曲喫茶ネルケンへ。『噂真』に軽く目を通した
あと、持参した林哲夫『喫茶店の時代』(編集工房ノア)を読みすすめる。筆
者がよく利用するネルケンや阿佐谷のヴィオロンについての記述はみられなか
ったが、同じ中央線沿線の中野にある名曲喫茶クラシックに関するこんな一文
にぶつかる。〈早稲田露文の学生だった川崎彰彦は「ぼくの早稲田時代」に、
当時クラシックには三十円の「紅茶と称する奇態な飲み物」しかなく、七月十
四日の巴里祭のときだけ泡盛をコカコーラかサイダーで割った「泡ハイ」が用
意されたと書いている〉。これで思いだしたのが、つい最近読んだ『東京人』
2002年6月号の特集「I Love 喫茶店」の沼田元氣、嶽本野ばら、吉本ばな
な3氏による座談会での沼田氏の、“N区の「C」という喫茶店”についての
次のような発言である。〈「あそこで働いていた子の話によると、食器を洗っ
たことがない」「濡れぞうきんがあって、カップが戻ってきたらキュッキュッ
と飲み口を拭いてもう一回出すのがきまり。洗剤と水がもったいないから洗わ
ないんですって」〉。こうなるとがぜん、まだ入ったことのない“N区の「C」
という喫茶店”に行きたくなってくる。  

【6月某日】 
 メタローグから新創刊された書評誌『recoreco』を買う。なぜこういう表
紙にしたのかはちょっとよくわからないが、目次をみると、おっと思うような
執筆者が書評を書いているのだからあなどれない。また、散歩好きにはうれし
い書店ガイドと街歩きの連載があって、まずは渋谷がとりあげられている。こ
れを読んでいると、人が多すぎて疲れるから嫌だと思っていた渋谷が、書店や
喫茶店が充実した魅力的な散歩のコースとして浮かびあがってくる。そこで渋
谷歩きといえば植草甚一も何か書いていたなと思って何冊かをぱらぱらと拾い
読むと、すぐにこういう文が見つかる。〈道玄坂の両側にある商店を覗きながら
歩いていると、買いたくなるものがよくあるので、経堂にいるときと同じよう
に気らくに何か買ってしまうようになり、そのため気持がリラックスしてくる〉
(「経堂から新宿への繁華街を歩くとき」、植草甚一スクラップ・ブック19『ぼ
くの東京案内』、晶文社)。おもしろいことに『recoreco』にもスクラップ・ブ
ックにも文章に対応する案内地図がついている。これをみくらべると、いま名
曲喫茶ライオンがあるあたりと、植草甚一が〈隅から隅まで知っている〉とい
う〈狭くて穢ない〉恋文横丁や百軒店(「ひゃっけんだな」と読む)といった
興味深い名前のついた路地が近くにあることが確認できる。新旧の地図を参照
しながら道玄坂あたりを歩いてみるのも一興かもしれない。  

【6月某日】 
 午後になってから散歩がてら、高円寺の古書店をまわる。まずは中通りの青
木書店を流してから北口駅前の球陽書店へ。気になっていた坂崎重盛『東京本
遊覧記』(晶文社)が1300円だったのだが、定価の半分以上という値段に購入
を躊躇してしまう。次にガード下の都丸書店に行くが、ぐっとくる本がみつか
らない。では、と庚申通りを抜けて純情商店街の竹岡書店へ。まず目についた
笙野頼子の『二百回忌』(新潮社)を手にとると、三島賞受賞に関する新聞記
事の切り抜きが挟まっている。でもこれは読んだことがあるのだった。さらに
みていくと『本とコンピュータ』のバックナンバー2冊が床に積まれた本の山
に埋もれてしまいそうなところにあったので、これを救いだしてみると、各
400円。少し高くて発売時には買えなかった『本コ』2冊を購入し、あずま
通りの越後谷書店にも足を伸ばしてみたが、目ぼしいものはなし。最後に高円
寺文庫センターでちくま文庫の新刊、『田中小実昌エッセイコレクション1』
を購入、帰途へ。  

