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2002.8.12.発行 vol.79 [気楽に行きます 号]
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■■ [書評]のメルマガ 2002.8.12発行
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■ vol.79
■■ mailmagazine of book reviews [ 気楽に行きます 号]
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[CONTENTS]------------------------------------------------------
★近事雑報「南陀楼綾繁のホンのメド」
→買いたい読みたい見たい行きたい。本をめぐる情報+アルファの雑談です。
★新連載「かねたくの読まずにホメる」金子拓
→買ったときから、いや手にしたときから読書ははじまっているのです。
★新連載「新刊書店の奥の院」荒木幸葉
→売り場を飛び回りながら拾ったネタを大公開。今回は「豆本」について。
★リレー連載「私のsome day本」夷蔵
→本棚の隅っこで読まれないまま待機しているあの本を「some day本」と呼ぶ。
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■はじめに
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既にお知らせしたとおり、「書評のメルマガ」はこの号から発行形態が変わ
ります。コレまで月三回だったのを、月四回発行とし、以下のように担当を分
けました。
【毎月前半】編集担当:南陀楼綾繁 1日から15日までに2回発行
【毎月後半】編集担当:守屋淳 16日から31日までに2回発行
月四回といっても「週刊」ではありません。この期間のあいだに、原稿が揃
い次第、ネタが集まり次第、発行するというイミです。場合によっては、二日
連続あるいは同じ日に2号発行もあり得えます。コレまで比較的パンクチュア
ルに発行されてきただけに、発行形態を変えて大丈夫かなという不安もありま
す。不安というか、今月はもうすでに、13日と15日に発行するコトになっち
ゃいましたよ(笑)。
だけどまあ、いまから心配してもしょうがない。はじまっちゃったんだから。
まあ気楽に続けていくつもりですので、みなさま、末永くお付き合いください。
(編集・南陀楼綾繁)
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■南陀楼綾繁のホンのメド 《情報編》
新刊、古書、マンガ、雑誌、ウェブサイト、書店、イベントの近事雑報
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本を買ったり読んだり、それについて書いたりしていると、きちんとした文
章にするまでもないけれど、どこかで紹介しておきたいというネタが結構たま
るモノです。この欄では、個人的に気になっている本を中心とした情報を紹介
し、そこにラフなコメントをつけていきます。いわば、備忘録(ネタ帖)を公
開してしまおうという試みです。この中のいくつかは、もうすでに旬を過ぎた
ネタだったり、ネタ以前のカスだったり、するかもしれないですが、またいく
つかは、少数の読者のお役に立つ情報かもしれません。
もちろん、一人でネタを拾うのには、限界があります。南陀楼が喜びそうな
本やイベントの情報をお寄せください。それをぼくなりに料理して、この場に
お出しするツモリであります。
【これから買う本】
★大屋幸世『蒐書日誌』第3巻、皓星社
執念の古書展・古書展通いが延々と綴られた、古本好きにはドラッグのよう
に効く日記の3巻目が出ると予告されてから、4カ月近く。営業部に電話して、
遅くとも7月には出ると聞いたのにもかかわらず、いまだに書店に並ぶ気配な
し。いったいイツまで引き延ばすんだ!