【6月某日】 
 夕方過ぎに銀座へ。まずは教文館に行き、2階で斎藤昌三『閑板 書国巡礼
記』(東洋文庫)を購入してから、8階の「かがくのとも傑作集 全点フェア」
へ。これが目当てだったわけではないのだが、原画などもみることができ、得
した気分になる。それから夕ご飯を食べようとガス灯通りの煉瓦亭に行くとめ
ずらしく誰も並んでいない。混雑が理由で入るのをあきらめたことが何度もあ
るのだが、早い時間帯に来れば空いているということだろうか。ハヤシライス
を食べて店をでるともう並んでいる人がいたから、ぎりぎりのタイミングだっ
たのだろう。そのあとコージコーナーでレアチーズケーキと紅茶を楽しみつつ
買ったばかりの斎藤昌三を読む。東洋文庫は値が張る代わりに造本が美しく、
手触りがよい。また、この本のなかでふれられている蔵書票については、日本
書票協会編著『書物愛 蔵書票の世界』(平凡社新書)を読んだばかりで、にわ
かに蔵書票を自作したいという気持ちが高まっている。巧拙を問わなければマ
ックで簡単に作れるはずだと考えるものの、蔵書票を貼るに値するような本な
どもっていないような気もする。でも本に関する作業というのは不思議と楽し
いものだから、難しいことは考えずにひとつ作ってみようか。  

〈おかだ・しんいち〉1978年生まれ。現在失業中。本好きによって書かれた本
についての本を愛読。個人ウェブサイト『読書放浪』に本や街歩きに関する雑
文を書き散らす。
http://homepage3.nifty.com/enmt/  

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■古今東西歌舞音曲芸能図書偏読三昧  高野ひろし 
(8)経済人にして喜劇作者が見せるお大尽の余技を超えたセンス 
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 高野正雄著『喜劇の殿様 益田太郎冠者伝』角川書店、2002年、
2800円(本体)  

 父親は三井物産初代社長にして、三井コンツェルンの総帥。品川御殿山には
40人からの使用人が働く広大で豪奢な邸宅。明治8年、実業界を背負って立つ
一家に生まれた御曹司、中学卒業と同時に英国留学ですよ。ところが、その留
学の原因が「両親の留守に品川芸者数十人を集めての大宴会」っていうんです
から、栴檀は双葉より芳しってやつですか。立派じゃないの!  

 益田太郎、植民地政策華やかりし頃の台湾で精糖会社を経営(勿論、親の七
光り)、運営そのものより外交手腕を買われ、後に複数の企業に取締役として
参画しているんです。なのに中学生から芸者遊び、莫大な財産を背景に遊興を
尽くし、遂に喜劇作家・益田太郎冠者として活躍し始めるんですからねぇ。  

 帝国劇場の完成と共に重役として乗り込み、それまで女形中心だった演劇に
女優を送り込みます。そして次々と喜劇を書き、育てた女優達を使って上演し
ました。まぁ歌舞伎や新劇重視の専門家に受けが良いはずがありません。でも
お客さんには受けたんです。その手法は後の宝塚歌劇に継承され、劇中歌『コ
ロッケの歌』もヒット。お大尽の余技を超えたセンスを遺憾なく発揮しました。
しかも当時一段低く見られていた喜劇を書き続けた志もステキ。  

 名だたる経済人でありながら、粋な世界も知り尽くし、芸事にも精通する。
世相を捉え、ちょっとした批評精神も忘れない。経済基盤があるが故の道楽三
昧は確かに羨ましいんですけど、この人には「通人」という言葉が相応しいと
思うんです。三田村鳶魚なんか読むと、江戸時代の粋な金持ちの話が一杯出て
きます。蔵前の十八大通とかね。そんな感じ。お金が全てみたいな世の中、い
くらお金があっても通人にはなれませんよ。粋な人ってのは、財布の中身じゃ
ないのね。太郎冠者さんは、まさにカッコイイお殿様でありました。  

〈たかの・ひろし〉町歩き人&路上ペンギン写真家。
 高野さんからの大宣伝【その1】 
8月4日(日)、大塚のライブハウス『ウエルカムバック』(南大塚3-44-11 
フカサビル地下/5957-5141)にて、我がペンギンクラブがジョイントライブ
を行います。平均年齢40歳以上が出演資格の恐ろしいライブです。肝試しを
したい方はチケットを差し上げますので、御一報下さい。(但しドリンク代500
円が別途かかります)詳しくは、www.welcom-back.com へ。  

【その2】 
7月28日(日)午後3時より、東京駅構内、南口の八重洲口寄りの新幹線改
札口近くのイベントスペース『ブレイク』にて、恒例、我がウクレレブラザー
スのミニライブを行います。今回の新曲は渋谷の唄と、麻丘めぐみのカバーで
す。詳しくは、http://www.jr-break.com/ へ。  

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■林哲夫が選ぶこの一冊 
(6)ほかの誰も持ち得ない輝きが放射されている写真集 
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関美比古『carnation』2002年3月30日発行 3600円(本体) 
発行・ガレリアQ、発売・蒼穹舎  

 このところデジカメに凝っている、といっても、小生ではなくツレアイの話。
 「デジカメを買うわよ!」とツレアイが力強く宣言してから、およそ1年。迷
いに迷った。こういった機器はとんでもなく進化が早い。デジカメの1年は人
類の数万年分に相当するかと思うほどの変貌ぶりである。解像力、発色、ボデ
ィの重量、操作性、バッテリーなどなど、新機種が出るたびに改良され、性能
の向上と反比例するように価格はよりリーズナブルになっていく。だから、い
ったいどこで「買い」を決断するべきか、知れば知るほど、迷わざるを得ない
のである。  

 ネットから、雑誌から、あらゆる情報を得て比較検討した結果、満を持した
ツレアイは4月末に出たばかりのIXY DIGITAL 200aを購入した、家電量販店の
ニノミヤ無線で徹底的に値切り倒して。昨年末、大阪梅田にヨドバシカメラが
大規模進出してからというもの、近畿の同業他店は危機感をともなった対抗意
識をむきだしにしている。「あらそう、でもヨドバシではね……」という殺し文
句がとてつもない効力を発する否応のない状況が現出しているのだ。ツレアイ
はのっけから高度の値引きを迫った。「そんなムチャな、出たばっかりの新製品
でっせ……」。すったもんだのあげく、カタログ掲載価格より2万円引きで手
を打った。決め手はやはりヨドバシのカード・ポイントをめぐっての比較だっ
た。その時点では、おそらく最安値だったろう。(なお、ツレアイの交渉中、
小生は離れたところに立ち、一部始終を耳にしながらも、他人のフリをよそお
っていたことは言うまでもない)  

 以来、ツレアイはデジカメ・バッグを持ち歩き、手当たり次第に撮りまくっ
ている。「私って、こんなに写真が上手だったんだわ〜」などとご満悦である。
いちばん迷惑を被ったのは飼い犬のミカンだろう。今ではデジカメを見るとこ
そこそと退散してしまうくらいにヘキエキしている。インスタントカメラが登
場したとき、本当に誰でも手軽に写真が撮れる時代になったなあ、と実感した。
さほど昔のことではない。ところが、もはやデジカメ一色だ。早晩、フィルム・
カメラは駆逐されてしまう運命にあろう。最終進化形は万能型ケイタイ端末カ
メラということになるのだろうか。あるいははるかに想像を超えたものか……。  

 メカの進化にともなって、「写真」はもっとも手近な造形的表現手段である
ことをさえ超越し、「視覚」そのものになってしまう、すでになってしまって
いるのではないか、そんなふうにも思われるのである。写真の技巧なども、も
うこれは、いわば「歩き方」や「息の仕方」に相当するレベルで考えなければ
ならないところまで来ているのかもしれない。だが、もしそうだとして、「息
をするように」写真を撮るとは、なんと易しく、かつ困難なことだろう。「息
をする」とは、言い換えれば、「生きる」ことである。要するに、写真を撮る
ことが生きることそのものなのだ。  

 先日、六本木の個展会場で初め会った大田通貴さんは、写真集の編集工房・
ギャラリー・ブックストアを兼ねる「蒼穹舎」を運営している。それだけでな
く、マイナー文学に通暁し、平井功、結城信一、小沼丹、加能作次郎、古木鐵
太郎といった作家たちについて熱く語るのだから、まったくもって尊敬すべき
人物である。そのとき「名刺代わりです」と差し出されたのが尾仲浩二写真集
『Tokyo Candy Box』(ワイズ出版、2001年)だった。とりたててどうという
ことのない、ありふれた東京がベタで切り取られている。色彩は不思議にノス
タルジックな渋ハデ。キャンディ・ボックスというより模型の都市のように見
える写真。日常そのものでありながら、異次元へワープしてゆくような、ある
種、独特な視覚を感じさせられた。
  