皓星社といえば、以前、竹中労+かわぐちかいじ『黒旗水滸伝 大正地獄篇』
を予告しておきながら、平気で一年間出さなかったという、「延刊」癖のある
版元。人手が足りなくて出すのに時間が掛かるんだったら、ナニも予告しなく
てもいいような気がするんですが……。(この号の配信日に並んでいたら、す
いません)
http://WWW.LIBRO-KOSEISHA.CO.JP/
★『なにわの新聞広告100年1909〜2000』大阪広告協会編・刊、2857円
「書肆アクセス」のサイトで紹介されていた、大阪の広告史をたどる本。さ
っそく同店に見に行くと、たしかに図版満載の本だった。ただ、102年間を数
百ページに収めるというのはムリなハナシで、ちょっと薄味な感じは否めない。
それとサイズがでかいので、置き場所にも困る。でもこの本、値段も安いし、
結局は買っちゃうんだろうなァ。
【これから読む本】
★清水徹=宮川淳『どこにもない都市どこにもない書物』水声社、2500円
1977年に小沢書店から出た本の、25年ぶりの復刊。「ペンを手にした宮川淳
が言語総体のなかから言葉を選んで書くのではなく、清水徹の書いた文章のな
かからいくらかを選んで切り取り、並べ換えるというかたちで書いた」という
不思議なスタイルの書物。しかも、この本を出した直後に宮川氏が亡くなって
いるというから、ますます興味がつのる。
書店で「あとがき」を立ち読みしていたら、担当編集者が賀内麻由子さんだ
と知り、ビックリ。ひつじ書房を退社したあと、しばらく会ってなかったけど、
こんなトコロで再開するとは。最近イイ本出してるし、水声社にちょっと注目。
★渡辺洋『少年日記』書肆山田、2000円
書評のメルマガでは、アメリカ文学を中心にロング書評を執筆中の渡辺洋さん
が、4冊めの詩集を出しました。フランス装の瀟洒な本です。
「暗い夜でも/誰かの声が聞こえてくるかもしれない/風は冷たいけれど/薄
着で窓を開けていよう」(「暗い夜でも……」)
http://www.t3.rim.or.jp/~shoshi-y/
★青梅市文化財総合調査報告『活版印刷技術調査報告書』青梅市教育委員会、
頒価4000円
あなたは青梅市に、かつて国内随一の活字保有を誇り、独自の活字でも知ら
れる「精興社」があったコトをご存じか? 同工場は平成7年で営業をやめ、
多くの資料が残されたママになっている。この文化遺産と、そこで働いた人々
の記憶をいまのウチに書き留めておかねばマズイと判断した青梅市教育委員会
は、3年にわたる徹底調査を行い、その成果をこの報告書にまとめた。
豊富な図版と、作業工程の解説に加え、大正2年から昭和40年までの「精興
社書目一覧」まであって、めちゃくちゃ印刷史の勉強になります。本を愛する
ヒトならば、手元に持っておきたい一冊。商業出版じゃないから、イマのうち
に手に入れることをオススメします。
青梅市教育委員会・青梅郷土資料室(0428-23-6859)
★川畑直道『原弘と「僕達の新活版術」 活字・写真・印刷の一九三〇年代』
トランスアート、3333円
戦前、モダニズムの1920年代とその後の1930年代に、日本のグラフィック
デザインと本づくりの技術=センスは、格段に向上していた。なかでも、デザ
イナー・原弘(はらひろむ)は、ヨーロッパのタイポグラフィ運動の影響を受け
ながらも、「日本独自の近代的な印刷表現を確立しよう」としていた。
著者・川畑直道は、こつこつと独力で掘り起こしてきた資料をもとに、コレ
までほとんど論じられてこなかった戦前の原弘の活動を、まるごと全部描こう
としている。ちなみに、一昨年出た衝撃的なデザイン集『青春図會 河野鷹思
初期作品集』は、このヒトの個人コレクションをもとに編集されている。
読めば読むほど、歯ごたえありそうな一冊。ちょっと唐突かもしれないが、
坪内祐三『靖国』(新潮文庫)と併読すると、絶対オモシロイはずですよ。
http://www.transart.co.jp/
【マンガ】
★田中圭一最低漫画全集『神罰』イースト・プレス、999円
手塚治虫のそれに酷似したキャラクターが、シモネタと脱力ギャグを繰り返
すという作風(っていうのか?)で有名な田中圭一が、ついに勝負に出た。マ
ンガそのものも、以前に増して確信犯的に手塚チックだが、この本自体が講談
社版の「手塚治虫全集」のデザインのパクリなのだ(ロゴ、帯、扉、英文タイ
トルなどすべて)。手塚の娘(手塚るみ子)に「訴えます!!」と帯に書かせたの
は、イースト・プレスらしいあざとさだ。
もはや「パロディ」でさえなく、小学生が手塚に憑依して描いたかのような
感じ(どんなだ)を持った。手塚に対するゆがんだ愛情が爆発しているカバー
裏のマンガにも注目。
【古書目録】
「オヨヨ書林古書目録」第2号