 京都に戻ってしばらくすると、大田さんから新作『carnation』が届いた。ポ
ーランドでバス事故に遭遇し、わずか30歳あまりで亡くなった写真家、関美
比古(せき・よしひこ)の遺作集である。造本やレイアウトも申し分ないが、
何よりも、空間の広がりを強く意識させる美しいモノクローム写真にひきつけ
られた。銀鼠紙の栞には、森山大道、石内都、棚橋朝子、そして尾仲浩二とい
った人たちが追悼文を寄せており、若き写真家がいかに深く愛されていたかを
教えてくれる。森山は関の写真について「冷たく硬質なグラデーションの網目の
向うには、まちがいなく脈打つ野生のエロテイシズムがしたたかに流れていた」
と書いている。外国の風景や街景、建造物などが多数を占めているにもかかわ
らず、獣の背中をなでているような艶やかさが、たしかにこの写真集には存在
する。  

 例えば、仮に、関美比古が今も生きていたとするならば、これらの写真はい
くら美しくとも、彼の息づかいそのものであって、あるいはそれ以上のもので
はないかもしれない。しかし、ここにこうして一冊の遺作集として残されてみ
ると、彼以外の誰も持ち得ない輝きがそれらの写真から放射されているように
感じられるのである。写真を生かすのが「死」のみであるとしたら、それはあ
まりにも寂しいことなのだけれども。  

ガレリアQ(tel.fax 03-5269-5230) 
http://www.d2.dion.ne.jp/~galeria/  

蒼穹舎(tel.fax 03-3358-3974) 
http://www1.odn.ne.jp/~cas20850/sokyu-sha/  

〈はやし てつお〉画家。大西巨人『神聖喜劇』が光文社文庫より全五巻で再
刊スタートした。今月、第一巻が発売になるが、その表紙を私の油彩画「燈台」
が飾るという光栄を得た。装幀は間村俊一さん。文庫の表紙は初めてなのでわ
くわくする。  

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■全著快読 山田稔を読む  柳瀬徹 
(16)「旅」において発揮される、価値判断を留保する力 
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『旅のなかの旅』新潮社、1981年。現在入手不可。 
※7月中旬に白水社より復刊予定(白水Uブックス)。    

 「旅」という言葉の用法が、「旅行」のそれとどことなく一線を画されるよ
うになったのはいつ頃からだろうか。パックツアーなどの団体旅行から帰って
きた人は、「旅をしてきた」とはたぶん言わないのだろう。あまたの旅行書の
表紙に踊る「自由旅行」とか「個人旅行」のたぐいでないと、どうやら「旅」
を名乗る資格はないらしい。   

 山田稔の本の「旅」の多くは、作者がパリ滞在時代に経験した、フランス国
外への団体旅行が題材になっている。暗黙の用法規則に則れば「旅行」に属す
るはずのそれらは、ガイドブック頼みの「個人旅行」などよりもはるかに「旅」
らしい。  

 出発から旅程の終わりまで付き添ってくれる添乗員など存在しない。しかも
それぞれの地で待っているはずの彼らはしばしば現れず、そのたびに不慣れな
言葉のさなかでおろおろさせられる。同じバスに乗ってはいても支払った額に
よってホテルのランクが違う(なにしろ語り手を含む最低ランクの客達は、ホ
テルの前ではなく「近く」でバスから降ろされたりもする)ので、同行者達は
人種も階級もさまざまだ。望もうと望むまいと、何かにつけ他者の混淆という
ものをたっぷりと味わうことになる。  

 山田稔の語りが持つ徳の最たるものは、価値判断をひとまず留保する力では
ないかと思う。しばしば悪意に近い激しさを投げつけてくる人や事物とのあい
だにも、かならず共感に至る細い糸を探り当ててしまう。甘さも苦さも遠ざか
る記憶の中ではいつしか等価のものになっていく。喉元過ぎれば、というので
はない。もっと強靱な何かがいつも感情の底辺に流れている。  

 しばしば政治的な演説をぶって語り手をはらはらさせるバスガイド、どこか
権威的な物言いのフランス人紳士、ヒステリー気質のクリスチーヌ、そして若
く魅力的な旅の伴侶オデット……彼らとはいつどこで再会できるのか。それは
作者の言うとおり記憶の中の旅、つまりは「旅のなかの旅」だけで許される、
つかの間の邂逅なのだろう。  