20代でオンライン古書店をはじめてから、もう3年ぐらいか。いまや古書展
やデパート展で活躍する「オヨヨ書林」の自家目録。雑本コレクターとして知
られる作詞家の西沢爽氏の旧蔵書を軸に、性や芸能、生活史に関する本を約
3000冊掲載。
『小売商及び店舗経営』『商売うらおもて』『画商』の次が『岸部シローの暗
くならずにお金が貯まる』と来て、さらにその次が『明治大正成金没落史』と
いう並べ方には、数十秒間、笑いが止まりませんでした。サイトでも全点掲載
されているけど、コレはやっぱり冊子で眺めたいものです。在庫があれば送っ
てくれるハズですよ。http://www.oyoyoshorin.com/
【イベント】
★期間限定古本ショップ
去年に続き、オンライン古書店「杉並北尾堂」を運営するライター・北尾ト
ロさんが、場所を借りて、期間限定の古本ショップをやっています。今回は7
月から三ヶ月の長丁場です。南陀楼の関連ミニコミも置いてます。お茶や食べ
物もありますし、何時間いてもいいので、足を運んでみてください。
場所/西荻窪「SAPANA」(ホーム吉祥寺よりから幕が見えます) 9月30日ま
で営業 17時〜23時(土日祝13時〜22時) 定休日・毎週金曜日 http://www.vinet.or.jp/~toro/
★「日本絵葉書学会」例会
第7回東京絵葉書交換会が、8月17日(土)午後6時から、江東区亀戸文化
センター「カメリアプラザ」5階(03-5626-2121)で開かれます。
絵葉書コレクターの交換会です。不要品持参ください。どなたでも参加でき
ます。事務局は新小岩「コレクターズ」野島寿三郎さん(090-2233-2579)まで。
★渋谷毅
これまで聴く機会のなかったジャズ・ピアニスト渋谷毅の演奏を、グーゼン
聴いてしまってから、すっかり魅せられてしまい、その後、京都と浅草・合羽
橋でソロライブを聴いている。たぶん今年はあと何回か聴きに行くつもり。今
週はちょっと時間が空きそうだ、というときに、渋谷毅のファンサイトを覗く。
毎月のスケジュールが掲載されているので、「じゃあ明日行ってみようか」とな
る。事前にチケットを買ったりせずに、フラッとライブハウスに出かけるのが、
いまとても楽しい。
http://www.rinsen.co.jp/html/shibuya/sby_map.html
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■かねたくの読まずにホメる
(1)戦中派の「戦後」
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山田風太郎『戦中派焼け跡日記』小学館、2002年8月、2095円
今回から「読まずにホメる」ということで、読まないでその本の良さを評価
するという荒行に挑戦することになった。事の性質上、読んでみたら面白くな
かったということは十分ありうるわけなので、その点はお許しいただきたい。
私は日記体文学が大好きで、日記というと第一に登場する荷風の『断腸亭日
乗』はもちろんのこと、最近では山口瞳の「男性自身」のうちの日記シリーズ
と呼ばれる晩年の四冊(『還暦老人ボケ日記』『還暦老人憂愁日記』『還暦老人極
楽蜻蛉』『年金老人奮戦日記』いずれも新潮社)などを愛読している。
日記といえば昨年亡くなった山田風太郎の若き頃の一連の日記を思い浮かべ
る向きもあろう。既刊行の日記には『戦中派虫けら日記』(ちくま文庫)、『戦中
派不戦日記』(講談社文庫)があって、前者は昭和17〜19年、後者は同20年の日
記である。山田風太郎自身も自分が日記好き(たとえば『断腸亭日乗』)である
ことを公言していたし、日記・日録好きの結晶とも言える『同日同刻』(文春文
庫)のような著作もある。日記好きの人の日記ほど面白いものはない。いや逆
だろうか。日記を付けていたからこそ日記体文学も好きになったのか。
ところが、大きな声では言えないけれども、実は私は上記二冊を通読したこ
とがない。いや、拾い読みすら数えるほどしかない。そこに今度新しく日記が
翻刻刊行された。『戦中派焼け跡日記』(小学館)。前二冊を受けた昭和21年、
著者24歳の時の日記である。
日記好きの私をして読むのを躊躇させたものは何なのだろう。考えてみると、
「戦中派」という山田風太郎に貼られたレッテルが読む邪魔をしていたとしか
思えない。戦中派とは太平洋戦争中に青年期を過ごした世代を指す言葉だが、
この言葉や「不戦」という言葉が重くのしかかり、気楽に日記を読むことを阻
んでいたのだろう。だいいち山田の三年あとに生まれた山口瞳もまた「戦中派
の権化」と言われているのである。それにもかかわらず日記を面白く読めたの
は、書いた年齢という条件はもちろん、タイトルの語感によるところも大きい。
戦後一年目たる昭和21年の日記がいま公刊された理由はわからない。ただ
このことは少なくとも私にとっては意味がある。戦中派山田風太郎(の日記)
に期待されていたのは、彼が青年期を送ったまさに「戦中」の日々の暮しと、
彼がそこで何を考えていたのかという点にあった。戦中派による「戦後」の日
記に何ほどの意味があろうか。
しかし、書いた本人の長逝によって風向きが変わった。戦中派による「戦後」
も戦中と地続きのものとして見直そう。この公刊にはそんな意図もあるのかも
しれない。戦中派という言葉に拒否反応を示した私であるが、逆に戦後の日記
が出たことによって、そこから山田風太郎の日記の世界に入って行けそうな予
感がしている。
〈かねこ・ひらく〉サイト「本読みの快楽」で、読書日記「読前読後」のほか
「東京物欲見物欲日録」「極私的東京本集成」などを書きつづっている。掲示
板では、本に関するディープな情報交換が行われている。本業は日本史研究者。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~kinko/index1.htm
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■新刊書店の奥の奥 荒木幸葉
(1)探せば意外と見つかる、「豆本」サイズの本
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なにをもって「豆本」と呼べばよいのか、むつかしいところですが、仮に
「文庫よりも小さい本」とすれば、新刊書店における「豆本」は、レジ前で
“もう一品”というときのための、サブアイテム的なもの(ミニ辞書など)と
その小さなかわいらしいかたちを好む人のための、コレクターズアイテム的な
ものに分かれる気がします。
前者の仲間として、「おつりで買えるエンターテインメント」、角川ミニ文庫
があります。創刊当初は、専用ブックカバーをそなえたり、什器も特注だった
りで、気合いがかんじられましたが、ここ最近、急速に「古本コーナー」化し
つつあります。というのも、2年間も新刊がでていないうえに(今後も未定)、
全品買いきりのため、書店は売りっぱなしだからです。
クイズや古典文学ものが売れ筋とはいえ、商品の大半は熟しきっています。
その中から、今が「買い」のものをいくつか。まず、『遊園地にいこう!』(平
成9年、400円)は、向ヶ丘遊園、横浜ドリームランドといった、閉鎖され
たアミューズメントスポット情報満載。ちなみに鎌倉シネマワールドでイ
チオシのおみやげは、なぜか「トム&ジェリートランクス(虹色)」。また、
北海道から沖縄米軍の兵舎まで、プリクラ(死語?)設置店を網羅した『プリ
ント倶楽部パーフェクトガイドマップ』(平成9年、194円)は、「くしを
置いてある」「長く待っている人にアメ玉やお菓子をあげる」といったサービ
ス紹介つき。あと50年ほど寝かすと、平成の風俗を知る、ちょっとした資料
になります。たぶん。
さて、豆本を探すうえで意外と穴場なのは、児童書です。赤ちゃん絵本や、
通常の絵本をそのまま小型化したものなど、もともと、こどもの手のひらサイ
ズのものが多いのですが、おとなでも楽しめる、箱入りの「豆絵本」セットが
人気です。
とくに、“のびるのびるのびる豆絵本”『ぱたぱたぽん』(福音館書店、2200円)
は、おすすめ。長新太、イノウエヨースケ、瀬川康男、スズキコージ、佐々木
マキという豪華ラインナップのパノラマ豆絵本(6センチ巾の厚紙が折り畳ん
である)5点が、本のカタチをしたちいさな箱に収められています。分売不可
ですが、一冊あたりの値段は、ミニ文庫とあんまりかわらなかったりします。
そのほかに、『ちいさなちいさなえほんばこ』(冨山房、2300円)センダックの
絵本4册入り『ピーターラビットの絵本』(福音館書店、3000円)、ミニチュア
コレクション12册入り『ピクシーえほん』(フェリシモ出版、1486円)などが
あります。
これらは、プレゼント用にもぴったりですが、まず、自分用に買って愛でて
から、という人が多いようです。
最後に、豆本を作ってみたくなったら、『自分で作る小さな本』 田中淑恵(文
化出版局、1700円)をどうぞ。天地80ミリ前後のかわいい手作り豆本たちや、
文庫本をハードカバーに仕立てる方法などがのっています。ペーパータオルの
芯や、古いハンドバックの革など、身近な素材をつかって、物語のつまった小
箱をつくる、という発想が、いいなぁとおもいます。
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■私のsome day本 夷蔵(『彷書月刊』編集部)
その2 死んだら私をやさしく食べて!?