白水社 
http://www.hakusuisha.co.jp/  

〈やなせ・とおる〉元書店員。山田稔さんと京都でお会いすることになりまし
た。この号の発行時にはすでにお会いしているはずですが、その顛末は近々こ
の連載で。ちなみに京都に行くのは、中学校の修学旅行以来。 

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■パルプレビュー徘徊記  グッドスピード 
(1)読破時間まで掲載! 「週刊アサヒ芸能」の読書欄の巻
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 本誌で1年にわたり連載してきた「書評サイト探検隊」では、文字どおり個
人で制作・運営している書評・読書サイトを取り上げ、紹介してきたが、こん
どは、紙媒体の書評・読書欄を徘徊してみたい。紙媒体とはすなわち新聞・雑
誌の類である。それも「一般的な」紙媒体ではないもの。

 で、手始めに「週刊アサヒ芸能」(徳間書店発行)。たまに行く近くの銭湯
にこの雑誌が置いてあるので、最近は自分では買わないものの、手もとにあ
る同誌では、アイドルのグラビアやあふれるほどの風俗・芸能記事に隠れるよ
うにして、見開き2ページの読書欄がある。構成は「注目作家に聞く!」とい
うインタビュー記事、「アサ芸マンガ喫茶」というマンガ本の批評欄、「快読
X時間!ベストセラーの正体」という書評欄、そして新刊ガイドである。

 ちなみに、「快読X時間!ベストセラーの正体」の書き手は、あの永江朗氏。
800字程度の書評の文末に読破所要時間が記されているものだ。昨年9月6日
号(古くてすいません)では、正高信男著『子どもはことばをからだで覚える』
(中公新書)を取り上げている。文体も同誌読者を考慮してか全国紙や文芸誌
とはちがう軽妙な筆致なのだ。なにせこの書評の冒頭は「すごいもんだね、……」
とはじまるのだから。この本の読破時間は2時間15分とある。

  ところで、この号の表紙はグラビアアイドルの川村亜紀。巻頭のグラビアペ
ージには、「本誌創刊45周年記念」と題して、小池栄子、乙葉など巨乳アイ
ドルの水着姿が堂々掲載。ぬぬ、あなどれぬ「アサ芸」!  

〈グッドスピード〉この連載を口実に、風俗誌や夕刊紙をたくさん買い込むつ
もり。でも領収書はさすがに取れないよね。〔本〕のメルマガ(毎月5日号)
 で「一字千金の記」を連載中。  

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■けっこう大切なおしらせ 
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 この号を読まれて、「あれ? リンクが少ないぞ」と思われた方、あなたは
鋭い。「書評のメルマガ」では、紹介する本にリンクをはり、日販「本やタウ
ン」経由でその本が買えるしくみを導入していましたが、この号から、それを
ヤメました。理由はひとつ。「まったく売れないから」。なぜ売れなかったかの
分析・総括は今後行なうとして、今回から書誌情報に加え、出版社がホームペ
ージを持っている場合は、そのURLを入れることにいたしました。

 もうひとつ、おしらせ。「書評のメルマガ」は8月から月に四回発行になり
ます。定期連載に加え、企画モノがコンテンツが増え、一号の分量が増えたた
め、一号多く出すことになったワケです。
 四回発行といっても、毎週決まった曜日に出すというのは、しんどいので、
以下のようにさせていただきます。
【毎月前半】編集担当:南陀楼綾繁 1日から15日までに2回発行
【毎月後半】編集担当:守屋淳   16日から31日までに2回発行
 適当な間隔を置いて出せればベストですが、場合によっては、二日連続ある
いは同じ日に2号発行もあり得ます。

 わたしが担当する前半号では、次のような構成を予定しています。
【前半その1】定期連載の書評を中心に。
【前半その2】本に関する雑多な情報メモ欄「南陀楼綾繁のホンのメド」を中
心とします。コレは、気になる近刊、雑誌記事、ウェブサイト、古書目録など
本についての備忘録を公開してしまおうというものです。企画モノの記事は、
分量によってどちらかに掲載します。
 守屋さん担当の後半号でも、新しい筆者が数人参加されると聞いています。
 ますます増殖する「書評のメルマガ」をどうぞよろしくお願いいたします。
                   (10日号編集・南陀楼綾繁)
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