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『蜀碧・嘉城屠城紀略 揚州十日記』東洋文庫(平凡社)
狂牛病や「人道的戦争」という馬鹿馬鹿しい理屈について考えるとき、共食
いのタブーは、本能とモラルのどちらに起因するのだろうかと同時に考えてし
まう。究極の無惨な環境に、「正常な」思考回路はどこまで耐えうるのだろう。
小学生の時、博物館で観覧した資料に、天明か天保の大飢饉の折り、草木を食
い尽くし、小石を腹に詰め込む状況の中、わが子は忍びないので、他人の子と換
えあって食べたという事例があった。恐ろしさを感じるより、むしろ不思議で、
両親に、同じ状況になったら僕を食べるかと聞いた。答えは憶えていない。
今回のsome day本は、明末期の戦争と食人を含む虐殺に関する記述で、いず
れもさほど長いものではないが、元は漢文、短いが故の簡潔で直接的な記述を
読むには、相当のパワーと時間と知識が必要な気がして、未だに手をつけられ
ずにいる。
東洋史学の桑原隲藏博士は「支那人間に於ける食人肉の風習」で食人の動機
を、1「飢饉等の食料危機」、2「長期籠城戦の飢餓」、3「嗜好」、4「憎悪・怨恨
(戦争の結果)」、5「薬食い」に分類している。これは中国に限らず、世界中の
「食人」事例の分類足りうると思う。中国における食人の歴史は古く、大規模
で、くり返され、その意味で「風習」だといえるのかもしれない。いや、誤解
いただきたくない。僕がいいたいのは、中国人云々ではない。「風習」でなくと
も状況次第で起こりうる狂気だ、ということだ。「精神丸」事件や冒頭の飢饉
や二次戦中の南方戦線のように。追いつめられた状況下では起こりうる狂気で
あり、そこに強制的要素が加わると誰にも責めることはできない。罪を背負っ
て生きるのは、当事者ただ一人である(野口男三郎事件等、日常環境での事例
や食するための殺人は、この分量では誤解を受けそうなので今回は触れません)。
「生きてこそ」の惹句、「奇蹟」「感動」にはわからない。でも、「原罪」や「タ
ブー」という表現に関しては、安直だと思いながら、代わりの言葉を見つけら
れない。分析は当事者を代弁しないから、観念に逃げ込むしかない。モース、
熊楠、鈴木尚は、古代日本にも食人風習があったことを指摘する。日本、中国
に限らず、一定の時代レベルまでは、日常に存在した、人類「闘争」史かもし
れない。こうなるともう、罪とは別次元だ。考えてわかることではない、それ
でも考えてしまう。
いずれにしてもへなちょこの僕は、「死んでも俺を食わないでくれ」または
「死んだら俺を食って生き延びろ」という、どちらの遺言を背負えるかわから
ない。自分がどちらの遺言を残せるのかも。
〈夷蔵〉1970年生まれ。父親の転勤について東北地方を転々、大学時から東
京に住み着く。肉体労働して中国をぶらつくのに飽きたころ、編プロに入社。
その後、古書情報誌『彷書月刊』に拾ってもらう。古本道修業中。楽しい。
http://www3.tky.3web.ne.jp/~honnoumi/
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■あとがき
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このメルマガが某有名サイトで紹介されたおかげで、8月に入ってからナン
と4000もの発行部数になってしまった。でも、雑誌で「公称」と「実売」
がつねに違うように、メルマガでの購読者=読者ではない。2年もメルマガに
関わっていると、悲しいかな、それが実感できてしまう。
部数増加の時期に、リニューアル第一発目がブツかるのは、吉と出るか、
凶と出るか。答えは、次の「書評のメルマガ」で。って、明後日には次号を出
すつもりなんですが。 (南)
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